2018年12月1日、日本のテレビ放送の歴史に新たな1ページが加わる。世界に先駆けた「4K/8K実用放送の開始」だ。もちろん単に「4K」と言うだけなら、すでに4K対応のテレビが出揃っているし、124/128°CSや、ケーブルテレビおよびIPTVによる4Kコンテンツの放送・ネット配信もスタートしている。「もう4Kなんてめずらしくないでしょ」という声も聞こえてきそうだ。
しかし、この12月に始まる4K放送は、BS/110°CS衛星放送波を用いた「基幹放送」という点でこれまでの4Kコンテンツと大きく異なる。現在の地上デジタル放送のように「普通の放送」に、4K/8Kが加わる点が新しい。そしてNHKおよび民放キー局が、それぞれのチャンネルを確保して番組を放映する。そう、テレビ放送は、4Kが標準という時代になろうとしているのだ。
それでは、そんな「新4K8K衛星放送」を視聴したい場合は、どうしたらよいのか? ここでは、その概要を解説しつつ、新4K8K衛星放送を視聴するために必要な機器や設備をまとめて紹介しよう。
BS/110°CS衛星放送波を用いた「基幹放送」として新しい4K/8K放送が加わる!
新4K8K衛星放送のメリットを簡単に言うと、従来の地上デジタル放送(フルHD(2K)/1,920×1,080 ※実際の放送解像度は1,440×1,080)に比べて「高精細」(高画質)なテレビ放送が楽しめるという認識でよい。くわしくは過去記事「テレビは早くも4K超え! 8Kって何がスゴいの?徹底解説」(→詳細はこちら)を参照いただきたい。解像度が高くなると、大画面でも画素のツブツブが気にならず、細部まで緻密な映像が楽しめるようになる。
フルHD(2K)、4K、8Kの画質の差イメージ(画像出典:シャープ製品サイトおよびTwitterより)
細かく見ていくと、4K/8K映像にはさまざまな進化ポイントがある。BT.2020色域をサポートすることによる広色域化や、10bit化によるなめらかなグラデーションといった点があげられるが、特に注目したいのは映像フレームレートの「60p化」である。
60pとは、1秒間の映像がまるまる60コマで構成される状態で、従来の地上デジタル放送(60i/インターレース)に比べて2倍の情報量を持つ。そのため、動きのある映像がよりなめらかになって精細感もアップする。専門家の間では、新4K8K衛星放送のメリットとして、2Kが4Kになる以上に60p化による高画質効果のほうが大きいという声もあるほどだ。
新4K8K衛星放送を録画することは、原則として可能だ。ただ、放送事業者側が録画の可否や録画回数の制限などを設定するので、コンテンツによって録画ルールが異なる場合がある。
ちなみに映像の暗号化は、2K時代よりも強固な新方式のCASが採用されている。2K放送ではテレビにB-CASカードを挿入していたが、4K/8K放送では新しいCAS規格のICチップを受信・受像機器に搭載(あるいは外付け)する仕組みとなる。くわしくは過去記事「B-CAS? ACAS? デジタルテレビ放送を見るのに必要な「CAS」って何?」(→詳細はこちら)を参照いただきたい。
新4K8K衛星放送に対応する新しいCASは、従来のB-CASカード方式ではなくICチップ化されてテレビ内に組み込まれる形となった。写真は、BS/110°CS 4K受信チューナーを搭載する東芝の4Kテレビで、ドングル化された新CASが装着される
4K放送を実施予定の放送事業者はいくつかあるが、従来の民放キー局は全て名を連ねている。該当するチャンネル名とあわせて書き出すと、NHK SHV 4K(NHK)、BS日テレ(日本テレビ放送網)、BS朝日(テレビ朝日)、BS-TBS 4K(TBSテレビ)、BSテレ東(テレビ東京)、BSフジ(フジテレビジョン)と、なじみ深い名前ばかり。そう、まさに「普通のテレビ」が4Kになるのだ(ただしBS放送に限る。BS日テレのみ2019年12月スタート)。
新4K8K衛星放送を実施予定の放送事業者一覧(画像はクリックで拡大)。くわしくは、総務省のサイトを参照(http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/housou_suishin/4k8k_suishin/about.html)
