Musical Fidelity「A1」(左)とAura「VA 40 rebirth」(右)。往年のマニア垂涎のアナログアンプ2機種が復刻版として登場した。ここでは「VA 40 rebirth」をレビューしていく
プリメインアンプの最新トレンドと言えば、各種ストリーミングサービスに対応し、ネットワークにつなぐことでプレーヤーなしでも音楽再生ができてしまったり、ARC対応のHDMI端子を搭載し、テレビと接続することで映像コンテンツの音声まで再生できてしまったりと、多機能化がどんどん進んでいる。筆者もその代表格であるマランツ「STEREO 70s」をリビングに導入し、快適で高品位なオーディオビジュアル生活を満喫しているひとりである。
普段リビングルームで愛用しているプリメインアンプは「STEREO 70s」。HDMI入出力を持っているため、テレビ周りの“AVハブ”としてとても便利に使っている
そんななか飛び込んできたのが、Aura Design「VA-40」とMusical Fidelity「A1」が復刻するというニュースだった。英国が生んだ2つの傑作薄型プリメインアンプは、2024年に揃ってアニバーサリーイヤーを迎えた。LAN端子もHDMI端子もない純粋なアナログアンプが、このタイミングでほぼ同時に復刻したことは、はたして偶然なのか、必然なのか。
本稿では、Aura Design誕生35周年を記念して復刻されたAura「VA 40 rebirth」の自宅試聴レポートを、オリジナルモデルとの思い出も振り返りながらお届けしたいと思う。
「VA 40 rebirth」のオリジナルモデルと言える「VA-40」。古い製品のため、万全のコンディションではないかもしれないが、両機の音質を比較してみることにした
1989年、マイケル・トゥ氏によって英国の港町ワーシングで創業したAura Design社は、処女作「VA-40」で彗星の如くデビュー。鏡面仕上げのクローム・フィニッシュのフロントパネルに、ボリュームとセレクターと電源スイッチのみというシンプルの極みとも言えるデザインは、ロンドンにある世界的に有名なデザインスタジオ「ペンタグラム」の巨匠ケネス・グランジ卿の手によるもので、重厚長大なオーディオ機器とは一線を画す清楚な姿に、世界中のオーディオファンが虜になった。
プロダクトデザイナーのケネス・グランジ。現行品で彼の仕事に触れられるアイテムとして、右のANGLEPOISE(アングルポイズ)のライトがあげられる。2003年から同ブランドのディレクターとして参加している
当時、中学生だった私もそのひとりだ。こんな言い方をするとちょっと恥ずかしいのだが、「VA-40」の後継機「VA-50」(1991年発売)は私の初恋の相手である。中学入学と同時に通学途中の電器店でオーディオに目覚めた秋山少年は、最初のうちはスイッチやツマミが沢山付いた国産フルサイズコンポに憧れを抱いていたのだが、初めてオーディオ雑誌で「VA-50」の写真を見たときの衝撃と言ったら、クラスに金髪碧眼の女子が転校してきたようなもので、「寝ても覚めてもキミのことしか考えられない」というくらい恋に落ちた。
ただ、中学生にとってAura Design製品は高嶺の花子さんであり、実際にお付き合いできたのは社会人になってから。「VA-50」はとっくに生産終了になっていたが、中古でようやく手に入れることができた。そこからはせきを切ったように「CD-50」「TU-50」「SP-50」「VA-80SE」「VA-100EV」「CD-100」「PA-100」と節操なく収集しまくり、最終的には「VA-40」も手に入れたのだが、それでも初恋だった「VA-50」は、今も私にとって特別な存在であり続けている。
その理由はやっぱり顔。「VA-40」と「VA-50」(初期型)はフロントパネルにあしらわれた「A u r a」のロゴが小さいのだが、それがなんとも可憐でチャーミング。さらに「VA-50」では、ボリュームとセレクターの間に「TAPE」スイッチが追加され、それが口元のほくろに見えたりして、そんなコケティッシュな表情が、私の心をとらえて離さないのである。
「VA-40」の鏡面仕上げフロントパネル。控えめに「A u r a」のロゴが配置されている
さて、あまりオーディオ機器を女性に例えてばかりいると、気持ち悪い奴だと思われそうなので、昔話はこれくらいにしておきたいが、兎にも角にも、秋山少年のハートをわしづかみにし、人生を狂わせた(結果が今の仕事)Aura Designは、その後、同じワーシングにルーツがあったBowers&Wilkins社の傘下に入り、英国での製造を終了する1997年までに13の製品を世に送り出して、その短くも華やかな歴史に幕を閉じた。
……はずだった。
そう、Aura Designは終わらなかったのだ。
