レビュー
これ1台でポータブルもホームオーディオもOK

ライン出力が想像以上にいい!iriverの型破りなハイレゾDAP「Astell&Kern KANN」

iriver「Astell&Kern KANN(カン)」は、同ブランドがラインアップするハイレゾ対応DAPのなかでも、格別にユニークな存在だ。既存モデルのように数字をもつ製品名ではなく「KANN」という規則性のない名称になっていることからも、特殊なモデルであることは類推できるが、なによりも、ポータブルDAPとしてはかなり不利な印象となる、厚みのあるボディ採用していることから、これまでとは全く異なったコンセプトのうえに成り立っている製品だということがひと目でわかる。これまで、エントリークラスはコンパクト、ハイエンドモデルであっても扱いやすいスマートさを重要視したサイズを信条としているAstell&Kernだけに、その逆をいく「KANN」は、とても個性的に映る。

iriver「Astell&Kern KANN」。製品名のKANNは、英語で可能を意味する“Can”に相当するドイツ語の“KANN”が由来だ。直販価格は129,980円

とはいえ、実際のボディサイズは約71.23(幅)×115.8(高さ)×25.6(厚さ)mmと、厚さ以外はDAPとして常識的なサイズだし、その厚さも両サイドが斜めにカットされたデザインとなっているため思ったほど気にならない。

これまでのAstell&Kernの製品とは一線を画すユニークな形状のボディを採用

これまでのAstell&Kernの製品とは一線を画すユニークな形状のボディを採用

外装は氷層の断面をイメージしたという凹凸のあるアルミ素材を使用。斜めに大胆にカットされたデザインを採用したことで、グリップ感も良好だ

SDメモリーカード未装着時の本体重量は約283。これまでのAKシリーズに比べると多少重量感はあるものの、ボディデザインのおかげか、思っていたよりは重く感じることはなかった

それよりも、この厚さによって得られた“恩恵”に魅力を感じる。まず、ヘッドホン出力が大幅に強化されていることだ。DACに旭化成エレクトロニクス社製「VERITA AK4490」を1基搭載しているのは「AK300」と同等だが、アウトプットレベルにハイゲイン(ノーマル/ハイの2段切替)を用意することで、アンバランス4.0Vrms/バランス7.0Vrmsへとパワーアップ。これは、「AK380」に専用アンプ「AK380 AMP」を装着した時に近い数値で、高級ヘッドホンにも十分対応しうる駆動力だ。

また、ヘッドホン出力とは別系統/別コネクターによる、3.5mmアンバランス&2.5mmバランスのライン出力を用意。既存モデルとは異なり、ヘッドホン出力から独立した回路構成を持つため音質的にも有利となっている。また、アンバランスは4段階の出力変更ができるなど、さまざまな機器に無理なく接続できる配慮もされている。

このように「KANN」は、DAPとポタアンを一体化したうえに専用のライン出力も用意されており、屋外でも自宅でも1台のDAPで済ませたい人にとっては、なかなかに魅力的な製品に仕上がっている。

本体上部に並ぶオーディオ出力端子。ヘッドホン出力、ライン出力ともに3.5mmアンバランスと2.5mmバランスの2系統の端子を用意している

恩恵はこれだけではない。Astell&Kernとしては初となるUSB-C端子の採用と同時に、充電&デジタルアウト用のMicroUSB端子も併設して使い勝手をよくしていたり、microSDカードに加え、SDカードスロットも用意して2枚差しが可能だったりと、便利さに欠けては同ブランド随一といっていい内容となっている。

加えて、6200mAhという大容量のリチウムポリマーバッテリーを搭載し、最大14時間の再生ができるようになった点も嬉しいかぎり。10mm程の厚みが増えただけとは思えない、メリットがてんこ盛りとなっているのが「KANN」ならではの魅力といっていいだろう。

本体下部には、USB Type-C端子とmicro USB端子、microSDメモリーカードスロット、フルサイズのSDメモリーカードスロットを用意。2つのUSB端子を用いれば、本体充電を行いながら、USB DAC機能やOTGケーブルを使ったUSB出力機能も利用できるなど、コネクティビティはなかなかのものだ

もちろん、サウンド面でも抜かりはない。200Femto秒という低ジッターを実現したVCXOクロック(電圧制御水晶発振器)を搭載してピュアなサウンドを再生するほか、最大384kHz/32bitのリニアPCMまでのネイティブ再生に対応。リニアPCM変換ながらもDSD256(11.2MHz/1bit)にも対応しているなど、将来にわたって十分なスペックの高さも持ち合わせている。

ユーザビリティ面でも、Wi-Fi経由でパソコンやNAS内の音源が再生可能なDLNA機能「AK Connect」やBluetoothのaptX HDコーデックへの対応、トランスポートとしてもDACとしても使用可能など、最新モデルと同等の機能性を持ち合わせている。文句の付けようのない、充実した内容だ。

とはいえ、肝心なのはそのサウンドだろう。ということで、早速試聴を行ってみた。まずは、DITA「Dream」を接続して試聴してみる。こちらの製品、陰影に富んだ深みのあるサウンドが魅力のカナル型イヤホンだが、アンプ側にある程度の駆動力を求める傾向がある、やや組み合わせに注意を払わなければならない製品だったりする。そんな「Dream」が、「KANN」との組み合わせでは十分になってくれている。ライドは煌びやかな、チェロはややくすんだ深みのある、そしてピアノは響きの美しい音色を聴かせてくれる。抑揚表現の緻密さに対して、解像度感がもう少し欲しい気もするが、それほど違和感はない。それよりも、心地よい、それでいてしなやかな音色の表現に感心した。

実は、原稿を書きながら3時間ほど続けて(ボリュームをやや抑えめにして)聴いていたのだが、その間ずっと“気持ちよく”音楽を楽しむことができたのだ。これも、「KANN」のヘッドホンアンプ部が持つ音の通りのよさと、帯域バランスのよい、かつ揺るぎない安定感のある駆動力のおかげだろう。この、奇をてらわず淡々とした音色傾向でありながら、しなやかさを持ち合わせているサウンドは、大いに魅力的だ。

続いてヘッドホンを、FOSTEX「T50RP Mk3n」を組み合わせて聴いてみる。こちらの製品、駆動力はシビアでないものの、モニターヘッドホンという生い立ちによるものか、ヘッドホン出力の特徴が顕著に顕れる性格を持ち合わせている。これを組み合わせてみても、「KANN」は帯域バランスを破綻させることなく、朗々とヘッドホンを鳴らし切ってくれる。確かに、ヘッドホンとの組み合わせも充分行けそうだ。

最後に、ORB「Clear force for DAP to AMP」を使い、自宅のホームオーディオと接続してみた。これがなかなかにいい。ヘッドホン出力で気になっていたわずかな解像感の物足りなさが解消され、バランスのいいサウンドを聴かせてくれたのだ。そのクオリティは、高級モデルとまではいわないものの、据置型製品に遜色のないレベル。充分に、ホームオーディオ用のメインプレーヤーとして、人によってはネットワークプレーヤーとして活躍してくれるだろう。

ライン出力を搭載したことで、ポータブル用途だけではなく据え置き用のオーディオ機器としても使える

ライン出力を搭載したことで、ポータブル用途だけではなく据え置き用のオーディオ機器としても使える

このように「KANN」は、ポータブルDAPとして充分に満足できるサウンドを持ち合わせているほか、ホームオーディオ用のプレーヤーとしても活用できる、クオリティの高さと機能性のよさを持ち合わせている。厚みさえ気にならなければ、とても重宝する製品だ。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

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