ティファールといえば取っ手の取れるフライパン、電気ケトルや電気圧力鍋などで人気の高いフランスの調理器具・小型家電ブランド(アイロンや衣類スチーマーも有名です)。特に近年は電気圧力鍋「クックフォーミー」がヒットし、日本の調理家電市場でも着実に存在感を高めています。
そんな同社が今回発売したのは、なんと炊飯器! 炊飯器といえば日本や東アジアなど、米を主食とする地域に特有の家電です。それをヨーロッパの美食大国・フランスのメーカーが開発するというのですから期待もありますが、不安も少し……。と言いますのも「炊飯器」という家電製品はとにかく「技術の蓄積」が重要と筆者は考えていまして、日本の大手メーカーが長い年月をかけて試行錯誤してきた製品と同等のものがすぐに作れるのか、少し疑問だと思っていたのです。
そんな思いを抱きながら、今回ティファールのIH炊飯器「ザ・ライス」は実際に使ってみました。最重要ポイントであるごはんの味や食感に加え、操作やお手入れのしやすさなどもチェックします。
「ザ・ライス」はは圧力をかけずに炊くIH炊飯器ですが、ふたから遠赤外線を放出するのが特徴。内釜を包み込むように配置されたIH層と、上部からの遠赤外線を組み合わせた「遠赤直火炊き」で、お米を芯から一気に炊き上げます。そもそも遠赤外線は光や電波と同じ電磁波の一種で、対象物を振動させることで熱を伝え、浸透させるという性質を持つもの。遠赤外線が米の表面に到達・吸収された瞬間に熱に変化するため、米ひと粒ひと粒に熱がしっかり加わり、米の表面にハリが出て、粒立ちのいい、うまみを凝縮したごはんに仕上がるのだそう。
炊飯容量は5.5合で、サイズは258(幅)×312mm(奥行)×232(高さ)。上部をわずかに絞り、丸みとシャープさを兼ね備えたデザインがオシャレです。カラバリは、ブラックとメタリック(グレー)の2色展開
ふたに内蔵された電熱コイルから遠赤外線を放出
内釜は丸みのある球形状にすることで炊飯時に釜内に大きな熱対流をうながし、炊きムラを低減。釜内の熱を素早く均一に米に伝えられるように、内釜の素材には発熱効率の高い鉄と熱伝導にすぐれるアルミを採用し、約3mmの厚みを持たせることで高い蓄熱効果を発揮して米本来のおいしさを引き出します。
釜底部に加え、上部にも55°の角度をつけることで大きな熱対流を生み出します。内釜の縁を厚くし、段が付けているのも、内釜内に熱を閉じ込める工夫なのだそう
「ザ・ライス」で炊飯できる米の種類は「白米」「無洗米」「玄米」「雑穀米」「長粒米」の5種類で、「白米」と「無洗米」は炊き具合を「やわから/ふつう/かため」で選択可能。このほか、「すしめし」「炊き込み」「冷凍ごはん」「お粥」「玄米・雑穀粥」という5種類の炊飯メニューも搭載しています。
「通常炊飯」と「メニュー」に分類されていますが、どちらも炊飯メニューです。米の種類とメニューを組み合わせることはできません
今回はこの中から「白米ふつう」モードで炊いたごはんと、冷凍したごはんを電子レンジで再加熱してもパサつきにくく、弾力やハリなどもキープできるように、米の水分が蒸発し過ぎないように炊飯時間を調節して炊き上げる「冷凍ごはん」メニュー、そして「炊き込み」メニューを試します。
今回の検証には、新潟県南西部「JAえちご上越」のコシヒカリ(04年度産)を使用。1回で3合の米を炊きます
まずは、基本の「白米」モードから食してみました。ふたを開けた瞬間、炊き立てごはんの甘い香りが広がります。
炊飯終了直後のごはんは、釜の縁がやや盛り上がる炊き上がり。米ひと粒ひと粒がピカピカと光る、見事なツヤです
そして、茶碗に装ったごはんに鼻を近づけると、新米ならではのみずみずしい香りが広がります。口に入れてすぐだと甘みが物足りない感じでしたが、食べ進めるうちに甘みがどんどん増していきます。なおかつ後味はすっきりしていて、食べあきることのないおいしさ。また、ほどよいやわらかさとしっかりした弾力のある食感で、粒立ちがしっかりしているのが大きな特徴。咀嚼するうちに口の中でほどけていくシャッキリ系のごはんです。