なんと、日本の輸入代理店だったユキムがAuraブランドを継承。「オーラデザイン・ジャパン」として再出発することになる。その後は「British Stingray」「VA-200 Stingray」「Stingray 105 Standard」といった英国時代の流れを汲んだプリメインアンプだけでなく、一見Auraとは思えないアルミ梨地仕上げでカナダ生まれの「PSCD1」「PSAMP1」や、マルチチャンネルプリアンプ「VARIE」といった製品も発売。どれも佳作だったが、同時にブランドを存続させることの苦労も伝わってきた。
そして2006年、オーラデザイン・ジャパンは会心作を生み出す。それがオールインワン型CDレシーバーの傑作「note」だ。誰も見たこともないカタチなのに、一目でAuraとわかる秀逸なデザインは、これもまたケネス・グランジ卿の手によるもので、「Aura第2章」の幕開けにふさわしいものとなった。製造は韓国で、その後は「vivid」「vita」「neo」「groove」といった共通のデザインモチーフによる多くの製品が登場した。最近のオーディオファンにとっては、Aura製品と言えばこちらのイメージのほうが強いのかもしれない。
自宅で愛用中の「note premier」。2009年に発売された「note」の後継機だ。コンパクトなボディにCDプレーヤー、プリメインアンプ、USB入力を含むDACを搭載する。なお、現在この「note」シリーズの後継機も企画中とのこと。期待して待ちたい
そして、2023年。Aura DesignはさらにMADE IN JAPANとなって生まれ変わった。国内生産に移行した理由はわからないが、この決断がなければ「VA 40 rebirth」の完成度は今とはまったく違うレベルに留まっていたであろうことは断言できる。
左が「VA-40」で右が「VA 40 rebirth」。しっかりした脚が付いた「VA 40 rebirth」はやや高さがある
まずは、「VA 40 rebirth」とオリジナル「VA-40」の外観を見比べてみよう。フロントパネルは寸法こそ同じだが、鏡面仕上げの精度がまるで違う。Aura製品のフロントパネルはクロームメッキ仕上げという認識が一般的だが、実際にメッキ処理だったのは初期の製品に限られていたようで、Auraロゴが白抜きで大きくなったのと同時に、ステンレスを丹念に磨き上げたものに変わった。新潟県の燕三条で加工されたという「VA 40 rebirth」の鏡面仕上げは、フロントパネル自身が光り輝いて見えるほどの見事な加工精度。エッジの処理もソリッドでありながら、触ってみるとバリなどは一切なく滑らかだ。
左が「VA-40」で右が「VA 40 rebirth」。よく見ると「VA-40」のフロントパネルは曲げてL字になっている。オリジナルモデルのこだわりが垣間見える部分だ
加工精度の高さが「VA 40 rebith」のポイント。写真のようにフロント、トップ/サイドパネルが燕三条で加工されている
いっぽうのオリジナル「VA-40」は、前述したとおりクロームメッキ仕上げ。よく見ると表面にはわずかに凹凸のようなテクスチャーが感じられるが、これはこれで趣があってよい。その素朴な印象をより決定的なものにしているのが小さい「A u r a」のロゴだ。フォントをそのままプリントしたような質素なものだが、この部分だけはグランジ卿ではなく、創業者トゥ氏がデザインしたのではないかと、勝手に想像している。
対する「VA 40 rebirth」の「Aura」ロゴは立派だ。立派と言っても、英国時代や韓国時代の白抜きの大きなロゴとは違い、凝縮感のあるサイズで、色もビシッと黒で決めている。さらには、これまでのAura製品にはなかったたくましい脚(フット)。なんだか「VA 40 rebirth」が、蝶ネクタイを着けたタキシード姿のイケメンに見えてしまうのは筆者だけだろうか。天板にはオリジナル機にはなかった放熱用のスリットも入った。
フロントパネルの比較。左が「VA-40」で右が「VA 40 rebirth」
左が「VA-40」で右が「VA 40 rebirth」。奥行きがかなり延びたほか、トップパネルに放熱用のスリットが入った
次にアンプ内部を見てみよう。4つのパワーMOS FETをシングルプッシュプルで使うという、Auraのアイデンティティはそのままに、デバイス自体は日立製からGOLDMUNDやNAGRAといったハイエンドブランドでも採用実績のある英国EXICON製に変更。それ以外にもVISHAY製の金属皮膜抵抗、ニチコン製MUSEシリーズのコンデンサーといった高品位パーツや、聴感で選ばれたというアルプス製のボリュームが採用されている。
「VA 40 rebirth」に搭載される基板。4つ穴が空いている部分がEXICON製のパワーMOS FETだ
