オーディオ製品の中でも、スピーカーはブランド、外観など個性がたくさんある。そして、オーディオシステムの中で最も音質に影響力があるパーツだ。と、いうことで、日本で購入できる魅力的なスピーカーブランドとその製品の数々を、歴史をひも解きながらその本質的な魅力を紹介する本連載、3回目となる今回は、日本の総合家電メーカーパナソニックのオーディオブランド、Technics(テクニクス)のスピーカーをご紹介したい。
左から「SB-C600」「SB-G90M2」「SB-R1」
1970年代から1990年代にかけてのオーディオブームの中で、日本を代表するブランドとして活躍したテクニクス。2010年にいったんブランド活動を停止したが、2014年9月、パナソニックはテクニクスの復活を高らかに宣言し、2024年のいま、復活から10年が経った。
現在のラインアップは、上位から「リファレンスクラス」「グランドクラス」「プレミアムクラス」という3つのシリーズ。スピーカーだけでなく、アナログレコードプレーヤー、CDプレーヤーからアンプ、ヘッドホン、イヤホンなど総合オーディオブランドとして強力な布陣を展開している。
テクニクスの名を冠したスピーカーの初代モデルは、小型の2ウェイスピーカー「Technics 1」。その後、1975年には現在のテクニクススピーカーの設計思想にもつながる、点音源により音の波面を揃えたリニアフェーズ方式を採用した「SB-7000」(通称:「Technics 7」)、1988年には有限要素法を使うコンピューターシミュレーションによって1つのキャビネットの中に密閉部と開放部を同時に存在させた「ツイン・キャビ方式」を採用した超弩級モデル「SB-AFP1000」、平面同軸型ユニットを採用した「SB-RX70」などのエポックメイキングなモデルを次々に誕生させてきた。何を伝えたいかと言えば、テクニクスの先進的思想が反映されてきた最たる製品こそ、スピーカーなのである。
120mmコーン型ウーハーを搭載した小型ブックシェルフ型スピーカー「Technics 1」
テクニクスと言えばターンテーブルを思い起こす人が多そうだが、1965年に登場したスピーカー「Technics 1」以来、テクニクスは多くのスピーカーを発売してきた
1988年に発売された「SB-AFP1000」は平面型ユニットを20基組み合わせた超弩級モデル。幅も高さも2m以上で、重量は320kgという巨大スピーカーだった
まず、現在のテクニクスのスピーカーが標榜する2つの高音質思想を紹介しよう。
1つ目は「点音源・リニアフェーズ思想」。スピーカーユニットから放出される音を1か所から“点”をイメージして放出させて波面を揃え、どのような位置で聴いても、フォーカスのよい音像や歪みのないステレオイメージを実現させる。
「点音源」を実現するため、テクニクスの現行単体スピーカーはいずれも同軸ユニットを搭載している。写真は「SB-C600」のユニットで、中央に高域再生用のツイーターがあり、低域再生用のウーハーがそれを囲う。音の発生する中心が同じつまり「同軸」上にあることから、このような構成のユニットは一般的に同軸ユニットと呼ばれている
「リニアフェーズ」を簡単に言えば、音が発せられ、試聴者に届くタイミングを揃えるということ。そのために「SB-C600」のツイーターの先端には「Linear Phase Plug」と呼ばれる突起物が取り付けられている。ドームの高さによってどうしても位相差が出てしまうところ、振動板中心の波面進行を遅らせて位相を揃える(リニアフェーズにする)という
2つ目は、「動」と「静」の追求。「動」は大きな振幅でも歪みの少ないウーハーの搭載など正確な動作を徹底させたスピーカーユニットのことを指し、「静」はエンクロージャー周りのコンセプトで、スピーカーユニットの設置方法について、高剛性と不要振動排除を追求する「重心マウント構造」および定在波の影響を避ける構造の採用だ。
これによりスピーカーユニットを正確に駆動させ、そこから発せられる不要振動や不要音は徹底的に排除し、音源に忠実な表現を求めている。
「重心マウント構造」とは、スピーカーユニットの重心のある位置をスピーカーへの固定位置とすることで、振幅時のユニットの揺れを低減するもの。たとえば「SB-G90M2」では、同軸ユニット、ウーハーユニットともに表面のバッフルではなく、内部のサブバッフルに固定されている
「SB-C600」の断面イメージ。内部にスピーカーマウント用のバッフルが設置されているのがわかる
低域を増強するためのバスレフポートは、「SB-C600」では前面に設置されている。これは環境を問わず使いやすくするための配慮だろう。よく見ると、ポート形状は一様ではなく、突起が付けられていることもわかる。ノイズとなる空気の渦の発生を抑える工夫だ。こうした細かな工夫でとにかく不要な音を出さないようにチューニングされている