茶碗によそってみると、ごはんのハリと粒立ちがよくわかります。ベタつきのないさっぱりした食感は和食との相性が抜群ですが、肉系のおかずを食べるときもごはんで口の中がリセットされるため、より食が進みます
こうした味と食感は、まさに「非圧力」のIH炊飯器の特徴です。他社製品で言うと三菱電機などに近い食感。これらのIH炊飯器は炊飯時に必要以上に圧力をかけないため、ごはんの弾力と甘みが圧力IH炊飯器より控えめになるいっぽう、米の粒感をより感じる炊き上がりになります。ちなみに筆者は私生活では三菱電機「KAMADO」を愛用しているので、「ザ・ライス」の味と食感はかなり“ストライク”でした。
卵かけごはんの味もチェック。粒感がありつつ適度にふっくらしたごはんに溶き卵をまとわせると、喉越しが最高
続いて「冷凍ごはん」メニューを試してみましょう。炊き上がり直後の熱々ごはんをラップで包んで冷凍室に入れ、翌日、凍った状態のごはんを電子レンジで再加熱して食感や味をチェックします。
炊き立てのごはんを小分けにしてラップに包み、冷凍室へ
と、その前に、まずは「冷凍ごはん」メニューで炊いた炊き立てのごはんを試食。ごはんを冷凍する場合も、炊いたその日は炊き立てを食べるのが普通でしょうから、その食味も気になるところです。
「冷凍ごはん」メニューで炊飯直後のごはん。ふたを開けると、ごはんのハリとツヤが「白米」モードで炊いた時よりさらに際立って見えます
ごはんをひと口食べて印象的だったのは、「白米」モードで炊いたごはんよりもさらにシャッキリと際立った粒感。米ひと粒ひと粒のプチプチ感を感じつつ、決して芯が残っているわけでない、「お米のアルデンテ」とも呼びたい食感です。この食感が好きな人も多いと思いますし、個人的にはかなり気に入りました。味は、「白米」モードで炊いたごはん同様すっきりしつつもだんだん甘みが増すタイプ。
茶碗によそってみると、「白米」モードで炊いたごはんとのツヤやハリの違いがより鮮明に。ごはんの粒がよりシャキッと締まっている印象です
このシャッキリと際立った粒感は卵かけごはんに合うに違いないと思い、試してみました。「白米」モードで炊いたごはんより粒感が強い分、食べ応えというか噛み応えがわずかに増して感じられます。プチプチした食感を感じながら食べる卵かけごはんは、これまた美味。どちらがおいしいというのでなく、同じ卵かけごはんでも違った味わいを楽しめると感じました
いっぽう、冷凍室で冷凍し、翌日、電子レンジで再加熱した「冷凍ごはん」は、炊き立てよりも粒感は減ったものの、やわらかさやふっくら加減が増し、「白米」モードで炊いたごはんの炊き立てにかなり近い食感になりました。両方のごはんをより厳密に比較すると、「冷凍ごはん」は「白米」モードの炊き立てよりわずかに粒感を強く感じましたが、これは加熱する電子レンジの種類や加熱時間による誤差の範囲内かもしれません。
ひと晩冷凍した後、電子レンジで再加熱したごはん。見た目のふっくらさ加減も、「白米」モードでの炊き立てのごはんにかなり近かったです
最後に試すのは「炊き込み」メニュー。今回は市販の具材入り炊き込みごはんの素を使用しました。
「白米」モードより10分ほど炊飯時間が長い、1時間2分で炊き上がり。ふたを開けた瞬間にだしの香りが広がります
「炊き込み」メニューで炊いた炊き込みごはんは、「白米」モードで炊いたごはんよりふっくらやわらかく炊き上がりました。とはいえ、ごはんがベタつくところまではいかず、適度な粘りがありつつごはんが口の中でほどける、上々の炊き上がりです。ちなみに、「炊き込み」メニューでは食感の炊き分けはできないため、シャッキリ系の炊き込みごはんが食べたいなら、調味料や具材を入れて「白米」モードで炊いてみるのもよいかもしれません。
やわらかめな炊き上がりですが、米の形は崩れていません。だしのうまみが米の芯までしみて、文句なしのおいしさでした
せっかくなので、保温機能も試してみました。「ザ・ライス」は保温時にも、上部からの遠赤外線を使用。底面IHの加熱に加え、遠赤外線を断続的に放出することで米に最適な温度を均一に保ち、長時間保温しても炊き立てのような食感をキープします。
