ヤマハがキャラクターの異なるワイヤレスヘッドホン2モデルを2023年2月に発売する。1モデルは、耳の中の音をリアルタイムで計測、補正する「リスニングオプティマイザー」やアクティブノイズキャンセリング機能などワイヤレスイヤホンでの技術を継承した「YH-E700B」。音楽への関心が高いユーザー向けとされていて、税込の市場想定価格は44,000円。
もう1モデルは、こちらは「リスニングオプティマイザー」やアクティブノイズキャンセリング機能だけでなく、映像に合わせた音場拡張効果を楽しめる「3Dサウンドフィールド」を搭載した「YH-L700A」。映画、動画、ゲームなどへの関心が高いユーザー向けた「パーソナルホームシアター」を目指した製品で、税込の市場想定価格は66,000円。あくまでも2ch音源の入力対応だが、現代生活に応じたサラウンドヘッドホンといった趣だ。
左が「YH-L700A」で右が「YH-E700B」
イヤホン・ヘッドホンの市場を見れば完全ワイヤレスイヤホンが全盛と言える昨今だが、ヤマハによれば、イヤーパッドが耳を覆う「アラウンドイヤー」型のヘッドホンも堅調ではあるそうだ。そうした中で投入されたのが「YH-E700B」と「YH-L700A」。先述のとおり、2モデルはグレード違いではなく、音楽/映像コンテンツ向けと棲み分けされた製品だという点が面白い。
まず、「YH-E700B」はアクティブノイズキャンセリング機能など、現代のワイヤレスヘッドホンに期待される機能を盛り込んだコンベンショナルな製品だと言える。主なスペックは以下のとおり。
「YH-E700B」の主なスペック
●型式:密閉ダイナミック型
●ドライバー口径:40mm
●Bluetoothバージョン:5.2
●対応コーデック:SBC、AAC、aptX Adaptive
●アクティブノイズキャンセリング機能「アドバンスドANC」搭載
●外音取り込み機能搭載
●リスニングケア(アドバンスド)、リスニングオプティマイザー機能搭載
●再生可能時間:最大32時間(リスニングケア:オン、リスニングオプティマイザー:オフ時)
●対応アプリ:Headphone Control
●重量:335g
市場想定価格44,000円とワイヤレスヘッドホンとしては高価格帯の製品だけあって、ヤマハが求める「TRUE SOUND」のために、4つの要素を追求したという。
1つ目は筐体設計。異素材を組み合わせた2層のフィルムドライバーを採用し、入力信号に対して500〜10kHzの歪率は1%以下とした。さらに筐体内部の部品同士は凹凸を組み合わせて結合。適宜クッション材を配置することで共振を抑える設計を施した。これらは、どちらも不要な音を出さないための工夫だ。
2層のフィルムを張り合わせたダイナミック型ドライバーを搭載。これにより、適度な剛性と柔軟性、低歪み率を獲得したという
2つ目は装着設計。ドライバーが正しい音を出していても、ユーザーの頭にぴったりとフィットしなければ、その音は耳に届く前に外に逃げてしまう。「YH-E700B」では、日本では発売されなかった従来モデル「YH-E700A」での知見を生かし、ヘッドバンドが楕円を描くように設計されている。この形状がさまざまな頭の形に最適なフィット感をもたらすのだという。
楕円を描き、さまざまな頭にフィットするように計算されたというヘッドバンド。そのほか、矢印部の「ハンガー」はハウジングに手を掛ける際に自然と指に沿う形にするなど、機能性とデザインに気を配ったという
ハウジング表面は不規則なシボ加工のようになっている(飛沫塗装)。完全ワイヤレスイヤホンのトップエンドモデル「TW-E7B」と共通した処理だ
3つ目は「リスニングオプティマイザー」の搭載。これはヤマハの完全ワイヤレスイヤホン「TW-E7B」などでもおなじみの補正機能のこと。ハウジング内部のマイクを使って、耳の中で鳴っている音をリアルタイムで測定し、補正をかけるというものだ。
4つ目は「アドバンスドANC」。こちらも完全ワイヤレスイヤホンなどに搭載されていた機能で、ヤマハ独自のアルゴズムで動くアクティブノイズキャンセリング機能のこと。精度の低いアクティブノイズキャンセリングでは音楽信号にもキャンセリング処理をかけてしまうところ、ハウジング内部のマイクを使って音楽信号とノイズ成分を分別し、効率的にノイズ成分をキャンセリングするというものだ。
ノイズキャンセリング機能のアルゴリズムは基本的に変更されていないそうだが、新規筐体設計により、遮音効果は従来モデル「YH-E700A」よりも向上しているという。
