2022年夏の薄型テレビ商戦がついに始まった。例年通りであれば、薄型テレビは4月から続々新製品が発表されて5月には商品が出揃い、6月の夏のボーナス商戦で薄型テレビが売れる……というのが業界のパターンなので、6月下旬時点で製品が揃うのは正直遅すぎる。
実はこれ、中国のロックダウンや世界的なサプライチェーン混乱の影響によるものだ。最も遅い6月10日に夏モデルを発表したソニーは、発売日が7月から11月でバラバラという異常事態。いっぽうで、製品の中身を見てみると、今年はmini LEDや量子ドット、有機ELの新パネルと42V型小型モデルの登場などネタは満載だ。本特集では、そんな最新トレンドとともに2022年の夏テレビをまとめてみた。ぜひテレビ選びの参考にしてもらいたい。
■メーカー別の2022年夏モデルの記事はコチラ
【ソニー】
・ソニーから2022年最新ブラビア登場。新有機ELパネル、42V型有機EL、Mini LEDバックライト搭載液晶も
【TVS REGZA】
・Mini LED搭載モデルも! 最新映像エンジンを搭載したふたつのレグザ最高峰モデルをレポート
・量子ドットをもっと身近に。TVS REGZAから2022年モデル第2弾が一挙登場
【シャープ】
・液晶も有機ELもフルラインアップ! シャープ「AQUOS」「AQUOS OLED」2022年モデルが一挙発表
【パナソニック】
・4K有機ELビエラ2022年モデル発表。最上位「LZ2000」は新型パネルとラインアレイスピーカーで画音質を追及
・パナソニック4K液晶ビエラ2022年モデル発表。オートAI機能がさらに賢く進化
【LGエレクトロニクス】
・LGが4K有機EL/液晶テレビ2022年モデルを発表。有機も液晶も高性能パネル搭載モデルを拡充
【ハイセンス】
・ハイセンスから Mini LED×量子ドット搭載の4K液晶テレビ最上位モデル 「U9H」シリーズ登場
薄型テレビ、なかでも液晶テレビのトレンドを語る上で、今年一番ホットなキーワードは「mini LED」と「量子ドット」だろう。
mini LEDとは、液晶テレビに必須のLEDバックライトを極小サイズの数百〜数千個のバックライトに置き換える新技術。1つひとつのLEDバックライトのサイズが小さいので、バックライトの部分制御(ローカルディミング)を非常に細かい粒度で行うことができ、液晶テレビが苦手とする黒の表現力も高まるし、バックライトのLEDの総数も増えて画面全体のピーク輝度を高めることができるという特徴がある。
写真左が従来のLEDバックライト、右がmini LEDバックライト。極小サイズの青色LEDバックライトを敷き詰め、緻密にコントロールすることで、コントラストと画面全体の輝度を高めることができる
量子ドット(Quantum Dot)は、光をナノサイズの粒子に当て、光の波長(色)を変換するという技術だ。粒子のサイズによって取り出せる色をコントロールでき、効率的に光の3原色となる赤・緑・青を取り出せるため、色純度の高い表示が可能となる。
左が通常のカラーフィルターを採用したテレビ、右が量子ドットフィルターを採用したテレビ。効率的に光の3原色となる赤・緑・青を取り出せる量子ドット技術により、明るく色彩豊かな画質が楽しめる
2022年夏モデルとしては、mini LEDと量子ドットが揃う液晶テレビが、ソニー「BRAVIA X95K」シリーズ、TVS REGZA「REGZA Z875L」「Z870L」シリーズ、ハイセンス「U9H」シリーズ、LGエレクトロニクス「QNED85」シリーズ、TCL「C835」シリーズなど一気に登場する。また、通常のLEDバックライトに量子ドットを組み合わせたTVS REGZA「REGZA Z770L」「Z670L」シリーズ(2022年8月発売予定)など、量子ドットだけ搭載した製品というのも登場してきた。
ソニー「BRAVIA X95K」シリーズ。独自の広視野角技術「X-Wide Angle」で視野角も確保している。85/75/65V型の3サイズを展開
TVS REGZA「REGZA Z875L」シリーズ。全録機能「タイムシフトマシン」も揃う4K液晶レグザの最上位モデルだ。画面サイズは75/65V型の2サイズ。55V型は映像エンジンの異なる「Z870L」シリーズとして展開されている
ハイセンス「U9H」シリーズ。映像エンジンは、TVS REGZAと共同開発した「NEOエンジンPRO」を搭載する。画面サイズは75/65V型の2サイズを展開
