レビュー

音の自然な広がりが好印象! Ankerの“立体オーディオ”スピーカー「Soundcore Motion X600」

「立体オーディオ」対応のBluetoothスピーカー

Bluetoothスピーカーと言えば、どこへでも持ち出せる機動性が最大の魅力。もちろん音質指向の製品はあるし、しっかり設計された製品はそれなりに聴かせてくれるが、本格的なオーディオシステムと比べるのは酷というもの。特にステレオ感/音場の広さという点では、LRのユニットが近接している小型Bluetoothスピーカーに過度な期待をしてはいけない。

今回取り上げるAnkerの「Soundcore Motion X600」は、そんな小型Bluetoothスピーカーの常識を打ち破る可能性を秘めた製品だ。簡単に言うと、ペアリングして適当に再生するだけでステレオ感が大きく広がる。2台に増設してステレオ感を出すという仕組みではなく、あくまで1台で広い音場を再現し、空間オーディオ的なサウンドを楽しめるというコンセプトの製品だ。

Anker独自の立体オーディオ技術を搭載した「Soundcore Motion X600」

Anker独自の立体オーディオ技術を搭載した「Soundcore Motion X600」

その構造は比較的シンプル。約310(幅)×81(奥行)×170(高さ)mmのボディには、ツイーター5W×2基、ウーハー15W×2基、フルレンジ10W×1基という5基/計50Wのドライバーが搭載され、背面のメッシュ下にはバスレフポートも配置されている。フルレンジが真正面ではなく斜め前方に傾く天面に配置されていることが一般的なポータブルスピーカーとの違いと言えるだろう。

斜め前方に向いた天板の中央にフルレンジスピーカーが配置されている

斜め前方に向いた天板の中央にフルレンジスピーカーが配置されている

スペースグレーで統一されたボディは、落ち着いた印象。Ankerが「3Dメタルメッシュ」と呼ぶ前面のサランネットは金属製、鈍い光沢が独特の雰囲気を醸し出す。上部のハンドルは金属製、固定されているため困る場面はありそうだが、可動部を持たせたくないというデザインへの強いこだわりとも解釈できる。なお、カラーバリエーションは、今回使用したスペースグレーのほかにブルーとグリーンが用意される。

製品にハイレゾ(有線)とハイレゾワイヤレスに準拠、前者はAUXでの入力が前提となる。後者はLDAC接続が前提となるため、Android端末との組み合わせがベストだ(Google Fast Pairにも対応している)。ただしAACには非対応、iPhoneユーザはSBCでの接続になる。

音場がワイドに、手軽な「立体オーディオ」スピーカー

まずはLDAC対応のAndroid端末とペアリングを行い、LDACで接続(Soundcoreアプリでサウンドモードを「オーディオ品質優先」に変更)されていることを確認のうえ試聴をスタート。ソースはAmazon Music、軽快なカッティングギターを楽しめる曲(Ventura Highway/America、Listen to the music/The Doobie Brothersなど)をいくつかピックアップし、立体オーディオやBASSブーストはオフの"素"の状態で聴いてみた。

"素"の状態の「Soundcore Motion X600」は、オーソドックスな鳴り方だ。2基あるサブウーハーは特に低域を強調するわけでなく、どちらかといえば大人しい印象。しかし、ベースはしっかり鳴るし音の輪郭も明瞭。アコースティックギターのカッティングも透明感があり、伸びやかだ。音の広がりは特に感じず、サイズ相応の音場感で聴かせてくれる。

しかし、天板の立体オーディオボタンを押すと印象は一変。音場は左右に大きく広がり、高さと奥行きも拡大、各楽器が斜め前方へ歩み出たようなスケール感に変わる。試聴した「Listen to the music」はごく普通の2chソースだから、正直驚きだ。広がりに不自然さはなく、"音をソフトウェア的に加工した"というより"スピーカーの向きなどハードウェア的に音を調整した"ような印象を受ける。心象的な筐体サイズが水平方向に1.8倍、垂直方向に1.4倍に拡大したような音、とでも言えばいいだろうか。

