どこの家庭でも見かける、身近な存在の「カセットガス」。日々の食卓に、停電や地震など災害への備えとして、欠かせない存在です。カセットガスをカセットコンロと一緒に何本かは手元に置いている家庭も多いのではないでしょうか。
ただ、購入したカセットガスを、何年も使わないまま保管しているケースは少なくはないでしょう。でもそれでは少しもったいない。
最近はカセットガスで使える製品が驚くほど充実しています。定番のカセットコンロはもちろん、焼肉グリル、たこ焼き器、オーブントースター、ポータブルストーブ、ランタンから暖炉まで。
電気を使わずに調理や暖房、照明が簡単に確保できるというメリットは、普段の生活でも災害時でも大きな魅力です。
また、カセットガス自体も進化して、近年は冬季のアウトドアでの使用も意識した、寒さに強い高性能カセットガスも登場しています。
そこで今回は、意外と知られていないカセットガスの仕組みや種類をおさらいしたうえで、都市ガスや電気と比較しての経済性をチェック、日常で使いながら災害に備える「ローリングストック」の方法を考えます。さらに、それを実現するための、暮らしを楽しくする個性的なカセットガス機器を紹介します。
カセットガスと呼ばれるのは、細長い金属製の容器に燃料ガスを封入した製品です。「CB(カセットボンベ)缶」とも呼ばれ、家庭用のカセットコンロをはじめ、さまざまな燃焼器具に使用されています。
カセットガスの容器(これをカセットボンベという)を振ると、中で液体が動くような音がします。カセットガスの中身の大部分は液化石油ガス(LPG)。主成分はほとんどのカセットガスでは石油や天然ガスから得られるブタン(ノルマルブタン)か、イソブタンです。
この二つはいずれも分子式C₄H₁₀の「可燃性炭化水素」ですが、分子の結合の仕方が異なる「構造異性体」です。構造の違いによりノルマルブタンよりイソブタンのほうが沸点が低く、蒸気圧が高い性質があり、結果としてイソブタンはより低温でも気化しやすくなっています。
そのため標準的な製品にはノルマルブタンが多く使われ、アウトドアや寒冷地対応製品ではイソブタンの比率が高くなっています。また、製品によっては一部により沸点が低く気化しやすい、プロパンガスを加えているものもあります。
カセットボンベの内部構造。L字管の先が気体部分にあることにより、ガスが出る。「切り欠き」はL字管の曲がった方向に切られていて主に横置きの場合に正しい方向にセットされる仕組みとなっている。
カセットガスはカセットボンベと呼ばれる金属製の容器に封入されます。容器の上部には、ガスを取り出すためのバルブと、ガス漏れを防ぐパッキンが設けられています。ステムと呼ばれる先端の突起部分の奥には、直角に折れ曲がったパイプであるL字管が接続されていて、カセットガス機器に正しく装着するとバルブが開き、缶内部の圧力によってガスがL字管を通って送り出される仕組みです。
液体の上部にたまっている気体が取り出されると、取り出された分だけ、内部の液体が少しずつ蒸発して気体を補充します。こうして燃料がなくなるまで燃焼を続けられるのです。
ただし、カセットボンベには正しい取り付け方向があります。カセットボンベの口金部分には一部が切り取られた「切り欠き」がL字管の曲がっている方向に切られていて、横置きの場合は切り欠きの向きを合わせることで、L字管が上を向き、気体を取り出し、液体が噴き出すことを防ぐ構造になっています。縦置きの場合にはバルブの先を上にすることで気体を取り出すことができます。この方向を誤ると液体が吹き出す場合があるので注意が必要です。
口金の「切り欠け」部分
| ブランド | 製品名 | 特徴 | ガス成分・配合比率 | 使用可能な外気温の目安 |
|---|---|---|---|---|
| イワタニ | カセットガス(オレンジ) | 家庭用の定番品 | ノルマルブタン約70%、イソブタン約30% | 約10℃以上 |
| カセットガス パワーゴールド | イソブタン高配合の低温対応品 | ノルマルブタン約30%、イソブタン約70% | 約5℃以上 | |
| SOTO | レギュラーガス ST-700 | 一般用途向けの標準品 | ブタン100%(異性体別比率は非公表) | 公表値未確認 |
| パワーガス ST-760 | イソブタン高配合の低温対応品 | ノルマルブタン約24%、イソブタン約68%、プロパン約7% | 公表値未確認 | |
| CB TOUGH ST-711/712 | 高耐圧容器を採用した寒冷地対応品 | ノルマルブタン30〜40%、イソブタン40〜50%、プロパン15〜25% | −5℃まで(※1) | |