では、新4K8K衛星放送を視聴したい場合、われわれ視聴者側はどのような環境を準備すればよいのだろうか。
一般に、衛星放送を視聴するには、自宅や集合住宅単位で皿形のパラボラアンテナを設置して受信するのが基本となる。このほか、ケーブルテレビやIPTVなどの事業者を経由する方法もある。
まずは、基本となるパラボラアンテナでの新4K8K衛星放送受信について解説しよう。押さえておきたいポイントは、衛星放送の送出に用いられる「右旋円偏波」と「左旋円偏波」だ。
NHKや民放キー局系列の新4K衛星放送は、電波が衛星から「右旋」で送出される。これは、従来のBS/110°CS衛星放送と同じ方式だ。なので、以前からパラボラアンテナを利用してBS/110°CS放送を視聴していた家庭なら、そのままの状態で、本年12月からNHKや民放キー局系列の新4K衛星放送も受信できるようになる(BS日テレのみ、2019年12月スタート)。
ケーブルテレビやIPTVも基本的には同様と考えてよいが、こちらは事業者や方式によって受信の可否が異なるので、詳細は加入しているサービス提供会社に確認すると確実だ。
新4K衛星放送のうち、SCサテライト放送(テレビショッピング)、QVCサテライト(テレビショッピング)、東北新社メディアサービス(主に映画)、WOWOW(映画やスポーツ)は「左旋」電波を用いて放送される。また、現時点で唯一の新8K衛星放送であるNHK 8Kも同じく「左旋」だ。
これらのチャンネルも視聴したい場合は、右旋と左旋の両方に対応したパラボラアンテナを設置する必要がある(※衛星放送で用いられる円偏波は、時計回りの右旋と反対回りの左旋があり、両方を利用することで、限りある電波を効率よく利用することができる)。
右旋円偏波と左旋円偏波の受信に対応するマスプロ電気のアンテナ「BC45RL」。該当するアンテナ製品には「4K/8K対応」などと記載されているので、簡単に見分けることができる
また、左旋で受信した電波は屋内で、従来の衛星放送(右旋/2GHz程度まで)より高い約2GHz〜3GHzの周波数で伝搬する。そのため、原則としてブースターや屋内配線なども左旋に対応した設備が必要になるので注意が必要だ。
なお、アンテナ、ブースター、屋内配線を左旋対応品に交換する際は「SH」マークが目印になる。SHは「Super Hi-Vision」の頭文字で8Kを意味しており、8K放送がきちんと受信できるアンテナ、ブースター(増幅器)、分配器、壁面端子、混合器・分波器として、その性能がJEITAで審査・登録されたものに付与される認証マークである。「SH」マークを目印に選べば安心というわけだ。
高い周波数の電波は伝送経路で漏れやすく、減衰して受信不良に繋がるほか、漏洩電波がWi-Fiや携帯電話の電波を妨害する恐れもあるので注意が必要。左旋対応環境を構築する際は「SH」マークを目印にしよう
さて、パラボラアンテナ等の放送受信環境を整えたら、次は新4K8K衛星放送の受信に対応したテレビやチューナーなどの機器が必要となる。
新4K衛星放送に関しては、すでにサービスが始まっている124/128°CS衛星やケーブルテレビおよびIPTVによる放送・ネット配信などと区別するため、業界では「新4K放送」「BS4K」「110°CS 4K」などの名称を使っている。機器を購入する際にチェックしよう。
新4K衛星放送のロゴマーク。こちらが付いているテレビやレコーダーなどを選ぼう
2018年発売のテレビ製品のうち、一部は新4K衛星放送受信チューナーを内蔵している。2018年10月16日時点で発表されている製品ラインアップを以下にご紹介しよう。
【東芝】
・「REGZA X920」シリーズ(4K有機ELテレビ)
・「REGZA Z720X」シリーズ(4K液晶テレビ)
・「REGZA BM620X」シリーズ(4K液晶テレビ)
・「REGZA M520」シリーズ(4K液晶テレビ)
【三菱】
・「REAL RA1000」シリーズ(4K液晶テレビ)
【シャープ】
・「AQUOS AN1」シリーズ(4K液晶テレビ)
・「AQUOS AL1」シリーズ(4K液晶テレビ)
このほかにパナソニックも、4Kテレビ“4K VIERA”の新モデルとして、BS/110°CS 4K受信チューナー搭載モデルを2019年1月に発売することを予告している。
