連載PDA博物館 ガジェットライター・ジャイアン鈴木氏

スマホ市場が成熟期を迎えた今、iPhone以前をふりかえる。PDAが生き残れなかった2つの理由

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2017年9月13日(日本時間)、iPhoneシリーズの新型モデルとして、「iPhone 8」、「iPhone 8 Plus」、「iPhone X」が発表された。処理速度の向上やワイヤレス充電への対応など、順当な進化を遂げたいっぽう、一部のユーザーからは、「驚くようなサプライズがなかった」という手厳しい意見も聞かれた。

成熟したスマートフォンの未来には何があるのか――そのヒントを探るのが、本連載のねらいだ。 “モバイル黎明期”に誕生したPDAの歴史を紐解き、スマートフォンの中に今もなお息づいているDNAを再発見することで、モバイルの未来を考える気づきとしたい。

インタビュー第3回に登場するのは、数々の媒体で記事を執筆している人気ガジェットライター、ジャイアン鈴木氏だ。同氏は、当時PDAマニア必読とされていたエンターブレインの「PDAマガジン」編集長という経歴の持ち主。日本国内で誰よりも多くのPDAに触れた人物といっても、過言ではないだろう(※聞き手=PDA博物館初代館長 マイカ・井上真花)。

ジャイアン鈴木氏が所有しているPDAなど。左上段から順に、「W-ZERO3 Advanced [es]」(シャープ)、「CLIE PEG-UX50」(ソニー)、「リナックスザウルス SL-C750」(シャープ)、「ネットウォーカー PC-Z1」(シャープ)、左中段から「初代W-ZERO3」(シャープ)、「HP200LX」(日本ヒューレット・パッカード)、「シグマリオンII」(NTTドコモ)。左下段から「iPAQ H2200」(日本ヒューレット・パッカード)、「PC-1350」(シャープ)

PDAマニアになるきっかけは、SF小説だった

――鈴木さんとPDAとの出会いは。

鈴木 原体験として強烈な印象を受けたPDAは2台あります。「HP200LX」(日本ヒューレット・パッカード)と「PalmPilot」(Palm)です。

HP200LXは、MS-DOSが動くモバイル端末と知っていましたが、マイクロソフトのフライトシミュレーターも動くと聞き、「あんなに小さいのに、ちゃんとパソコンなんだ」と、衝撃を受けたのを覚えています。

鈴木氏の所有するHP200LX。一度は手放したが、愛着があるものなので再度購入したという

鈴木氏の所有するHP200LX。一度は手放したが、愛着があるものなので再度購入したという

そもそも、小さい端末に憧れたきっかけは、1951年に出版されたアイザック・アシモフの「ファウンデーション」シリーズ(全7作)。天才数学者ハリ・セルダンと彼の弟子が「心理歴史学」について話をしながら、その場で小さい端末を使って計算するというシーンがあり、憧れました。私にとってHP200LXは、まさにその端末のように思えてしまって。

ご自身の書斎で話すジャイアン鈴木氏。「EYE-COM」、「TECH Win」、「TECH GIAN」、「DIGITAL CHOICE」、「ログイン」、「週刊アスキー」、「週アス PLUS」と、主にPC系メディアで勤務。当時、PDAマニア必読とされていたエンターブレインの「PDAマガジン」では、編集長を務めた。2015年1月よりフリーの編集者兼ライターとして活動を開始。数々のガジェットレビューを執筆している

――どういう用途に使っていましたか。

鈴木 HP200LXには「App Manager」というPIMアプリが搭載されていて、その中で住所録や電話帳、ノート、メモなどを管理できました。私は自分の字が嫌いで、紙の手帳を持ちたくなかったので、アドレス帳とスケジュール帳の管理はHP200LXに移行しました。あとは、主に原稿確認に使っていました。

その後、「シグマリオン」(NTTドコモ)から始まり、歴代のキーボード付き端末を使い続けました。キーボード付きと聞くと、買わずにはいられなくて(笑)。

「キーボード付きと聞くと、買わずにはいられない」というジャイアン鈴木氏。写真は、「シグマリオンII」(NTTドコモ)