| ユニフレーム | レギュラーガス | キャンプ向けの標準品 | 液化ブタン(イソブタン約30%とのホームページ記載あり) | 公表値未確認 |
| プレミアムガス | イソブタン高配合の低温対応品 | イソブタン約95% | −10℃でも着火・燃焼可能(※2) | |
| ニチネン | マイ・ボンベL | 家庭用の標準品 | ノルマルブタン68%、イソブタン30%、プロパン1% | 公表値未確認 |
| マイ・ボンベα | 防錆加工を施した備蓄向け製品 | ノルマルブタン68%、イソブタン30%、プロパン1% | 公表値未確認 |
※ガス成分はメーカー公表資料に基づく概数・範囲です。使用可能な外気温はメーカーが公表する目安であり、器具や使用条件によって異なります。
※1:SOTO CB TOUGHの−5℃は、満充填のボンベを対応するレギュレーター搭載器具で使用した場合の条件です。
※2:ユニフレームの−10℃は着火・燃焼が可能な条件を示し、連続使用時の火力を保証するものではありません。
こうして並べてみると、どれも同じに思えたカセットガスも各社が成分を工夫して製品に特徴を持たせていることがわかります。
もっとも代表的なメーカーでカセットガスの元祖ともいえるのが岩谷産業。
イワタニの定番であるイワタニカセットガス(オレンジ)。3本組で売られているのをよく見かけます
イワタニブランドのカセットガスボンベは同社資料によれば国内シェアの7割を占めています(22年3月時点)。標準品の「オレンジ」はイソブタンが約30%。低温用とされる「パワーゴールド」のイソブタン比率は70%と他社製品に比べやや控えめで、使用可能外気温も5度までとなっています。 イワタニの取り組みでユニークなのは「カーボンオフセットカセットガス」。 オレンジと同仕様ですが、外装がグリーンで、カーボン・オフセットであることが表示されています。これは、岩谷産業自身の脱炭素の取り組みの一環として、オレンジ缶1本当たりの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体(CFP)のCO₂排出量を算定。その排出量相当分を、自社グループが推進する省エネ・燃料転換プロジェクトなどで創出した国の「J-クレジット」を活用してオフセット(相殺)した製品です。イワタニのカーボンオフセットカセットガス。内容はオレンジと同じだが、グリーンの外装が印象的
イワタニのカーボンオフセットカセットガスは岩谷産業の脱炭素社会への取り組みの象徴であるとともに、消費者にとっても、日常の中で手軽に取り組めるサステナブル社会への一定の貢献の機会といえます。カセットガスの進化を象徴する製品が、新富士バーナーのアウトドアブランドSOTOが2024年に発売した「CB TOUGH ST-711/ST-712」です。
この製品は、ノルマルブタン、イソブタン、プロパンの3種類を混合しているのが特徴です。プロパンガスの混入はキャンプや登山用のOD缶(アウトドア缶、バーナーやランタンに使用する、まるく背が低いガスボンベ)では一般的でしたが、CB缶の場合、配合はごく少量でした。これはプロパンガスの蒸気圧が高く、容器に耐圧性が求められるためです。CB TOUGH 220 ST-712のメーカー公表の配合割合は、プロパン15〜25%、イソブタン40〜50%、ノルマルブタン30〜40%。SOTOは通常より耐圧性を高めた容器を使用することで、最大25%ものプロパンガスをカセットボンベに封入し、対応するレギュレーター搭載燃焼器具との組み合わせにより、ボンベ満タン時は気温−5℃の環境でも安定した火力を発揮できるとしています。新富士バーナーはCB TOUGH 220 ST-712以外にも、様々な成分比率のカセットガスを販売しています。
山をモチーフとした、カセットガスには珍しい精悍なデザインの「進化系」カセットガス SOTO ST-711/712。外れにくいキャップは使用時に缶の底にアタッチできる仕組みとなっていて、フタだけでも欲しいとの声も
ユニフレームも新潟発の代表的な日本のアウトドアブランド(現在の会社名は新越ワークス)ですが、発祥が工芸用カセットガストーチだっただけのことはあり、ホームページでのカセットガスの説明が詳細です。同社の寒冷地用プレミアムガスはイソブタン95%と高濃度、「プレミアムガス」としての沸点の目安は−11℃であるため、−10℃でも着火し、燃え続けるとホームぺージで説明されています。
ユニフレームのプレミアムガス。イソブタン95%の高濃度。
