注目の自動運転技術に対し、ホンダはどう考えどこに向かうのか?

安全運転システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」体験レポート!

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ホンダの安全運転システムである「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を、新しくできあがったばかりの同社のテストコースで体験した。また、開発中である「自動運転」に対するホンダの考えなどを聞くこともできた。ホンダの運転支援システムは、どこに向かうのか? モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。

すでに実用化されている安全運転システム「Honda SENSING」を体験しながら、ホンダの考える自動運転とはどんなものか取材した

採用モデルを拡大する「Honda SENSING(ホンダ センシング)」とは

衝突被害軽減自動ブレーキをはじめ、8つの機能を備えるホンダの安全運転システムが「Honda SENSING(ホンダ センシング)」である。スバルでいえば「EyeSight(アイサイト)」であり、トヨタであれば「セーフティセンス」といった、現在、高い注目を集める先進の運転支援システムのホンダ版だ。採用されるのは最新のFCVである「クラリティ」をはじめ、「レジェンド」「アコード」「ジェイド」「ヴェゼル」「オデッセイ」「ステップワゴン」といった車種。また、近くデビューする新型「フリード」にも採用が期待されている。

そのホンダの「Honda SENSING」を、今年の春から稼働が始まったばかりの栃木県さくら市にあるホンダの新しいテストコースで試すことができた。

まず、「Honda SENSING」の内容を紹介しよう。

システムは、フロントグリル内のミリ波レーダーと、フロントウインドウ内上部の単眼カメラの2つのセンサーを利用し、アクセルとブレーキ、ステアリングを協調制御するというもの。機能は8つ。「衝突軽減ブレーキシステム(CMBS)」、「路外逸脱抑制機能」、「歩行者事故低減ステアリング」、「車線維持支援システム(LKAS)」、「渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)」、「標識認識機能」、「誤発進抑制機能」、「先行車発進お知らせ機能」だ。

それぞれの機能は以下のようなものになる。

「衝突軽減ブレーキシステム(CMBS)」

5km/h以上の速度差があるとき、前走車両や歩行者、対向車両(二輪車と自転車を除く)に対して衝突の危険があるときに自動でブレーキを作動させるもの。歩行者や対向車に対しては、自車の速度が80km/hまで作動する

「路外逸脱抑制機能」

車両が現在の走行車線からハミ出そうなときに、ステアリング制御を行って車線内にとどまるようにしようという機能。約60〜100km/hで作動する。ただし、ドライバーによる操舵が基本であり、システムはアシストという役割だ

「歩行者事故低減ステアリング」

走行中に車線を逸脱し、車線脇にいる歩行者と衝突しそうなとき、自動でステアリング制御を行い、衝突を回避しようとする機能。約10〜40km/hの走行中に作動する

走行中に車線を逸脱し、車線脇にいる歩行者と衝突しそうなとき、自動でステアリング制御を行い、衝突を回避しようとする機能。約10〜40km/hの走行中に作動する

「車線維持支援システム(LKAS)」

約65〜100km/hで走行中に、車両が車線の中央にとどまるようにステアリング制御を行う機能

約65〜100km/hで走行中に、車両が車線の中央にとどまるようにステアリング制御を行う機能

「渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)」

前走車との車間距離を一定に保ちながら設定した速度で前走車を追従する機能。設定の最低速度は30km/hだが、渋滞中などは0km/hまで作動する。

「標識認識機能」

走行時に路側などにある速度規制表示や進入禁止表示、追い越し禁止などの標識をシステムが認識して、車内のメーターなどに表示する機能

「誤発進抑制機能」

停車中や10km/h以下で走行中に、クルマのすぐ前に前走車や障害物があるときに、ドライバーが誤ってアクセルを強く踏んでも、急加速を抑制する機能

「先行車発進お知らせ機能」

停車時に前走車が発進したことを知らせる機能

停車時に前走車が発進したことを知らせる機能

この中で、ホンダが世界で初めて実用化したのが「歩行者事故低減ステアリング」であり、日本初採用なのが「路外逸脱抑制機能」となる。ちなみに、約〜100km/hでの走行中であれば、「渋滞追従機能付きアダプティブクルーズコントロール(ACC)」と「車線維持支援システム(LKAS)」を組みあわせて利用することも可能だ。逆にいえば、「車線維持支援システム(LKAS)」が、さらに下の速度域となる0〜65km/hまで作動できるようになれば、日産の「プロパイロット」やテスラの「オートパイロット」と同等の機能が備わることになる。現在開発中のこのホンダの機能は「トラフィックジャムアシスト」と呼ばれる。

