パナソニック製のイヤホン/ヘッドホンというと、以前は純正交換用のハイコストパフォーマンス製品が目立っていたが、近年はミドル〜ハイクラスの音質重視モデルも充実しており、幅広いラインアップを取り揃えるようになってきた。また、パナソニックだけでなく、Technics(テクニクス)ブランドでも製品を展開。昨年発売された有線イヤホン「EAH-TZ700」など、こちらではさらに音質に対してこだわりを持つ特徴的なモデルが登場している。
そんなパナソニック/Technicsから、両ブランド初となる完全ワイヤレスイヤホンが登場した。Technicsで1モデル、パナソニックで2モデルが同時デビューとなったこちらの製品たち、いずれも音質や使い勝手の面でさまざまな工夫が施されていたりする。そこで、今回はこの3製品について、それぞれの特徴やサウンドキャラクターの違いにフォーカスして、レビューさせていただこうと思う。
まずはTechnicsブランドの「EAH-AZ70W」から。
Technicsブランドから発売された完全ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ70W」
イヤホン本体はメタリック塗装が施されており、高級感があるデザインだ
こちら、アクティブノイズキャンセリング機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホンで、ノイズキャンセリングや音切れの少なさなどの機能面と、音質面のどちらにもさまざまなこだわりが盛り込まれている。
まず、アクティブノイズキャンセリング機能については、独自の「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」システムを採用したのがポイントだ。これは、デジタル制御を採用するフィードフォワード方式(イヤホン外側のマイク配置)と、アナログ制御のフィードバック方式(イヤホン内側のマイク配置)を組み合わせたもので、これによって高精度かつ遅延の少ないノイズキャンセリングが実現できているという。実際に試してみたところ、強烈な効きというよりも、自然な効き、といったイメージだった。その分、音楽の音色が自然に感じられるため、好感が持てる。
デジタル処理とアナログ処理を組み合わせた独自のアクティブノイズキャンセリング機能「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」システムを採用。精度の高さと遅延の少なさが大きな特徴となっている
ちなみに、「EAH-AZ70W」には専用アプリ「Technics Audio Connect」が用意されていて、ノイズキャンセリングや外音取り込みの切り替えのほか、イコライザー機能も用意されている。イヤホンを紛失した際に、最後にイヤホンと接続していた場所を地図アプリ上に表示する「ヘッドホンを探す」機能も便利そうだ。
専用アプリ「Technics Audio Connect」では、ノイズキャンセリング機能の効果やサウンドモードの調整などが行える。ノイズキャンセリングと外音取り込みのレベルは100段階で調整可能だ
もうひとつ、「EAH-AZ70W」には機能面での注目ポイントがある。それは、接続性の高さだ。普通の完全ワイヤレスイヤホンは、片側のイヤホン本体がスマートフォンとBluetoothでワイヤレス接続し、もう片側はイヤホン本体同士で接続する「リレー方式」なのに対して、「EAH-AZ70W」は左右ともに直接スマートフォンと接続する「左右独立受信方式」を採用。人体(頭)を間に挟むことでどうしても不利になりがちな接続安定性を解消しているという。また、TWS Plusのような対応スマートフォンが限られた規格ではなく、大半のスマートフォンでこの接続が可能だというから嬉しい。
ちなみに、iPod touchとこの「EAH-AZ70W」を接続して屋外でテストを行ってみたところ、見通しのよい場所であれば30m近く離れても音切れすることなく音楽再生が楽しめた。接続テストを行った場所が住宅街のため、どちらかといえば良好な環境ではあるが、過去に同じ場所で30m離れることができたのはMAVINのみなので、なかなかに優秀な結果といえる。タッチセンサー配線などを利用した独自のアンテナ回路「タッチセンサーアンテナ」を新開発するなど、ワイヤレス関連部分はパナソニック製コードレス電話の技術メンバーが関わっているというが、その実力がしっかり発揮された結果といえるだろう。
イヤホン操作用のタッチセンサー部分をアップにしたところ。この領域すべてをアンテナ化することで、安定した通信を実現したというわけだ
また、マイクはノイズキャンセリング用のほかに会話用としても左右1ペアのMEMSマイク(Micro Electro Mechanical Systems)を搭載している。こちら、風切り音を低減する「ラビリンス構造」と、送話の音声とそれ以外の音を区別しノイズを低減する「ビームフォーミング技術」とを組み合わせることで、明瞭な音声での通話が可能となっているとメーカーはアピールする。
写真左の赤い丸で示した部分に通話用マイク、写真右の赤い丸で示した部分がノイズキャンセリング用フィードフォワードマイクが配置されている
このほかにも、連続再生時間はイヤホン単体で約6.5時間(NC ON/AAC時)〜約7.5時間(NC OFF/AAC時)、充電ケースとあわせて約19.5時間(NC ON/AAC時)〜約22.5時間(NC OFF/AAC時)となっているほか、IPX4の防滴機能も備わっている。