比較的安価に入手できること、材料の加工から最終製品化にいたるまでの全工程を完全に日本国内の自社グループ工場で管理している安心感から、ニチネンのカセットガスは、多くのユーザーの支持を得ています。非公表の成分に関して同社に直接問い合わせたところ、販売している2種類いずれも、ノルマルブタン68%、イソブタン30%、プロパン1%との回答をいただきました。
同社のユニークな点は、通常使用用のマイ・ボンベL以外に、低温用をラインアップするのではなく、防錆加工を底板部分に施し、備蓄を意識したマイ・ボンベαを製品化している点です。惜しむらくは同製品の企画後に日本ガス石油機器工業会がカセットボンベの使用期限を約7年と呼びかけ始めており、それ以上の年限の使用可能をうたうことはできず、「相対的に」長持ちするとの説明にとどまらざるを得なくなっている点です。
製缶から充填まで国内生産のニチネン製!がキャッチフレーズ
注:製品画像は各社様のホームページよりカセットガス、家庭用LPガス(プロパンガス)、都市ガスは、いずれも身近な燃料ですが、その成分や性質は大きく異なります。
標準的なカセットガスの主成分であるノルマルブタンは、沸点が約−0.5℃と比較的高く、寒い環境では気化しにくくなる弱点があります。一方、イソブタンやプロパンは沸点が低く、低温でも気化しやすいため、寒冷地向けの高性能カセットガスに使用されているのはこれまでに説明した通りです。それではカセットガスは一般的な家庭で使われているガスとどこが違うのでしょうか?
家庭用LPガス(プロパンガス)は主にプロパンを使用しており、都市ガスはメタンを主成分としています。カセットガスや家庭用LPガス(プロパンガス)は液化して容器に保存・運搬できるのに対し、都市ガスの主成分メタンは、常温(正確にはメタンの臨界温度−82.6℃以上)ではどんなに圧力をかけても液化しないため、気体のまま供給されるのが特徴です。
つまり、メタンはガス会社の設備で極低温で液体保存しているものを、気化させた状態で、ガス管を通じ各家庭に供給されているのです。
プロパンはメタンほどではありませんが、ブタンよりもはるかに沸点が低く(−42℃)、蒸気圧が高いので、液体での保管にはより頑丈な耐圧容器が必要です。
| 比較項目 | ノルマルブタン | イソブタン |
プロパン (家庭用LPガスの主成分) |
都市ガス(13A) |
|---|---|---|---|---|
| 化学式 | C₄H₁₀ | C₄H₁₀ | C₃H₈ | 主にCH₄(メタン) |
| 沸点 | 約−0.5℃ | 約−11.7℃ | 約−42℃ | 約−162℃(メタン) |
| 蒸気圧(20℃) | 約210kPa | 約310kPa | 約840kPa | 該当せず※1 |
| 発熱量(1kgあたり) | 約49.4MJ | 約49.4MJ | 約50.3MJ | 約54〜55MJ※2 |
| 発熱量(気体1m³あたり) | 約128MJ | 約128MJ | 約99MJ | 約45MJ |
| 低温での気化 | しにくい | 比較的しやすい | 非常にしやすい | −82.6℃以上では常に気体 |
| 主な用途 | 一般用カセットボンベ | 高性能カセットボンベ | 家庭用LPガス、寒冷地向け混合ガス | 家庭用・業務用のガス機器 |
| 保存・供給時の状態 | 液化して小型缶に封入 | 液化して小型缶に封入 | 液化して高圧容器に充填 | 導管内では気体 |
| 供給方法 | 缶を交換 | 缶を交換 | ガス会社が容器を交換・補充 | 地下のガス導管経由 |
| 空気との重さ | 重い | 重い | 重い | 軽い |
| 主な強み | 携帯・備蓄が容易 | 携帯・備蓄が容易、低温にも比較的強い | 日頃から大容量の備蓄になっている。災害時でも直接の被害がない場合使用できる可能性が高い | 平常時には個人の管理が不要、容器のコストがかからない分単価が低い |
| 主な弱点 | 寒さに弱い、容量が少ない | 単価が高い、容量が少ない | 定期的な配送が必要 | ガス供給網の一部が損傷すると大規模・長期の供給停止になりやすい、備蓄ができない |
※発熱量は高位発熱量(燃焼時に生じる水蒸気の凝縮熱を含む)で統一した概数。
気体1m³は0℃・1気圧の標準状態。蒸気圧は絶対圧。
※1 メタンは20℃で気液平衡の蒸気圧を持ちません。
※2 メタン主体の都市ガスを重量換算した概数で、
実際の組成により変わります。
