レビュー

再生環境次第で大化け!? ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」を聴く

ゼンハイザーは現在、アクティブノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンとして2モデルがラインアップされている。ひとつはこの春に登場した「MOMENTUM True Wireless 3」。こちら、同ブランドのフラッグシップモデルで、音質へのこだわりとともに、デザインや機能性についても妥協のないものづくりが特徴となっている。もうひとつは、2021年秋に発売された「CX Plus True Wireless」。こちらは、ゼンハイザーならではのサウンドを比較的手軽に楽しめるハイコストパフォーマンスモデルに仕立てられている。

ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」(左)と「CX Plus True Wireless」(右)

ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」(左)と「CX Plus True Wireless」(右)

デザインや対応コーデックなど、一見するとほぼ変わらない製品に見える両者だが、それぞれどういった特徴があるのだろうか。今回は、新モデル「MOMENTUM True Wireless 3」をメインに据えつつ、両製品の違いをチェックしていきたいと思う。

イヤホンデザインを大幅アップデート! 装着感が大きく改善

製品に関する話を始める前に、ひとつ、ゼンハイザーというブランドについて、改めて紹介しよう。多くの人がご存じのことと思うが、ゼンハイザーは、レコーディングやライブ用のマイク、モニターイヤホン/ヘッドホンなど、プロフェッショナル向けの機器を得意とするメーカー。ドイツで1945年に設立され、75年以上の歴史を持つが、先日、コンシューマー部門がスイスに本社を置くソノヴァ社に売却され、現在は同社が保有するブランドとなっている。

とはいえ、コンシューマー製品を手がけていたスタッフの多くがソノヴァ社に移っており、これまでと変わらぬ体制で開発/製造が行われているという。ブランドが他社に移るとたちまち違う製品になっていってしまう、という事態は過去に数多くあるが、ことゼンハイザーブランドについてはしばらくそういった事態にはならずに済みそう。ひとまずは安心して購入できそうだ。

ということで、製品に戻ろう。「MOMENTUM True Wireless 3」は、同ブランド初のTWSにしてフラッグシップモデル、「MOMENTUM True Wireless」の第3世代モデル。音質を最優先すること、マテリアルの質感にこだわることなどは変わらず、最新技術を投入したモデルに仕立てられている。

まず、イヤホン本体のデザインが刷新された。そもそも「MOMENTUM True Wireless」は個性的なデザインを採用していて、それ故にやや大型で、耳の小さい女性が装着するには少々難しい状況となっていた。先代の「MOMENTUM True Wireless 2」では耳側のデザインが改善され、装着感はよくなったが大きさ事態はわずかに小型化した程度だった。しかし「MOMENTUM True Wireless 3」では、イヤホン本体のデザインを刷新し、装着性のよいデザインへと変化している。実際に装着してみると、最新モデルの中では小型とまで言えないものの、フィット感は良好。イヤーフィンも装着されているので、イヤーチップを含めてサイズをしっかりしっかり選べば、落下することはほとんどなさそうだ。

「MOMENTUM True Wireless 3」のイヤホン本体

「MOMENTUM True Wireless 3」のイヤホン本体

イヤホン本体デザインが大きく変わり、「CX Plus True Wireless」に近いデザインに生まれ変わった

イヤホン本体デザインが大きく変わり、「CX Plus True Wireless」に近いデザインに生まれ変わった

イヤーフィンも付くようになり、耳への装着感がかなり改善されている

イヤーフィンも付くようになり、耳への装着感がかなり改善されている

「MOMENTUM True Wireless 3」を装着したところ

「MOMENTUM True Wireless 3」を装着したところ

いっぽう、「MOMENTUM True Wireless 3」最大のセールスポイントとなっているのが新採用されたデュアルANC機能だ。こちら、フィードフォワードマイクとフィードバックマイクを組み合わせたハイブリッド方式のANC機能で、シングルANCだった先代に対して大きなグレードアップとなっている。

とはいえ、「ゼンハイザーは今まで音質最優先のノイキャンをアピールしていたのに方針転換した?」と思う人もいるだろう。しかしながら、その本意は変わっていない。クアルコム社のBluetoothチップとは別にANC機能の制御とDAC機能を融合した独自チップを搭載、ANCの効き具合を周囲の状況にあわせて自動調整する独自システム「アダプティブノイズキャンセリング」を開発することで、幅広い環境で最善のサウンドを楽しめるようになったという。他社製品でも例の少ない、なかなかに凝った作りだと思う。

クアルコム社のBluetoothチップとは別にANC機能の制御とDAC機能を融合した独自チップを搭載することで、高音質な音楽再生と高精度なアクティブノイズキャンセリングの両立を実現

クアルコム社のBluetoothチップとは別にANC機能の制御とDAC機能を融合した独自チップを搭載することで、高音質な音楽再生と高精度なアクティブノイズキャンセリングの両立を実現

周囲の騒音レベルに合わせてアクティブノイズキャンセリングを最適化する独自の「アダプティブノイズキャンセリング」。オン/オフ/風切り音防止の3つのモードから選択できる

周囲の騒音レベルに合わせてアクティブノイズキャンセリングを最適化する独自の「アダプティブノイズキャンセリング」。オン/オフ/風切り音防止の3つのモードから選択できる

