消費税率が10%に引き上げられた2019年。コストの安さが魅力の格安SIMは、2019年9月末の時点で1428万契約に達しています(総務省の統計資料より)。ユーザーが増え続けている格安SIM市場では、今年もいろいろな出来事がありました。その中から特に大きなニュースを4つピックアップしてみたいと思います。
今年の10月、「通信サービス利用料と端末代金の分離」と「ユーザーの過剰な囲い込みの禁止」を目的とした改正電気通信事業法が施行されました。
同法の改正は大手キャリアが主な対象となっており、通信サービスの月額料金を割り引くことで端末代金を補う、いわゆる「実質負担額」の概念がなくなったり、解約金が9,500円(税別、以下同)から1,000円または無料になったりと、大きな変化をもたらしました。
改正電気通信事業法は、格安SIMを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)にも少なからず影響を与えています。MVNOの場合は契約数が100万を超える一部の事業者が対象となりますが、それ以外の事業者も含め、格安SIMのサービス内容を10月から変更したMVNOが多く見られました。
たとえば、大手キャリアのサブブランドである「ワイモバイル」と「UQ mobile」は、契約が2年ごとに自動更新される「2年縛り」のある料金プランを提供していましたが、10月からは2年縛りがなく解約金もない新プランの提供を始めました。
また、一部の格安SIMでは主に音声通話SIMを対象に、新規契約から6〜12か月間の「最低利用期間」を設けています。「OCN モバイル ONE」「BIGLOBEモバイル」「IIJmio(みおふぉん)」「LINEモバイル」といった格安SIMでは、これまで期間中に解約する場合に限り数千円から1万円前後の解約金を請求していましたが、10月からはこの金額が1,000円に減額されています。
サブブランドと主なMVNOにおける2019年10月以降の解約金と転出手数料
このように、10月からは大手キャリアだけでなく、格安SIMからも早期に転出しやすい環境が整いました。
解約金が1,000円になったり無料になったりするのは、新プランを契約していたり、10月以降に新規契約したりしたユーザーに限られるため、すぐに大きな影響が現れることはないでしょう。しかし、今後は大手キャリアから格安SIMへの乗り換えだけでなく、格安SIMから格安SIMへの乗り換えや、大手キャリアへの回帰も含めて、ユーザーの動きが活性化することが予想されます。
改正電気通信事業法が施行されたのと同じ10月には、楽天モバイルがMNO(移動体通信事業者)として、大手キャリアのように自社で整備した回線を使ったサービスの提供を開始することになっていました。
しかし、10月1日に予定されていた本サービスの開始は実質的に延期となり、同日からは一部地域に住む5,000名のみが対象のプレサービスとして「無料サポータープログラム」がスタートしています。
2019年10月1日に本サービスは開始されず、人数限定のプレサービス「無料サポータープログラム」がスタート
無料サポータープログラムは、文字通り楽天モバイルの自社回線を無料(一部オプションは有料)で利用できるもので、品質テストやアンケートへの回答、楽天モバイル自社回線に対応した製品を利用することが条件となっています。本サービスの開始時期は明言されていませんが、無料サポータープログラムの実施期間が来年2020年の3月31日までとなっているため、それまでに何らかの動きがあるものと思われます。
12月22日の時点では本サービス開始時における料金プランは発表されておらず、12月10日には自社回線で3時間程度通信ができない障害が発生するなど、順風満帆とは言えない船出となった楽天モバイル自社回線。2020年の動きに注目です。
成長の鈍化が指摘されている格安SIM市場ですが、事業者の参入は止まりません。
総務省が3か月ごとに公表している「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、MVNOの事業者数は2019年3月末の時点で1006となり、ついに1000事業者の大台を突破。最新のデータが公表されている2019年9月末の時点では1060となっています。なお、この事業者数には契約数が3万を下回るMVNOの一部が含まれていないため、実際の事業者数はこれよりも多くなります。
2018年9月末以降のMVNOサービス事業者数の推移(総務省の統計資料より)