BluetoothペアリングボタンとBASSブーストボタンの間に、立体オーディオボタンが配置されており、こちらを押すことで立体オーディオを有効化できる

BluetoothペアリングボタンとBASSブーストボタンの間に、立体オーディオボタンが配置されており、こちらを押すことで立体オーディオを有効化できる

「Ventura Highway」に収録されているDolby Atmosソースも試してみた(Amazon Musicには通常の2chソースに加え、Dolby Atmosなど立体オーディオフォーマットを収録した曲があるのだ)。ヘッドホンで聴くと、音場が広がったというよりはエコーがかったような印象のソースだが、やはり「Soundcore Motion X600」の立体オーディオモードでは音場が広がる効果がある。とはいえオリジナルの味わいから遠ざかる印象も否めず、「Soundcore Motion X600」で聴く際は通常の2chソースを選択したほうがよいだろう。

最初はスピーカーの物理的な大きさを超えて音が聴こえてくることに驚くが、すぐに慣れてその状態が普通になる。だから立体オーディオをオフにすると、一気に物足りない・情報量が足りない印象になってしまう。BASSブーストのオン/オフは好みでいいとして、立体オーディオモードは常時オンでいいのでは、というのが個人的な感想だ。

映画の音も大迫力、しかし...

2chのソースが立体的に聴こえるなら、映画やスポーツ番組の視聴にも使えるのでは? と考える人も多いはず。スマートフォンやタブレット、あるいは薄型テレビの内蔵スピーカーを置き換えることができれば、スピーカーとしての価値は大いに高まる。

iPhoneと組み合わせたときの印象は、「結構イケる」。Bluetoothでペアリングし、BASSブーストを有効にしてAmazonプライム・ビデオアプリで映画「ダンケルク」の空襲シーンを確認したが、飛来する飛行機の音、炸裂する爆弾の音、いずれもスピーカーの筐体サイズを大きく超える音場で聴かせてくれる。リアルサラウンドの背後に回り込む音場には敵わないものの、手持ちしたiPhoneの奥に「Soundcore Motion X600」を置いたこともあり、内蔵スピーカーとは比較にならない迫力だ。

薄型テレビとの組み合わせは、「有線接続ならまずまず」。iPhoneのときは画面サイズより格段に広い音場に惑わされたのか、さほど意識しなかったが、今度は映像よりわずかに遅延する効果音が気になる。アニメやドラマはさておき、「ダンケルク」のような爆発シーンが多い映画や、"瞬間"が重要なスポーツ番組で使うには少々無理がある。薄型テレビで使う場合、背面にあるAUX経由で接続したほうがいいだろう。

本体背面には充電用USB Type-Cポートと有線接続用のAUXが配置されている。Bluetooth接続も利用できるが、テレビとの組み合わせでは、遅延の少ない有線接続をチョイスしたいところだ

本体背面には充電用USB Type-Cポートと有線接続用のAUXが配置されている。Bluetooth接続も利用できるが、テレビとの組み合わせでは、遅延の少ない有線接続をチョイスしたいところだ

とはいえ、50V型超のテレビでは荷が重そうだ。音場が広がるといっても、画面両端をカバーしきれない印象で違和感がある。なにより、固定されたハンドルがじゃま。サウンドバーのようにテレビ前に置くスタイルでは、映画のようにレターボックス(画面上下の黒い領域)があるコンテンツでないと、映像を遮ってしまう。これはいただけない。

ハンドルは持ちやすいし質感も高いが、可動部はない

ハンドルは持ちやすいし質感も高いが、可動部はない

テレビと有線接続すれば、2ch音源の映画も立体的なサウンドになるが、ハンドルが画面にかぶってじゃまになりやすいので、大画面テレビの前に設置するのはやや難しい

テレビと有線接続すれば、2ch音源の映画も立体的なサウンドになるが、ハンドルが画面にかぶってじゃまになりやすいので、大画面テレビの前に設置するのはやや難しい

まとめ

独自の立体オーディオ技術で、ごく普通の2ch音源でも広い音場を得られるこのBluetoothスピーカー、気軽なオーディオリスニングツールとしては多いにアリだと思う。どの曲でも大きな効果があるわけではなく、楽器が少ない曲、定位のはっきりした曲のほうが立体感が出やすい傾向はあるものの、自然な"広がり感"はどの音楽カテゴリーにもマッチする。固定されたハンドルのために大画面テレビとの組み合わせは難しいものの、気軽な音楽鑑賞にはちょうどよい1台だ。

海上 忍

海上 忍

IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
プレゼント
価格.comマガジン プレゼントマンデー
SPECIAL
ページトップへ戻る