SP1000のもうひとつ大きな進化点がユーザーインターフェイスの刷新。AK380では、第2世代のフラッグシップモデル「AK240」から採用されてきたユーザーインターフェイスを引き続き採用していたが、SP1000ではこのユーザーインターフェイスを採用せず、新規開発のまったく新しいユーザーインターフェイスを採用しているのだ。
具体的には、音楽再生画面を基点に、上下左右からのスワイプで各種機能を呼ぶことで、音楽再生デバイスとしての使い勝手を高めたという。画面左からスワイプすると、「アーティスト」や「アルバム」といった基本メニューを、画面上からスワイプするとイコライザーやUSB-DAC出力切り替えといった使用頻度の高い機能へのクイックアクセスメニューが、画面右からスワイプすると再生リスト画面が、画面下からスワイプすると再生履歴画面へ遷移する形となり、必要最低限の操作で楽曲再生に必要な機能へのアクセスが可能となった。
SP1000の楽曲再生画面。この画面から各種画面にアクセスする
左からスワイプすると基本メニューが現れる
上からスワイプすると、クイックアクセスメニューにアクセスできる
再生リストは、右スワイプからアクセス。リストの移動もドラッグ操作で簡単に行える
下からスワイプすると現れる再生履歴画面。ソート切り替えで、再生順だけでなく、再生回数順での表示も行える
実際に使ってみたが、オクタコアのCPUになったこともあり、各種画面の切り替えは非常にスムーズ。大量の音楽ファイルがあっても読み込みは非常に高速で、ストレスなく操作することができた。
また、個人的に非常に便利に感じたのが、設定メニューの中にある再生設定の機能。再生リストに楽曲を追加する際に、追加する位置をリストの一番上、一番下、現在再生中の楽曲の後の3種類の項目から選択できたり、追加する楽曲をファイル単位かアルバム単位のどちらの単位で追加するかといったことがあらかじめ細かく設定することができるのだ。DAPの機能の中でも、再生リストは使用頻度のかなり高い機能。いままでのAK380の再生リスト機能も悪くなかったが、こういったかゆいところに手が届くような機能が新しく用意されたのはうれしい限りだ。
再生リストに追加するときの挙動をあらかじめ細かく設定できる機能。再生リストを多用する人はかなり重宝しそうだ
余談だが、ボリューム調整時の画面デザインも変更され、より直感的にボリュームを把握できるようになっている
AK380とは異なる、全く新しいフラッグシップモデルとして登場したA&Ultima SP1000。はたして、その肝心のサウンドはいかなる傾向、いかなるクオリティを持ち合わせているのだろう。SP1000のStainless Steelモデル(最終サンプル機)を試用する機会を得たので、ジュラルミンボディのノーマル版AK380、同じStainless Steelボディを採用するAK380 SS(+SSアンプモジュール)と比較試聴してみた。
まず、ノーマル版AK380と比較して感じたのは、音のクリアさと表現の細やかさだ。基本的な音色傾向は同一なのだが、クオリティ面で確実な向上を果たしたうえ、音色傾向もよりニュートラルな印象にシフトしたイメージだ。
もちろん、AK380も相当の実力の持ち主で、アコースティック楽器などは目の前でライブ演奏をしてもらっているかのような細やかなニュアンス表現を聴かせてくれるが、SP1000ではあきらかなSN感のクオリティアップにより、階調表現が細やかに感じられ、一段と明瞭快活な表現となった。同時に、高域側への倍音の繋がり感が一段とスムーズになり、伸びやかな音色にも変化。結果として、フォーカス感が高く、それでいて肩の力が抜けたかのように自然な音色を聴かせてくれるようになったのだ。
おかげで、チェロはボーイングに粘りのある抑揚に富んだ演奏を聴かせてくれるようになったし、バイオリンも印象的な響きを持つ美しい音色へとシフトしている。煌びやかという訳ではなく、どちらかというとニュートラルな音色傾向ではあるが、楽器のよさ、演奏者の実力がストレートに伝わってくる、印象的な演奏が楽しめるのだ。
ボーカルは男性、女性ともに得手不得手はなく、どちらもほんのちょっとだけハスキーな印象を持つ、自然な歌声を聴かせてくれる。特に女性ボーカルは、艶っぽさも高域のハリも控えめ傾向で、どちらかというとニュートラルバランスで“健康的”な歌声だが、これがかえって清々しく感じられて好印象だったりする。ずっと聴いていたくなる、心地よい歌声だ。
いっぽう、AK380 SS+SSアンプモジュールとの比較では、どちらにも得意分野があって甲乙付けがたい印象だ。解像感の高さや抑揚表現の自然さなどはSP1000が圧倒的に有利だが、レッド・ツエッペリンなどの名盤ハードロックを聴くとAK380 SSならではの押し出しの強さや厚みのある中域が、音楽表現としては大いに魅力的に感じられる。また、アンプモジュールを装着した際の駆動力の高さは、さすがにSP1000単体では敵わない。
しかしながら、AK380 SS+SSアンプモジュールセットの65万円という価格を考えると、45万円前後でそれを凌駕する実力を持ち合わせるに至ったSP1000は、なかなかに魅力的な存在といえる。もちろん、絶対的な価格としてはかなり高価だといえるが、相対的に見れば価格に見合った製品だといえるし、今回試聴したStainless Steelボディや後日追加発売となるCopperボディをレギュラーモデルとして展開している点など、見方によってはコストパフォーマンス的にも悪くない。
このように、SP1000は、こと音質面においてAK380を確実に凌駕している、素晴らしい製品と断言しよう。