低アルコール度数のサワー市場に、大型の新ブランドが誕生しました!
それが、2024年9月にデビューした「キリン 華よい」。アルコール度数3%の果実系サワーで、「キリン 華よい 白桃スパークリング」「同 檸檬スパークリング」「同 葡萄スパークリング」の3種がラインアップされています。
都内のスーパーにて。大々的にアピールされていました
そしてこの、アルコール度数3%の果実系サワーという商品設計から連想されるのが、サントリーの「ほろよい」ブランド。「キリン 華よい」は名称もよく似ており、強力なライバルになるのは必至でしょう。そこで今回は、両ブランドの近しいフレーバー3種を飲み比べて、それぞれの特徴や違いを明らかにします。
コンビニで価格をチェックすると、「キリン 華よい」は167円(税込)で、「ほろよい」は155円(税込)でした
まずは、「キリン 華よい」の開発背景から簡単に触れていきます。アルコール度数が低めの3%に設定した理由を推察すると、大前提として、世界的なソバーキュリアス(お酒をあえて飲まない日を楽しむライフスタイル)文化や、適正飲酒に関する考え方の広がりがあります。
同社の低アルコールブランドは今回が初ではなく、たとえば2015年に発売した1%の「キリン バタフライ」がありました。ただ、当時は早すぎたのかもしれません
特に適正飲酒については、2024年2月に厚生労働省より「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表されています。酒類メーカー各社は以前から、適量で節度ある飲酒の啓蒙活動を行ってきましたが、ガイドラインが公表されて以来、その理念に根差した商品開発にもより注力しており、キリンホールディングスとしてのひとつの具体例が「キリン 華よい」だと言えるでしょう。
キリンホールディングスでは「スロードリンク」を合い言葉に、適正飲酒を啓蒙。サントリーでは、「ドリンク・スマート」という言葉が掲げられています
また、「キリン 華よい」の新商品発表会資料では、マーケティングの調査データを基にした開発背景に言及されていました。まず、お酒全体の購入率が全世代で低下する中、RTD(Ready to Drink=開栓してすぐ飲める缶のサワーなどのドリンクのこと)市場は2024年7月累月で前年比105%と好調とのこと。いっぽう、家であまりお酒を飲まない層は20代を中心に顕著で、主な理由は酔いによる悪影響を気にしているからだそう。
「キリン 華よい」の新商品発表会で配布された資料より
同時に、「お酒は気軽に楽しむもの」「適量のお酒は人生を豊かにする」という期待もあったことから、従来品よりは酔いにくい「キリン 華よい」を開発したそうです。酒離れの中心層とされる年代、かつ、お酒のエントリー層である成人若者を歓迎するための、やさしくフレンドリーな果実系サワーが「キリン 華よい」ということですね。
「軽やかスパークリング!」のキーワードも特徴のひとつ。なお、広告などでは「キリン 華よい 白桃スパークリング」がセンターの立ち位置にいます
なお、「キリン 華よい」のラインアップで注目したいのが、定番フレーバーになりがちなレモンよりも、桃がウリになっているということ。今後序列は変わるかもしれませんが、プレスリリースや公式サイトを見ると、最上にあるのは「キリン 華よい 白桃スパークリング」です。
ちなみに「ほろよい」はどうかと言うと、おそらくいちばん人気は「ほろよい〈白いサワー〉」。根拠として、サントリー「ほろよい」の公式サイトでは、商品情報一覧で「ほろよい〈白いサワー〉」が左上に表記されています。これは、マーケティング心理において有名な「Zの法則」(人の視線はZ字を描くように動くという法則)にならえば、メーカーとして「ほろよい〈白いサワー〉」を先頭に持ってきているということ。また、コンビニなどでよく見かけるのも「ほろよい〈白いサワー〉」です。
