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高コスパが魅力の SHANLING(シャンリン)のハイレゾDAP全機種聴いてみた

中国・深センに本社を構えるSHANLING(シャンリン)は、1988年に高級ステレオパワーアンプの製造をスタートして以降、30年を越える歴史を持つオーディオブランドだ。製品のラインアップはハイエンドオーディオ系がメインとなっていて、日本でも真空管を使用した高級CDプレーヤー「CD-T100MKII tube CD player」などがオーディオファンの間で知られているが、近年はポータブルオーディオ系にも力を入れており、特にハイレゾ対応DAPに関しては、幅広いラインアップを有している。

ここでは、超コンパクトサイズが魅力の最新モデル「M0」をメインとしつつ、全ラインアップ構成を一挙紹介していこう。

SHANLING(シャンリン)ハイレゾDAP大特集

現在、2018年8月末の時点でSHANLING製ハイレゾ対応DAPのラインアップ(日本国内で購入できる製品)は、最新モデルの「M0」をはじめとした5種類。ずいぶんと幅広いラインアップだが、これは好評なため既存モデルも併売されていてこの数になっている。そんなSHANLING製ハイレゾ対応DAPのラインアップは、3つの世代に区分けすることができる。

第1世代となるのが、「M2」と「M5」、加えて上記ラインアップ外の(現在は新品の入手が困難となっている)「M3」の3モデルだ。この世代の特徴は、カメラの操作系にヒントを得たという、上下左右、クリック、ダイヤル回転操作を一体化したインターフェイスを採用していること。これがなかなかに秀逸で、いちど操作に慣れてしまえばかなり扱いやすい。タッチパネルがない不満を感じさせない、よく考えられた操作系だ。筆者の所有していた「M3」はクリックのストロークが長めのことがあったが、「M2」や「M5」ではその点が改善され、スピーディーな操作が行えるようになった。

カメラの操作系にヒントを得たインターフェイスが第1世代共通の特徴だ

カメラの操作系にヒントを得たインターフェイスが第1世代共通の特徴だ

さて、肝心のサウンドはというと、この世代に共通しているのが、ポータブルDAPらしからぬ帯域バランスが整ったニュートラルなサウンド表現だ。いまではLotooなどの好例も存在するが、「M3」発売当時としてはかなりの少数派で、ホームオーディオと違和感のないサウンドを聴かせてくれる貴重な存在として重宝した。とにかく、変調のないストレートな音色表現が特徴で、解像感もしっかりと確保されているため、楽曲の魅力が素直に伝わる製品だった。筆者もいまだ現役で、時々ながらも活用している。

「M3」

続く「M2」は、「M3」のよさを生かしつつ、扱いやすいコンパクトなサイズを実現したモデル。比較的大柄だった「M3」に対してかなりの小型化が行われ、手のひらにすっぽりと収まるサイズになったことで、ポータブルDAP然とした佇まいになっている。加えて、この世代の特徴となっているダイヤルも格段に扱いやすくなっている。

音質傾向は、ゆったりとしていて、細部が見えやすい印象のサウンド。解像感はそれほどないが、表現がとても丁寧で、聴いていて心地よい。分離感も良好、ボーカルがしっかりと際立ってくれるのも好ましい。

「M2」

「M5」は、SHANLING製ハイレゾ対応DAPのなかでもフラッグシップに位置するモデルで、LR独立回路構成(AD8610×2、BUF634×2)のヘッドホンアンプ部を「M3」から受け継ぎつつ、DACにAKM(旭化成エレクトロニクス)製「AK4490」を採用しているのが特徴だ。それでいて、ボディサイズは「M2」よりほんの少し(10mm)長く(4.5mm)幅広くなっただけで、厚みは同じ(13.8mm)など、扱いやすさも維持されている。

