レビュー
ゼンハイザー「BT T100」とSHANLING「UP2」を使ってテスト

トランスミッターとレシーバーをaptX LLで統一すると、"映像と音のズレ"がなくなる!

Bluetoothオーディオと「レイテンシ」の関係

クアルコム「aptX LL(Low Latency)」

機器間をワイヤレス接続することはいまや当たり前で、"どうやればつながるか"の数歩先にある"どうやれば質を高められるか"に関心を持つワイヤレス実践者が増えてきた。購入前の品定めでも、対応するコーデックは何か、接続予定のデバイスとどのコーデックでつながるかは重要なポイントであり、そこをないがしろにしては製品のポテンシャルを生かしきれない。

Hi-Fi用途のBluetoothオーディオ(A2DP)に限定していえば、音質という切り口ではソニーの「LDAC」やクアルコムの「aptX HD」がハイレゾ相当 -- ロッシーだが48kHz/24bit以上の情報量を持つ -- ということで、半ば定番化している。確かに、この2つのコーデックはカバーする帯域/情報量という点で確かな効果が期待できる。

しかし、Bluetoothオーディオには「レイテンシ(遅延)」という悩みどころもある。映画を見れば俳優の口もとと台詞がズレて聞こえ、ゲームをすればキャラクターの動きから微妙に遅れて効果音が聞こえる。なんともいえぬ違和感があるし、タイミングが命の"音ゲー"に至っては致命的な欠陥になってしまう。

無線通信とコーデックによる音処理をともなう都合上、Bluetoothオーディオでレイテンシの完全解消は難しいが、コーデックを選べば緩和することはできる。2019年現在、その有力な選択肢は「aptX LL(Low Latency)」だ。Bluetooth/A2DPで必須とされるSBCは220ミリ秒前後、iOSデバイスなどに採用されるAACは120ミリ秒前後のところ、aptX LLは40ミリ秒前後。組み込まれた環境/ソフトウェアによって多少上下するとはいえ、ことレイテンシに関してはaptX LLの優位性は圧倒的といえる。

このaptX LL、映像鑑賞やゲーム用にレイテンシを抑えるべく「aptX」をベースにクアルコムが開発したもので、位置付けとしては上位互換。そもそもaptXというコーデックは、小さな単位のオーディオデータを順次伝送し、まとまった処理単位(Bluetoothパケット)になる前にデコードを行なうため遅延が少ないのだが、aptX LLではパケット処理の効率化をさらに進めたことでより低遅延を実現している。

問題は対応デバイスの少なさで、対応するスマートフォン/DAPはあまり見かけない。aptX LL対応をうたうワイヤレスヘッドホンも、出回り始めたものの多いとはいえない。テレビもaptX LLどころかBluetooth出力可能な製品は少なく、映画やゲームを「ワイヤレス&低遅延」で楽しめる環境はなかなか手に入らない。

そんな状況にタイミングよく登場した新製品が、ゼンハイザーの「BT T100」との「UP2」。前者は入力用端子として光デジタル(S/PDIF)とステレオミニ各1基を装備、その音声をBluetoothで飛ばすトランスミッターとして動作する。後者は出力用端子としてステレオミニを1基装備するBluetoothレシーバーだ。どちらもaptX LLに対応、テレビの音声を低遅延&ワイヤレスでイヤホンに出力できる。前置きが長くなったが、この組み合わせでテレビの音声がワイヤレス&低遅延で楽しめるか検証してみよう。

ゼンハイザーのaptX LL対応Bluetoothトランスミッター「BT T100」

ゼンハイザーのaptX LL対応Bluetoothトランスミッター「BT T100」

SHANLING のaptX LL対応Bluetoothレシーバー「UP2」

SHANLING のaptX LL対応Bluetoothレシーバー「UP2」

気になる「音のズレ」がない!

BT T100のセットアップはかんたんそのもの。大半の薄型テレビは裏面に光デジタル端子を備えているはずなので、付属の光デジタルケーブル端子でBT T100と接続すればOK。電源にはUSB Micro-Bを利用するが、薄型テレビの空きUSBポートを使えばいい。ボディは高さ3cmだからテレビ下のスペースに収まるはずだ。テレビのUSBポートから電源を取るため、テレビの電源をONにすることも忘れずに(そうしないとBT T100に電源が供給されない)。

2系統ある入力端子(光デジタル/ステレオミニ)のうち光デジタルでテレビと接続する

2系統ある入力端子(光デジタル/ステレオミニ)のうち光デジタルでテレビと接続する

続いては、UP2とのペアリング。両製品ともディスプレイを持たないため、設定作業に難儀するかと思いきや、どちらもペアリング待機状態にしたところ自動的にあっけなく接続された。ただし、LEDの点灯ではわかりにくいため、あらかじめUP2側にイヤホンを接続しておくと流れる「Pairing Successful」などの音声を目印にした。