表を見ると、燃料1kgあたりの発熱量は、都市ガスの主成分であるメタンが最も大きく、次いでプロパン、ブタンの順となります。ただし、常温で調理する場合、ノルマルブタン、イソブタン、プロパン、メタンの発熱量の違いを、実際の火力の差として体感することはほとんどありません。これらの燃料の発熱量は1kgあたり約49〜55MJと大差がなく、使用時の火力はコンロなど燃焼器具の性能にも左右されるためです。
ただし、寒い場所や長時間の連続使用ではガスの特性による差が顕著で、ノルマルブタンの沸点(約−0.5℃)では10℃以下では気化が進みにくく、着火しにくかったり、着火してもすぐ消えてしまったりすることがあります。
そのためイソブタン(沸点約−11.7℃)や一部プロパン(沸点約−42℃)を使用した上位バージョンのカセットガスを販売したり、カセットガス機器自体に缶を温める仕組みを加えたりしてカセットガスの寒冷地での使用に適合させています。
なお、沸点が非常に低いため、家庭用LPガスや都市ガスは気温による着火不具合の心配はありません。
また、都市ガスは気体1m³あたりの発熱量が約45MJと、プロパンの約99MJの半分以下ですが、重量1kgあたりで比較すると都市ガスのほうが発熱量が高くなります。
これはメタンがプロパンよりも軽い気体だからです
低温での使いにくさ以外にもカセットガスには弱点があります。
まず持続時間ですが、一般的な250g入りボンベの場合、強火での連続使用時間は使用機器にもよりますが、おおむね1〜2時間程度です。ストーブなどの暖房器具では、これより短くなる場合もあります。コンパクトで持ち運びやすいこととのトレードオフで使用時間が限られ、継続使用のためには何度もボンベを交換しなければならないのはカセットガスの弱点と言えます。
また、経済性でも、カセットガスは都市ガスや家庭用LPガス、電気に劣ります。
例えば、250g入りのカセットボンベを1本200円で購入したとしましょう。
ブタンの発熱量を約12.3kWh/kgとして計算すると、1本の燃料が持つエネルギーは約3.1kWh。燃料エネルギーだけで比較した単価は、約65円/kWhになります。
これをほかのエネルギーと比較すると、都市ガスが約14円/kWh、灯油が約15円/kWh、家庭用LPガスと電気が約30円/kWhです。つまり、カセットガスは都市ガスや灯油の約4〜5倍、電気の約2倍のコストがかかる計算になります。
| エネルギーの種類 | 価格の前提 | 1kWhあたりの単価 |
|---|---|---|
| 都市ガス(13A) | 約161円/m³ | 約14円 |
| 灯油 | 約143円/L | 約15円 |
| 家庭用LPガス | 約766円/m³ | 約30円 |
| 電気 | 東京電力・従量電灯B | 約31円 |
| カセットガス | 250g缶・200円 | 約65円 |
※第4章の物性比較表は高位発熱量、以降のコスト計算は実際の有効熱に近い低位発熱量を採用しています。
※電気・都市ガス・LPガスは使用量に応じた従量料金を使用し、
基本料金は除外しています。
実際の機器の熱効率も考慮していません。
※都市ガスは京葉ガス2026年10月料金、
LPガスは2026年9月全国平均の5〜10m³間の増分単価、
電気は東京電力の2026年10月・月120〜300kWhの料金帯
(燃料費調整・再エネ賦課金込み)を参考にしています。
※カセットガスは250g缶1本200円として計算しています。
もちろん、実際の調理や暖房にかかる費用は器具の熱効率によっても変わります。
上記のデータをベースに生活の基本である調理と暖房を例に機器の熱効率(家庭用ガスコンロは国の規定値、その他はメーカーの実測値を参考にしたもの)まで勘案したエネルギー単価の比較表を作ってみました。
| 用途 | 熱源・機器 | 燃料・電力単価 (A) |
熱効率 (B) |
有効熱1kWhあたり 実効コスト(A÷B) |
備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 調理 | 都市ガスコンロ | 約14円 | 約56.3%(※1) | 約25円 | 省エネ性能カタログ掲載の製品測定値を参考。 |
| IH調理器(電気) | 約31円 | 約90%(※2) | 約34円 | 鍋自体を発熱させるため加熱効率が高い。 | |
| 家庭用LPガスコンロ | 約30円 | 約56.3%(※1) | 約53円 | 都市ガス用と同程度の熱効率を想定。 | |
| カセットコンロ | 約65円 | 約45%(※3・推計) | 約144円 | 湯沸かし試験から推計。機種や使用条件で変動。 | |
