スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、災害時に役立つ「サブ回線」を取り上げる。安価で扱いやすいサービスや注意点を具体的に解説しよう。
※本記事中の価格は税込で統一しています。
今年も3月11日を迎えた。東北地方の太平洋側を中心として非常に大きな地震と津波が発生しただけでなく、その影響によって生じた福島第一原子力発電所の事故によって、国難とも言うべき甚大な影響をももたらした東日本大震災からはや13年が経過したことになる。だが、それ以降も日本では大規模な自然災害が相次いで発生し、その都度大きな被害が生じているのが実状だ。
直近ではやはり2024年1月1日に発生した能登半島地震が思い起こされるだろう。石川県を中心に多くの被害をもたらした能登半島地震の影響は現在も続いており、いまだ多くの被災者が避難生活を続けている。
日本に住んでいる以上、地震だけでなく台風や洪水など、あらゆる自然災害を避けて生活することはできないだけに、災害時に身を守るための“備え”は非常に重要だ。そこで今回は、通信の“備え”としてぜひ用意しておきたい、携帯電話のサブ回線について解説したい。
携帯電話は非常時にも連絡を取り合うのに必要な、とても重要なコミュニケーションインフラである。それだけに通信を途絶させないことは非常に重要なのだが、災害の影響で基地局が止まってしまい、通話や通信ができなくなってしまうことは避けられない。
もちろん携帯各社はそうした状況を想定したさまざまな備えを実施している。災害時に携帯電話の基地局が止まる主な理由は、設備の倒壊・破壊よりも停電が多い。そのため、最近では主要な地域の基地局を中心に、24時間以上動作するバッテリーを搭載し、停電が発生してもすぐ基地局が止まらない仕組みを構築している。
また、被災した基地局をいち早く復旧するため、携帯各社は移動基地局車や衛星通信などを用い、通信が止まってしまったエリアの応急的な復旧を行っている。能登半島地震では携帯4社が協力体制を敷いて復旧に当たっており、道路が寸断されているごく一部のエリアを除けばすでに大半のエリアが応急復旧を果たしている。
能登半島地震発生から応急復旧までの、ソフトバンクのLTEネットワーク復旧状況。発災直後は能登半島の広域にわたって通信が途絶していたが、急速な復旧対応を進め各社とも約2週間後には大半の場所で応急復旧を果たしている
また、最近では、携帯各社が独自の技術を用いて復旧を進めるケースも見られるようになってきた。そのひとつが、NTTドコモとKDDIが運用した船上基地局で、船の上に基地局を搭載して電波を射出し、復旧のための機材を持ち込むことができない沿岸部を一時的にカバーするというものだ。
NTTドコモの船上基地局。NTTドコモの親会社である日本電信電話とKDDIは協定を結んでおり、その協定の一環としてNTTグループの船舶に両社の船上基地局を搭載し、能登半島地震での応急復旧を行った
そしてもうひとつ、ソフトバンクが石川県輪島市の一部で活用していたのが「有線給電ドローン無線中継システム」である。これは移動基地局の電波をドローンに中継し、ドローンから電波を射出することで通常のアンテナよりも広いエリアをカバーできるようにする仕組み。ドローンは空を飛んでいるものの有線で給電しているため、天候さえよければ4日以上連続して飛び続け、エリアカバーをし続けられるという。
ソフトバンクは有線で電力を供給できるドローンを用いて基地局の電波を中継。上空から射出して広範囲を一時的カバーすることでの応急復旧を進めていた
とはいうものの、すべてのエリアで4社が一斉に復旧を進めているわけではないし、独自技術を使って復旧したエリアはなおさら、特定の携帯電話会社の回線しかつながらないケースが多いだろう。それに加えて、停電の長期化で基地局に搭載されたバッテリーが切れ、通信ができなくなるタイミングも各社まちまちなので、災害時は場所と時間によって「A社はつながるが、B社はつながらない」といった変化が流動的に起き得るのだ。
そこで役立つのがサブ回線である。最近のスマートフォンは、物理SIMとeSIMのデュアルSIM構成に対応しているものが多くを占めているし、特定の携帯電話会社のSIMしか利用できない「SIMロック」もかかっていない。それゆえ1台のスマートフォンでメイン回線のほかにもうひとつ、非常時の備えとしてサブ回線を追加しておけば、メイン回線が使えなくなった場合にサブ回線に切り替えることで、通話や通信を維持できる可能性が高まるのだ。
「回線を2つも持つとお金がかかってしまうのでは?」と思う人もいるかもしれないが、最近ではサービスに一定の制約はあるものの月額料金が無料、あるいは非常に安い料金で利用できるサービスがいくつか存在する。それらを利用すれば、毎月の負担を抑えながら、いざというときの“備え”を実現できるのでぜひ覚えておきたい。