LGエレクトロニクス「QNED85」シリーズ。IPSパネルを採用し、86/75/65/55V型の幅広い画面サイズを展開する
TCL「C835」シリーズ。大型のサブウーハーを本体背面に備えた2.1ch構成の特徴的なサウンドシステムを搭載する。画面サイズは65/55V型の2サイズ
TVS REGZA「REGZA Z770L」「Z670L」シリーズは、mini LEDではなく通常のLEDバックライトに量子ドットを組み合わせたユニークなモデルだ
実はこのmini LEDと量子ドットは、2021年12月にシャープが「AQUOS XLED」として国内テレビメーカーとして初めて製品化しているし、LGエレクトロニクスも2021年6月には「QNED MiniLED」を展開していた。とはいえ、大手テレビメーカーではパナソニックを除くほぼすべてのメーカーが採用し、今年は技術的なブレイクの1年となりそうだ。
シャープは、他社に先駆けてmini LEDと量子ドットを搭載した「AQUOS XLED」を昨2021年12月に発売済み。4K液晶テレビだけでなく、8K液晶テレビもラインアップする
mini LEDと量子ドットの僕なりの評価は、画面こそ明るく鮮やかだが、黒色の表現力はやや物足りず、4K有機ELテレビの高画質には及ばない。4K有機ELテレビよりも安く、画面の明るさ勝負の4K液晶テレビのハイエンドというのが正当な評価だろう。あとはmini LEDの輝度ポテンシャルは高いが、テレビとしてはそのポテンシャルを生かすための制御が重要だし、量子ドットも極めて鮮やかな表示が可能だが、テレビは鮮やかさと同時に派手過ぎない自然さも求められる。今後はこういった最新技術を搭載したという話題性だけでなく、最新技術の使いこなしのうまさという点がメーカーには求められていくだろう。
4K有機ELにも新技術が登場している。ソニーが2022年の4K有機ELテレビの最上位モデルとして発売する「BRAVIA A95K」シリーズが搭載した新構造の有機ELパネル「QD-OLED」だ。
新構造の有機ELパネル「QD-OLED」を搭載したソニー「BRAVIA A95K」シリーズ。画面サイズは65/55V型の2サイズ
「QD-OLED」とは、これまでの4K有機ELテレビで採用されていたRGBW方式の有機ELパネルではなく、青色単色の有機ELパネルに量子ドットを組み合わせで色を再現する、コントラストと色再現のいいとこ取りを目指した方式だ。デモを視聴した限りでは輝度性能の高さと色再現はとても優秀。55V型で市場想定価格47.3万円前後ととても高価な機種だが、最高画質機種の有力候補と言えるだろう。
左が「QD-OLED」、右が従来型のRGBW方式を採用した有機ELパネル。量子ドットのおかげでとても自然な発色に仕上がっていることがおわかりいただけるだろう
4K有機ELテレビ関連のもうひとつの注目ニュースは、4K有機ELテレビの最小サイズとして42V型モデルが追加されたこと。7月23日時点では、LGエレクトロニクス「OLED42C2PJA」、シャープ「AQUOS OLED 4T-C42EQ2」、ソニー「BRAVIA XRJ-42A90K」の3機種が発表されている。小型テレビにも高画質を求めるユーザー、またゲーミング目当てに大きめのデスクトップモニターが欲しい人の選択肢としても注目したいところだ。
LGエレクトロニクス「OLED42C2PJA」。非常にコンパクトで、デスクに設置してゲーミング用のパーソナルテレビとしても活用できる
シャープ「AQUOS OLED 4T-C42EQ2」。角度をつけたいときに便利なスイーベル機能も備わっており、こちらもパーソナルユースにぴったりだ
ソニー「BRAVIA XRJ-42A90K」。2-Wayスタンドを採用し、画面への没入感を高める標準ポジションと、デスクに設置した際に周辺機器が画面と重ならないハイポジションの2種類から選べる
画質以外の視点として、最近は薄型テレビの立体音響対応、それもステレオスピーカー+Dolby Atmosのようなバーチャル頼みではなく、画面上や横にも実スピーカー搭載を搭載した、多スピーカーによる立体音響対応のブームが始まっている点に注目したい。
テレビの高音質化をけん引しているブランドはパナソニックだ。4K有機ELテレビ最上位モデルの「VIERA LZ2000」シリーズで、上向き、横向きのスピーカーに加えて、正面にラインアレイスピーカーを搭載し、包まれる音+クリアな指向性のというサウンドバー級の音響技術を搭載したのがポイントとなっている。