| 暖房 | エアコン(ヒートポンプ) | 約31円 | COP 3.5〜4.5(※4) | 約7〜9円 | 外気温や運転条件によって効率が変動。 |
| 都市ガスFF式暖房機 | 約14円 | 82.5%(※5) | 約17円 | 屋外給排気式。リンナイの製品公表値を採用。 | |
| 石油FF式ファンヒーター | 約15円 | 86%(※6) | 約17円 | 屋外給排気式。省エネ法の目標基準値を採用。 | |
| 電気セラミックヒーター | 約31円 | 約100%(※7) | 約31円 | 電気エネルギーがほぼすべて熱に変わる。 | |
| カセットガスストーブ(開放式) | 約65円 | 約100%(※8) | 約65円 | 換気による熱損失は計算外。 |
※比較方法: 各燃料・電力のエネルギー単価を機器の熱効率で割り、 有効熱1kWhあたりの実効コストを概算。 単価は都市ガス14円、LPガス30円、灯油15円、 電気31円、カセットガス65円/kWh。 基本料金・機器購入費は含まない。 測定条件と発熱量の基準が完全には統一されていないため、 実効コストは参考値。
※1 家庭用ガスコンロ: 資源エネルギー庁の省エネ性能カタログ掲載製品の 熱効率56.3%を代表値として採用。 JIS S 2103に基づく測定値で機種によって異なる。
※2 IH調理器: パナソニック公表の約90%を採用。 日本電機工業会の自主基準による測定値。 鍋の材質・形状などによって変動。
※3 カセットコンロ: 日本ガス石油機器工業会の湯沸かし試験 (水1L、ガス消費量約17g)を参考に推計。 水の初期温度20℃、ブタンの低位発熱量44.3MJ/kg と仮定すると約44.5%となるため45%を採用。 鍋への蓄熱や蒸発熱は含まない。
※4 エアコン: 暖房COP(成績係数)を3.5〜4.5と仮定。 実際の値は機種・外気温・運転条件で変動。 年間効率のAPFとは異なる。
※5 都市ガスFF式暖房機: リンナイのFF式暖房機RHFS-310FLなどの メーカー公表熱効率82.5%を採用。 熱損失は約17.5%。 燃焼用空気は屋外から取り込み、排気も屋外に排出する。
※6 石油FF式ファンヒーター: 資源エネルギー庁が定める密閉式・強制対流式 石油ストーブの目標基準値86.0%を採用。 熱損失は約14%。 個別製品の実測値とは限らない。
※7 電気セラミックヒーター: 投入した電気エネルギーがほぼすべて 室内で熱に変わるため約100%とした。
※8 カセットガスストーブ: 開放式を想定。燃焼熱がほぼ室内に放出される という単純な熱収支に基づき約100%とした。 実際には換気によって熱が失われるが、 その損失は計算に含めていない。 なお、開放式は燃焼に必要な換気が不可欠であり、 FF式と単純に暖房効率を比較することはできない。
※FF式と開放式の違い: FF式は燃焼用空気を屋外から取り込み、 排気ガスも屋外へ排出する密閉式暖房機。 排気に熱が逃げる一方、燃焼のための室内換気を必要としない。 開放式は室内の空気を使って燃焼し、 排気ガスも室内に放出するため、定期的な換気が必要。 住宅全体の暖房効率は換気条件などによって異なる。
参考資料:
資源エネルギー庁・ストーブの省エネ基準
リンナイ・ガスFF暖房機総合カタログ
パナソニック・IH調理器の熱効率
日本ガス石油機器工業会・携帯ガス機器の防災備蓄ガイド
これを見ると、熱効率を考慮した場合、電気製品の効率の高さから、カセットコンロとの経済性の格差が大幅に広がることがわかります。都市ガスは機器の効率の悪さを勘案しても、燃料単価の安さでカバー、暖房ではヒートポンプ方式の効率性からエアコンが圧勝となります。カセットガスは燃料単価そのものが高く、調理の場合は効率も悪化するため、調理・暖房とも割高です。。このことからも、カセットガスが日常的な大量調理や長時間暖房には不向きであることがわかります。
ここまでのデータを見ると特に経済性を考えると、カセットガスの使用は「ある種のぜいたく」なのではないか、とさえ思えてきます。
しかし、カセットガスの特性を理解すれば、どのようにカセットガス機器を使うべきなのかもおのずとわかってくるでしょう。
カセットガスの最大の価値は燃料代の安さではなく、電気やガス管に頼らず、必要な場所で必要な時に手軽に使えることにあるのです。日常生活では別の熱源をメインで使用し、非常時の備えと、ちょっとした楽しみを兼ねてカセットガスを生活に取り込む。このスタンスが重要だということがなんとなく見えてこないでしょうか?
