アップルから新しい「MacBook Pro」が発売されました。独自設計のチップ「M1 Pro」または「M1 Max」を搭載したのが特徴で、これまでワークステーションや高性能なデスクトップでなければできなかった作業がどこでもできるようになります。14インチと16インチの2サイズがラインアップされており、搭載するCPUやGPUのコア数でいくつかのバリエーションが用意されていますが、今回は16インチモデルを使って、内部も外部も久しぶりにフルモデルチェンジを果たした新型MacBook Proをレビューしていきましょう。
今回試した16インチMacBook Proは、10コアCPU、16コアGPUのM1 Proを搭載。メモリーは32GBユニファイドメモリー、ストレージは1TBのSSD
まずは久しぶりに刷新されたボディから見ていきましょう。
写真で見るよりも「四角い」というのが第一印象。「MacBook Air」やMacBook Proの従来モデルは薄く見えるように手前や端に向かって薄くなっていますが、新しいMacBook Proは薄く見せる演出は一切なく、“四角い箱”という雰囲気です。いにしえの「PowerBook G4」のアルミニウムモデルに似ているとも感じました(16年も前のモデルです)。
使用時には見えませんが、底面にMacBook Proという文字が彫り込まれているのがかっこいいです。
カラーはシルバーとスペースグレイの2色。今回はシルバーモデルを試用しました。形は変わりましたが、質感などは変わっていないように感じました
天板の中央にはアップルのロゴ。きょう体は100%再生アルミニウムを採用しています
底面のゴム足は黒色で固めです
底面に中央にはMacBook Proという文字が彫り込まれています
15インチMacBook Pro(2018)と比べると、新型の16インチMacBook Proは天板が平らで、各コーナーも角張っています
厚さは15インチMacBook Pro(2018)が1.55cm、16インチMacBook Pro(2021)が1.68cm。数値よりも15インチMacBook Pro(2018)のほうが薄く見えます
キーボードも大きく変わりました。キーボードのベース部分が黒色になり、引き締まった印象。また、上部の「Touch Bar」がなくなり、普通のファンクションキーを備えています。サイズが細長いものではなく、ほかのキーと同じ大きさ(フルハイト)なのもポイント。賛否両論あったTouch Barですが、今回はズバッと排除されました。Touch Barが使いたいという人は、「M1チップ」を搭載した13インチMacBook Proを選ぶといいかもしれません。
16インチMacBook Proの新キーボードはフルハイトのファンクションキー列を備えた「Magic Keyboard」。詳細は不明ですが、試した感じでは従来の16インチMacBook Proと同じシザー構造だと思われます
左の15インチMacBook Pro(2018)はキーストロークの浅いバタフライ構造のキーボード。ペタペタとした打ち心地なのに対して、右の16インチMacBook Pro(2021)のキーボードは、ストロークこそ浅いですが、しっかりとした打鍵感があり、打鍵音も静かです。トラックパッドの使い勝手は変わらずに抜群にいいです
指紋認証でロック解除などができる「Touch ID」。かちっというボタン式になっています
外部インターフェイスは、従来モデルよりも種類が増えています。HDMI出力にSDメモリーカードスロットが復活しました。Thunderbolt 4ポートは左に1ポート、右に2ポート搭載されています。いろいろな機器を接続するプロのニーズに応えた形です。
