歴女参る! 日本史ナナメ斬り
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貪欲な心が洗われた! 日本一有名な足軽・鳥居強右衛門の行き歩みに触れる旅 〜前編〜

浜松城にも出向き、「出世! 出世!」と鼻息荒くこの連載を始めたものの、まだのし上がれていない筆者。何が足りないのかを考えていた時、足軽なのに武将よりも名声を得た鳥居強右衛門(とりいすねえもん)のことを思い出した。強右衛門は徳川家康の家臣という立場でありながら、長篠の戦いをきっかけに日本一有名になった足軽だ。まさに、成り上がり! 強右衛門の功績に触れれば、何かに気付くことができるのではないかと考えた。強右衛門の名を広めた長篠城址へ、いざ行かん!

長篠城址は鳥居強右衛門推し! まずは保存館へ

鳥居強右衛門が属していた頃の長篠城の城主は、徳川家の家臣である奥平信昌。徳川家康の長女・亀姫を正妻に迎えた奥平信昌は、家康に信頼され、大切にされた武士と言えるだろう。そんな城主を差し置いて、愛知県新城市では足軽である強右衛門のほうが勇名。その理由とは、長篠城が武田軍に攻められ、あわや落城という時に自らの命をなげうって徳川家康に援軍を呼びに行ったという史実による。強右衛門は三河武士の鑑と称えられており、長篠城址には強右衛門愛に満ちた保存館もあるほどだ。

長篠城址に向かう道中で掲げられている看板には、城主でもないのにデカデカと強右衛門が!

長篠城址に向かう道中で掲げられている看板には、城主でもないのにデカデカと強右衛門が!

長篠城址の駐車場には、長篠城址史跡保存館がある。長篠城址に行く前に寄ってみよう

長篠城址の駐車場には、長篠城址史跡保存館がある。長篠城址に行く前に寄ってみよう

博物館や資料館なんて珍しくもないと思われるかもしれないが、長篠城址史跡保存館はとても稀有な存在。実は、この保存館は長篠城の帯曲輪跡の一部に建築されている。現在は史跡の中に博物館等を作れないため、“城の中にある保存館”を見ておくのも一興だ。館内の様子を、チラッとお伝えしよう。

長篠の戦い前後や敵勢である武田軍の様子を知ることができる展示物が、ずらりと並んでいる

長篠の戦い前後や敵勢である武田軍の様子を知ることができる展示物が、ずらりと並んでいる

長篠城籠城の時に使った陣太鼓が飾られていた。よく見ると、血が付いている! 当時の籠城戦の激しさを物語るかのようだ

長篠の戦いを示したジオラマは、50年前に作られたものだけあってボタンの古さが微笑ましい。赤い旗の場所が長篠城。川を利用した城であることがわかる

甲冑で目に留まったのは、畳具足の内側に入れられている新聞紙。すき間から見える内容からは、かなりの古さが伝わってくる。味があるので、新しい新聞紙には交換しないでほしい

長篠の戦いにまつわる品々や解説、ジオラマなどが展示されている様子は一般的な保存館に見えるが、実は館内の半分以上を強右衛門のコーナーが占拠。いや、その前に、そもそも保存館の入り口から強右衛門推しなのだ。

入り口に飾られているのは、強右衛門のオブジェ。入館前から、“鳥居強右衛門を推していくぜ!”感がバリバリ伝わってくる

上の写真のオブジェは強右衛門の処刑シーンを模したものだが、強右衛門のことを知らないという方のために、軽く史実を記しておこう。

前述のとおり、強右衛門は長篠城が落城しかけていた時に徳川家康に援軍を依頼しに立ち上がった。足軽がこんな大役を担うことはほぼないのだが、この保存館から徒歩1分くらいの食糧庫まで武田軍が攻めに来ている状況。身分だ何だと言っている場合ではないほど、奥平家は追いつめられていたのだ。そこで、足軽大将・鈴木金七郎と強右衛門が裏手の野牛郭から泳いで脱出。武田軍の仕掛けた鳴子網(川から脱出できないようにする見張り用の罠。触れると音がなる仕掛け)をかいくぐり、約4 kmを泳いだ後、長篠城から家康のいる岡崎まで約65kmを走り、無事に援軍依頼の伝達を果たした。強右衛門の年齢は、当時でいうと壮年期に近い36歳。この年齢でこの距離を身ひとつで移動するとは、驚異的過ぎる!

処刑シーンのオブジェには、鳴子網をかいくぐる強右衛門の姿が! 実際は多少音が鳴ったようだが、見張りの軍が「この辺は大きなスズキが採れるらしいから魚だろう」と、強右衛門たちの脱出を見逃したという逸話がある。「川にスズキがいるわけがない!」というツッコミはもちろんだが、一緒に脱出したのが鈴木金七郎だけに「スズキ違い」という可能性も?

