レビュー

【箱庭オーディオの世界】Bluetoothレシーバーとの組み合わせが絶妙なCarot Oneの真空管プリメインを聴く

先月レビューのテーマとして取り上げた「箱庭オーディオ」は、当然あれで完成ではなく改良を目論んでいる。小さくて高音質、けれど小型システムが苦手な重低音には自然体で臨み、狙いはもちろん「アコースティックギター再現性の追求」。コンポの入れ替えを続け自分好みの響きに近付けていこう、という考えだ。

あれこれ物色するうちに目に留まったのが、真空管プリメインアンプ「ERNESTOLO 50K EX EVO」。Carot Oneといえば、その名の通り人参を思わせる銅色がかったオレンジがイメージカラーだが、ERNESTOLOシリーズでは黒を採用。引き締まって見えるというだけでなく、細部までこだわり抜いた仕様が魅力だ。

真空管プリメインアンプ「Carot One ERNESTOLO 50K EX EVO」

真空管プリメインアンプ「Carot One ERNESTOLO 50K EX EVO」

気になる真空管(プリ管)は、スロバキア・JJ製の「ECC802S GOLD」だ。JJの真空管は入手性にすぐれ、量販店でも購入できるほどだが、プリ管では定番といわれるECC82/12AU7の上位互換品、それもソケットとの接触不良を防ぐために端子に金メッキを施した高信頼性管をチョイスしたところに、Carot One開発陣の"選球眼"が伺える。

昨年ERNESTOLO 50K LIMITEDを聴いて気に入ったこともあり、この新しいレギュラーモデルを借りてみることに。イギリス・Mullardのビンテージ品「CV4003/M8136」に拘ったがために日本国内120台限定となった50K LIMITEDと比べてどうか、肝心のアコギの音はどうか、そんな目線で試聴してみた。

希少なオペアンプをデュアルで搭載

ERNESTOLO 50K EX EVOのデザインと寸法は、50K LIMITEDとそっくり同じと言っていい。ボディサイズは50K LIMITEDおよびその前代の50K EXと同じ76(幅)×75(高さ)×150(奥行)mm、直方体だが正面のリスニングポイントからみると立方体というデザインを継承している。クリアガラスブロック越しに真空管の青い灯が浮かぶ様子は、なかなかの色気だ。

青く光るスロバキア・JJ製「ECC802S GOLD」

青く光るスロバキア・JJ製「ECC802S GOLD」

電源はDC12V/5Aでスピーカー出力は25W+25W(4Ω)。入力は2系統でRCAと3.5mmステレオミニジャック。箱庭環境で使うとすれば、DAPや小型USB DACをラインアウトで利用することになるだろう。

ERNESTOLO 50K EX EVOのリアパネル

ERNESTOLO 50K EX EVOのリアパネル

多くの部分はベースモデルのERNESTOLO 50K EXおよび50K LIMITEDと同じだが、オペアンプにはTI/BurrBrownの「OPA627AU」、それも希少な1990年製造ロットを2回路化基板に実装したデュアル構成を採用。50K LIMITEDと同様、50K EXの「OPA2604AP」シングル構成から進化を遂げているというわけだ。

箱庭環境に導入してみた

開梱後、箱庭環境のスピーカー「FOSTEX P802-S」に急ぎつないでみた。ターミナルはバナナプラグなので設置は数分で完了、読みどおりサイズ感は絶妙にマッチする。3点支持でゴム製インシュレーターを敷き、付属のACアダプタを...やや嵌合(かんごう)が甘いことが気になるものの、まずは音出しだ。3.5mmステレオミニ-RCAケーブルでDAP(Shanling Q1)に接続、ドミニク・ミラー「Silent Light」を再生した。

箱庭環境のスピーカー「FOSTEX P802-S」で試聴

箱庭環境のスピーカー「FOSTEX P802-S」で試聴

1曲目、「What you didn't say」の旋律が心地よく響き始める。ボリュームを調整していくと、ややギャングエラーがあるようだが、そこは箱庭環境、左右スピーカーの距離が短いため神経を集中しなければ気付かないレベル。11時以上にするとバランスが向上し、ナイロン弦らしい暖かくも艶のある音が出てくる。低域があとひと息という感もあるが、そこも箱庭環境ならでは、小型スピーカーであることを考慮せねばならない。

それにしても、この有機的なサウンド。しばらく音楽に聴き入ってしまったが、中盤の「Fields of Gold」あたりでふと気がついた。音量を12時あたりで聴きたいから、出力を調整できるデバイスに変えてみてはどうかと。Amazon Music HDのストリーミングも楽しみたいので、以前も紹介したBluetoothレシーバー「UP4」をつなぎ、スマートフォンから送信したらどうかと。LDACに対応する「Xiaomi/Redmi Note9S」を使えば、そこそこイケるのではないかと。

意外? Bluetoothレシーバーとの組み合わせが絶妙

試してみると、これが予想より数段いい。50K EX EVO側のボリュームを12時で聴き頃にすべく、UP4側のボリュームをMAXから少し下げると、バランスと安定性が改善される。接続がLDACだから高域/低域の情報量もあるし、なによりドミニク・ミラーやラルフ・タウナーなどECMのアコースティックギター音源が聴き放題、手もとのスマートフォンで気楽に選曲できるところがうれしい。真空管アンプとBluetoothレシーバーと聞くと、ミスマッチな印象を受けるかもしれないが、少なくとも箱庭環境で聴くアコースティックギターはまとまりがあり、十分楽しめる。

ボーカル曲も聴いておこうかと、パット・メセニー・グループの「Dream of the Return」を再生...いいじゃないか。ペドロ・アスナールの声がいいことは言うまでもないとして、ライル・メイズのピアノにごくわずかな響きというか艶がくわわり、それが妙に生々しい。パット・メセニーのギターソロにも、大型システムで聴くときとは違ったやさしさがあり、表情の細やかさがある。

Bluetoothレシーバーと組み合わせても愉しめる

Bluetoothレシーバーと組み合わせても愉しめる

気になったことをあげるとすれば、前半にも書いたAC電源(バレルコネクタ)の嵌合(かんごう)の甘さだ。少しでも触れるとゾゾゾッというノイズがスピーカーから聞こえてくるので、ケーブルの取り回しには気を使いたい。いきなり電源をON/OFFすると大きなポップノイズが出るところはミュートスイッチで回避するとして(ミューティング回路を省略したのは音質上の理由からだろう)、ホワイトノイズがやや目立つのは改善してほしいところだ。

とはいうものの、この50K EX EVOには音にも佇まいにも凛とした「表情」がある。箱庭環境としてはややチャレンジングな価格ではあるものの、エレクトロニクス製品というより"楽器"に近い個性を持つ製品であるだけに、妥当にすら感じてしまう部分もある。要は、惚れた者の負けということか。だったら負けてしまっても...斯くして箱庭環境は拡大を続けるのだった。

【関連リンク】
FX AudioやTOPPINGの小型コンポーネントで構築する「箱庭オーディオ」の世界

海上 忍

海上 忍

IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。

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