ドライバーを尊重した最小限度の介入だからこそ、システムへの過信は禁物

今回、テストコースにて体験できたのは「歩行者事故低減ステアリング」と「衝突軽減ブレーキ(CMBS)」であった。

最初は「衝突軽減ブレーキ(CMBS)」を試す。歩行者に見立てたダミー人形に向かって40km/hでノーブレーキのまま突っ込む。これまでもいろいろなクルマで同様のシステムを体験しているけれど、何度やっても恐怖心がわき上がってくる体験だ。この手のシステムは、途中でドライバーがステアリングやブレーキなどを操作すると、自動での作動がキャンセルとなる。ドライバーの回避行動をじゃましないためだ。そのためシステムを体験するときは、じっと我慢して、ステアリングにもブレーキにも下手にイジらないのが鉄則。これが恐ろしい。

最初にお手本としてホンダのスタッフによる運転でトライ。助手席での体験となったが、やはり怖かった。そして、自分でステアリングを握って走りだす。走行後はスピードオーバーを避けるために、すぐにオートクルーズを40km/hにセット。グングン近づいてくるダミー人形をにらみつけながら、石のように固まっていると……、なんとブレーキは作動したものの、停まれきれずにダミー人形に軽くぶつかってしまった。ブレーキが作動するタイミングが遅かったのだ。これは、ダミー人形とクルマの位置の関係が理由だという。今回、ダミー人形はクルマの中心ではなく、クルマの端へオフセットしていた。ちょうど右側のヘッドライトのあたりだ。こういうケースでは、ドライバーのほんのわずかな操作で衝突を回避できる。つまり、「ドライバーがなにもしない!」と最終的にシステムが判断するタイミングが後にずれる。その分だけブレーキのタイミングが遅くなったのだ。ドライバーに「自分で避けようと思ったのに先にシステムが介入した」と思わせないようにシステムができているのだろう。

40km/hでダミー人形に突っ込む衝突軽減ブレーキ(CMBS)を体験。ダミーとはいえ、恐怖心がわき起こる

40km/hでダミー人形に突っ込む衝突軽減ブレーキ(CMBS)を体験。ダミーとはいえ、恐怖心がわき起こる

もう一度、試してみる。今度は、ちょうど真ん中にダミー人形が当たるようなコースで向かうと、きちんとダミー人形の前で停止した。なるほど、当たる角度によってシステムの反応が違うというわけだ。

続いては「歩行者事故低減ステアリング」だ。これも衝突軽減ブレーキ(CMBS)と同様に、急ブレーキや急加速、急なステアリング操作を行うと、システムはキャンセルとなる。クルマの走行する角度を慎重にあわせて、なにも操作しないようにダミー人形に向かって行く。するとモニターに警告の表示が表れて、ステアリング制御が介入。ステアリングがジワジワと動きだしてダミー人形を避けた。しかし、介入はわずか。ダミー人形と走り抜けたクルマの距離も、ほんのわずかであった。だが、これにも理由があった。それは、「歩行者事故低減ステアリング」は、あくまでもアシスト機能。基本的にドライバーが回避のための操作をするというのが大前提で、ドライバーの操作に代わるものではない。つまり、何もしないまま突っ込んでいった自分のミスであった。リアルワールドでは、ボンヤリとしていて、路肩の歩行者に向かってしまったときに、システムが介入することで、ドライバーが危険に気づいて、みずからステアリングで回避行動を行う。これがホンダの考えるシナリオであったのだ。

車線脇にいる歩行者との衝突を回避する「歩行者事故低減ステアリング」。これにも最低限の介入で、あくまでドライバーの回避行動を支援するものというコンセプトが貫かれている

ちなみに、この機能は単眼カメラによって車線を認識する。ところが路面が濡れていると、路面が反射して車線判別が難しくなるという。そのため雨天時はシステムがうまく働かなくなる可能性があるのだが、ワイパーを通常モード以上の速さで動かしていると、やはりシステムがキャンセルになるという。

2つの安全運転支援システムを体験して思うのは「介入は最小限だな」ということ。もっと積極的に介入してもいいのでは? と思ったが、ホンダのスタッフに聞けば、「誤動作を避けるため」「ドライバーの意思を尊重する」というのが理由だという。でしゃばりすぎれば、必要ないときに作動してしまう可能性もあるし、ドライバーが使いにくいと感じてしまうと、システムをOFFにされるかもしれない。さじ加減が難しいというわけだ。

利用する立場で考えれば、過信は禁物ということ。システムはあくまでも運転を支援するもの。体験してみれば、「安全運転システムはドライバーに代わるものではない」という思いが強くなった。

新しい価値をクルマに見いだす!