用途が広いカセットガスですが、使い方によっては事故につながるおそれがあります。特に大切なのは、燃焼時の換気と容器の過熱防止です。
ガスが完全燃焼すると主に二酸化炭素と水蒸気が発生しますが、換気が不十分になると、不完全燃焼によって一酸化炭素が発生する可能性があります。
一酸化炭素は無色・無臭で、発生しても気づきにくい危険なガスです。
そのため、室内でカセットコンロやカセットガスストーブを使うときは、必ずメーカーが指定する換気を行う必要があります。安全装置が付いていても換気は欠かせません。
また、屋外専用器具を室内で使用したり、テント内や車内でカセットガス器具を使ったりすることは避けてください。特に就寝中の使用は危険です。
もう一つの注意点が、容器の過熱です。
カセットコンロで大きすぎる鉄板や鍋を使うと、熱がボンベ側に伝わり、内部圧力が上昇することがあります。
指定外のボンベとの組み合わせや、カセットコンロを2台並べて大きな鉄板を載せるといった使い方も危険です。
カセットガスは便利な燃料ですが、それは正しく扱うことが前提です。
カセットガス(CB缶、カセットボンベ缶)は1969年に岩谷産業株式会社が日本で最初に販売を始めたのが普及の始めとされています。その後日本を中心に広がり、今ではアジア各国など海外でも広く使われています。
その間、国内では宮城県沖地震、阪神淡路大震災等の大規模災害で、災害救助物資として活用され、災害時の有用性が認められると同時に、当初はバラバラだった規格の統一の必要性が強く認識されました。
そこで、1998年にカセットコンロ、およびカセットガスボンベの規格が見直され、ボンベの直径、全長、切り込みの場所と大きさ、ノズルの長さなど、細かな点までサイズの指示がなされるようになりました。そのため、物理的には使用機器と異なるメーカーのカセットガスの装着が可能となっています。
ただし、カセットガス機器メーカーは、機器とカセットガスとの組み合わせで燃焼効率の計算や安全検査を行っており、安全性は「指定された器具・容器の組み合わせ」で検査・保証されます。そのため、指定外缶の使用はメーカー保証外であり、ガス漏れ等の危険を伴う場合がありますので、指定された器具とガスの組み合わせで使うようにしましょう。特にプロパンを高配合した高性能カセットガスは、通常品より内部圧力が高くなるため、メーカーが使用を認めた対応器具との組み合わせを厳守する必要があります。
カセットガスを使うときにやや気が重いのは使った後のボンベの廃棄です。分別区分は全国で統一されていません。「燃やせないごみ」「スプレー缶・カセットボンベ」「資源ごみ(金属類)」「有害ごみ」「危険ごみ」など、分別は自治体によって異なります。穴をあける、あけないなど出し方にも違いもありますので、一度おすまいの地域のルールを確認してみましょう。
一つだけ注意する点は、カセットボンベがスプレー缶と同じく加圧された可燃性ガス容器のため、廃棄する際は、まず中身を使い切るか、安全な方法でガスを出し切ることが大前提ということです。そんなに難しいことではありません。振ってみて少しでもシャカシャカと水の音がした場合には、屋外の火の気のない風通しのよい場所で、付属のキャップ先端などをノズルに押し当てて、中のガスを出し切ってしまいましょう。
カセットガスを長期間保管していると、内部パッキンの劣化やサビ、変形などによりガス漏れの危険が高まります。カセットボンベの使用期限の目安は、製造から7年以内です。保管は直射日光を避け、40℃以下で湿気の少ない場所に行い、必ずキャップをした状態で器具から外して保管してください。(高圧ガス保安法に基づき、保管場所は40℃以下と定められています。コンロ等の過熱により容器内圧が一定以上に達すると圧力感知安全装置が作動しますが、直射日光下の車内など高温環境に放置すると容器が破裂する重大事故につながるため厳禁です。)
政府は、大規模災害に備えて少なくとも3日分、可能であれば1週間分の備蓄を呼びかけています。その際にカセットコンロの備蓄量の目安として、一人当たり一週間で約6本のカセットボンベが必要としています。
