ハンドドリップで1杯分のコーヒーを淹れると味が薄くなる……と感じているなら、「鋭角ドリッパー」を使ってみて! お湯を「の」の字を描くように注ぐなど細かい作法は不要で、通常のドリッパーよりも気楽&簡単においしいコーヒーが楽しめます。
ハンドドリップでおいしいコーヒーを淹れるには、コーヒー粉やお湯の量、湯温、注ぎ方などいろいろ注意すべき点があり、特に1杯分は技量が問われます。コーヒー粉とお湯は1:15の比率で抽出するのが一般的ですが、1杯分はコーヒー粉が少ないため、注いだお湯とコーヒー粉が触れている時間が短くなり、少々薄い味わいになりやすいからです。
1〜3杯淹れるときのコーヒー粉とお湯の量
よく見かける2〜4杯用の円錐形ドリッパーを小さくした1杯用ドリッパーを使えば失敗しにくいですが、それでも注ぎ方にはコツが必要です。そうした細かいことを気にせず、1杯分のコーヒーが薄い味わいにならずに抽出できるのが「鋭角ドリッパー」。一般的な円錐形ドリッパーのV字の角度(底角度)が60度なのに対し、鋭角ドリッパーは30度前後の角度をつけられているのが特徴です。
今回はCAFECブランドの1杯用の円錐型ドリッパーを使用。鋭角ドリッパーの「DEEP27」は27度の底角度がついており、スリムで縦長です。高さは底角度27度の「DEEP27」が119mm、60度の「TFD-1」が80mm。開口部の直径は27度の「DEEP27」が68mm、60度の「TFD-1」が95mm(筆者測定)
底角度が小さくなることで直径が小さくなり、コーヒー粉の堆積層が厚くなります。コーヒー粉とお湯が接する時間が長くなるため、しっかり抽出されるという仕組み。
同じ量(10g)のコーヒー粉を入れると、これだけコーヒー粉の堆積層の厚さに差が出ます。厚さを測ってみると、底角度27度の鋭角ドリッパーは約7.5cm、60度のドリッパーは約4cmでした
鋭角ドリッパー「DEEP27」と底角度60度の「TFD-1」で1杯分のコーヒーを淹れ比べてみましょう。中細挽きのコーヒー粉を10g、温度が93度のお湯を150mL使います。
ペーパーフィルターにお湯がかからないようにしましょう。鋭角ドリッパーのほうが直径が小さいので、ちょっと集中力を要します
どちらもお湯を20mL注いで30秒蒸らした後、残りのお湯を注ぎますが、鋭角ドリッパー「DEEP27」と底角度60度の「TFD-1」でお湯の注ぎ方が異なります。鋭角ドリッパーは残り130mLを中央に注ぎ入れるだけでOK。底角度60度のドリッパーは「の」の字を描くように、お湯を3回に分けてゆっくり注ぎます(下の動画参照)。
見た目にはほとんど違いはありませんが、底角度60度のドリッパーで淹れたコーヒーは少しすっきりとした味わいで、鋭角ドリッパーで淹れたほうがややコクを感じました
ちなみに、底角度60度の「TFD-1」で淹れたコーヒーのほうがすっきりした味わいと上述しましたが、多く普及している2〜4杯分の円錐形ドリッパーで1杯分を淹れたときのような薄い味わいではありません。ハンドドリップに不慣れなら間違いなく、2〜4杯分のドリッパーより1杯専用の「TFD-1」のほうがおいしく抽出できます。
ここまでCAFEC「フラワードリッパー DEEP27」を紹介しましたが、もうひとつ、同時期に発売された「コニカル 30 シングル コーヒードリッパー Tarachine(たらちね)」(以下、「たらちね」)も紹介します。どちらも1杯用の鋭角ドリッパーですが、使用できるペーパーフィルターなど異なる点があるので、使いやすいほうを選びましょう。価格は「たらちね」が1,320円(税込)、「DEEP27」が1,650円(税込)です。
底角度は「DEEP27」が27度、「たらちね」が30度。傾斜が若干ゆるやかな分、「たらちね」のほうが少し高さが低く、「DEEP27」が119mm、「たらちね」が110mmとなります。開口部の直径は「DEEP27」が68mm、「たらちね」が70mm(筆者測定)