Technicsブランドから登場する「EAH-AZ70W」のみ、専用ケースに金属パーツを使用するなど、デザイン面もこだわっている
もちろん、「EAH-AZ70W」は音質にもこだわっている。今回デビューした3モデル中、最大となる10mm口径のグラフェンコートPEEK振動板採用のドライバーを搭載。また、イヤホン本体内部には、有線イヤホン「EAH-TZ700」にも採用実績のある、ドライバー前後の空気の流れを精密にコントロールする「アコースティックコントロールチャンバー」を配置して、さらなる高音質を突き詰めたという。
ドライバーユニットは10mm径で、ドライバー前後の空気の流れを最適化する「アコースティックコントロールチャンバー」を取り入れているのもポイントとなっている
さて、実際のサウンドはというと、アコースティック楽器が得意なのはTechnicsらしい特徴だが、思った以上に懐が深いのか、中域重視のバランスが功を奏してか、Jポップやハードロックも楽しい。特に女性ボーカルは、完全ワイヤレスとは思えないほど細かいニュアンスがしっかりと伝わってくれるため、存在がリアルに感じ取れる。いっぽう、ピアノの表現もいい。高域の倍音成分がしっかりと付帯し、伸びやかな音色を聴かせてくれるが、決して耳障りにならない、バランスのいい音色だ。ノイズキャンセリング機能のオンオフで多少なり音色の変化はあるものの、どちらも中域重視のバランスにブレはないので、切り替えによる違和感もない。初めて手がけた完全ワイヤレスイヤホンとは思えない、優秀な製品といえる。
続いて、パナソニック「RZ-S50W」を紹介しよう。
パナソニック「RZ-S50W」
イヤホン本体は、丸形のオーソドックスな形状となっている
こちら、正直な話をすると、機能面ではTechnics「EAH-AZ70W」とまったく同じ、パナソニック版「EAH-AZ70W」といえるアクティブノイズキャンセリング機能搭載の完全ワイヤレスイヤホンとなっている。専用アプリ「Panasonic Audio Connect」で設定できる項目も含め、機能性はまったく同じといえる。大きく異なるのは、筐体のデザインと搭載ドライバーの2つくらい。ドライバー口径が8mmになったこと、「アコースティックコントロールチャンバー」の有無で、イヤホン本体のノズル周りがほんの少しだけスレンダーになっているため、装着感も少しだけよくなっている。
ドライバー口径が8mmになり、「アコースティックコントロールチャンバー」が省かれたこともあり、Technics「EAH-AZ70W」よりちょっとだけスレンダーになっている
肝心のサウンドはというと、こちらも良好なクオリティを持ち合わせている。音色傾向としてはよりオールラウンダーにシフトしたイメージで、Jポップなどもノリのいいサウンドを楽しませてくれる。EDMに関しては、「EAH-AZ70W」よりもこちら「RZ-S50W」のほうが相性がよさそう。低域の量感はそれほど大きくはないものの、迫力あるサウンドを聴かせてくれた。よく聴く楽曲によっては、こちらの音のほうが好み、という人がいるかもしれない。
最後に、「RZ-S30W」を紹介しよう。こちら、「RZ-S50W」に対しては下位に位置するモデルで、ノイズキャンセリング機能は搭載されていない。ドライバーも6mm後継を採用している。そのため、イヤホン本体がかなり小柄にまとめられていて、女性でも違和感なく装着できるようになっている。廉価版というよりも女性向きに注力したモデルといっていいだろう。
パナソニック「RZ-S30W」。同時発表された3モデルの中では最も下に位置するモデルだ
先の2モデルに比べると、イヤホン本体はかなりコンパクトに仕上がっている
また、ノイズキャンセリング機能が搭載されない分、連続再生時間が長くなっていて、イヤホン単体で約7.5時間(AAC)、充電ケースと合わせて約30時間(AAC)の使用が可能となっている。IPX4の防滴機能と合わせて、実際にはなかなか使いやすいモデルに仕立てらている印象だ。もちろん、接続安定性やマイクの明瞭さなども変わりなく、同時発売による恩恵をいちばん受けているのは、このモデルかもしれない。ちなみに、イヤーピースは他の2モデル同様4サイズが同梱されているが、「RZ-S30W」のみXSサイズが採用されている。
ノイズキャンセリング機能は搭載されていないが、外音取り込み機能は搭載されており、音楽を聴きながら周囲の音を確認することができる
3モデルの中ではいちばん聴き心地がいい、ニュートラルな音色傾向を持つ。女性ボーカルはしっとりした落ち着きのある歌声を聴かせてくれるし、ピアノも軽やかで弾みのある演奏を聴かせてくれる。さすがに解像感は他の2モデルに対して劣るが、バランスのよさで心地よく聴かせるサウンドは悪くない。意外とメリハリ表現もしっかりしているし、低域も量感こそ控えめだがローエンドまでしっかり伸びているため、迫力も充分以上にある。音量を上げて音楽を存分に楽しむことも、音量を下げてBGM用途で利用することもできる、使い勝手さそうな製品だ。
このように、同時デビューしたパナソニック/Technicsの完全ワイヤレスイヤホンは、機能、音質の両面でどれも特徴的で、完成度の高い製品となっている。純粋に、音の好みで選ぶことが、満足感につながってくれるはずだ。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。