都内のコンビニにて。同店で「ほろよい」は、〈白いサワー〉のみ取り扱っていました
その点、「キリン 華よい」に乳性飲料的なフレーバーはありませんが、今後ラインアップに追加される可能性は大いにあります。同社は「キリン イミューズ」や「キリン おいしい免疫ケア」など、強い乳性飲料ブランドも持っていますし。
なお、サントリーのサイトについて前述しましたが、「ほろよい〈グレープ〉」「同〈もも〉」「同〈はちみつレモン〉」も上位に表記されていることから、人気が高いと推測できます。こうした低アルコールの若年層向けサワーは、レモンが定番の「氷結」や「-196」といった王道ブランドとは、人気のフレーバーに違いが出ると言えるでしょう。
サントリーの商品情報より、「ほろよい」のページ
加えて、ネーミングが似ていることについて軽く触れさせていただくと、こうした例は珍しくありません。かつてはサントリーが「キリン 本搾り」と近しい設計の「こくしぼり」を販売していましたし、アサヒは今でも「アサヒ贅沢搾り」シリーズを展開しています。
それでは、いよいよ「キリン 華よい」と「ほろよい」を飲み比べていきます。まずは桃フレーバーから。
デザインは結構異なります。なお、「キリン 華よい 白桃スパークリング」は果汁1.9%、「ほろよい〈もも〉」は果汁1.0%です
それぞれのスペックを見ると、さっそく大きな違いがあることがわかりました。それは、「キリン 華よい」は「ほろよい」よりもカロリーと炭水化物量が低いこと。これは全フレーバーに共通していました。
「キリン 華よい 白桃スパークリング」は100mLあたり36kcal、炭水化物4.5g。「ほろよい〈もも〉」は、100mLあたり52kcal、炭水化物8.5g
おそらく、「キリン 華よい」は比較的に甘さが控えめなのだと思われます。
次はグラスに注いで香りをチェック。すると、ここにも互いの違いを感じました。なお、グラスに注がずにそのまま飲む人も多いと思いますが、この点については「キリン 華よい」に意欲的な工夫が見られたので、後述します。
液体の色はほぼ同じですが、「ほろよい」のほうが炭酸のキメが細かい印象
「キリン 華よい 白桃スパークリング」は、香りがフレッシュで爽やか。また、アロマエキスのようなツヤも感じました。いっぽうの「ほろよい〈もも〉」は、生の果実を思わせるリアルな香りが印象的。桃の表皮にあるうぶ毛すらイメージさせるような、あの感じです。
余談ですが、「華」の字と桃のイラストに引っ張られ、中華ファミレスの「バーミヤン」をイメージさせるなぁと思ってしまうのは筆者だけでしょうか……
そして、いよいよテイスティングへ。「キリン 華よい 白桃スパークリング」の第一印象は、甘酸っぱくフルーティー。甘さはあるものの、適度なキレと十分な酸味によってすっきりしています。また、炭酸のガス圧は思った以上に感じられ、強炭酸ほどではないですが、シュワッとしていて爽やか。商品名に「スパークリング」を用いていることにも納得できます。
「ほろよい」のデザインはシンプルですっきり。商品名に漢字を使わず、やわらかいイメージが伝わってきます
次に「ほろよい〈もも〉」を飲んでみると、やはりこちらのほうが甘め。とろみはないものの、ぽってりとした甘やかさがあり、酸味も「キリン 華よい 白桃スパークリング」よりは控えめで、ジューシーな仕上がりです。炭酸は見た目の印象と同様に、飲んだ感じもキメ細かく、心地よい刺激。全体的に20代のエントリー層に適した、やさしいお酒であることがわかります。
次は、「キリン 華よい 檸檬スパークリング」と「ほろよい〈はちみつレモン〉」をチェック。個人的に注目なのは、「ほろよい」がレモンではなく「はちみつレモン」である点です。“ウーロン茶はサントリーのこと”という有名なキャッチコピーがありますが、「サントリー はちみつレモン」も同社の傑作。「C.C.レモン」も名作ですが、昭和世代にとっては、1986年生まれの「サントリー はちみつレモン」が愛らしい!