底角度に若干の差はありますが、10gのコーヒー粉を入れたときの堆積層の厚さはほぼ同じ。「DEEP27」が約7.5cm、「たらちね」が約7cmでした
リブや底穴の形状にも違いがあります。
「たらちね」は2本のリブがらせん状に付けられており、コーヒー粉全体に触れるようにらせん状にお湯が流れます。「DEEP27」は内側に突部を付けるのではなく、表面をくり抜いてリブを成形。フィルターとドリッパーの間に十分なすき間ができ、お湯がスムーズに流れます
底穴の形状は異なりますが、どちらも大きく、フィルターの先端がしっかり出ます。リブが最後まで付いているのでコーヒー液の流れが滞りにくく、味が安定しやすいでしょう
ここからの相違点は、使い勝手やランニングコストに影響します。
台座にもそれぞれ工夫が施されています。「たらちね」は抽出中に台座が曇っても、三角形の窓から視認可能。横から見えないカップを使う際、あふれる心配がありません。「DEEP27」はフィルターの先端がカップ内のコーヒーに浸からないように、台座がドーム状になっています
対応するペーパーフィルターも異なります。「たらちね」は60度の円錐フィルター(1〜4杯用)を半分に折って使用。「DEEP27」は専用の「アバカプラスDEEP27」(100枚入りの公式オンラインストア価格は605円/税込)を使うように記されています
「たらちね」は市販の1〜4カップ用フィルターを使用するため、入手しやすく、コストを抑えられますが、毎回、半分に折る作業が発生します。とはいえ、手間に感じるほどではありません。ちなみに、半分に折って袋状にすると1枚の部分と3枚の部分ができ、フィルターの厚さに差が出ますが、らせん状にお湯を全周流すことで浸透は均質化されている印象
それぞれの製品が推奨している淹れ方にも違いがあります。
●「DEEP27」→上述のとおり、蒸らした後、残りのお湯をすべて注いでOK
●「たらちね」→蒸らし終えたら中央にお湯を80mL注ぎ、コーヒー粉が沈んできたら残りのお湯を注ぐ
一般的なドリッパーと比べるとお湯を分けて注ぐ回数が少なく、「の」の字に回して注ぐ必要もないので楽。「たらちね」は蒸らした後、2回に分けてお湯を注ぎますが、それほど手間ではないでしょう。ただし、メーカーの推奨方法に忠実に行うにはスケールが必要です。
同じ分量で淹れたところ、抽出時間は「たらちね」のほうが10秒ほど長くかかりました。これは、お湯を注ぐ回数の差でしょう。味わいには違いを感じませんでした
鋭角ドリッパーは直径が小さいため、慣れるまで数回、尻漏れで外側にお湯をこぼしてしまうこともありましたが、それでも「の」の字を描くように回し入れる作法が不要な分、一般的なドリッパーで淹れるよりも圧倒的に楽。作業が楽というだけでなく、気楽に淹れられるのがいいですね。
筆者は毎日ハンドドリップでコーヒーを淹れており、抽出作業は手間には感じていません。むしろ、細かい工程があるからこそ楽しいと思っています。ただ、今回、1杯分を淹れてみて、毎回“安定した味わい”で抽出するのは結構難しいと感じました。
鋭角ドリッパー「DEEP27」と底角度60度の「TFD-1」で抽出する比較動画を上で紹介しましたが、動画では「TFD-1」のほうが抽出完了まで時間がかかっています。しかし、別の日は鋭角ドリッパーと同じくらいの時間で抽出できました。スケールを使い、湯量を計測しながら注いでいても、お湯を回し入れる時間やお湯が落ちるのを待つ時間の長さなどでトータルの抽出時間に15秒前後の差が出たようです。それに対し、鋭角ドリッパーはいつも同じくらいの時間で抽出できたので、1杯分のコーヒーを毎回安定して淹れるのに適していると思いました。
3〜4杯分抽出できるドリッパーで1杯分を淹れていて、複数杯抽出したときよりも味わいに物足りなさを感じているなら、1杯用の鋭角ドリッパーを使ってみてほしいです。
鋭角ドリッパーは細長いから洗いにくそう……と思われるでしょうが、普通のスポンジで底までしっかり洗えます