――なぜ、キーボード付き端末がお好きなんですか。

鈴木 頭のなかにあるイメージを文書化するとき、キーボードのローマ字入力ならスラスラ書けるのですが、手書きの文字入力や「Graffiti(グラフィティ)」だと、どうもうまくいかない。おそらく、入力方法に気を取られてしまって、文書作成に集中できないのが原因だと思います。だから、キーボード付きの端末は常に必要でした。

入力用とブラウズ用、用途を分けて2台を併用

――もう1台のPalmPilotとの出会いは。

鈴木 学生時代の私は、「Mac Plus」にとても憧れていました。特に惹かれたのは、グラフィカルなユーザーインターフェイスと洗練されたデザイン。PalmPilotを見たとき、当時Mac Plusに抱いていた憧れを思い出しました。あんな小さなサイズでGUIを搭載しているうえ、アイコンのセンスがいい。私はそこに、Mac Plusに通じるものを感じ、欲しいと思ったんです。

――どういう用途に使っていましたか。

主に、ビューワーとして使っていました。PalmPilotは、PCと同期してネットの情報をダウンロードし、それを持ち歩くという使い方ができました。それまで、スケジュールやアドレス管理にとどまっていたPDAの用途が、これで一気に広がったように感じました。

――このとき、すでにHP200LXを持っていたんですよね。使い分けに悩みませんでしたか。

鈴木 キーボード付き端末は、キーボードにあわせた横長の筐体であるため、液晶画面も横長になります。今のノートPCの広さがあれば横長でも問題ありませんが、手のひらサイズで横長画面だと、ブラウズには不向き。そこはやはり、縦長画面を備えたPalm型端末のほうがすぐれています。それぞれ役割が違うので、まったく悩みませんでした。その後もずっと、キーボード付き端末とPalm端末の“2台持ち”を続けています。

ただ、例外もありました。「CLIE PEG-UX50」(ソニー)は、キーボード付きでありながら、液晶画面を回転させることでPalm型としても使えるため、1台でどちらの用途にも使える、すぐれものでした。画面の縦横を切り替えられなかったのが残念ですが。手持ちのUX50はもうバッテリーがダメになっているんですが、今でも愛着を感じていて、手放せずにいます。

キーボード付き端末とPalm型端末のいいところを兼ね備えた逸品、CLIE PEG-UX50

キーボード付き端末とPalm型端末のいいところを兼ね備えた逸品、CLIE PEG-UX50

なぜ、PDAは生き残れなかったのか

鈴木 先述の通り、PalmはPCと同期することで、情報を端末にダウンロードし、それを持ち歩くという使い方ができました。当初はそれで満足だったのですが、PocketPC(Windows CEベースのPDAの総称)にCF型の通信カードを挿して通信できるようになると、途端に「PCとの同期」という考え方自体が古く感じるようになってしまって。そのころから、PocketPCをメインに使うようになりました。

ジャイアン鈴木氏が編集長を務めた「PDAマガジン」のバックナンバー。さまざまなPDAが表紙を飾っている

ジャイアン鈴木氏が編集長を務めた「PDAマガジン」のバックナンバー。さまざまなPDAが表紙を飾っている

――ネットが使えるようになり、PDAは大きな転機を迎えたんですね。

鈴木 はい。ただ、ネットが使えるとはいえ、今のスマートフォンとはかなり違います。

確かに通信はできましたが、そのために知っておくべきこと、やるべきことが多く、誰もが使えるというものではありませんでした。設定はもちろん、アプリやドライバーをダウンロードしてインストールするだけでも、ひと苦労です。

たとえば、私の母はスマートフォンでFacebookを始めましたが、PDAでは、初期設定すらできなかったでしょう。これがPDA普及の障壁になったのではないかと思います。