また、充電用の「MagSafeポート」も「MagSafe 3ポート」として復活しました。MagSafeは磁石でコネクターを固定することで、ケーブルに足をひっかけたときに簡単に外れるのがメリット。これまで通り、Thunderbolt 4での充電できるので、状況に応じて使い分けられます。
外部インターフェイスが大幅に増えました。レガシーとは言えませんが、HDMI出力が備わったのは驚きました
久しぶりにMagSafeポートを使ってみましたが、こんなに抜けにくかったかなと感じるほど、しっかりと固定されていました。斜め下または斜め上にちょっとずらすと簡単に取れます
ケーブルはM1搭載の「24インチiMac」の電源ケーブルのように布で覆われており、ねじれたりからまったりしにくい。電源アダプターは大きめです
140W USB-C電源アダプター。手持ちの電源アダプター(45W)では充電はできましたが、Thunderbolt 4経由で充電する際はアダプター選びに気をつけたいところ
ディスプレイは16.2インチで、左右の額縁が細く今風です。切り欠き(ノッチ)にカメラを搭載することで、上の額縁も非常に細くなっています。ノッチにも賛否両論ありますが、使ってみるとそれほど気になることはありませんでした。macOSは最上部にメニューバーが表示されるので、うまく溶け込んでいます。「Safari」を全画面表示にすると、ノッチ部分は黒色の非表示エリアとなります。動画視聴時も同じで、映像にノッチが重なってじゃまになるようなことはありません。このあたりはよく考えられています。
ノッチ部分には1080pのFaceTime HDカメラが搭載されています。カーソルはノッチの裏側に隠れます
明るめのデスクトップ(上)にすると、ノッチが目立ちますが、暗めのデスクトップ(下)にすると目立ちません
Safariを開いてみました。ノッチのあるデスクトップの上部は黒色のメニューバーが表示されるので、ノッチが気になることはありません
Safariを全画面表示にしてみました。ノッチのあるデスクトップの上部は黒色の非表示エリアになります
ノッチ部分に搭載されるカメラは720pから1080pに解像度がアップ。明るいレンズと大きな画像センサーにより、暗い場所での性能が2倍にアップしているとのこと。ビデオ会議やビデオ電話の機会が増えている今にはうれしい機能強化です。なお、最新のiPadシリーズに搭載される「センターフレーム」やiPhoneでおなじみの「Face ID」には対応していません。
「Liquid Retina XDRディスプレイ」は、1万個のミニLEDをバックライトに使うことで、表示品質が非常に高まっています。特に輝度とコントラスト比が上がっている印象を受けました。iPhoneで撮影したHDRの写真や動画を表示すると、明るいところは白飛びせず、暗いところは黒つぶれせずに表示されています。コンテンツ製作の現場では、HDR対応のマスターモニターを使うことなく、MacBook Pro上で自分の作品をHDRでチェックできるのがメリット。もちろん、HDRコンテンツを見るのにも最高のディスプレイと言えそうです。
また、リフレッシュレートが最大120Hzの「ProMotion」を搭載。コンテンツに応じてリフレッシュレートが調整されるので、滑らかな表示を実現しています。ゲームはもちろん、Safariのスクロールも滑らかです。
ピーク輝度1600ニト、持続輝度1000ニト、コントラスト比100万:1のLiquid Retina XDRディスプレイ。ミニLDは数千個を個別にコントロールするローカルディミングにより、明るさとコントラスト精密に調整しています
こんなに高性能なディスプレイですが、厚さは4mmしかありません。極細です!