あとは、BT T100背面にある入力切り替えスイッチを光デジタル側に切り替えればOK、これでUP2に接続したイヤホンからテレビの音が聞こえるようになる。ボリュームはUP2の側面に用意されたダイヤルで調節すればいい。

BT T100とUP2の通信にどのコーデックが利用されているかは、UP2表面のLEDを見ればわかる。aptX LLで通信している場合には紫(SBCは青、AACは水色、LDACは緑、aptX HDは黄色)で点灯するのだ。特に使い始めはどのコーデックでつながっているか疑心暗鬼になりそうなだけに、ありがたい機能といえる。

aptX LL接続時には、LEDが紫色で点滅する

aptX LL接続時には、LEDが紫色で点滅する

肝心のレイテンシだが、aptX LLとそれ以外とでは明らかに違う。録画した地デジのバラエティ番組やAmazon Primeの動画コンテンツをひと通り試してみたが、UP2/aptX LLで聴くかぎりは口もとの動きと聞こえてくる声に違和感はなく、遅延らしい遅延は感じない。アクション映画の爆発シーンやクルマが衝突する場面も、完全にシンクロしているように聞こえる。Amazon Primeで公開中の「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル シーズン7 エピソード1」を最初の5分ほど鑑賞したが、出演者の声と口もとにズレらしいズレは感じなかった。

しかし、SBCのみサポートするBluetoothイヤホンをBT T100とペアリングして同じコンテンツを再生してみると、今度は明らかに違和感がある。画と音が数フレームほどズレて聴こえるのだ。aptX LLでテストして違和感なかった「HITOSHI MATSUMOTO〜」も、冒頭で吉本興業のスプラッシュが現れた時点からズレており、笑顔のアニメーションとパクッという効果音がかみ合わない。その後のトークもコンマ数秒ほどのズレがあり、気になって仕方なかった。これでは、せっかくのコンテンツも台無しだ。

ポテンシャルの高い2製品

今回のレビュー最大の目的である「ワイヤレス&低遅延」は、aptX LLをサポートするBT T100とUP2の組み合わせで確かに実現されていた。しかし、このままではaptX LLの接続検証で終わってしまうため、今回チョイスした製品ならではの長所と使用感についても触れておきたい。

UP2を選んだ理由は、新製品ということもさりながら、この1年ほど外出時に利用しているSHANLING「M0」への信頼があることが大きい。DACチップには同じ「ESS Sabre ES9218P」(ヘッドホンアンプ内蔵型)を採用、なりは小さいがしっかり腰の座ったサウンドを楽しませてくれる。出力インピーダンスは0.25Ωと低く、出力電圧も67mW(32Ω時)とイヤホン用としては余裕がある。それを55(幅)×27(高さ)×12(奥行)mm/26gというボディサイズで実現、バッテリーもスタンバイモードで200時間・再生モードで11時間という力強さだ。

3.5mm端子のイヤホンを自由に選べる

3.5mm端子のイヤホンを自由に選べる

USB Type-C端子は充電だけでなく、PCと接続しUSB DACとして利用することも

USB Type-C端子は充電だけでなく、PCと接続しUSB DACとして利用することも

音質傾向は「ソリッド」という言葉がピタリとくる。手持ちのM0をBluetoothトランスミッターモードにしてLDACで接続したところ(M0は再生音をLDACで送信できる)、イヤホンを直接M0につないだときとまったく同じとまではいかないものの、低域の解像感がしっかり伝わる。ハイレゾ音源らしい中高域のつや・光沢があり、S/Nも上々。これでBluetoothか、というのが端的な感想だ。

マルチファンクションホイールの操作性もいい。ボリュームは64段階に細かく調整できるうえ、約3秒長押しすれば電源オン/オフできる。スマートフォンなどAVRCP対応デバイスとペアリングしたうえでの機能になるが、シングルクリックで曲の再生/停止、ダブルクリックで次の曲、トリプルクリックで前の曲など、音楽再生に関する操作のほとんどをこれひとつで済ませることができる。取り外し式クリップケースが付属するため、屋外への持ち出しも気軽だ。

いっぽうのBT T100は、小さいながらも据え置き型ということで、テレビ近くに設置して利用することになるが、薄いため設置性が高く、濃いグレーのボディはベゼルが黒いテレビにも色調がマッチする。デザインもシンプルで質実剛健、安っぽさがない。テレビの空きUSBポートから電源を取れることもあり、すっきりとレイアウトできるはずだ。

そしてもうひとつのポイントが、同時に最大2台のBluetoothオーディオ機器に音声を出力できること。残念ながらaptX LL接続時の2台同時出力はできないが、それでもSBC/AACと比較すれば遅延が少ないaptXで出力できるので、深夜2人で近所迷惑にならないようイヤホンで映画を楽しむ、といった使い方が可能になる。これはこれで、おすすめのユースケースだ。

海上 忍

海上 忍

IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。

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