本田技研工業執行役員 本田技術研究所 取締役 専務執行役員 四輪R&Dセンター長三部敏宏氏

本田技研工業執行役員 本田技術研究所 取締役 専務執行役員 四輪R&Dセンター長三部敏宏氏

今回の体験会では、ホンダのエンジニアの話を聞くことができた。ホンダの開発拠点となる四輪R&Dセンター長であり、本田技術研究所の取締役専務執行役員の三部敏宏氏は「今、ホンダらしさとはなんぞや? という議論を社内で相当にやっています。やっぱりホンダだね! というクルマを原点に返ってやろうというのが、新しい方向性です」と言う。ホンダは昨年に社長を交代。新社長である八郷隆弘氏のもと、新たなスタートを切った。そこで提唱されているのが「走りとデザインをもう一度やる」だという。「走りとデザインとは言葉にするとベタですけれど、それをあえて前面に出して、もう一回やる。そのためには“ホンダアイデンティティの復活”というキーワードを特に社内に向けて発信しています」と三部氏。

「走りとデザイン。それに加えて新しい3本の柱を考えています。ひとつはカーボンフリー社会の早期実現。燃費のレギュレーションを追いかけるのではなく、カーボンフリーの社会を早期に実現するんだ! という目標を掲げてやっていこう。ホンダが世の中を引っ張っていくんだというものです。2つ目は、事故ゼロ社会を実現する。これもホンダがリーディングするんだというのを明確に打ち出していく。これはADAS(先進運転支援システム)や自動運転といった技術がともなわないとできないので、結果的にはステップを踏むことになるとは思います。けれども、ホンダの製品でお客さまが亡くなるのが1件たりともあってはならないというのが根本にあります。」

三部氏の話はさらに続く。「3つ目が価値創造です。今までのクルマになかったような新しい価値をクルマに付加する。手段としてAIとかIoTとかありますが、それは手段にすぎません。とにかくやりたいのは、今までになかったような価値をクルマに見いだしていく。そこを徹底的にやって勝ち技になるんだ!と。特に、この3本目の柱は、ホンダが今までにやってきた悪い言葉でいうところの鎖国政策と言われてきましたが……。すべて中でやるという、これまでのやり方では到底ダメだなと思っています。俗にいうオープンイノベーションみたいな考え方をしようと。ITジャイアンツのグーグルやアップルと真っ向勝負ではなく、いかに彼らと共存しながら新しい価値を創造できるのか?というところに視点をおいてやっていこうと考えています」と三部氏は言う。

「新しい価値をクルマに見いだす」というテーマに関しては、自動運転技術とコネクテッド技術が重要なキーになるはずだ。それらの技術について三部氏は、「自動運転は、運転支援の延長線上にあるというよりも、価値として別のものを生み出すと考えています。子供から高齢者、酔っ払いからライセンスのありなしに関わらずに利用できる。そういう世界になると、クルマを売って儲けるというビジネスモデルではなく、新しいビジネスモデルと完全自動運転技術との組み合わせで新しい価値ができるのかなと思っています」と考えを述べた。

ホンダのルーツを振り返れば、自転車に無線機のエンジンを搭載した通称「バタバタ」にたどりつく。交通事情の悪かった終戦後の日本に、新しい交通手段として提案されたのが「バタバタ」だ。これこそ、三部氏の言うところの新しい価値創造ではないだろうか。「ないものを生み出す」というのもホンダらしさのひとつ。自動運転技術×ホンダから生み出される新しい価値に期待したい。

ホンダは「自動運転は、運転支援の延長線上ではなく、価値として別のものを生み出す」と考えている。モータリゼーションの根本を変えるような変革の登場を期待したい

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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2017.8.19 更新
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