スマートフォンが普及した理由について、ジャイアン鈴木氏は、「“すべてのピース”がそろって、きれいにはまった状況があった」と分析する

PDAの普及を妨げた要因は、もうひとつあります。今は当たり前のように存在するアプリストアや、「YouTube」などの魅力的なコンテンツが、当時は存在していませんでした。ユーザーがネットを使って楽しむ環境や要素がそろっていなかったことも、大きな要因でしょう。

iPhoneは、「iPhone 3G」発売と同時に、アプリストアのApp Storeが始まりました。さまざまなネットコンテンツも登場し、まさに“すべてのピースがそろって、きれいにはまった状況”でした。だから、スマートフォンは一気に普及したのだと思います。

PDAの進化の先に、スマートフォンがあった

鈴木 とは言え、スマートフォンが普及する土壌を作ったのがPDAであることは、間違いありません。今にして思えば、「CLIE PEG-NX70V」(ソニー)だって携帯電話になれたはず。ハードウェア的には、可能でした。しかし、環境がそれを許さなかったということなのでしょう。

――PDAの進化の先に、スマートフォンがあったということでしょうか。

はい。PDAユーザーから見ると、今のスマートフォンはかつての想像をはるかに超えた素晴らしい端末です。ただ、個人的には最近、あまり新製品にドキドキしない。確かに進化しているとは思いますが、予測できる範疇(はんちゅう)でしかない。それだと、退屈なんですよね。

最近は、技術的な進化がユーザーインターフェースをさまたげている例も散見されます。たとえば、「Galaxy S8/S8+」(サムスン)には虹彩認証が搭載されていて、技術的には素晴らしい進化に違いない。しかし実際に使ってみると、端末を手にとった瞬間にロックが解除される指紋認証のほうが、はるかに使いやすいと感じています。

――今、なにが面白いと思われますか。

鈴木 「音声AI(Artificial Intelligence:人工知能)」と「MR(Mixed Reality:複合現実)」ですね。たとえば、音声AIでは、自宅にLINEの「WAVE」がありますが、今はまだ、やれることが限られています。

しかし、今あるコンテンツとハードウェアを組み合わせるだけで、いろんなことができるようになる。ユーザーが求める情報を音声で読み上げるというサービスには、まだまだ多くの可能性があると思います。早く、スマートフォンの操作から解放されたいですね。

ジャイアン鈴木氏が所有する、「WAVE」(LINE)。声に反応し、音楽をかけたり、天気を知らせたりする

ジャイアン鈴木氏が所有する、「WAVE」(LINE)。声に反応し、音楽をかけたり、天気を知らせたりする

――最後に、PDA博物館の読者にむけて、メッセージを

鈴木 PDA博物館でPDAの歴史を振り返るのは、確かに楽しい。しかし、それで終わってしまうのはもったいないと思います。これからのスマートフォンの進化を考えるうえで、PDAはとてもいい研究対象になります。

たとえば、“スマートフォンにキーボードを搭載してみよう”というアイデアが出たとします。その際、キーボードをどうのようにデザインすればいいか、ゼロから考えていく必要はない。「CLIE PEG-NX70」(ソニー)や「HP200LX」(日本ヒューレット・パッカード)のキーボード配列を触ってみたり、当時使っていたユーザーに話を聞いてみたりするだけで、いろんなことがわかります。

歴史を知ることは、未来を切り開いていく上で必要不可欠。そのためにも、かつてのPDAマニアだけでなく、若い人にもぜひ興味をもってもらいたいですね。

「これからのスマートフォンの進化を考えるうえで、PDAはとてもいい研究対象になる」と、ジャイアン鈴木氏。この“温故知新”の考えは、モバイルの未来にきっとつながるはずだ

インタビューを終えて(井上真花)

インタビューの後、「そういえばジャイアン鈴木さんって、PDAを持ってお風呂に入る人でしたよね。よほどPDAが好きだったんですね(笑)」と言うと、「いや、私に限ったことではありませんよ。今の若い人はみな、お風呂にスマートフォンを持っていっています。なんてったって、防水仕様ですから」と。言われてみれば、確かにその通り。最近では、スマートフォンでYouTubeを見ながらお風呂に入るスタイルが一般的なのだそうな。さすが、鈴木さんには先見の明があった。笑ったりして、すみませんでした。

オフィスマイカ

オフィスマイカ

編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、良いモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)

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2017.12.11 更新
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