4Kチューナー非搭載の4Kテレビをすでに所有している家庭向けに、外付けタイプの「BS/110°CS 4K受信チューナー」単体機も登場している。今ある4Kテレビに接続すれば、4K放送をHDMIケーブル1本で楽しむことが可能だ。別売の外付けUSB-HDDを接続して、4K番組を録画できる機能を搭載した製品が多い。
【東芝】
・「TT-4K100」
【ソニー】
・「DST-SHV1」
【ピクセラ】
・「PIX-SMB400」
【パナソニック】
・「TU-BUHD100」
【シャープ】
・「4S-C00AS1」
もちろん、「BS/110°CS 4K受信チューナー」を内蔵したレコーダーも登場予定。レコーダーを受信チューナーとして利用するのもよいだろう。
【パナソニック】
・「DMR-SUZ2060」
【シャープ】
・「4B-C40AT3」
・「4B-C20AT3」
ちなみに、解像度やHDR(HLG)に関係なく、ただ番組を視聴したいだけなら、2Kテレビに4Kチューナーやレコーダーを接続する方法もある。解像度は4Kから2Kにダウンコンバートすることになるが、元映像の情報量が多いので2Kでの画質向上が期待できる。
2018年12月時点では「NHK 8K」1局だけのサービスではあるが、機材を整えれば、世界初の8K実用放送が楽しめる。アンテナや屋内配線は、先述の通り「8K」対応が必要だ。テレビやチューナー製品のラインアップはいまだ限られ、現時点ではシャープからのみ登場している。
【シャープ】
・「AQUOS AX1」シリーズ (BS/110°CS 4K/8Kチューナー内蔵8K液晶テレビ)
・「AQUOS AW1」シリーズ (BS/110°CS 4K/8Kチューナー非内蔵8K液晶テレビ)
・「AQUOS X500」シリーズ(BS/110°CS 4K/8Kチューナー非内蔵8K液晶テレビ)
・「8S-C00AW1」((BS/110°CS 4K/8K受信チューナー単体)
なお、BS/110°CS衛星波は8K放送で15ch分の余力がある。今後、8K放送チャンネルが増える見込みは十分にあるので楽しみだ。
そのほか、新4K8K衛星放送は、戸別のパラボラアンテナを使用しないケーブルテレビ等での視聴方法も検討が進められている。アンテナが設置しにくい家庭や、初期費用を低減したいユーザー向きの方法だ。
ケーブルテレビは、加入可能な各地域の事業者によって詳細が異なってくるが、パススルー方式であれば、宅内での扱いは個別のアンテナ受信と同等。右旋による主だった4Kチャンネルは問題なく受信できる。
注目は、光ケーブルを用いるフレッツTVおよび同回線を利用する各種サービス。利用料金は必要になるが、戸別にアンテナが不要なことに加え、屋内配線も改修が不要な見込みだ。その理由は、左旋(2GHz〜3GHz)に相当する電波を変換して770MHz以下の空き部分に埋め込み、専用アダプターで元に戻せる仕組みを提供するから。アダプターを家庭内の各テレビやチューナーの直前に設置する場合、屋内配線の改修も不要にできるというわけだ。
ケーブルテレビ事業者の中では、すでにジュピターテレコム(J:COM)が、12月1日のサービス開始と同時にBS 4K放送の再送信を行うことを告知している。4K対応の新しいセットトップボックスの設置が必須となるが、従来の提供サービスと同じ月額料金4,980円(税別/J:COM TV スタンダードの場合)で、新4K衛星放送番組の視聴が可能となる(4K対応STBの月額利用料は別途必要)。別途アンテナやテレビに外付けチューナーを使用しなくてもよいのが大きなポイントだ。また、VODやYouTubeの4Kコンテンツも視聴できる。
基幹放送としてスタートする新4K8K衛星放送だが、あくまでも追加のチャンネルであり、現在主流の「地上デジタル放送」は、今後も継続して提供される。この点が、アナログ放送が完全に終了して、地上デジに移行したときとは大きく異なっている。なお注意事項としては、新4K8K衛星放送を目前に、「アンテナ工事が必須」かのような話を持ちかける悪徳業者の登場も予想できるので、そうした事態に対処するためにも、正しい知識を習得しておきたい。
オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。