最近、「AI PC」や「Copilot+ PC」といった言葉を見掛けるようになりました。しかし、AI PCとは何か、正確に説明できる人はあまり多くはないのではないでしょうか。今回は、「AI PC」そして「Copilot+ PC」とは何か、これまでのPCとは何が違うのか、どんなメリットがあるのか解説していきます。なお、ページ内の情報は執筆時点(2024年11月20日)のものです。
2024春の「Copilot+ PC」登場で注目度が高まった「AI PC」
ここからは普通のPCとの違いを説明するため、「AI PC」そして「Copilot+ PC」とは何か説明していきます。
「AI PC」とは、その名のとおりAI処理に向いたパソコンのことです。最初に「AI PC」を提唱したのが、CPUメーカーとして有名なインテルです。
インテルは、2023年12月に、新CPU「Core Ultra」の正式発表に合わせて「AI PC」という概念を発表しました。このときは、「Core Ultra搭載PC=AI PC」程度の定義しかされていませんでしたが、その後、2024年2月にインテルとマイクロソフトが共同で定めた「AI PC」の要件が発表されました。その要件が、「Copilotへの対応」「Copilotキーの搭載」「NPUの搭載」の3つです。
・「Copilot」への対応
・「Copilot」キーの搭載
・NPUの搭載
「AI PC」の要件について順番に説明しましょう。まず「Copilot」とは、マイクロソフトが提供する生成AIを活用したAIアシスタントの総称です。Windows 10/11には標準で「Copilot in Windows」が組み込まれているほか、「Microsoft 365」の各アプリにも「Microsoft 365 Copilot」が搭載されています。つまり、Windows搭載パソコンならこの要件はすべて満たすと考えてよいでしょう。
2つ目の「Copilot」キーとは、「Copilot」を素早く呼び出すための専用キーです。
3つ目の「NPUの搭載」が、「AI PC」で最も重要な要件となります。NPUとは、Neural Processing Unit(ニューラル プロセッシング ユニット)の略で、AIの処理に特化したプロセッサーです。
AI処理はCPUやGPUでも可能ですが、NPUはAI処理に特化しているため、より高い電力効率が期待できます。インテルが2023年12月に発表した「Core Ultra」は、インテル初のNPU搭載CPUでもあります。詳しくは後述しますが、インテル以外にもAMDやクアルコムがNPU搭載CPUをリリースしています。つまり、「Copilot」キーを備え、NPU搭載CPUを採用したWindowsパソコンなら、「AI PC」の要件を満たすことになります。
ALTキーの右側が「Copilot」キー
最近は、「AI PC」だけでなく、「Copilot+ PC」という言葉もよく見掛けるようになっています。「Copilot+ PC」とは、マイクロソフトが2024年5月に発表した「AI PC」のカテゴリーのことです。同年2月に発表された「AI PC」の要件よりも、「Copilot+ PC」のほうがより要件が厳しくなっています。
「AI PC」では、搭載するメモリー容量やストレージ容量については特に規定されていませんでした。しかし、「Copilot+ PC」ではメモリー容量は16GB以上、ストレージ容量は256GB以上という規定があります。さらに、NPUも単に搭載していればよいというわけではなく、40TOPS以上の性能を持つNPUが必須です。TOPSとは1秒間に実行できる演算の数を示す単位で、1TOPSなら1秒間に1兆回の演算ができることになります。40TOPSなら、1秒間に40兆回の演算が可能です。
メモリーやストレージについては、現行のWindowsノートパソコンなら多くの機種がクリアしていますが、40TOPS以上のNPUを搭載するというのはハードルの高い要件です。たとえば、インテルが2023年12月にリリースした初代「Core Ultra」のNPU性能は11.5TOPSで、「Copilot+ PC」の要件を満たしません。初代「Core Ultra」搭載ノートPCは、「AI PC」ではあっても、「Copilot+ PC」を名乗ることはできません。