サブ回線を検討するうえで最初に知っておきたいのが、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社が公式にサブ回線として提供している「副回線サービス」だ。各社とも月額料金は429円で、NTTドコモとソフトバンクはKDDI回線、KDDIはソフトバンク回線を用いる形で運用されている。
NTTドコモの「副回線サービス」。メインのNTTドコモ回線とは別にKDDI回線のSIMを発行してスマートフォンに入れておくことにより、NTTドコモ回線が使えなくなったときに切り替えて通話や通信を維持できる
「副回線サービス」はいずれも、メイン回線とは別にもうひとつのSIMを発行してもらい、それをスマートフォンに追加し非常時にメイン回線と切り替えて利用する。あくまで別の回線なので電話番号はメイン回線と異なるが、これは後述する他のサービスでも同様なので、家族などにはあらかじめサブ回線の電話番号も登録してもらうとよいだろう。また、既存の回線契約のオプションなので手続きが比較的楽なのも魅力だ。
ほかにもいくつか注意点がある。「副回線サービス」は相手の回線に通信が集中して負荷が生じ、“共倒れ”になってしまうのを避けるため、通信速度は最大300kbps、月当たりの通信量も500MBまでに抑えられている。それゆえ画像や動画のやり取りには向いておらず、テキストによるメッセージのやり取りや、従量制の音声通話(30秒22円)が主な用途となることは覚えておきたい。
もうひとつ注意が必要なのが、「副回線サービス」に対応する料金プランやブランドだ。NTTドコモはオンライン専用の「ahamo」を含むすべての主要プランが対応するいっぽう、KDDIは「au」「UQ mobile」ブランド、ソフトバンクは「ソフトバンク」ブランドのみが対応。ソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」は「副回線サービス」を利用できないのである。
ではワイモバイルユーザーや、もっと維持費を抑えたいユーザーはサブ回線として何を選ぶべきなのだろうか? そういう場合はKDDIの「povo 2.0」が最有力候補だろう。「povo 2.0」は月額料金が無料で従量制の音声通話も利用でき、必要なときだけお金を払ってデータ通信量を購入する「トッピング」によって、快適なデータ通信も可能になる。
「povo 2.0」は月額料金が無料で、必要に応じて料金を支払い、データ通信量を購入する仕組み。非常時のサブ回線としても有益なサービスだ
ただし、「povo 2.0」は、お金を支払わなければ通信速度は最大128kbpsと副回線サービスより遅いうえ、180日以上トッピングを購入しないと自動的に解約されてしまうことから、回線維持のため定期的なトッピングの購入が不可欠だ。また、「povo 2.0」はKDDIの回線を使っているので、当然ながら同じKDDI回線のサービス利用者や、KDDIとのローミングで多くのエリアをまかなっている楽天モバイルをメイン回線として使っている人には、サブ回線としての効果がないのも弱点だろう。
回線を自由に選びたいのであれば、MVNOが提供するサービスを選ぶのがよい。なかでも音声通話にも対応し、なおかつ維持費を大幅に抑えられることからサブ回線としてぴったりなのが、オプテージの「mineo」が提供している「マイそくスーパーライト」だ。
これは月額250円で利用できるサービスであり、音声通話は従量制でデータ通信速度も32kbpsと、ほかのサービスよりさらに低速となる。だが1回当たり198円で利用できる「24時間データ使い放題」を追加すれば、24時間は高速データ通信が可能となるので、ある意味で「povo 2.0」に近い使い方が可能だ。
「mineo」の「マイそくスーパーライト」は、通信速度は32kbpsながら月額250円で運用できる。有料の「24時間データ使い放題」を追加すれば高速通信も可能だ
しかも、「マイそくスーパーライト」は、契約時にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのいずれかの回線を自由に選ぶことができ、NTTドコモとKDDI回線ではSIMカードとeSIMの選択も可能。ソフトバンク回線がeSIMに対応していないのは弱点だが、メイン回線にどの携帯電話会社のサービスを利用していても、柔軟に対応できるのが大きなメリットだ。
今回紹介したサービスはいずれも得手不得手があるものの、いずれも維持費が500円未満なので毎月の負担がかなり少なく、データ通信だけでなく音声通話も利用できることからサブ回線にはとても適している。災害はいつ何時起きるかわからないものだけに、サブ回線で通信の“備え”も欠かさないように、適したものをあらかじめ選んでおきたい。