リフレッシュレートは最大120Hzまで自動調整されるProMotionのほか、60Hz/59.94Hz/50Hz/48H/47.95Hzの固定リフレッシュレートも選べます
左が16インチMacBook Pro(2021)、右が15インチMacBook Pro(2018)。iPhoneで撮影したHDR写真を表示したものですが、16インチMacBook Proのほうが明るいところの輝度が高いのがわかります(写真で見るより、その差はわかりやすいです)
音のよさも特筆すべき点です。6スピーカーサウンドシステムで、ドルビーアトモスの空間オーディオにも対応しています。16インチMacBook Proはきょう体が大きいので、かなり大きな音が鳴ります。低音域が広がり、中高音もクリアでボーカルも聞き取りやすいです。
底面の左右にスピーカー用のスリットが設けられています。空間オーディオの設定項目は見当たりませんでしたが、「Apple TV+」で映画を見ると、音の広がりがハッキリと聞き取れます
プロ向けでコンテンツを製作する人向けのモデルではありますが、いろいろなコンテンツを高画質かつ高音質で楽しみたいという人にも新しいMacBook Proはぴったりだと思います。
最後にM1 Proのパワーを見ていきましょう。今回試したモデルは10コアCPU・16コアGPUのM1 Proを搭載した16インチモデルです。メモリーは32GBユニファイドメモリー、ストレージは1TBのSSD。標準構成モデルからメモリーを32GBへアップグレードしたモデルで、アップルストアでの価格は339,400円(税込)です(2021年11月12日時点)。
M1 Proの性能をベンチマークアプリで測定してみました。CPUベンチマークの定番アプリ「CINEBENCH R23」の結果はシングルコアが1532、マルチコアが12319。以前試した、8コアCPU・7コアGPUのM1チップを搭載するMacBook Airのシングルコアが1493、マルチコアが7278でした。シングルコアの差わずかですが、マルチコアでは10コアということでM1 Proのほうが2倍に迫るスコアでした。
同じく定番の「Geekbench 5」の結果はシングルコアが1764、マルチコアが12511。同じくM1搭載のMacBook Airの結果はシングルコアが1734、マルチコアが7526だったので、CINEBENCH R23と同じ傾向です。
CINEBENCH R23の結果
Geekbench 5のCPUの結果
Geekbench 5のComputer(Metal)の結果
これだけのパワーは、VFXアーティストや動画を編集する人、音楽プロデューサーなど、マシンパワーを求めるプロ向けです。1億を超えるポリゴンを扱うアーティストや8K動画を一度に何ストリームも扱う動画編集者、数百のトラックを駆使する音楽プロデューサー、「Xcode」を使って大規模なアプリを開発する開発者など、本当のプロのニーズに応える性能と言えるでしょう。
一般の人からすると、ここまでハイパワーがなぜ必要なの?と思うところですが、これまでワークステーションや高性能なデスクトップでなければダメなシーンはありました。何年か前に、テレビ番組のプロデューサーが編集した映像をテレビ局に納品するときに、編集作業に使った「MacPro」そのものを持って行っているという話を聞いたことがあります(MacProはデスクトップですが、持ち運べないこともない大きさですが)。そんなシーンで、M1 ProやM1 Maxを搭載した新しいMacBook Proがあったら、仕事がだいぶ楽になったのではないでしょうか。
なお、今回のベンチマークはすべてバッテリー駆動で行いました。ゲーミングノートやワークステーションは電源に接続していないと最高性能を出せないものですが、新しいMacBook Proはバッテリー駆動時でも性能がほぼ落ちないのがいいところ。しかも、バッテリーの減りもゆっくりで、ベンチマークテスト程度ではファンの音もほとんど聞こえません。
ちなみに、バッテリー駆動時間は「最大21時間のApple TVアプリのムービー再生」、「最大14時間のワイヤレスインターネット」というスペック。M1搭載のMacBook Airほどではありませんが、100Whのバッテリーを搭載していることもあり、かなりバッテリーが持つ印象です。
以上、16インチモデルを使った新しいMacBook Proをレビューしてきました。性能、バッテリー性能、画質、音質、使い勝手のすべてがハイレベルで、プロという名にふさわしいノートパソコンです。今回試したM1 Proより高性能なM1 Maxというチップも選べるし、64GBのメモリーを用意するなど、ワークステーションのような純粋にパワーを求めるプロのニーズにも応えられるのではないでしょうか。
アップルストア価格は14インチモデルが239,800円(税込)から、16インチモデルが299,800円(税込)から。価格は高いですが、仕事の道具として、性能向上が作業時間の短縮や効率化につながるなら、高すぎるということはないでしょう。ゲーミングノートや外付けGPUを搭載した高性能なノートパソコンと比べれば、べらぼうに高いわけでもありません。クリエイターでなくても、高性能なノートパソコンを求める上級者も満足させられるモデルと言えるでしょう。
ガジェットとインターネットが好きでこの世界に入り、はやいもので20年。特技は言い間違いで、歯ブラシをお風呂、運動会を学芸会、スプーンを箸と言ってしまいます。お風呂とサウナが好きです!