続いて「WF-1000XM4」の音質面をチェックしていこう。
「WF-1000XM4」の仕様面で最大級のインパクトのある高音質機能がLDACコーデックへの対応だ。LDACコーデックはソニーが開発したBluetoothの高音質コーデックで、最大で96kHz/24bitのサンプリングレート/ビット深度に対応し、最大990kbpsという高ビットレートで伝送できるのが特徴だ。なお、LDACコーデックの開発元はソニーだが、Androidスマートフォンではサムスン、シャープ、富士通、OPPO、Xiaomiなどが手がけるスマートフォンや他社製イヤホンにも実装されている。Android OSが標準でLDACコーデックをサポートしたこともあり、“ハイレゾ級ワイヤレス”で事実上の業界標準となりつつある。
Androidスマートフォンとの接続ではLDACコーデックも利用可能
ちなみに、よく誤解されがちだがaptX HDコーデック対応の完全ワイヤレスイヤホンは現時点では存在しないし、aptX HDは48kHz/24bit、最大576kbpsまで。aptX Adaptiveは現在の仕様では48kHz/24bitで最大420kbsまでだ。
そんな背景もあって「WF-1000XM4」は完全ワイヤレスイヤホンの弱点だったワイヤレス伝送で最高の条件の揃うLDACコーデック対応で登場した訳だ。96kHz/24bitのハイレゾ伝送、最大990kbpsの伝送と通信環境に応じた330kbps/660kbps/990kbpsのレート切り替えなどにも対応。接続はBluetooth5.2で左右同時伝送対応、通信アルゴリズムもLDACへの最適化が施されている。
ただし、日本で最もユーザーの多いアップルのiPhoneシリーズはLDACコーデック非対応。利用可能で最も高音質なAACコーデックを利用した上で、「DSEE Extreme」によるハイレゾ級へのアップコンバートも可能という仕様だ。
個人的にiPhone12 Proと、AndroidスマホのXperia 1 IIのスマホ2台を使用しているので、どちらも接続して検証してみた。iPhone12 Proは普段どおりの接続で簡単に接続できるし、Xperia 1 IIではGoogle FastPairやアプリで簡単に接続でき、「Headphones Connect」から“LDAC”の文字をしっかり確認して聴き比べてみた。
「WF-1000XM4」のLDAC対応の実力をチェックする目的もあり、先にAndroidスマホのXperia 1 IIと接続。Amazon Music HDで配信されているYOASOBIの『夜に駆ける』を聴いてみると……もう一瞬でわかるほどに音情報が豊かで“超”の付く高音質だった。平坦な歌い方に聴こえやすいYOASOBI『夜に駆ける』が、別の曲かと思うほどに情感たっぷりなのだ。歌声は声のニュアンスも鮮やかで、艶のあるような深みも感じられる。キーボードの音の伸びやかさもリアルだし、リズムの刻みも深く、そして時間軸の刻みも正確でタイト。音場がきわめて広く、ドラムやギター音も存在感があり広がりも大きい。帯域バランスのクセはあまりなく、ストイックな高音質だ。
LDACの音質はAndroidスマホのXperia 1 IIと組み合わせて検証
Official髭男dism『Pretender』も、冒頭のギターから高解像感だけどキツくなりすぎす、強めの低音もハリのある上質な音として再現してくれる。男性ボーカルの歌声も息遣いが伝わるほど解像感があるし、いっぽうで歌声のみを聴かせるような強調感はまったくない。「WF-1000XM4」で聴いていると、今までほとんど意識していなかった遠くで鳴る楽器の音まで聴こえ、音楽がよりリアルに感じられる。
ビリー・アイリッシュ『bad guy』も、ベースとバスドラムがセパレートした上で、それぞれの音の輪郭と、ハリのあるきわめて上質な低音が耳に飛び込んでくる。量感としても大きく、これなら重低音重視派としてもアリだろう。音場感も広大で、コーラスはイヤホンでは滅多に感じることのない、耳の真横よりさらに下の定位すら感じるほどだ。