そのサウンドは、さすがフラッグシップと呼ぶだけはあるなかなかのもの。ストレートでニュートラルなサウンド表現は「M3」とほぼ変わらないが、解像感が向上し、細部のニュアンスまでしっかりと耳に届いてくるようになった。おかげで、聴き慣れた楽曲のマスタリングがちょっと変更されたかのように、「こんな演奏が入っていたんだ、いままで聴き流していたかも」といったような、新たな発見をいくつも感じられた。特に、空間表現の広がりは、SHANLING製DAP全モデルの中でも格別のクオリティを見せる。この、広がり缶が大きくセパレーションのよいサウンドは、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDなど音場表現に凝った楽曲を楽しむのにピッタリといえる。

「M5」

さて、続く第2世代に分類できる製品が「M1」「M2S」「M3S」だ。こちらの3モデルからは操作系が変更されていて、クリック付のダイヤルとリターンボタンの組み合わせとなり、ボディ左側には再生/停止(「M1」のみリターンボタン)、曲送り、曲戻しボタンが配置された。また、3モデルともにボディ右上に大きめのアールが用いられた丸みのあるデザインに変更されるなど、操作系も含めて一般的な印象となった。その分、個性がやや控えめとなったのも確かだ。

この世代の音質的な特徴は、SHANLINGらしい良質サウンドへのこだわりを維持しつつ、ユーザビリティのよさとコストパフォーマンスの高さの両立を目指したことだ。

結果、「M1」という小型モデルを生み出し、同時に「M2S」というコストと音質が巧みにバランスしたモデル、「M3S」という2.5mmバランス出力を搭載した音質追求モデルという、特徴のある3製品が生み出されている。なお、外観については「M1」が独自のダイヤルを採用したりボタンのレイアウトが異なっているが、「M2S」と「M3S」は上下の長さが27mmほど異なるだけで、基本的なデザインは変わらない。

実際に、この3台では音質面での特徴も異なっている。サウンドキャラクターは、これまでのSHANLING製DAPのイメージから外れてよりポップ系にシフトしたイメージ。パワフルでキレのある音をもち、締まった低域の恩恵もあってノリのよいリズミカルな演奏を聴かせてくれる。解像感は価格相応、音場的な広がり感も弱いが、こういった塊感のあるサウンドが好きという人も少なからずいるはず。音の好みさえあえば、扱いやすいコンパクトさも含めなかなかに重宝してくれるプレーヤーだと思う。

「M1」

いっぽう「M2S」は、「M2」より大幅にコンパクトなボディサイズを実現しながらも、なかなかに良質なサウンドを聴かせてくれる。丁寧な表現と、しっとりとした落ち着きのある音色が特徴のHi-Fi系と呼べるサウンドキャラクターを持ち合わせている。おかけで、オーケストラの演奏などを聴いても、細部までしっかりと見通せる良質さを持ち合わせている。音色傾向で大きく変化したため単純な比較はできないものの、「M2」に対して格段にコンパクトなボディサイズを実現しつつ、音質的にも歪み感の少なさなど、基礎体力の部分でハッキリとした向上が見られる。とはいえ、「M2S」がいいか「M2」がいいかは、単純に音の好みかボディサイズ次第かもしれない。

「M2」

「M3S」は、低域がややファットな傾向を持つ、迫力のよいサウンドを聴かせてくれる。SHANLING製DAPのなかでは珍しく、ややウォーミーな歌声が楽しめるなど、雰囲気重視のムードあるサウンドにまとめ上げられている。ソウル系の楽曲は臨場感がマシマシになっていたりするし、ポップス系はボーカルが一歩前に出てきてくれたかのような強い存在感を示してくれるため、聴いていてとても楽しい。とはいえ、そこはSHANLINGのこと、あくまでも屋外での低域痩せを気にした程度のレベルだし、ウォーミーさも原音のイメージを損なわない絶妙なバランスを保っている。「M5」のクリアさ、繊細さにはいま一歩及ばないものの、音楽を雰囲気よく聴かせる「M3S」の方が好ましいと思う人も少なくないはず。どちらを選ぶかは、あくまで好みの話になるだろう。