こうした思想が反映された現在のスピーカーラインアップは、以下の4機種。簡単に紹介しよう。
150mmコーン型ウーハー+25mmドーム型ツイーター同軸ユニットを1基搭載したシンプルなモデル。「重心マウント構造」などを採用した堅牢な作りが特徴と言える。2024年6 月10日時点でのメーカー希望小売価格は130,000円(税込/ペア)
160mmコーン型ウーハー+19mmドーム型ツイーター同軸ユニットを搭載し、ウーハー部は平型。ユニットの構造は「SB-C600」とは異なるが、やはり「点音源・リニアフェーズ」を目指したもの。本体色はブラックとホワイトをラインアップ。2024年6月10日時点でのメーカー希望小売価格は173,800円(税込/ペア)
「SB-C600」とよく似た同軸ユニットを採用するトールボーイ型モデル。これはもちろん、同じコンセプトで作られているから。テクニクスにおけるミドルクラスに当たる「グランドクラス」の製品だ。2024年6月10日時点でのメーカー希望小売価格は350,000円(税込/1本)
テクニクス製スピーカーのフラッグシップモデル。同軸ユニットに加え、4基の160mmウーハーを備え、バッフル面積を広げずに320mmウーハー同等の面積と音圧を確保している。2024年6月10日時点でのメーカー希望小売価格は1,482,800円(税込/1本)
今回は大阪にあるテクニクス試聴室に出向き、代表的な2つのスピーカーを徹底試聴させてもらった。まずは、プレミアムクラスに属する、小型ブックシェフ型スピーカーの「SB-C600」から。
試聴室で対面した「SB-C600」はマットブラックの仕上げが精巧なイメージ。外形寸法は173(幅)×283(奥行)×293(高さ)mmと設置性の高さも魅力で、ホワイト基調やブラック基調のモダンなインテリア空間に投入したくなる。しかし、秀逸なのはデザインだけではない。本モデルは、テクニクスの持つ技術が惜しげもなく搭載された、市場でも大変高い評価を得ているスピーカーなのだ。
パッと見たところ、フロントバッフルにはスピーカーユニットが1つ、その下に低音域を増強させるバスレフポートが1つの、フルレンジスピーカーに見えるが、テクニクスの点音源・リニアフェーズ思想を受け継いだ新開発の同軸2ウェイユニット(25mmドーム型ツイーター+150mmコーン型ウーハー)を、重心マウント構造を持つエンクロージャーに搭載していることが大きな特徴だ。
「SB-C600」のカットモデルを見ると、ユニットが内部のサブバッフルに固定されているのがよくわかる
ツイーター、ウーハーの振動板素材をアルミニウムとしたことで音色を統一、ツイーターの前方に設置された特徴的なデザインのパーツは「Linear Phase Plug」と呼ばれ、高域の位相ずれに起因する特性の乱れを補正している。また、バスレフポートは、流体解析に基づき設計されている。そのほか、高品位なパーツにより構築されたユニットの保護ネットや真ちゅう製スピーカー端子など、エントリークラスの製品でもパーツ類に手抜きがない。
テクニクス「グランドクラス」のネットワーク/SACDプレーヤー「SL-G700M2」を利用し、前面のUSB入力に挿入した、UBSフラッシュメモリーからハイレゾファイル、ホセ・ジェイムズの「リーン・オン・ミー」(44.1kHz/16bit)から「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」を再生した。
試聴に使ったプレーヤーは「SL-G700M2」、アンプは「SU-R1000」。もちろんどちらもテクニクス製だ
最初に感じ入ったのは、小型スピーカーの割に低音がしっかりと出てくることだ。適度な重量感と弾力のある、キックドラム、ベースがソースどおりに表現できている。重心マウント構造や計算されたバスレフポートによる低音域の再現力の高さは、現代的な楽曲を聴きたい場合に大きなアドバンテージとなる。また中音域から高音域の質感がシームレスで音に変な癖がなく、ホセ・ジェイムズのボーカルも伸びやかかつ立体的に聞こえるのがうれしい。
次に再生した、女性ボーカル、アデルのアルバム「30」より「To Be Loved」(44.1kHz/24bit)は、2本のスピーカーの中央にポッと音像が定位する。これこそ点音源・リニアフェーズ思想を追求した、同軸ユニットの効果だ。ピアノなどのバックミュージックに浮かび上がる彼女のボーカルは質感も自然。