1400万強の契約者を1000以上の事業者で奪い合うことになるわけですから、MVNO同士の競争も激しく、撤退する事業者も現れています。今年の9月1日にはDMMが格安SIM市場から撤退し、同社の格安SIMサービス「DMM mobile」が楽天モバイルに承継されました。
楽天モバイルは2年前の2017年にも「FREETEL SIM」を承継しており、今ではサブブランドを除く格安SIMで最大のシェアを持つに至りました。自社回線による独自の通信サービス提供を目指すなかでDMM mobileを承継することは、将来的に楽天モバイルの自社回線へと移行するユーザーを獲得することにつながります。
こうした市場再編の動きは、楽天モバイルがFREETEL SIMを承継した2017年ごろから本格化しました。NTTぷららが提供していた「ぷららモバイルLTE」も同年にサービスを終了していますし、「NifMo」を提供するニフティがノジマの、「BIGLOBEモバイル」を提供するBIGLOBEがKDDIの傘下に入ったのもこの年。翌2018年には、ワイモバイルをサブブランドとして提供するソフトバンクが「LINEモバイル」と業務・資本提携を締結しています。
前述した改正電気通信事業法の施行にともないキャリアを乗り換えやすい環境が整ったことは、大手キャリアからの乗り換えという点では多くの格安SIMにとってチャンスですが、格安SIM同士の競争をさらに促進するという側面もあります。来年2020年も事業から撤退したり、大手キャリアを含む他社と提携したりする事業者が現れることが予想されます。
昨年2018年12月、政府のサイバーセキュリティ対策推進会議において「悪意のある機能が組み込まれた機器」の調達が禁止されました。政府は直接名指ししなかったものの、当時の報道ではファーウェイとZTEがこれに該当するとされていました。
上記の措置は中国と貿易で争う米国の姿勢を受けたものとされており、筆者も昨年末の格安SIM/MVNO業界ニュースにおいてこの件に触れていましたが、その中で「一般ユーザー向けの市場にまで影響が拡大しないとは言い切れない」と危惧した事態が、今年は現実のものとなってしまいました。
今年の3月、ファーウェイはパリにおいて「P30」シリーズを発表しました。5月21日には日本国内で「P30」「P30 Pro」「P30 lite」が披露されましたが、翌22日になるとNTTドコモ、au、ソフトバンクの大手キャリア3社をはじめ、ワイモバイル、UQ mobile、mineo、IIJmio(みおふぉん)、LINEモバイル、イオンモバイルなど、P30シリーズを販売する予定だったキャリアが次々と予約の停止や発売延期に踏み切りました。これは、同月に米国のトランプ政権がファーウェイを輸出規制の対象リストに追加する制裁措置を実施したことを受けての動きとみられています。
その後、制裁が緩和されたことなどもあってP30シリーズは販売が始まりましたが、NTTドコモが取り扱う「P30 Pro HW-02L」はAndroid 10へのバージョンアップ対象外とされていたり、9月に海外で発表された「Mate 30」シリーズはGoogleサービスに非対応だったりと、米中貿易摩擦の影響は継続しています。
こうした影響は、価格.comのスマートフォン人気ランキングからもうかがえます。ファーウェイのPシリーズでも「lite」が付くモデルは良好なコストパフォーマンスから毎回人気が高く、昨年末の時点では「P20 lite」が人気ランキング1位の座にありました。
しかし、今年登場した「P30 lite」は、12月22日の時点で人気ランキング4位に落ち着いています。1位はシャープが11月に発売した「AQUOS sense3」で、NTTドコモとauがキャリア版を、MVNO各社が格安スマホとしてSIMフリー版を取り扱う他に、家電量販店でも販売されています。
価格.comスマートフォン人気ランキング1位はシャープの「AQUOS sense3」
ファーウェイの「P30 lite」は人気ランキング4位にとどまる
ここしばらく国内ではファーウェイのSIMフリースマホが高い人気でしたが、米政権の制裁措置は、2020年以降の日本国内におけるスマートフォン端末のシェア争いにも影響を及ぼすことになりそうです。
信州佐久からモバイル情報を発信するフリーライターであり2児の父。気になった格安SIMは自分で契約せずにはいられません。上京した日のお昼ごはんは8割くらいカレーです。