「M3S」

「M3S」

そして、第3世代の製品となるのが最新モデル「M0」だ。

SHANLING製DAPのなかでも最小となる40(幅)×45(高さ)×13.5(奥行)mmというボディサイズ(重量は約38gとこちらも驚くべき軽さ)は、他社製(のハイレゾ対応DAP)を含めても類のない世界最小クラスといえるもの。インライン(DAC内蔵)ヘッドホンアンプと間違えるほどのミニマムサイズだ。さらに、その前部には1.54インチサイズのLG社製タッチパネルモニターを採用し、刷新されたメニューと相まって、確実で分かりやすい操作感を実現している。

「M0」

実際、このサイズでありながら筆者でもスムーズに操作できるピュアジェスチャーコントロールなる感度調整は絶妙といえるものだし、タッチパネル長押し→ホームボタンなどの分かりにくい操作についても使い始めの時に注意事項として表示されるため、手に取ってすぐに使い始めることが可能だった。過去のノウハウの蓄積もあるのだろうが、こと操作系については大きな進化がもたらされた印象だ。

また、こんなにも小さなボディサイズでありながら、多様な機能性を持ち合わせているのも「M0」の魅力だ。まず、ヘッドホン出力は一般的な3.5mmステレオ端子を搭載。これに加えてBluetooth接続も用意されており、コーデックはSBCやAAC、aptXに加えて、ハイレゾ級の良音質を送信できるLDACにも対応している。さらに、双方向伝送をサポートし、ワイヤレスレシーバー(この場合他のプレーヤーから音声信号を受信するBluetoothヘッドホンアンプ)としても使用可能(受信に関してはファームウェアバージョン2.0よりAACとLDACに対応、aptXは非対応)というから驚きだ。

いっぽうで、充電やデータに利用されるUSB TypeCは、USBデジタル入出力もサポートしており、OTGケーブルを使いデジタルトランスポートとして外部アンプへ出力したり、USB DACとして外部音源からのデジタル入力を受け付けることができる。このサイズ、この価格で、ここまでの多機能製を持ち合わせているのは嬉しいかぎり。ミニマムなサイズとも相まって、さまざまなシチュエーションで活用できそうだ。なお、連続再生時間は約15時間とかなりの長時間使用が可能となっていて、さらに充電が約2時間で済んでくれるのもありがたい。

USB Type-Cで充電も高速。USB DACとして使用することもできる

USB Type-Cで充電も高速。USB DACとして使用することもできる

さて、DACにESS社製「Sabre ES9218P」が搭載された「M0」の音質はというと、中域重視の帯域バランスとダイナミックな抑揚表現とが合わさることで、清々しい印象を持つサウンドを聴かせてくれた。解像度感は(価格を考えれば充分以上だが)それなりで、メリハリの表現もちょっとラフなイメージがあるが、普段より幾分ダイナミックな表現に感じられることもあってか、ハードロックなどはキレが増した演奏に感じられ、ライブ音源の臨場感が高い。ピアノの音の伸びやかさに欠ける嫌いがあるものの、ボーカルはしっかりとした声の厚みを持つなど、全体的には耳馴染みのよい、聴きやすいサウンドとなっている。ほどよい音質のサウンドを手軽に持ち運べ、いざというときにはさまざまな活用ができる超便利DAP。なかなかの優れものといえるだろう。

最後に、今回の試聴にはメインのイヤホンとしてFitEar「EST Universal」を使用して各モデルのサウンドチェックを行った。さらに、駆動力の高さをチェックするためFOSTEX「T50RPmkIII」も利用したが、ヘッドホンとの相性が比較的よかったのは「M3」「M3S」「M5」の上位3モデルに集まってしまった。これはひとえにヘッドホンアンプ部、3モデルでほぼ共通している。「AD8610」+「BUF634」の左右独立配置による恩恵が大きいのだと思われる。もし、ハイレゾ対応DAPでもヘッドホンをよく利用する人は、この3台のいずれかから選び出すことをオススメしたい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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