高級ブランドであるテクニクスの中で、「SB-C600」は安価なスピーカーだが、上位モデル並みの技術が投入されている。数値上の話とはなるが、再生周波数帯域は40Hz〜100kHz(-10dB)と広大。数々の対策によりもたらされた高品位な再生音は、コストパフォーマンスにすぐれている。
続いて、ミドルレンジとなるグランドクラスに属する「SB-G90M2」を試した。キャビネットサイズが292(幅)×366(奥行)×1,114(高さ)mm(付属のスパイク使用時)という、本格的なサイズ感のバスレフ型3ウェイスピーカー。
筐体内の定在波を効率的に除去する「Standing Wave Termination Structure」を採用したキャビネットに、こちらも新開発の同軸2ウェイユニットを重心マウント構造で搭載。「Linear Phase Plug」や点音源によるリニアフェーズ思想と正確なスピーカーユニットの駆動を追求したこと、振動板素材をアルミで統一した高音域から中音域にかけての音色の統一や、流体解析に基づくポート設計など、「SB-C600」同様の思想が反映されている。
エンクロージャーの下部には長めの音道が設けてあり、そこに効果的に吸音材を配置することで、定在波(特定周波数が強調されてしまう現象)を抑制する。音の躍動感を生かすための工夫だという
そして大きな魅力は160mmウーハーを2基搭載したことによる、スケールの大きな再生音だ。スピーカーユニットのボイスコイルを駆動する磁気回路に、ダブルマグネットとロングボイスコイルを採用することで、ロングストロークを実現。低歪みでレスポンスのよい低域表現を狙う。ウーハーを固定するフレームは共振分散型支持構造とすることで不要共振を大きく低減させた。こちらの再生周波数帯域は33Hz〜90kHzとさらに広い。
「SB-G90M2」のカットモデルを見ると、同軸ユニット、ウーハーユニットの部屋が内部で分割されていることがわかる。相互干渉を防ぐ狙いだろう。ユニット固定用のサブバッフルもそれぞれに独立している
「SB-G90M2」のユニットをサブバッフルに固定される2点で吊り下げるとバランスが取れる。つまりここに重心があるということ。このポイントでしっかり固定することが重要なのだろう
ここでは、クラシック音楽から数々の映画音楽を作曲してきたジョン・ウィリアムズがタクトを振る、ジョン・ウィリアムズ&ベルリン・フィル「ライヴ・イン・ベルリン」(96kHz/24bit)を聴いたのだが、これが大変すばらしく壮大な再生音だった。大型スピーカー最大のアドバンテージであるスケール感の大きさにより、オーケストラの楽器がすべて演奏されるトッティの迫力が強く、サウンドステージは左右のスピーカーを超えて幅広く表現される。堂々とした音であるし、聴感上のダイナミクスが大きい。つぶさに確認していくと、オーケストラを構成する1つひとつの楽器の質感が自然で分解能も高く、それらの音の強弱や細かい諧調表現も秀逸だ。特にうれしかったのは、オーケストラの再生でキーとなる、サウンドステージ表現。音場の広さや高さのバランスがとてもよく整っていた。
現代の洋楽ポップスもとてもよく鳴ってくれる。エド・シーランのアルバム「=(イコールズ)」から「Bad Habits」(48kHz/24bit)を再生すると、エレクトリックシンセサイザーに透明感と適度な音色があり、音のディテールが崩れず明快なステージを眼前に提示してくれる。低音域のボリュームが多い音源だが、しっかりとしたダンピングでシェイプされており、緩んだフォーカスにならないことが心地よい。音楽的に適度な明るさで表現してくれるので、正確な表現力を持ちつつも楽しい音がする。
まとめとなるが、テクニクスのスピーカーの魅力は、コストパフォーマンスが高く良質な再生音だ。それはコストを超えるような物量投入に加え、豊富な開発リソースと優秀な人材を生かした先進的なテクノロジーに支えられている。
2つのスピーカーとも現代のポップスやロック、クラシックなどジャンルを問わず、バランスよく鳴らしてくれるところもポイント。総合オーディオメーカーとしてCD、アナログレコード、デジタルファイルまでの再生機器をラインアップしているので、それらと組み合わせてメーカーの狙うサウンドを、純正システムで聴いてもよいだろう。
「SB-C600」は同シリーズに属する一体型ネットワークCDレシーバー「SA-C600」とのデザインマッチングがよいし、「SB-G90M2」の場合は、やはり同シリーズの「SU-GX70」や「SU-G700M2」などのアンプとよくマッチする。もちろん、プレーヤーやアンプの能力をしっかりと表現できる基本性能の高さはどちらのスピーカーにも備わっている。別メーカー/ブランドのオーディオ製品と組み合わせ、自分の好きな音を探求しても楽しいだろう。それが、コンポーネントオーディオの楽しみでもある。