2015年5月28日に発売された、NTTドコモのスマートフォン「ARROWS NX F-04G」(富士通製。以下、F-04G)は、「ARROWS NX」シリーズの特徴でもある、てんこ盛りの機能と高いスペックを備えた1台だ。価格.comの「スマートフォン」カテゴリーにおいても、人気ランキングで1位(2015年6月1日)を獲得している人気モデルだ。そんなF-04Gの○(いいところ)と×(気になるところ)をレビューしよう。
シリーズの特徴である多機能・高性能というコンセプトに加えて、虹彩認証「Iris Passport」を搭載したF-04G
・Snapdragon 810、Android 5.0、WQHD液晶など基本スペックの高さは今シーズン随一
・早く正確な「Iris Passport」は、スマホの生体認証では最良の完成度
・TDD-LTEのバンド38と39に対応で、実は中国に強い
F-04Gのディスプレイは、前機種の「ARROWS NX F-02G」(以下、F-02G)から継承されたもので、1440×2560(WQHD)対応の約5.2インチIPS液晶となっている。WQHDに対応する機種は、NTTドコモの今夏のスマートフォンでは、本機のほかに「Galaxy S6」シリーズ2機種があるのみである。
搭載されるCPUは、クアルコムのオクタコアCPU「Snapdragon 810」だ。このCPUは、処理性能優先のCortex-A57コアと消費電力優先のCortex-A53コアをそれぞれ4個ずつ搭載し、負荷状況によってそれらを柔軟に調整できることが大きな特徴となっている。RAMは3GB、ストレージは32GBで、Android 5.0搭載機としては標準的で、十分なスペックを誇っていると言えよう。
今夏のスマートフォンでは、当然のように各機種に搭載されているAndroid 5.0だが、その内部の進化はかなり大きい。特に64bit対応になり、本機に備わるSnapdragon 810のような64bit対応CPUと組み合わせた場合の性能向上が見込める点や、事前コンパイル方式のアプリの実行環境「ART VM」を採用していることで、全般的なレスポンスは大きく向上している。
ここ数年の傾向として、Androidスマートフォンは、体感速度に大きな差がないという意見が一般的だが、本機のようなAndroid 5.0+Spandragon 810の組み合わせは、従来と異なるレスポンスとスムーズさがある。新モデルらしいスピードという点で、本機の満足度は申し分ないものだろう。
搭載される機能はARROWSシリーズらしく非常に豊富だ。ワンセグ/フルセグ/NOTTVの各テレビチューナー、おサイフケータイ・NFCポート、赤外線通信ポート、IPX5/8等級の防水と、IP6X等級の防塵、QuickCharge 2.0まで対応の急速充電、Miracastなど、思いつく限りの機能が網羅されている。
機能が多岐に渡る本機は、通知メニューに並ぶアイコンはかなり多い
Antutuベンチマーク(64bitモード)のスコアは41680。従来のSnapdragon 801世代のスコアが38000前後なので、ベンチマークスコアは思ったほど伸びてはいないが、体感速度は大きく向上している
本機の機能面では、なんと言っても、虹彩認証システムの搭載が大きなトピックだ。前面に備わるサブカメラを活用して、目の虹彩でスマホのロックを解除する生体認証システム「Iris Passport」を採用しているのだ。ARROWSシリーズは、以前から生体認証の採用に熱心で、背面に備わるスリープ復帰ボタンを兼ねた指紋センサー「スマート指紋センサー」は、ARROWSシリーズのアイコンと言ってもよい。F-04Gでは、指紋認証から虹彩認証方式が変わったが、その認証スピードは驚きのレベルだ。画面内のサークルに、両目がほんの一瞬重なっただけでロックが解除される。
Android 4.0では、顔を使った生体認証の「フェイスアンロック」が標準で備わっていたが、顔と言うのは意外と変わりやすく、率直に言って実用性が低かった。だが、本機に採用される虹彩認証は、顔よりもずっと変化が小さいので認証手段としてはより洗練されているうえに、認証スピードが速い。
さらに、Iris Passportは、生体認証の標準規格「FIDO 1.0」に対応しており、同規格に対応するオンライン認証にも使える。このほかにも、NTTドコモの「docomo ID」や、オンラインショッピング「dマーケット」の一部サービス、「spモード」のパスワードにも利用可能である。Iris Passportは、端末の認証にとどまらず、さまざまなシーンで活用しうる可能性を秘めている。
Iris Passportで使用するサブカメラは、瞳をモチーフにしたリングで囲まれている
画面に現れるふたつのサークルに瞳を一瞬重ねるだけでロックが解除される
本機は、通信性能でも独自性が高い。NTTドコモのキャリアアグリゲーションサービスである「PREMIUM 4 G」はもちろん、ローミングサービス向けにTDD-LTEのバンド38とバンド39にも対応している。これらのLTEバンドは、中国のチャイナモバイルで使えるので、中国に行く機会の多いユーザーにとって魅力的に感じるはずだ。
このほか、LTEの対応バンドとして700MHz帯(バンド17を内包するバンド28)にも対応している。すでに免許が交付されており、サービスを準備中の700MHz帯に対応している点も将来性の点で有望だ。