これは季節にもよりますし、基本的には調理用を前提としたもので、暖房やその他の用途に使用する場合には更に増えます。ただ一定の目安にはなります。例えば4人家族であれば24本を備蓄しておけば、ひとまずの備えにはなるでしょうか。
防災備蓄の方法としておすすめなのは、ローリングストックです。これは、カセットガスを災害用として買って放置するのではなく、日常の調理やキャンプで古い缶から順に使い、消費した分だけ新しい缶を補充する方法です。
たとえば、カセットコンロで鍋料理やお湯沸かしに使い、ガスストーブやグリル、トーチなどでも活用すれば、無理なく備蓄を回せます。日常から使うことで器具の点火方法や火力の調整にも慣れ、いざという時に落ち着いて使えるようになります。
24本の備蓄であれば、年間4本を日常の調理などに使用し、使った分を補充すれば、6年間ですべてを入れ替えられます。カセットボンベは製造後約7年以内に使い切ることが推奨されているため、3か月に一回カセットコンロで鍋を囲めば期限内に十分に備蓄を回すことができます。
しかし、電気式のグリル鍋のほうが使い慣れているのでわざわざカセットコンロを使いたくないとか、そもそも鍋はキライだとか、人によっていろいろな事情はあるでしょう。
でも大丈夫。カセットガスは意外なくらい用途が奥深く、しかもさらにバリエーションが増える傾向にあります。コストの関係から終日べったりの使用は難しくても、日常の楽しみとしてむしろ積極的にカセットガス製品を取り入れてみましょう。
次の章では一般的なカセットガスを使用した、思いもよらない、でもなんだか使いたくなるカセットガスグッズを取り上げてみましょう。
カセットガス暖房は、カセットコンロ以外のカセットガスの使用を考えたときに、まっ先に浮かぶ使い道の一つです。コスト面や持続時間とカセットガスの取り換えの煩雑さからメインの暖房には向きませんが、非常時には頼もしい味方になります。
また、すぐに暖まるという捨てがたい特性を持っているので、立ち上がりの速さを生かして、脱衣所やトイレ、DIYの作業所などのスポット暖房にはもってこいです。
イワタニのカセットガスファンヒーター風暖。コンセントも電池も全く使わないのに、カセットガスの熱からくる温度差を利用して、ファンを回すギミックがマニア心もくすぐります。また、温風のおかげか、本記事を監修する防災アドバイザーの高荷智也さんも、ほかの暖房器具との比較実験で「風暖の日が待ち遠しかった」と語るほど体感的にあたたかく、また、一部の熱をカセットガスの保温に回す仕組みのため、高荷さんの別の実験では氷点下2度を下回る酷寒の状況でも、標準的なカセットガスを使い切るまで動いたと報告されています。
もう一つ暖房でご紹介したいのがセンゴクアラジンのポータブルガスストーブSAG-BF02C。アラジン定番のブルーフレームをギュッと凝縮したようなフォルムが魅力です。
屋外での使用も前提に設計されていて、アウトドアでも活躍しそうです。
焚火に火をつけたり、カツオを炙ったり。日常生活でも意外と重宝するのがガストーチです。中には火が止まらなくなって困ったりする危ない製品もありますので、安心できるメーカーの安全なものがおすすめです。代表的なものを二つ挙げておきます。
センゴクアラジンのカセットガストースターは26年10月にマクアケでの募集が終了したばかり。今後は商品化される模様です。カセットガスの燃焼時に発生する水蒸気と、ガス火ならではの加熱特性を生かし、外はカリッと、中はもちもちとした焼き上がりを目指した製品です。カセットガスの火力が期待できるため、トースト以外の用途にも使えそうです。
アンモニア吸収式冷蔵庫COMBICOOL ACX35G(スウェーデン、エレクトラックス社より独立したDometic社の製品)。
ガスの炎で冷蔵庫を冷やす? 一見不思議ですが、アンモニアの蒸発によって周囲の熱を奪う「吸収式冷却」という仕組みを使っています。ガスの熱で冷媒を循環させるため、コンプレッサーを使わずに冷却できるのが特徴です。