3.5mmのピンジャックも装備。有線によるアナログ音声入力も可能だ
実は2020年には海外で発売されていた「YH-L700A」。そのため、Bluetoothのバージョンは5.0であることや専用アプリが異なるなど、「YH-E700B」とは違いがある。ドライバー口径こそ40mmで「YH-E700B」と同じだが、採用する素材も設計も異なるという
次に、映像コンテンツ向きという「YH-L700A」を見ていこう。主なスペックは以下のとおり。
「YH-L700A」の主なスペック
●型式:密閉ダイナミック型
●ドライバー口径:40mm
●Bluetoothバージョン:5.0
●対応コーデック:SBC、AAC、aptX Adaptive
●アクティブノイズキャンセリング機能「アドバンスドANC」搭載
●外音取り込み機能搭載
●「3Dサウンドフィールド」機能搭載
●リスニングケア(アドバンスド)、リスニングオプティマイザー機能搭載
●再生可能時間:最大34時間(アクティブノイズキャンセリング:オン、「3Dサウンドフィールド」:オフ時)/11時間(アクティブノイズキャンセリング:オン、「3Dサウンドフィールド」:オン時)
●対応アプリ:Headphones Controller
●重量:330g
冒頭のとおり、「YH-L700A」の一大特徴は「3Dサウンドフィールド」機能を持っていること。簡単に言えば、すべての2ch音源に対してサラウンド効果を付与できるサラウンドヘッドホンだ。ただし、「空間オーディオ」に対応しているというわけではない。すべての音源は一度2chにダウンコンバートされて「YH-L700A」に入力され、内部で5ch相当に拡張処理される。このとき、頭の向きに応じて音の定位を変更するヘッドトラッキング用のデータも別途作り出す。
この拡張処理にはヤマハがAVアンプで培ったオリジナルの音場創世技術「シネマDSP」のノウハウが転用されている。「シネマDSP」とはコンサートホールの音場(音の響き方)を家庭用の音源で再現すること、つまり「音場を創る」ことを目的とした機能で、初出は1986年のサラウンドプロセッサー「DSP-1」にまでさかのぼる。30年以上に渡って「音場を創る」ことに真剣に取り組んできたヤマハの独自技術が投入されているからこそ、「3Dサウンドフィールド」が一大トピックだと言えるのだ。
拡張モードは映画向けの「Cinema」「Drama」、ミュージックビデオ向けの「Concert Hall」「Outdoor Live」「Music Video」、音楽コンテンツ向けの「Audio ROOM」「Back Ground Music」の計7種類。一部を紹介すると、積極的に響きを付加するのが「Concert Hall」、2chをそのまま再生する形に近いのが「Audio ROOM」、ヘッドホンならではのモードとしてBGM用途の「Back Ground Music」といった具合。AVアンプに搭載された「シネマDSP」の分類を踏襲しつつ、ヘッドホンならではと言えるBGMモードも用意されている。
拡張モードの切り替えは本体のハードウェアボタンで行う。「3D」ボタンを押すたびにモードが切り替わり、音声で現在のモードを知らせてくれる
ヘッドバンドやハウジングはファブリックが張られている。サウンドバーでも採用例がある素材だという。また、「YH-E700B」同様、3.5mmピンジャックからのアナログ音声入力も可能だ
「YH-E700B」「YH-L700A」の試作機に触れる機会を得たが、どちらもヤマハらしい帯域バランスの整い方だと感じさせられた。特に独自の魅力を強く感じたのは、「3Dサウンドフィールド」機能を搭載した「YH-L700A」。Amazonプライム・ビデオの映画を再生すると、確かに広めの音場と音の移動感が再現されるのだ。逆相感があって聞いていられない、という安直なサラウンド処理とは異なる仕上がり。映画との相性がよいのは、さすがヤマハのシネマDSP技術と言ったところか。
映画再生で少し触れた限りでの印象ではあるが、映像をスマホやタブレットで再生することの多いユーザーに対する面白い提案だと言えそうだ。サラウンドヘッドホンという形態自体が下火の中、新たな形で同分野を盛り上げてくれることを期待したい。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。