Wi-Fiの性能も高く、Wi-Fi MIMOに対応しており、対応するWi-Fiルーターとの間では最高867Mbpsという圧倒的なスピードでのダウンロードが行える。また、実際のダウンロード速度を速めるマルチコネクション機能が前機種から引き続き搭載されているが、セッション数が従来の8から16に倍増し、従来以上に回線を効率的に利用できる。これに加え、Wi-FiとLTEや3Gなどのモバイル回線を継ぎ目なく切り替えることができるマルチコネクション機能を備えている点も魅力だ。
こうしたハードウェア的な魅力にとどまらず、本機はNTTドコモでは「シェア特割」の対象となっており、「シェアパック15~30」まで利用する場合に、25,920円の本体割引が適用されるため、ほかの新製品よりかなり割安に購入可能な場合がある。
2015年6月1日時点で唯一の「シェア特割」の対象機種。新料金プラン「シェアグループ」を使う場合、最大で端末代が25,920円割引される
先にも述べたように、搭載されるディスプレイは、1440×2560(WQHD)の約5.2インチIPS液晶だ。このスペックは、前モデルのF-02Gと変わっていない。このディスプレイは、画面解像度の高さを生かした緻密な表示が持ち味だが、画面サイズに対して解像度が高すぎるきらいもあり、人によっては、従来のフルHD表示とはあまり違いが感じられない場合もあるだろう。
1440×2560のWQHD表示に対応する液晶ディスプレイを搭載。非常に高精細で、細かい文字の表示などで威力を発揮する
・印象に残りにくい箱型のデザイン
・対応製品が少なく使い道が限られるTranferJet
F-04Gのボディは約70(幅)×146(高さ)×8.8(厚さ)mmで、重量は約155gとなっている。本機は約5.2インチのディスプレイながら横幅が70mmに抑えている点は驚きと言ってよい。たとえば同一の画面サイズの「Xperia Z4」が横幅72mm、一回り小さな約5.1インチディスプレイを備えた「Galaxy S6」が約71mmであることと比較すれば、本機のコンパクトさがおわかりいただけるだろう。
ただ、そのデザインは、直線と平面で構成されたもので、よく言えばボクシーだが、率直に言うとそっけないところがある。端子カバー周辺のデザインも平凡で、ホールド感もいまひとつといったところ。シンプルでミニマムなデザイン自体は否定しないが、もう少し、プロポーションや質感でこだわりがあってもよかったのではないだろうか。本機の場合、一部に金属パーツが使われていたり、耐久性の強い表面加工が施されている点は評価できるが、樹脂を中心としたボディは、けっして高級感が高いとは言えない。ドイツのデザインアワード「Red Dot Award」を受賞した前機種のF-02Gをブラッシュアップしてもよかったように思う。
最近では珍しく、平面で構成された背面デザイン。今回の検証機はアイリスグリーンだが、カラーバリエーションごとに表面のテクスチャーが異なっている
microUSBポートはキャップで覆われて搭載されている。キャップレスUSBポートの搭載は比較的早かったARROWSシリーズだが、F-02Gに続き本機もキャップ付きのままだ
ボディ上面の「ヘッドライン」や側面のボタンなどに金属パーツが使われているが、基本的には樹脂製のボディ
なお、ユーザーの中には、熱処理に問題を抱えるSnapdragon 810を搭載するため、発熱を心配する声があるが、3Dゲームをしばらくプレイし続けたり、アプリのインストールを行い続けても、システムのフリーズや再起動などは起こらず、発熱による不具合は確認できなかった。ただ、昨今のクアッドコアCPU搭載のスマートフォンと比べると、ボディ表面から感じられる熱は多めで、大体2年ほど前のクアッドコアCPUの初期に近い発熱の感触となっている。
また、本機は、珍しく「TranferJet」に対応しており、メーカーもそれをセールスポイントのひとつにしている。TransferJetは、センサーにかざすだけで最大560Mbpsという速度でデータを転送できるが、最近ではスマートフォンの端子につなげて使うアダプターが登場しているものの、対応する機器が少ないのが欠点だ。Androidスマートフォンの間ならNFCを使った「Android ビーム」で、かざすだけのデータ通信ができるので、通信速度やiPhone、PCなどほかの機器との無線通信が必要でないのなら、TransferJetには、特にこだわる必要はなさそうだ。
オクタコアCPUやAndroid 5.0、WQHD液晶、PREMIUM 4Gなどの最新技術を搭載するF-04Gは、スペック面で見れば今選ぶことのできるAndroidスマートフォンとして最高レベルの1台である。さらに、虹彩認証システムのIris Passportは、初めての試みながらスピード、精度で高いレベルを実現しているうえ、FIDO 1.0対応による将来性など、従来の指紋認証から大きな技術的な飛躍を果たしている。スマートフォンの今後の生体認証システムに大きな影響を与える、注目の技術だ。
そうした性能や機能が充実しているいっぽうで、ボディや画面デザインなどは少々無骨なところがある。前モデルのF-02Gが備えていたエモーショナルな要素は少ない。そうした点からは「クールな知性派」という印象で、見た目の華やかさよりも、その内側にある機能や性能に納得して選ぶスマートフォンと言えるだろう。高性能・高機能+虹彩認証システムに魅力を感じるのであれば、今夏のハイスペックスマホの中でも、もっとも“買い”の1台であることは間違いない。