つまり現状では、「AI PC」というカテゴリーの中で、特にNPU性能が高いノートPCが「Copilot+ PC」です。
「AI PC」と「Copilot+ PC」の関係
Copilot+ PC」は「AI PC」の中の1カテゴリーです
「AI PC」や「Copilot+ PC」の特徴は、AI処理をローカル(手元のPC)で行うためのNPUが搭載されていることです。具体的にどんなことができるようになるのか解説します。
AI PCでは、ChatGPTに代表されるLLMと呼ばれる生成AIの推論や画像生成などをローカルで行えます。通常のPCでは、生成AIの推論や画像生成などの処理は、クラウド上で行われます。そのため、通常のPCではインターネットに接続していないと生成AIを利用できませんが、ローカルで処理が可能なAI PCなら、インターネットに接続していなくても、生成AIを利用できます。
NPUの性能にもよりますが、レスポンスも早くなる可能性があります。また、ローカルでの処理なら使用制限などを気にせず、無料でいくらでも生成AIを利用可能ます。ただし、現時点では、ローカルでLLMの推論や画像生成を行うには自分で環境を構築しなければならないので、中・上級者向きのメリットと言えるでしょう。
また、AI PCは各PCメーカーから発売されていますが、製品によってはメーカー独自のNPUを活用するAIツールが導入されていることもあります。たとえば、AIを活用したノイズキャンセリング機能やテレビ会議での背景をぼかす機能、あるいは省電力機能などです。このあたりは、ビジネスユーザーへのメリットが大きいでしょう。
「NEC Lavie」の2024年秋冬モデルには、AIがバックグラウンド処理などを自動で調整し、バッテリーを持続させる機能が搭載されている
「Copilot+ PC」では、NPUの性能が高いため、AI PCよりもできることが増えます。マイクロソフトからは「Copilot+ PC」専用機能として、現時点で「コクリエイター」「リコール」「Windows Studio エフェクト」「イメージクリエーター/リスタイル」「ライブキャプション」「自動スーパー解像度(Auto SR)」の6つが提供されています。
「コクリエイター」は、ペイントに搭載されている画像生成機能で、手書きのラフスケッチやプロンプト(入力した文字列)から画像を生成できます。「リコール」は、PC上で表示されたコンテンツを後から検索できる機能で、大ざっぱな言葉で検索ができるのでとても便利です。
「Windows Studioエフェクト」は、Web会議などの際にカメラの画像に背景ぼかしや目線補正などのエフェクトを加える機能です。「イメージクリエーター/リスタイル」は、フォトアプリに搭載されている画像生成機能で、テキストから画像を生成する「イメージクリエーター」と、既存画像をプロンプトやスタイルで変換する「リスタイル」を利用できます。
「ライブキャプション」は、PCの音声出力をリアルタイムに翻訳し、画面上に英語字幕を表示する機能です。44言語の翻訳に対応していますが、現状では表示できるのは英語字幕のみとなっています。「自動スーパー解像度(Auto SR)」は、ゲーム向けの機能で、低解像度で描画した画像をAIによって補完し解像度を上げることで、画質とフレームレートを両立させる機能です。
「コクリエイター」を実際に試したところ。画面左側の下絵とプロンプト(テキストの指示)で右上の画像が生成されました
また、マイクロソフト以外のサードパーティー製アプリでも「Copilot+ PC」のNPUに対応するものが少しずつ出てきています。たとえば、動画編集ソフトの「DaVinci Resolve Studio」にはNPU対応の「Magic Mask」機能が搭載されているほか、Adobeの動画編集ソフト「Premiere Pro」もNPUに対応する予定です。
「AI PC」や「Copilot+ PC」では、NPUの搭載が必須です。以下のCPUを搭載したパソコンなら、「AI PC」または「Copilot+ PC」になります。
現在NPUを搭載するCPUは上表のとおり
