日本の音楽ファンにも“サブスク”こと定額音楽ストリーミングサービスで音楽を聴くリスナーが増えてきたが、その波は音質重視のHi-Fiオーディオ愛好家にも急拡大している。
原動力は昨年9月にアマゾンが既存のAmazon Musicを最大192kHz/24bitの“Ultra HD”音質にまで拡張した「Amazon Music HD」のサービスインと、昨年11月25日に始まったソニー・ミュージックエンターテインメントによる最大96kHz/24bitまで対応した高音質音楽ストリーミングサービス「mora qualitas(モーラ クオリタス)」の存在だ。
Amazon Musicの高音質版「Amazon Music HD」。月額料金はプライム非会員では月額980+1,000円の1,980円、プライム会員は月額780+1,000円の1,780円
ソニー・ミュージックエンターテインメントによる高音質音楽ストリーミングサービス「mora qualitas」。月額2,178円
世界的に音楽ストリーミングサービスが広がる中、ブームの流れに逆らうように日本は“ハイレゾ”のダウンロード販売が強い国だったが、ここにきてその流れが大きく変わっている。Amazon Music HD、mora qualitasはすべての楽曲がCD音質相当のロスレス以上、さらにAmazon Music HDでは総曲数6500万曲、mora qualitasも500万曲以上が高音質なハイレゾ音源だ。高音質と定額聴き放題の利便性が両立したのだから当然のことだろう。
今回は、そんなAmazon Music HDとmora qualitasを高音質に聴くために必要な機器をリスニング環境別に紹介していこう。
Amazon Music HD、mora qualitasとも専用ソフトを公開し、最も再生環境が整備されているのがPC/Macによるリスニングだ。PCを中心とした高音質音楽リスニングの定番が、PCのUSB端子に高音質のヘッドホン出力を増設するUSB DACによる再生。手持ちの有線ヘッドホン・イヤホンで高音質にリスニングする環境を整えられるし、USB DAC経由でHi-Fiオーディオのシステムに接続することもできる。
Amazon Music HD、mora qualitasをリスニングするUSB DACについては、ハイレゾ対応であれば特別な機能は必要ない。ハイレゾリスニング用にUSB DACを購入した人や、DAPのUSB DAC機能も流用可能だ。mora qualitasは他のアプリケーションの影響を受けず高音質に出力する排他モードに初期から対応、Amazon Music HDも4月後半にようやくアップデートで排他モードに対応し、専用ソフトで高音質に聴く環境も整いつつある。
Amazon Music HDはユーザー限定で排他モードをテストしていたが、4月後半にようやく排他接続モードが正式実装された
mora qualitasは、単純な排他接続モードON/OFFではなく、WASAPIやASIOなどを細かく設定できる
最大384kHz/32bitのハイレゾ入力が可能なデスクトップ用のUSB DAC。コンパクトな筐体で3.5mmイヤホンジャックだけでなく、2.5mmのバランス出力、光/同軸デジタル出力も可能だ。
オーディオコンポーネントらしいA4サイズの最大768kHz/32bit対応USB DAC/ヘッドホンアンプ。XLR/RCA出力、6.3mm、4.4mm、3.5mmと揃うヘッドホン出力と、大型ヘッドホン駆動からHi-Fiオーディオへの発展までこなすモデルだ。
自宅で音楽を聴くなら、やっぱりスピーカーで音楽を流したいという人も多いだろう。定額音楽配信全体としてはWi-Fi内蔵の一体型スピーカー、そしてAVアンプによる音楽リスニングと選択肢は広がっているが、現時点で環境が整っているのはAmazon Music HDだ。
Amazon Music HDについては、何よりアマゾン純正のスマートスピーカー「Echo Studio」を買えばワンボディで揃うので簡単さは抜群。また意外にもHi-Fiオーディオの老舗ブランドのD&Mと連携しており、同社のネットワークオーディオ「HEOSテクノロジー」対応の機種ならAmazon Music HDをスピーカーで手軽に再生できるのだ。
アマゾン純正のスマートスピーカー「Echo Studio」が1台あえば、Amazon Music HDのすべての機能を利用できる
mora qualitasは公式サイトでソニーのWi-Fiスピーカー「SRS-HG10」が対応機種にあげられているが、実はPCとUSB接続した際の対応のみ。Wi-Fi経由で再生できる機種は存在しないので、スピーカーリスニングならPC接続を考える他ないだろう。
ソニー「SRS-HG10」は、パソコンとUSB接続をすればmora qualitasを楽しめる
Amazon Music HDとほぼ同時に登場したスマートスピーカーの「Echo Studio」は、まさにAmazon Music HDのためのスピーカーだ。内蔵DACは192kHzに高域周波数100kHzまでカバーするスピーカーを内蔵。Amazon Music HDの3Dのオーディオを再生する唯一のモデルでもある。Alexaによる音声操作対応も含めトータルの完成度が高い。