ちなみに、機能面ではIPX4の防滴性能を確保しているほか、連続再生時間はイヤホン本体で最大7時間、専用ケースからの充電を含めると最大28時間を確保。10分の充電で約1時間使える急速充電機能も備わっている。なお、外装にファブリック素材を採用する専用ケースは初代に比べるとかなり小さくなりつつも、ワイヤレス充電規格Qiに対応している。

歴代「MOMENTUM True Wireless」シリーズ同様、ファブリック素材の専用ケースを採用

歴代「MOMENTUM True Wireless」シリーズ同様、ファブリック素材の専用ケースを採用

ケースの大きさがかなり小さくなっているが、ワイヤレス充電規格のQiにも対応

ケースの大きさがかなり小さくなっているが、ワイヤレス充電規格のQiにも対応

とはいえ、ゼンハイザー最大のこだわりと言えばやはり音質。この「MOMENTUM True Wireless 3」でも、歴代「MOMENTUM True Wireless」シリーズで採用され、好評を博している自社開発の7mm口径ユニット「TrueResponse(トゥルーレスポンス)トランスデューサー」を採用しつつも、「IE 600」と同じバックボリューム機構を導入し、ゼンハイザーらしい上質なサウンドと高性能ANC機能を巧みに両立させている。

加えて、aptX Adaptiveコーデックの96kHz/24bitに対応したのも注目ポイントだ。aptX Adaptiveは「CX Plus True Wireless」でも対応しているが、こちらは48kHz/24bitまでとなっている。コーデックのスペックで音質の全ては語れないものの、最大96kHz/24bitのサウンドに対応している点は、決して少なくないアドバンテージとなってくれるだろう。

最大96kHz/24bitのaptX Adaptiveコーデックにも対応する

最大96kHz/24bitのaptX Adaptiveコーデックにも対応する

再生環境次第で大化け! 高音質で音楽を楽しみたいならaptX Adaptive推奨

ここからは、「MOMENTUM True Wireless 3」のサウンドをチェックしていこう。今回、再生側には、Xiaomiのスマートフォン「Mi 11 Lite 5G」をチョイス。プレーヤーアプリは「Poweramp」を使用した。

偶然にも、聴き始めの出力設定が48kHz/16bitとなっていて、Powerampのオーディオ情報の出力を96kHz/24bitに変更、さらに開発者向けオプションのBluetoothオーディオサンプルレートを96kHzに変更することで、aptX Adaptive 96kHz/24bitで接続してくれた(PowerampではなぜかLDACと表示されていたがBluetooth設定ではきちんとaptX Adaptiveの96kHz/24bitとなっていた)。

正直、ゼンハイザーの有線モデルを聴いているかのよう。たっぷりとした低域による重心の低さ、キレのよい高域、声色も広がりも自然なボーカルなど、ゼンハイザーならではの音楽性を重視したサウンドが存分に楽しめる。しかも、ある程度の解像感が確保されていることに加えて、メリハリ表現もよく、しかも破綻がない。最初に16bitの状態で聴いた時は「迫力はあるがやや歪み感が気になるな」と思った(もしかするとコーデックをAACに変えないとだめなのかもしれない)が、96kHz/24bitで再生できるよう設定を変更すると、歪み感は払拭され、聴き心地の良好なサウンドとなってくれた。クリアな音とまでは言わないが、迫力あるのに破綻のない、ゼンハイザーならではの絶妙なチューニングだ。

おかげで、MYTH & ROIDを聴いてもOxTを聴いてもパワフルな演奏の迫力が十分に伝わり、同時にKIHOWやオーイシマサヨシの奔放な歌声が存分に味わえる。Aimerなどハスキーかつ凜とした歌声のも相性がよいし、サラ・オレインもいい。女性ボーカル、男性ボーカル、ともにおすすめのサウンドだ。このように、aptX Adaptiveコーデックの96kHz/24bit接続はなかなかのクオリティなのだが、いっぽうでそのほか(のコーデック)はというと、AACは多少マシなものの、正直、あまりおすすめできない。「MOMENTUM True Wireless 3」を存分に楽しみたいという人は、aptX Adaptive 96kHz/24bit環境を用意することをオススメしたい。

ちなみに、aptX Adaptive 96kHz/24bit環境はクアルコム製SoC「778G」「780G」で対応している。最近やっと「Mi 11 Lite 5G」でも安定して再生してくれるようになったが、ほかの製品ではうまく対応できていなかったり、トラブルも多いとのウワサも聞く。できれば「888G」以降のフラッグシップSoCを搭載したモデルの組み合わせを推奨したい。

このように「MOMENTUM True Wireless 3」は、ゼンハイザーのフラッグシップモデルだけに、決して手軽に入手できる価格ではないが、その価値が十分にある製品と感じられた。

これに対して「CX Plus True Wireless」はというと、

・シングルANC
・aptX Adaptiveコーデックが48kHz/24bitまで
・ドライバーは同じものの、バックボリューム機構が異なる

という3点が大きな差異で、実際「MOMENTUM True Wireless 3」と比較試聴すると、ANCは弱め、音質もよく言えばやや奔放、悪く言えば少々荒く感じる。音数もわずかに少ない。ただし、こっちのほうがまとまっていると感じる人もいるだろうし、なによりも「MOMENTUM True Wireless 3」の半額でこの音と機能が手に入るコストパフォーマンスの高さは大いに魅力的だろう。

予算があれば「MOMENTUM True Wireless 3」を選びたいところだが、実際のサウンドを聴いて、どちらが自分にとってベストか判断してほしい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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