準備が整ったので、さっそくヘッドホンを装着し、『BLAME!』を視聴してみる。
ヘッドホンを装着して『BLAME!』を視聴
『BLAME!』の作品については改めて説明するまでもないと思うが、漫画家・弐瓶勉の同名のデビュー作をNetflixオリジナル映画、ポリゴン・ピクチュアズ制作の3DCGアニメーション化した本作。Dolby Atomosのサラウンドは音響監督の岩浪美和氏によって手がけられ、期間限定で劇場でもDolby Atomosで上映された、ネット配信ながら映画としての音響が作り込まれた作品だ。
まず、『BLAME!』冒頭の階層都市の地下空間を主人公達が疾走するシーンから始まるが、特に足音の繊細なタッチの音、そしてまさしく耳元をかすめるような移動感が一気に作品世界へと誘う。
『BLAME!』の作品舞台は階層都市と呼ばれる近未来都市
©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
体験したヘッドホン自体は通常のステレオヘッドホン(ゼンハイザーとBOSEの2モデル)だが、バーチャルサラウンドであってもサラウンド空間は見事に生み出される。特に『BLAME!』は台詞もセンターのみならず位置を付けられることが多いこと、ヘルメット越しに表示される演出の効果音まで音の空間、明確な方向感を感じる。
Dolby Atomosらしい高さ方向の音の広がりを実感するのが、冒頭から約8分にあるドロドロの管の発見から鳴り響くアラーム、そしてセーフガードの襲撃を受けるシーン。頭上の位置から不安を煽るアラームと何か重厚感ある音が響き、ジリジリとした電光が頭上をかすめ、人類を排除するセーフガードが頭上方向から迫りくる。頭上を動き回り、そして飛び越えて行く動き、四つ足しで動くセーフガードの不気味なほど素早く刻まれる足音と、それに追われるスリリングさ……改めて『BLAME!』の音響の持つ作り込まれた演出に唸らされる。
セーフガードの襲撃からのシーンはスリリングな音を体感
©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
アクションらしいシーンのみならず、ドラマシーンを見ても、Dolby Atomosの演出は用いられている。個別にシーンを挙げるまでもなく階層都市という『BLAME!』の作品世界の立体感が重厚なサウンドで再現されているのだから、作品のどこを聞いてもDolby Atomosの効果は実感できるはず。これが制作者が本来、『BLAME!』の作品のために作り上げた音響空間なのだ。
ドラマパートでも重厚に作り上げられた空間を感じる©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
『BLAME!』で体験した予想以上のDolby Atomosの効果に思わず忘れてしまいそうになるが、『BLAME!』はNetflixで当たり前に定額配信のプランで視聴できる1タイトルなのだから驚きだ。
NetflixによるDolby Atomosは第1弾の『オクジャ/Okja』、そして第2弾として今回視聴した『BLAME!』に続き、『Death Note/デスノート』(2017年8月25日)、『ブライド』(2017年12月)、『ホイールマン 〜逃亡者〜』(2017年)と目玉タイトルで続々採用されていく予定だ。
第1弾タイトルのポン・ジュノ監督作品『Okja/オクジャ』は6月28日よりDolby Atomosで配信
現時点では対応ハードウェアが「Xbox One」「Xbox One S」「LGエレクトロニクスの有機ELテレビ2017年モデル」のみしか存在しないことが導入ハードルを高くしてしまっているが、自宅で立体音響を体験できる選択肢としてNetflixの映像配信も今後面白い存在になっていくだろう。
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PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。