断熱層で熱を閉じ込め、底面に配置されたIHとふたから断続的に放出される遠赤外線で加熱するのが「ザ・ライス」独自の保温方法
保温中も定期的にふた内の電熱コイルが発熱し、遠赤外線を放出します。ふたを開けた状態でも、保温中は断続的にコイルが赤く光っていました
しかし筆者の経験では、炊飯器で保温するとごはんの弾力やハリ、みずみずしい甘みが明らかに減退します。どんな高性能な保温機能を謳うモデルでも同じでした。ですから、絶対、ごはんは保温するより、冷凍して再加熱すべきだと考えます。
とはいえ、家族の誰かが残業などで帰宅が遅くなり、食事がほかの家族より3〜4時間後になるという家庭も多いでしょう。その場合、わざわざごはんを冷凍するのは現実的ではないとも思います。
そこで今回は、「白米」モードで炊いたごはんを保温し、3時間後、6時間後でその味や食感がどこまで維持されているか確認してみました。
まずは、保温3時間後。ごはんを食べてみると、ごはんの弾力とシャッキリとした粒感がわずかに減退していました。いっぽう味に関しては、炊き立てのときより甘みが出てきて、そのぶん少し後味が残るように。ただ、これらの違いは、炊き立てとの比較を意識ながら食べたから感じられたことで、普通の食事として食べるなら、違いはほとんどわからないと思います。
保温3時間後のごはん。炊き立てと比べても、ごはんのハリやツヤに、ほとんど違いはありません
次に、保温6時間後のごはんを試食。驚いたのは、食感が保温3時間後とほぼ変わっていなかったことです。モチモチした弾力こそわずかに弱まりましたが、粒感はまだ健在。味に関してもまだまだすっきりして雑味が増した印象もありませんし、保温したごはん独特の“すえたニオイ”も感じられません。これなら残業帰りでお腹を空かせた家族にも十分“炊き立て”レベルのごはんを提供できると思います。
保温6時間後のごはん。炊き立てのごはんとよく見比べると、わずかに表面がベタッとし始め、ハリがなくなってきた気がします。ただ、味と食感は、まだまだ炊き立てに近いものでした
毎日使うものなので、操作性についても確認しておきましょう。
操作部には、タッチパネルを採用。「白米」「無洗米」「玄米」「雑穀米」「長粒米」を炊きたいときは「通常炊飯」キーで選択し、「すしめし」「炊き込み」「冷凍ごはん」「お粥」「玄米・雑穀粥」を炊きたい場合は「メニュー」キーで選びます。
「通常炊飯」キーをタッチするごとに「白米→無洗米→玄米→……」と選択するメニューが切り替わります。「メニュー」キーも同じ仕様
「白米」と「無洗米」で選択できる「やわらか/ふつう/かため」の食感炊き分けは、「炊き具合」キーを使います
操作パネルにはメニューが最初から全部表示されており、「◁▷」キーでメニューや炊き具合などを選択するのか? と、最初少しとまどいましたが、このキーは時刻設定や予約時間の設定に使うもの。それさえわかっていれば、操作は非常に簡単です。
タッチキーの反応はやや遅い気もしますが、今回のレビューで使っている内に慣れてしまい、気にならなくなりました。また、本体のふたを開けるプッシュボタンの反応もいまいち印象(これは個体差があるかもしれません)。使い続けるにつれて徐々にスムーズにふたが開くようになりましたが、欲を言えば、こうした細かい部分もていねいに作ってもらえればと思います。
プッシュボタンは指で押し込む際に引っかかりがあり、使い始めたばかりのころは片手で炊飯器を押さえながら強く押し込まないと開けられず不便でしたが、しばらく使い続けると、炊飯器を押さえなくても開けられるようになりました
「ザ・ライス」で炊飯後の洗浄が必要なのは、内釜と内ぶた、そして蒸気口の3点。内釜は1,132gとやや重く、洗浄中に落とさないよう注意が必要です。いっぽう、内ぶたは構造がシンプルで、凹凸もそれほどないため、お手入れは簡単。ただし、ふたの外周と内側にゴムパッキンが付いており、ここはしっかり洗う必要があります。