パナソニック「VIERA LZ2000」シリーズは、上向きのイネーブルドスピーカー、水平方向の音の広がりを強化する横向きのワイドスピーカーに加え、画面下部のフロントスピーカーにラインアレイスピーカーを導入。ラインアレイスピーカーは、77V型が全18基、65V型が全16基、55V型が全14基
シャープも4K有機ELテレビの「AQUOS OLED ES1」と4K液晶テレビの「AQUOS EU1」で画面を囲むように11個のスピーカーを搭載する独自の「ARSS+」を搭載し、こちらもかなり強力だ。TVS REGZAも4K有機ELテレビ最上位モデル「X9900L」シリーズで10スピーカーの「重低音立体音響システムXHR」、mini LED搭載の4K液晶テレビ最上位モデル「REGZA Z875L」「Z870L」シリーズで7スピーカーの「重低音立体音響システムZP」搭載と、多スピーカー搭載路線へと突き進んでおり、各社ハイエンドテレビは“映像だけでなくサウンドも含め全部が最強”という路線が明確になってきたと言えるだろう。
シャープは4K有機ELテレビ「AQUOS OLED ES1」シリーズと4K液晶テレビの「AQUOS EU1」シリーズに、画面を囲むように11個のスピーカーを搭載する独自の「ARSS+」を搭載
TVS REGZAの4K有機ELテレビ最上位モデル「X9900L」シリーズは、画面を直接振動させるスクリーンスピーカーなど、合計10基のスピーカーを用いた「重低音立体音響システムXHR」を搭載する
最後に、大手テレビメーカー以外の動きについてもいくつか触れておこう。
まずは、3月に登場したAmazonとヤマダホールディングの協業によってスタートしたFUNAIブランドの「FireTVスマートテレビ」。日本初のFire TV搭載スマートテレビという唯一無二のユニークな存在だ。ヤマダホールディング傘下の店舗とAmazon.co.jpのみの販売のため、目にする機会は少ないかもしれないが、FireTVシリーズそのままのUIで、地デジや4K放送視聴も可能というところが面白い。
FUNAIブランドの「FireTVスマートテレビ」。FireTVシリーズそのままのUIを採用するユニークな1台だ
もうひとつの話題が、ドン・キホーテが昨年12月に発売した「チューナーレススマートテレビ」。名前にテレビと入っているが、テレビチューナーはなく、AndroidTVによるネット視聴と外部入力のみという割り切った仕様で大ヒット。以降、家電量販店のエディオン、ドウシシャのORIONブランドなどからもAndroidTV搭載のチューナーレステレビが次々と発表された。ネット動画配信は大手のテレビメーカーもすでに対応を済ませているので、ネット動画対応にほめるところはないが、チューナーを省いたことでNHK(日本放送協会)の放送受信料の支払い義務が発生しない点がセンセーショナルに受け止められていたようだ。
ドン・キホーテ「チューナーレススマートテレビ」。NHK(日本放送協会)の放送受信料の支払い義務が発生しないことで大きな話題となっている
2022年夏のテレビのまとめとしては以上だが、語らなかったこととして「国内大手メーカーのテレビはネット動画対応が当たり前になった」ということがある。TVS REGZA社がシステムプラットフォームをAndroidTVから自社開発(linuxベース)に戻したという意外な出来事こそあったものの、機能的には各社それぞれのプラットフォームでYouTubeやNetflix、プライムビデオなど主要サービスを対応していて、もはや当たり前の機能になってしまった。
もうひとつ、以前は毎年のように語っていた「テレビの低価格化が進んだというイメージが弱い」ことも補足しておこう。すでに価格が十分下がりきったこともあるし、世界的なサプライチェーン混乱の影響や、円安が進んでいる影響もあるのだろう。もちろん、薄型テレビの実勢価格は新モデルほど割高感があるもので、1年前の型落ちモデルを狙えば底値クラスで手に入る。薄型テレビの購入を検討しているという人は、コスパ重視で価格.comで型落ちモデルを狙ってみるというのもひとつの手だ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。