優れているのは完全に無音であることやカセットガス1本で20時間程度稼働すること。家庭電源やシガーソケットでも使用できること。機械パーツがなく寿命が長いことなどです。デメリットは水平に設置する必要があることや、冷えるまでに時間がかかること。
残念ながら以前エレクトラックスとイワタニが組んで出していた商品は販売終了となってしまい、現在、国内メーカーからの新製品は確認できていませんが、欧州を中心に製造されている模様で本邦でも入手可能です。
カセットコンロはかさばるし、あまり使わない。という人におすすめなのが、キャンプ用のカセット式シングルバーナーです。デザインの優れたものも多く、何よりコンパクト。キャンプだけでなく、備蓄用カセットコンロのオルタナティブとしても検討の価値あり。 イワタニ FORE WINDS フォールディングキャンプストーブ FW-FS01-SLとSOTO レギュレーターストーブ Range(レンジ) ST-340。FW-FS01-SLは畳むと長方形の筒に全部収まる優れた設計。そのギミックも楽しめます
業務用焙煎機メーカー「フジローヤル(富士珈機)」が設計・監修し、イワタニが製品化したカセットコンロ用コーヒー焙煎機MY ROAST。カセットコンロと組み合わせて使います。
イワタニのカセットガス暖炉 MYDANRO。純粋に眺めるためのもので、暖房効果はあまり期待できないものの、「幸せを感じられるほんのりとした暖かさ」があるようです。煤で汚れない、嫌なにおいがない、不完全燃焼時にガスが止まる、炎が直接露出しない、持ち運べるなど一般的な暖炉の「欠点」をほぼカバーしている?究極の嗜好品。
ホンダ ピアンタ FV200 カセットボンベ式ガス耕うん機。かたい土をカセットガスの手軽さで深くまで耕うんできる他、別売りのアタッチメントで畝立てや除草、整地までできる本格派。30坪までの家庭菜園向け。カセットガス一本で約1時間動き、ガソリンエンジンに比べメンテナンスも容易です。
ホンダのインバータ発電機 エネポ(EU9iGB)。カセットボンベ2本をセットして稼働。1/4負荷〜定格負荷で約2.2〜1.1時間連続運転が可能。定格負荷は900W。ガソリン発電機より手入れが容易で匂いも少ないものの、エンジン駆動なので騒音には配慮が必要です。また、エンジン式発電機なので排気ガスには一酸化炭素が含まれます。屋内やベランダでは絶対に使用せず、屋外でも十分に換気できる場所で使用する必要があります。
イワタニが開発した、小型のカセットコンロ兼ストーブ「イザまる」。上にアタッチメントをつけることでストーブにもなります。防災を意識した商品と思われますが、一人世帯のテーブル上での普段使いや、アウトドアでも役立ちそうです。
カセットコンロとともにこれらの製品を生活に取り入れ、カセットガスを日常的に使うサイクルを作れば、日々の暮らしを豊かにしながら、非常時の備えも同時に進められます。
生活のすべてをカセットガスに置き換える必要は全くありません。カセットコンロを軸に、ふだんの暮らしのちょっとした楽しみにもカセットガスを活用する。そんな無理のない習慣が、実は防災へのいちばんの近道なのかもしれません。
注:文中一部の画像は各社様のホームページよりお借りしています。合同会社ソナエルワークス 代表社員
備え・防災アドバイザー
「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに「自分と家族が死なないための防災」のポイントを分かりやすく解説する防災専門家。大地震・水害・噴火・感染症などの自然災害から、銃火器を使わないゾンビ対策まで幅広く解説をする。
講演、執筆、防災グッズ開発などの実績も多く、防災YouTuber、Voicyパーソナリティとしても活動する。著書に「今日から始める家庭の防災計画」「防災リュックはじめてBOOK」他多数。1982年、静岡県生まれ。
YouTube(そなえるTV)https://youtube.com/@sonaerutv
Voicy(そなえるらじお)https://voicy.jp/channel/1387
参照動画
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