「WF-1000XM4」のLDACコーデックの音質は、これまでの完全ワイヤレスイヤホンによる音楽リスニングにおける高音質とは次元が違う。たとえるなら、1万円クラスの有線イヤホンで高音質に満足していたつもりが、数万円クラスのイヤーモニターで桁違いの情報量を体験して衝撃を受ける(そして沼にハマっていく……)かのようなグレード差がある。
ちなみに、LDACの接続は“音質優先”と“自動”(接続優先)を切り替えると、やはり音質優先のほうが音の深みが相当出る。ただ、自動で聴いてもLDACの音のポテンシャルというか、「WF-1000XM4」の音情報豊富でイヤモニのような音は発揮されるし、その音のよさは騒音のある電車内で音楽を聴いていても実感できるほど。もちろん、優秀なノイズキャンセルのおかげというのもあるだろう。
音途切れについては、LDACの接続モードを“音質優先”にした状態でも自宅ではまったく途切れなかったが、やはり電波環境がよくない電車や街中ではそれなりに音途切れが発生するので常用するのはやや難しいが、“自動”の設定であれば駅の中でも音途切れはほとんどなかった。なお、「Headphones Connect」アプリにはAndroidの通知バーに常時接続方式が表示されていて簡単に切り替えも可能なので、両モードの切り替えはまったく苦にならなかったということは付け加えておこう。
LDACのビットレートに関わる接続モードはスマホから簡単に切り替え可能。駅構内などの電波環境の悪い場所ではLDACの接続モードは“自動”が推奨だ
続いてiPhoneとの接続でも音質チェック。接続に用いられるBluetoothのコーデックはAACだ。
YOASOBIの『夜に駆ける』を聴くと、歌声をきちんと空間の中に浮かばせてニュアンスを出して聴けるタイプ。キーボードの音も音の立体感をともなっており、バンドらしさの出る音で埋もれがちなギターの音も存在感をしっかり感じられる。ベースの重低音の強さだけでなく、その音色まで聴けるほどだ。
『Pretender』もキツさなく余裕たっぷりに聴かせてくれる。『Pretender』はイヤホンによっては音質が非常に悪く聴こえる楽曲なので、この曲をこなせるのはとても優秀だ。ビリー・アイリッシュ『bad guy』も、ベースとバスドラムを完全にセパレートする情報量がある上にハリもある低音、歌声の音の広がりと音場感もしっかり出ている。アプリから「DSEE Extreme」によるハイレゾアップコンバートを利用すると、高域の伸びやかさや繊細さがさらに増す印象だ。
iPhone 12 Proと接続してAACコーデックの音質もチェック
「WF-1000XM4」は、iPhoneのAACコーデックで聴いてもやはり高音質だった。だが、「WF-1000XM4」のLDACコーデックによるサウンドは“有線イヤモニかよ”と突っ込みたくなるほど別次元の“超”が付くほどの高音質だったのに対して、iPhoneのAACコーデックはそこまでではない。
そんなに「WF-1000XM4」のAACコーデックの音質を腐すとiPhoneユーザーは「WF-1000XM3」でいいかも誤解してしまうかもしれないが、そんなこともない。iPhoneと組み合わせて「WF-1000XM4」の後に「WF-1000XM3」の音を聴くと、メリハリを付けてうまく演出してワイヤレス接続の弱点をカバーしていた「WF-1000XM3」に対して、「WF-1000XM4」は音源が持つ情報の再現度や自然な表現などが確実に上回っていた。「WF-1000XM4」はAACで聴いても、既存の高音質な完全ワイヤレスイヤホンのトップグループ上位くらいのレベルは持ち合わせていることは断言しておこう。
今回は発売前のサンプルでソニー「WF-1000XM4」のノイズキャンセリング性能、接続性、音質中心にチェックしてみたが……LDACコーデック対応による音質向上効果は想像を遥かに超えていた。ただし、その恩恵を受けられるのはLDAC対応機種が広がっているAndroidスマホや一部DAPユーザーなので、日本以上に海外人気が出そうなモデルではある。もちろん、日本の多数を占めるiPhoneユーザーにとってもノイキャン性能や音質も優秀で魅力的な機種であることは間違いない。完全ワイヤレスイヤホンの時代を一歩進めるモデルとして、この夏の完全ワイヤレスイヤホンの最注目モデルと言えそうだ。