水泳4km、ランニング65kmをして徳川家康のいる地まで辿りついただけでもすごいのに、強右衛門はここで終わらない。援軍を依頼したことを長篠城のメンバーに報告する狼煙をあげたにもかかわらず、「早く殿様に伝えたほうが安心する」と帰城を決意。その途中で捕らえられてしまったのだ。武田軍から「長篠城に向かって“援軍は来ない”と言えば命は助けてやる」と取り引きを持ちかけられ、快諾。しかし、強右衛門が発したのは「援軍は来る!」。当然、武田軍は怒り、強右衛門をはりつけにして処刑してしまった。

勇士の終焉の姿だというのに、筆者の目は褌(ふんどし)に。これ、はみ出してない!?  保存館の学芸員によると毛を自粛したものもあるが、男らしさを出すために「大げさに表現」した作品もあるのだとか。おそらくこれは「豪快に表現した」ほうだろう

強右衛門の活躍もあり、織田・徳川連合軍と長篠城を繋いだことで落城は防ぐことができた。そして、その3日後に行われたのが、馬防柵と火縄銃で有名な設楽原の決戦。この戦いで織田・徳川連合軍が勝利を収めたのだ。強右衛門がいなければ、もしかすると歴史は大きく変わっていたかもしれない。そんなことを考えると、保存館で強右衛門が特別扱いされているのも納得できる。むしろ、もっとたたえてあげたい!

強右衛門にまつわる展示は館内の各所にあるが、強右衛門のことだけを紹介する「鳥居強右衛門の勇気」コーナーは必見!

入り口にあったオブジェとは印象の異なる強右衛門のイラストは、お尻まわりが色白で肉厚。アスリートも顔負けの身体能力を持つだけに筋肉質で再現されることが多いため、このように、ぽっちゃりな感じで描かれているのはめずらしい

「援軍は来るぞ!」と叫ぶ強右衛門の焼き物からは、必死さが伝わってくる。目が血走っていて怖い感じもするが、命をかけた戦いとはこういうものなのだろう。この状況でも諦めない精神力はすさまじい

強右衛門がとらわれの身でありながら味方に援軍が来ることを伝えた場所は、保存館の外にある回廊から視認可能。ほかにも、武田軍が配置していた場所や、逼迫する長篠城を囲む敵軍たちの位置を知ることができるプレートが掲げられている。

望遠鏡チックなものが10個以上設置されている。筒を覗いた時に何が見えるかを案内するプレートも、それぞれに用意されていて親切だ。ただし、望遠機能はない

さっそく強右衛門が長篠城に向けて「援軍は来る」と叫んだ場所を見てみよう。ちなみに、その地は「鳥居強右衛門呼びかけの所」と称されている。筒を覗いて見えたのは、民家の庭だった……

赤い囲みの場所に「鳥居強右衛門呼びかけの所」がある。保存館から150mほどの距離で、徒歩1〜2分程度。看板もあるので、たどり着くのは難しくないだろう。実は、その場に筆者がいるのだが見えるだろうか?

肉眼では豆粒ほどにしか見えないが、カメラをズームにすれば筆者発見! 強右衛門さながらに「援軍は来るぞ!」と叫んでみたかったが、周囲は民家。迷惑をかけることはできないので断念した。でも、以前はこの場所から保存館に向かって叫ぶ「大声コンテスト」的なイベントがあったそう。頑張れば声は届くようだ

ここまで強右衛門を中心に見てきたが、保存館に用意されている資料が素晴らしいので紹介しておきたい。カラーの案内パンフレットもあるが、注目すべきはモノクロの資料。実は、すべて職員の手作り。長篠城址保存館の案内はもちろん、強右衛門や城主の正妻・亀姫の解説、そして強右衛門ウォーキングコースなど過去から現代まで楽しめる内容となっている。

筆者が訪れた際に置かれていた手作りの資料は、12種類。すべて無料だが、ていねいさはハンパない。職員の愛が伝わってくる

数ある資料の中でも気に入ったのが、長篠の戦いの時に参戦した武将の年齢一覧。武田軍の重鎮たちが50代、60代と高齢化しているのに対し、織田・徳川軍は20代、30代中心であることがわかる。参謀たちの体力差もこの戦いの勝敗につながったのだろうか。また、裏面には長篠の戦いが時系列でわかる「戦国時代 今日は何の日」があり、読み応えに感涙した

長篠城址史跡保存館の入館料は210円(高校生以上/個人)。ちなみに、設楽原の決戦に関する資料や展示品がそろえられている設楽原歴史資料館との共通閲覧券400円もある。設楽原歴史資料館は日本一多くの火縄銃を展示している資料館で、火縄銃や馬防柵を見るだけでなく、火縄銃(レプリカ)を使ってポーズをとることも可能。長篠城址史跡保存館からクルマで約10分のところにあるので、せっかくなら両方まわっちゃおう(共通閲覧券なら110円お得!)。

設楽原歴史資料館にて、火縄銃を携えた際に「構え!」と叫ぼうとしたら同行者に止められてしまったので、あり余るエネルギーを屋外にある馬防柵で解消すべく突撃! 馬防柵は本来、武田騎馬軍団の攻撃を防御するためのもの。武田軍になりきって、馬を捨ててこんな感じで侵入してきたのでは? というのを再現してみようとしたが、柵の土台が不安定過ぎた。危険なので、登るのはやめておこう

旅はまだまだ終わらない! 後編へと続く

長篠城址史跡保存館で強右衛門のことをたっぷり堪能したあとは、強右衛門が命をかけて守った長篠城へ向かう。その様子は、後編で!

<関連サイト>長篠城址史跡保存館に行きたくなったら、フォートラベルでチェック!

北村美桂

北村美桂

歴史旅ブログ「カツイエ.com」の運営と、ゆるめの歴史イベント「名古屋歴史ナイト」を主宰するライター。初の子育てに毎日てんてこまい。

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