インテルが2023年12月に発表した初代「Core Ultra」はNPUを搭載しているため、「AI PC」の要件は満たしますが、NPUの性能が11.5TOPSと低いので、「Copilot+ PC」の要件は満たしません。その後、インテルが2024年9月に発表した「Core Ultra シリーズ2(Core Ultra 200V)」では、NPU性能が48TOPSになり、「Copilot+ PC」の要件を満たします。
AMDが2023年1月に発表した「Ryzen 7040」シリーズが、PC用CPUとして初めてNPUを搭載したCPUです。ただし性能は10TOPSで、「Copilot+ PC」の要件は満たしません。2024年6月に発表された「Ryzen AI 300」シリーズは、50TOPSのNPUを搭載し、「Copilot+ PC」の要件を満たすようになりました。
クアルコムが2023年10月に発表したノートPC向けCPU「Snapdragon X Elite」は、45TOPSという高性能なNPUを搭載し、「Copilot+ PC」の要件を満たしています。ちなみに、マイクロソフトが「Copilot+ PC」を発表した時点で、40TOPSを超えるNPUを内蔵しているCPUは、「Snapdragon X Elite」と「Snapdragon X Plus」しかありませんでした。2024年9月には廉価版の「Snapdragon X Plus 8-core」を発表しましたが、こちらもNPUの性能は45TOPSで変わっていないので、「Copilot+ PC」の要件を満たしています。
最後に2024年11月時点で、「AI PC」あるいは「Copilot+ PC」を買うメリットについてまとめます。AI処理をローカルでできることが「AI PC」の最大のウリですが、実はほかにも大きなメリットがあります。
NPUにより、これまでクラウドで行っていたLLMの推論や画像生成などをローカルで行えるようになるため、セキュリティの観点から、企業がデータをクラウドにアップロードしたくないといったニーズに応えられます。
個人利用の場合でも利用制限を気にせず、生成AIをいくらでも使えるようになります。通信が発生しないため、固定回線がなくても通信量を気にせず使えるのもポイントです。
「AI PC」の本来のウリとは異なりますが、「AI PC」に搭載されているCPUは、最新世代のCPUであり、省電力機能も大きく進化しています。特にインテルの「Core Ultra/Core Ultraシリーズ2」の省電力機能は優秀で、バッテリー持続時間が大きく延びています。
たとえば、第13世代Core プロセッサーを搭載したVAIO SX14のバッテリー持続時間は、動画再生時約9.0時間、アイドル時約24.0時間(ともにJEITA 3.0での計測)ですが、Core Ultraを搭載したVAIO SX14-Rのバッテリー持続時間は、同じ容量の標準バッテリーを搭載した場合でも、動画再生時約10.5時間、アイドル時約26時間となっています。
これだけ見ると微増といった感じですが、実際に文書作成やネットサーフィンなどを行った場合のバッテリー持続時間は、もっと大きな差が出る印象で、筆者が試した範囲では「Core Ultra」搭載機はCore搭載機に比べてバッテリーが2倍近く保つ印象です。数年前に購入したノートPCのバッテリー持続時間に不満をお持ちの人なら、バッテリーの持ちを目当てに「AI PC」を購入するというのも十分ありだと思います。
「AI PC」は、現時点ではまだユーザーの割合が少ないので、アプリ側での対応も不十分です。しかし、今後ユーザーが増えてくることで、NPU対応アプリも増加することが予想されます。また、上でも触れましたが、「Copilot+ PC」であれば独自の機能も使えます。やや先行投資的な意味合いもありますが、将来性は期待できます。
高額な印象のある「AI PC」ですが、実はかなり手ごろな価格の製品も登場しています。たとえばデルの「Inspiron 14 Ryzen 7 8840U・16GBメモリー・1TB SSD搭載モデル」は、「Copilot+ PC」でこそありませんが、NPUを搭載し8万円台(価格.com最安価格/2024年11月25日時点)で購入できます。値段が高そうで気になるという人はぜひ価格.comでチェックしてみてください。