過ごしやすくなる秋こそ、ゆったりくつろぎつつ、いい音で好きな音楽を楽しみたいもの。最近はパソコンでしか音楽を聴かない、という人も増えているが、そんな人こそ小型のデスクトップオーディオを使ってみてはいかが? 腰を据えてじっくり聴くのはもちろん、ネットラジオなどをさりげなく流せばBGMとしても楽しめる。そうした使い方にピッタリな製品がコレ。フォステクスの2Wayバスレフ型スピーカー「P802-S」と、パーソナルアンプ「AP20d」の組み合わせだ。今回は、PCオーディオでこの製品を実際に使ってみたレポートをお届けしたい。
27型ディスプレイの両隣りに設置したフォステクスのスピーカー「P802-S」。ディスプレイの下に設置してあるのが、パワーアンプ「AP20d」。同じメーカーだからこそデザインの統一感もある
いずれも手狭なデスクトップにも置けるコンパクトサイズ。その小柄な見た目とは裏腹に、どちらもハイレゾロゴを取得し、音質も抜かりない。価格.comにおける最安価格(2017年9月8日時点、税込)は、「P802-S」が8,467円で、「AP20d」が13,824円と、どちらもお手ごろで、システム全体でも実質2万円ちょっとでスピーカー環境を手に入れられるのが魅力だ。すでにUSB DACをお持ちであれば、すぐにでもハイレゾ音源を楽しむことができる。
最近では、スマートフォンなどと合わせて使えるBluetoothスピーカーが人気だが、コンパクトな据え置き型スピーカーも根強いニーズがある。特にブックシェルフタイプの小型スピーカーは小音量での音楽鑑賞に適しており、スピーカーの近くで音楽を聴く「ニアフィールドリスニング」には、ピッタリだからだ。たとえば、書斎の机など狭い場所に置いて、小音量で本格的なサウンドを楽しむには最適な製品と言える。
FOSTEXのDIYスピーカー「かんすぴシリーズ」にラインアップされる2Wayバスレフ型の「P802-S」。スピーカーネットはない
フォステクスの「P802-S」もそんな1台だが、この製品がスゴいのは上述の通り、小さくてもハイレゾ対応ということ。元々は老舗オーディオ雑誌が付録として企画した製品なだけに、耳が肥えたオーディオファンにも「おっ、これは!」と言わせるほどの実力を持っている。そうした背景もあってか、2015年に発売された本製品は、現在でも人気がある。
特にそのコンパクトな本体サイズに注目だ。100(幅)×195(高さ)×120(奥行)mmと小さく、下写真にあるようにアップルのスマートフォン「iPhone SE」と見比べてみても、小ささがわかると思う。この筺体に、80mmコーン型ウーハーと20mmソフトドームツイーターを収めた2Way構成とすることで、ワイドレンジな再生を可能とした。再生周波数帯域は150Hz〜40kHz(クロスオーバーは4.4kHz)。低音域はあまり期待できないが、いっぽうの高音域は価格以上のスペックである。なお、この高域特性については、内部損失が高く軽量なUFLCソフトドーム振動板を採用することで実現しているという。
アップルのスマートフォン「iPhone SE」と比べてみると、「P802-S」の小ささがよくわかる。スピーカー本体の奥行は、iPhone SEの全長よりやや短いくらいで、重量は1.1kg(1本あたり)。これなら狭い机上にも置きやすい
スピーカーターミナルはプッシュタイプのバネ式(いわゆるギロチン式)。太めのケーブルは使いにくい。底面にはブチルゴム(?)のようなフットが付いている。インピーダンスは8Ωで、最大許容入力は24W
このスピーカーを鳴らすのにフォステクスがすすめているのが、同社のパーソナルアンプシリーズ。フォステクスというと、スピーカーというイメージをまず思い浮かべるかもしれないが、小型アンプも昔から手がけている。
フォステクスのパーソナルアンプシリーズには、ここで使用している「AP20d」を除いてほかに2モデルがラインアップされている。低出力(5W+5W)なアナログアンプで低価格帯の入門機「AP05」と、15W+15W出力のデジタルアンプを搭載した普及価格帯の中級機「AP15d」だ。
「AP20d」は、末尾の「d」から想像が付くようにデジタルアンプで、2017年に発売された最新モデル。上記「AP15d」をベースに電源回路や各種パーツを見直すことで音質を向上。パーソナルアンプシリーズで初めてハイレゾロゴを取得した最上位機だ。出力も20W+20Wに強化されている。
20W+20W出力のデジタルアンプを搭載した「AP20d」。ボリュームノブの右隣にあるジャックは、ヘッドホン出力ではなく、アナログ音声入力だ
本機は使い勝手のよさも特徴だ。「AP05」や「AP15d」で低音を出そうとすると、いったんチャンネルデバイダー(必要な周波数帯域を分割してから取り出す装置)を通す必要があった。これを「AP20d」では、サブウーハーと接続できるプリアウト端子を装備することで解決している。
これにより、フォステクスをはじめとした音楽専用のサブウーハーともカンタンに接続できるのだ。フォステクスではアクティブサブウーハーとして「PM-SUBmini2」も発売しており、この製品を加えれば、よりリッチな音が楽しめるわけだ。ちなみに、こうした仕様が受けてか、「AP20d」は価格.comの「プリメインアンプ」カテゴリーの売れ筋ランキングで第1位に輝いている。