重量1132gの内釜を片手で持ってもう片方の手で洗うのは、握力の弱い方や高齢者にはやや負担が大きそうです
内ぶたには突起がほぼなく、洗うのがラク。これは、非圧力タイプの炊飯器の特徴です
少しお手入れが面倒なのは蒸気口。5つのパーツで構成されており、炊飯のたびに分解して洗浄、乾いたら組み立てる必要があります。ただ、これは筆者の個人的見解ですが、「白米」モードで3合炊く程度なら蒸気口内におねば(米のでんぷん成分)が流入することもなさそうなので、普段は水で洗い流すだけで十分なような気も……。玄米炊飯や炊き込みメニューなどを使った後は、洗剤でしっかり洗いましょう。
フタ上部に装備されている蒸気口は取り外した後、分解して洗うように推奨されています
本体フレーム部は凹凸が少なく、炊飯後に落ちた水分や汚れも布巾などでサッと拭き取れます
最後に、設置性について触れておきます。本体サイズは258(幅)×312(奥行)×232(高さ)mmと大型なうえ、取っ手が付いていないので、置き場所を決めたらほぼ動かさない使い方になるでしょう。
炊飯器を設置する際に気になるのが蒸気の吹き上げですが、「ザ・ライス」は最も火力が強いときでも蒸気が50cmほど上がる程度。勢いよく噴出することはなく、また、蒸気が何分も出続けることもありません。蒸気レスタイプの炊飯器のようにキッチンラックに収納して使うのは難しいですが、上部に仕切りのある対面型キッチンには問題なく置けそうです。
炊飯中に放出する蒸気量は、写真に撮るのが難しい程度の量でした
試しに、筆者宅の対面型キッチンに設置してみました。本体のデザインもスタイリッシュで、かなり収まりはよいです
実際に使ってみて、気になったのは電源コードです。マグネット着脱式なのですが、その磁力があまり強くなく、かつコードの長さも1mと短め。実際、コンセントと炊飯器を置く位置の関係で、電源コードをピンと張った状態で使おうとしたところ、電源コードが簡単に外れてしまいました。子どもなどが電源コードに引っかかって炊飯器が倒れる事故がないようにとの配慮ではあるでしょうが、現状では炊飯器を設置する場所がかなり限定されます。少なくとも磁力をもう少し強くして、電源コードの長さも1.5〜2m程度にしてほしいと思いました。
ペットの犬や猫が引っかかっても外れる可能性があるので、設置場所には注意しましょう
炊飯機能に関しては、粒感の立ったシャッキリ系が好きな人には文句なしの性能。特に冷凍ごはんは、レンジで再加熱した場合でも“ほぼ炊き立てごはん”の食感と味、風味が楽しめます。米の銘柄による炊き分け機能などは搭載されていませんが、あまり細かい設定をしなくてもおいしいごはんが食べたいという人にはぴったりな炊飯器でしょう。
また、保温機能もかなり優秀で、特に、保温3時間後と6時間後のごはんの食感や味にほとんど違いがなかったのには驚きました。それでも個人的には、ごはんは炊き立てを冷凍・再加熱するほうがおいしいと思いますが、食事の時間が数時間遅れる家族がいる家庭なら、わざわざ冷凍する手間がなくおいしいごはんが食べられるのは助かるのではないでしょうか。
操作性やメンテナンス性もまずまず。お手入れに関しては蒸気口の分解・組み立てがやや面倒なくらいで、使い続けるうえでの大きな問題にはならないと思います。設置性に関しては、電源コードが外れないよう注意が必要なことだけ、ややストレスかなと思う程度でした。
そんな「ザ・ライス」は、公式オンラインストア価格49,000円(税込)と、かなりの高コスパ。最近の炊飯器は「外硬内軟」の食感がトレンドになるなど、弾力がありつつ粒感もしっかりしたごはんを好む人が世代を問わず増えています。そういう人がワンランク上のごはんが炊ける炊飯器を手ごろな価格で買いたいと考える際、「ザ・ライス」は有力候補のひとつに入るのではないでしょうか。
雑誌やWeb媒体において、生活家電の紹介記事やお試し記事を執筆。家電ジャンルは調理家電から掃除機、美容・健康家電など幅広くこなす。夫婦共働きのため、調理など家事も応分に担当(ただしあくまでダンナ目線)。立食いそばも好き。