フードアナリストの独自視点で、知られざるフードや銘酒を深掘りするコラム連載企画「食のやりすぎ“推し”伝説」。第5回は、唯一無二のロングセラーアイス、ロッテの「雪見だいふく」にまつわる“モノ語り”を紹介します。
国民的アイスと言える「雪見だいふく」
「爽」や「クーリッシュ」など、個性的なアイスの名作を多数抱えるロッテ。なかでもロングセラーのブランドが、1981年誕生の「雪見だいふく」です。日本には、このような和菓子をモチーフにしたレジェンドアイスが数多くありますが、個人的に「あいすまんじゅう」「あずきバー」「チョコモナカ(現「チョコモナカジャンボ」)」、そして「雪見だいふく」がその四天王だと勝手に思っています。
筆者も一員であるフードアナリスト協会の審査認証制度「ジャパン・フード・セレクション」では、2022年12月にグランプリを受賞しています(筆者は審査に携わっていませんが)
そんな「雪見だいふく」ですが、アイスという枠を飛び越えた新商品が、最近話題にあがっていることをご存じでしょうか。ということで、今回は、ブランドの奥深い歴史を振り返りつつ、新商品と定番アイスの食べ比べを行います。
話題の新作が「生雪見だいふく」(下)。冷凍のアイスではなく、チルドの生菓子という扱いです
「雪見だいふく」は、誕生前年の1980年に発売された「わたぼうし」というマシュマロで包んだアイスがルーツ。そこから発展し、凍らせても餅が固まらないように配合を調整した生地を開発し、1981年にデビューしました。
公式サイトより抜粋。1995〜1998年は四角いパッケージ(左下)で、1984年からは学校給食に採用された1個タイプのパッケージ(右下)もあったとか
ブランドロゴや赤を基調としたカラーリングはずっと不変ですが、当初のデザインは雪国の古民家をイメージさせるようなパッケージデザインでした。そういえば、筆者の記憶では、テレビCMにおいて、かまくらの中で「雪見だいふく」を食べるシーンが描かれており、「かまくらが作れるぐらい雪が降るなんていいな〜」(筆者は当時、埼玉在住)と、幼少期に無邪気な憧れを抱いたものでした。
雪国のイメージを訴求していたのは、デビュー時から長らく冬季限定商品だったことも関係しているでしょう。それが2018年からは通年販売に(9個入りの「ミニ雪見だいふく」は当初より通年販売)。
また、今のパッケージにはウサギが描かれていて、「ウサギは雪見ではなく月見でしょ!」とツッコミたくなるところですが、それこそ「月見だいふく」というバニラ風味以外のフレーバーも発売されていますし、月見の時季に「雪見だいふく〜お月見もモチモチ〜」という生地の黄色いタイプを販売した過去もあります。
こちらも公式サイトより抜粋。さまざまなサブフレーバーが発売されました
40年以上の歴史の中で、数々のチャレンジをし続けてきた「雪見だいふく」ですが、新たな発想で大胆に仕掛けたプロダクトが、今回取り上げる「生雪見だいふく」です。“生”というのは前述のとおり、冷凍のアイスではなくチルドの生菓子だから。
「生雪見だいふく」。オープン価格(想定小売税込価格180円前後)
こちらは、2022年9月に一部エリアでテスト販売したところ、あっという間に完売してしまった“幻”の商品でした。この大反響を受け、2024年2月15日に数量限定で復活する運びとなったのです。ということで、まずは本家との違いをチェックしました。
それぞれ開封してみたところ、見分けがつかないほどそっくりです
ルックスは限りなく同じですが、大きな違いはもちろん中身。本家「雪見だいふく」の生地の中はバニラアイスですが、「生雪見だいふく」のほうはホイップクリームが入っています。ということは、重さに違いがあるのでは? と思い、計測してみました。
重量は12gの差!
すると、「生雪見だいふく」のほうが軽いという結果に。おそらく、空気と混ぜて膨らませるホイップクリームのほうが軽いからでしょう。ちなみに、ロッテのプレスリリースには「担当者の思い」として開発の背景が載っていました。
「世の中には多くのクリーム大福がありますが、中身は大半がアンコ&少量のクリームという組み合わせがとても多いと思いました。単純においしいクリームを存分に楽しめるクリーム大福がもっとあってもいいのではないかと(中略)、ここにチャンスがあると思いました」
では、いよいよその味を確かめるべく実食へ。まずは新作の「生雪見だいふく」から、付属のフォーク(ピック)でやわらかさをチェックしてみると、これはスゴい! それこそ餅のように、生地がムニュ〜ッとへこみます。
マシュマロのように元の形には戻りませんが、この弾力は驚き!
中には想像どおりのエアリーなホイップクリームがたっぷり。しかも、そのフワッとした白いルックスはまさに雪! ある意味「雪見だいふく」以上に雪見にふさわしいと言えます。そして食べてみると、甘さは控えめですっきりとした後口。味わいとしても重さがない上品なクリームに仕上がっていて、薄く繊細な生地との相性も抜群です。
生地は「雪見だいふく」と遜色ない印象。薄く繊細で、とろけるような口どけが、ホイップクリームと見事に調和します
次は、改めて本家「雪見だいふく」を味見。開封前後に何枚か撮影したので少々溶けていましたが、これは結果的に大正解。公式サイトでは常温で8分待つことや、レンジで8秒または20秒加熱するレシピも推奨しており、温めることで新感覚のおいしさが楽しめるのです。
こちらは「生雪見だいふく」ほどではないにしろ、ムニュプニッとした弾力
味は、生地のもっちり食感と、バニラアイスのミルキーな甘さがひとつになってとろける、高レベルで安定したおなじみのおいしさ。少々溶けたことで、アイスの外側から内部にかけて温度にグラデーションが生まれますが、このメリハリも楽しいですよね。
少し溶けたアイスと餅とのマッチング、絶品です!
「生雪見だいふく」との違いとして、食感には当然大きな差はありますが、味わいに関しては「雪見だいふく」のほうが甘く感じました。これは、凍らせて食べるアイスなので、その分甘味を強くしているのかなと想像します(一般的に、温かいほうが甘さを感じやすい)。
手で持って皿に盛り付けると、ともに繊細なため少々形が崩れる結果に。生地も破けやすく、かなりデリケートです
ただし、それぞれの栄養成分を比べると、「生雪見だいふく」の1個90kcalに対し「雪見だいふく」は1個83kcalと、本家のほうが少々ヘルシー。これは、「生雪見だいふく」が最適なホイップクリームを目指すに当たって、使う油分が多くなった(脂質3.9g。「雪見だいふく」は2.6g)からかもしれません。
食べ比べを終えて思ったのは、「生雪見だいふく」は一流のスイーツ店で提供されていても驚かないレベルのおいしさであること。特に、薄くシルキーでとろける生地はさすがです。これだけ上品でリッチな味が、2個入りで百数十円というのは、極めて高いコストパフォーマンスと言えるでしょう。
とあるスーパーにて。おなじみのパッケージがチルドスイーツコーナーにあると、ひと際目立ちます
ただ、「生雪見だいふく」にライバルがいるとすれば、本家「雪見だいふく」でしょう。何しろアイスなので、賞味期限の長さが全然違います。とはいえ、決してインパクトだけではない確かなおいしさが「生雪見だいふく」にあるのも事実。ありそうでなかった新感覚スイーツ、今回も数量限定なのでお早めに!