プリアウト端子は本体背面に用意されている。スピーカー端子はプッシュタイプのばね式。スピーカー同様太めのケーブルは使いにくい。背面の音声入力はアナログ(RCA)1系統のみで、隣にある端子はプリアウト出力だ
同社のアクティブサブウーハー「PM-SUBmini2」。13cmウーハーを搭載した密閉型。周波数特性は40Hz〜150Hz。アンプ出力は50W。本体サイズは200(幅)×185(高さ)×233(奥行)mm、重量約3.6kg
このほかにも、電源スイッチを兼ねたボリュームノブ(右に回すと電源オン)や、入力信号がない時に自動でスタンバイモードに移行させるオートスタンバイ機能など、アンプとしての使い勝手もいい。最近人気がある中国ブランドの安価な小型デジタルアンプもなかなかの性能だが、サブウーハーを追加できる拡張性やデザイン上の統一感はさすがだ。
ちなみに、スピーカーでいい音を楽しむなら、アンプを内蔵したアクティブスピーカーでも十分だ、と思われる方もいるだろう。
フォステクスからは、「P802-S」とほぼ同じ本体サイズで、2Wayバスレフ型の音楽制作向けアクティブスピーカー「PM0.3H」も発売されている。こちらもハイレゾロゴを取得していながら、価格.com最安価格は11,540円(税込。2017年9月8日時点)と、「P802-S」+「AP20d」というスピーカー+アンプ構成より1万円以上も安い。
フォステクスの音楽制作向けアクティブスピーカー「PM0.3H」
それでも今回、あえて、スピーカー+アンプ構成にしたのは、全体としてのバランスがよかったからだ。それぞれに特化した単品モデルを組み合わせることで、比較的低予算で、見た目、機能、使い勝手、音質いずれも水準を上げられる。
たとえば、見た目。「PM0.3H」はモニタースピーカーらしい無骨なデザインなのに対して、「P802-S」+「AP20d」では、スピーカーが木目調の木製キャビネットで、アンプは梨地のブラック筺体と、デスクトップになじむデザインだ。またボリュームノブの位置についても、「PM0.3H」は背面側にあるためやや操作しにくい。もちろん、将来的な拡張性という楽しみもある。
アクティブスピーカーの中にもすぐれた製品はあるが、ハイレゾ対応で小型なものだと、意外と高価格になってくる。その点、アンプとスピーカーを分けることで、2万円台の予算でも機能や使い勝手、音質を追求できるシステムが目指せるのは大きい。
それでは、いよいよ音質レビューにうつろう。まずスピーカー「P802-S」とアンプ「AP20d」のシンプルな構成で聴いてみた。使用音源はCD音源と96kHz/24bitのハイレゾ音源。スピーカーのセッティングは、内ぶりせず平行にしている。
試聴環境。USB DACにはフォステクスの「PC100USB-HR2」を使用している
まず感じたのは、ボーカルでの定位性のよさだ。セッティングを詰めなくてもすんなりと、ボーカルがセンターにくるのが印象的。小型のスピーカーだとボーカルの存在感が希薄になることもあるが、本製品では音像は前に出てくるため、デスクトップで使うとそのスイートスポットがぴったりと重なり合う。さすがに音像が部屋全体に広がっていくような感覚はないが、スピーカーユニットと耳の高さをそろえて聴くと、なかなか臨場感のある音が楽しめる。
ユニット自体が小さいため、出せるパワーに限りはあるものの、低音域〜高音域まで音の出方のバランスがよいため、単調な感じはしない。特に高音域についてはハイレゾロゴを取得しているだけあって、バイオリンの高い音の伸びや、その音がふわっと広がり消えてゆく残響感など、時より「おっ!」と思わせられるところもあった。音の立ち上がりはやや弱めだが、どんな楽曲でも平均以上に楽しめる力を持っている。
ちなみに、アクティブサブウーハー「PM-SUBmini2」を加えてみたところ、電子楽器の重低音の再現性が高まるのはもちろん、中高音域の抜けもよくなった。ボーカルの声に厚みが増しより肉感的に聴こえてくる。セッティングも、ほとんど必要なく、手軽にサウンドを厚くできるのでおすすめだ。
スピーカー「P802-S」とアンプ「AP20d」に、アクティブサブウーハー「PM-SUBmini2」を加えた構成例。ちなみに、サブウーハーを机の上に直置きすると、振動によって机の上にあるものがカタカタとゆれることがある。アクティブサブウーハーの置き場所と置き方には工夫が必要だ
デスクトップで使えるコンパクトなスピーカーで、ハイレゾに対応している製品はさほど多くない。その中でさらに安くしたいとなると候補はより限られてくる。今回レビューした構成は、「とりあえずスピーカーでいい音を楽しみたい」という願いを十分かなえてくれる、「お手ごろ」「コンパクト」「ハイレゾ対応」を目指すデスクトップオーディオにピッタリなシステムだ。また、将来的にスピーカーやアンプを変えてグレードアップを図ったり、日常的にスピーカーケーブルをいろいろと替えて楽しんだりと、オーディオ的な遊び心もくすぐられる。
今回は、PCオーディオとして使用したが、ラインアウトを備えたCDレシーバー(オンキヨー「CRN765」など)やポータブルオーディオプレーヤーと組み合わせるのもアリ。この操作感と音質を2万円台で実現できるのは正直驚きだ。
編集部の平均体重を底上げしている下っ端部員。アキバをフィールドワークにする30代。2015年4月、某編集部から異動して価格.comマガジン編集部へ。今年こそ、結果にコミット!