日本の老舗オーディオブランドのデノンによるWi-Fiスピーカー。25mmドームツイーターと89mmコーンウーハー搭載のワンボディに、のWi-Fi内蔵、そして「HEOSテクノロジー”によってAmazon Music HDを含むさまざまな音楽ストリーミングサービスをカバーするだけでなく、AirPlay 2も使える。Wi-Fiスピーカーとしてなかなか優秀なモデルだ。
Amazon Music HD対応で、オーディオ用スピーカーを自分で組み合わせられる貴重な選択肢が「HEOSテクノロジー」搭載のWi-Fi内蔵アンプ。元々75W+75Wのステレオプリメインアンプとして高音質な機種だが、外部入力、テレビ接続も可能と選択肢は豊富。ネットワーク派もHi-FiもAV派もカバーする、とても使い勝手のよいシステムだ。
Amazon Music HD、mora qualitasともスマホアプリを提供しているので、スマホによる音楽リスニングも可能だ。もちろん、普通に音楽を聴くだけならスマホ内蔵スピーカーやワイヤレスイヤホン・ヘッドホンなど機器は問わないが、ダウンコンバートを避けて高音質にこだわりたいという人に向けて、192kHz/24bitのハイレゾ音源を理想的な無劣化の条件で聴くための情報を整理しておこう。
iPhoneによるリスニングでは、Amazon Music HD、mora qualitasともにLightning端子にハイレゾ対応USB DACを接続すれば無劣化出力が可能と、実はミニマムなシステム構築に向いている。いっぽう、Androidのスマホではアプリ実装の仕様から常にサンプリングレート変換が行われるので残念ながら音質劣化はある。
iPhoneなどのiOSデバイスなら、Lightning接続対応のUSB DACを使って簡単にリスニング環境を整えられる
Bluetoothのワイヤレスは、iPhoneは元々ハイレゾ出力対応ではないし、Androidでハイレゾ級のワイヤレス伝送が可能なLDAC、aptX HDコーデック対応の機種であってもシステム上の劣化は避けられない。Bluetoothのワイヤレス部も当然劣化はあるので、無劣化に固執せずベターな環境を揃える方がいいだろう。
iPhoneのLightning端子に直結できるコンパクトな3.5mmヘッドホン出力用USB DAC。超小型ながら最大384KkHz/32bitまで対応となかなかのハイスペックだ。iPhoneで持ち歩き可能な環境でAmazon Music HD、mora qualitasのハイレゾ高音質を聴く用途にピッタリな1台といえる。
スマホ等と重ねて持ちやすい薄型デザインのUSB DAC内蔵のポータブルヘッドホンアンプ。最大で384kHz/32bit対応のアンプに3.5mmに加えて2.5mmバランス出力も対応。iPhoneなら無劣化で出力できるし、PC接続でUSB DACとしても利用可能。汎用性と高音質で考えると、なかなかコスパの高いモデルだ。
ハイレゾ・ノイズキャンセリング対応のワイヤレスヘッドホンの定番モデル。Bluetooth接続なので音質の劣化は多少あるが、高音質コーデックLDACへの対応と、圧縮音源をハイレゾ相当に復元する独自の「DSEE HX」で、高音質を担保できる。Amazon Music HDやmora qualitasでシステム上無劣化のハイレゾ伝送ができる訳ではないが、ワイヤレスでできる限り高音質に聴くという観点で注目したいモデルだ。
ポータブルの高音質再生で、今おもしろい位置にあるのがDAP(携帯音楽プレイヤー)だ。Amazon Music HD、mora qualitasともAndroid向けのアプリを提供しているため、最近5万円以上のミドルクラスで増えているAndroid対応モデルでは、Wi-Fi経由で両サービスにアクセスできる。Amazon Music HD、mora qualitasとも楽曲ダウンロード可能なので外出先での音楽リスニングにも支障がなく実は相性抜群なのだ。
なかでも一部のAndroid搭載のDAPは、Androidのシステムに独自にカスタマイズすることでAmazon Music HDのハイレゾ出力に対応。mora qualitasではこうした取り組みの例はまだなく、世界展開をしているAmazon Music HDならではの楽しみ方だ。
SHANLING「M6」
低価格帯から高音質のDAPを投入して人気の中国メーカーSHANLINGのフラッグシップDAPが「M6」。4.7インチの大型画面DAPでシステムOSはAndroid OS 7.1を採用。GooglePlay非対応ながらAPKPureを通してアプリインストールか可能で、Amazon Music HDのハイレゾ再生にも対応する。ヘッドホン端子は3.5mm、2.5mm、4.4mmと揃い、BluetoothはLDAC、aptX HD、HWAまでサポートする。
近年、人気急上昇の中国メーカーHiByが手がける「R5」は、Amazon Music HDを本来のクオリティで再生する機能が搭載されたDAP。画面サイズは4インチと比較的小型画面でAndroid OS 8.1搭載、GooglePlay対応とアプリ導入がしやすいのもメリットだ。こちらも3.5mmと4.4mm対応、BluetoothはLDAC、aptX HD、HWAとあらゆる高音質出力の手段が揃う多機能モデルだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。