「キリン 華よい 檸檬スパークリング」は果汁0.6%で、100mLあたり36kcal、炭水化物4.4g。「ほろよい〈はちみつレモン〉」は果汁2.0%で、100mLあたり55kcal、炭水化物9.4g
ちなみに、「ほろよい」は2009年に誕生したブランドであり、2023年には100番目のフレーバーが登場したロングセラー。かつては普通のレモンもありましたが、現在はラインアップされていません。レモンとはちみつレモンではそもそもの味が異なるので直接的な比較にはなりませんが、その点も踏まえて読んでいただけたら。
液体の色は「キリン 華よい 檸檬スパークリング」のほうが、濁っています
比べてみると、やはり香りからして明確に異なります。「ほろよい〈はちみつレモン〉」のほうが、はちみつ的なテリのある甘やかな風味で、「キリン 華よい 檸檬スパークリング」は一般的なレモンサワーのフレッシュな香り。では、味はどうでしょうか。
「キリン 華よい 檸檬スパークリング」の濁りは、凍結した果実をお酒の中で粉砕し、果汁やピューレと一緒に漬け込んだ製法によるものかもしれません
「キリン 華よい 檸檬スパークリング」の甘さはほどほどで、「キリン 氷結 シチリア産レモン」より少々甘いかなというレベル。酸味もしっかりあって、レモンのシャープな爽快さを感じます。余韻にはかすかにビターなニュアンスや、ハーバルな面影も。「キリン 氷結 シチリア産レモン」よりキュートですが、大人な表情もあるレモンサワーだと思います。
「ほろよい」は、レモンピールのようなビターフレーバーは感じません
いっぽうの「ほろよい〈はちみつレモン〉」は、想像どおりのおいしさ。はちみつ由来のまろやかな甘さがトップから感じられ、酸味は控えめながらレモンの爽やかさが心地よく染みわたります。甘さの余韻は長めで、ボディも十分。濃厚で甘じょっぱい料理には、「キリン 華よい 檸檬スパークリング」よりも「ほろよい〈はちみつレモン〉」のほうが合うと思います。
最後は、「キリン 華よい 葡萄スパークリング」と、「ほろよい〈グレープ〉」。レモンは両社ともにソフトドリンクの名作がありますが、ブドウに関しても、両社は日本を代表する老舗ワイナリーを展開するほど得意分野です。
「キリン 華よい 葡萄スパークリング」は果汁2.8%で、100mLあたり38kcal、炭水化物5.0g。「ほろよい〈グレープ〉」は果汁2.0%で、100mLあたり54kcal、炭水化物9.2g
ちなみに、ブドウ味はグミでも定番のフレーバー。明治「果汁グミ」、UHA味覚糖「コロロ」、カンロ「ピュレグミ」と、どの有名ブランドでも必ず採用されている果物であり、それは若者に人気の味である証しと言えるでしょう。
液体の色は、少しだけ「ほろよい」のほうが濃いめでした
香りは、「キリン 華よい」のほうがワイルドな印象。山ブドウを思わせる野性味というか、大人な表情があります。いっぽうの「ほろよい」には「キリン 華よい」ほどのたくましさはなく、ストレートで若々しいブドウの風味が感じられます。
こちらもやはり、ほかの「キリン 華よい」に近しい設計で、酸味をきかせた適度な甘さに、シュワッと爽快な味わいです
キリングループのワインメーカーといえばメルシャンであり、同社は赤ワインのスパークリングRTDも手掛けていますが、「キリン 華よい 葡萄スパークリング」にワインのDNAはほぼ感じません。こちらはあくまでも、ブドウの果汁を新鮮なままサワーにしたイメージ。ワインらしい発酵感や渋味、ボディはなく、甘酸っぱくてすっきり爽快なおいしさです。
「ほろよい」もワインの発想ではなく、果実味あふれるグレープジュースの方向性
「ほろよい〈グレープ〉」も、ほかの「ほろよい」同様に、豊かな甘みと長めの余韻、キメ細かな発泡感が特徴的。濃厚とまではいきませんが、しっかりジューシーな味わいには、熟成したようなコク深さも感じます。シャンメリーだと子どもすぎる、でもワインRTDの渋味や酸味は大人すぎる、という人に最適だと思います。
2ブランドを飲み比べてわかったのは、「キリン 華よい」のほうがカロリーと炭水化物量が低く、酸味がきいた味わいで、炭酸がシュワッとした爽快な設計であること。いっぽうの「ほろよい」は、そこまでの酸味がない分、甘みが豊かで、キメ細かな発泡感のやさしい味わいであると思います。
なお、近年のRTDはどれも、アルコールによる酒臭さがないものがほとんどですが、「キリン 華よい」と「ほろよい」は度数が3%と低めなので、よりライトです。普段は度数5%以上の酒を飲んでいる筆者の場合、6本飲んでもほとんど酔いませんでした。
缶の口が大きいのも「キリン 華よい」の差別化ポイント。缶のまま飲む際は、「キリン 華よい」のほうが香りや味のボリュームを感じやすいと思います
ちなみに実は今秋もうひとつ、アルコール度数3%の新作がデビューしています。それが、宝酒造の「発酵蒸留サワー」。こちらはベースが焼酎(「キリン 華よい」と「ほろよい」はウォッカ)であり、桃のフレーバーがないので今回の比較対象にしていませんが、同社ならではの甘くないおいしさは秀逸。より繊細な和食や、居酒屋のつまみに合う3%の缶チューハイと言えるでしょう。
「発酵蒸留サワー」。フレーバーは、レモン、クリア、ぶどうの3種がラインアップされています
大手メーカーが低アルコールの新ブランドをこぞって立ち上げたことは、市場にも大きなインパクトを与えるはず。アサヒ、サッポロ、オリオンなどもこれに続くのでしょうか。注目のトレンドです!