それ以上に変わったのがレイアウトだ。メイン基板をロッドで底板から持ち上げて、パーツ装着面を下向きにして取り付け。さらにメイン基板の裏側(上側)には大型のヒートシンクを貼り合わせた。これによって最適な温度管理が可能となり、発熱によるMOSFETの特性劣化を心配することなく、各パーツの耐久性向上も実現したという。実に合理的なクーリングシステムだ。電源はカスタムメイドの200VAトロイダルトランスを採用。AB級動作で、定格出力(8Ω)はオリジナル機の40W+40Wから50W+50Wにアップしている。
天板を開くと、写真のように基板のパーツ装着面が下向きに設置されている。基板上にはヒートシンクが取り付けられ、放熱をサポートする。こうした熱対策はオリジナルモデルにはなかった工夫だ
余談だが、ボディ全体で放熱させていたオリジナル機も、意外にも天板はそれほど熱くはならない。そのため、今もダイニングで現役である拙宅の「VA-40」は愛猫の憩いの場となっている(スリットがないため内部に毛が入らないのもよい)。同じくボディ全体をヒートシンク代わりにしていたMusical Fidelity「A1」(こちらはA級アンプ)が、天板で「目玉焼きが焼ける」と揶揄されていたのとは実に対照的だ。
「VA-40」の発熱は、猫がくつろぐのにちょうどよい程度
機能面はオリジナル機と同様、きわめてシンプル。アナログ音声入力(アンバランスRCA)が3系統、フォノ入力(MM)が1系統で、スピーカー端子はバナナプラグ専用の簡素な仕様から、今の時代にふさわしく、しっかりとした造りのターミナルに変更されている。重量は7.2kgで、4.2kgだったオリジナル機から3kgも増えた。このことからも、「VA 40 rebirth」が単なる「VA-40」の復刻版ではないことは明らかで、見た目や設計思想こそ似てはいるものの、個人的にはまったく新しいアンプだととらえている。「rebirth」とはまさに言い得て妙なネーミングだ。
「VA 40 rebirth」の端子はアナログ音声入力3系統(RCA)とMM対応のフォノ入力が1系統のみ。特別な機能はない、潔い仕様だ
こちらはテープ入出力を持っている「VA-40」。スピーカー端子はバナナプラグ専用
スピーカーはHARBETHの「HL-Compact」
ここからはお待ちかねの試聴タイムだが、結論から先に書いてしまうと、Aura Designは今も昔も“見た目どおりの音”がすることを再確認した。オーディオ評論のご法度とお叱りを受けそうだが、音作りとデザインは製作者の美意識が最も反映されるところであり、切っても切り離せない関係だと筆者は考える。その最たる存在がAuraのプリメインアンプなのだ。
まずは1階リビングで、英国HARBETH(ハーベス)の銘機「HL-Compact」(1987年発売)をオリジナル「VA-40」で鳴らしてみる。クロームメッキのフロントパネルに部屋の景色が写し出されると、このアンプはカメレオンのようにみずからの存在感を消す。
流れ出る音はクリーンでみずみずしく、どこにも誇張感がない。華奢なプロポーションだが、生命力にあふれ、ローレベルのリニアリティ、すなわち音楽の機微に対してきわめて俊敏だ。それでいて、時折見せる儚げな表情と、わずかに緊張感のある響きが聴き手の心をつかんで離さない。音量を上げても腰砕けになることはないが、このアンプの魅力はやはり小〜中音量時のデリカシーに富んだ表現力にあると思う。
音楽を聴くのに、これ以上何が必要だというのか? エバーグリーンな「HL-Compact」と組み合わせると、英国式のオーディオ流儀である「グッドリプロダクション」の意味を再認識させられる。
試聴したのは主にCD。マランツの「CD-34」(下)とアンプを接続している
次に「VA 40 rebirth」だが、これはもう音が出た瞬間に格の違いを見せつけた。クルマにたとえるならば1.5リッターから2.0リッターのエンジンに変わったような感覚であり、「HL-Compact」をトルクフルに駆動する。全体のトーンはオリジナル機と変わらぬナチュラル基調で、どんなジャンルの曲も生き生きとフレッシュに鳴らす才能はそのまま受け継いでいるが、深々と広がるスケール感とローエンド方向への伸びは段違いで、華奢な印象がまるでない。
Aura Designの音は「VA-100EV」のころから全体に厚みが増し、それまでのナイーブな世界観から、ニュートラルで中性的な方向へ変化したが、この「VA 40 rebirth」は男性的と表現してもよいだろう。
そして、面白いことに、ついさっきまで「音楽を聴くのに、これ以上何が必要だというのか?」と思えていた「HL-Compact」の音が、なんだか少し物足りなく思えてきたのだ。オーディオマニアの血が騒ぐ。「VA 40 rebirth」で、もっと“強い”スピーカーを鳴らしたい!
そこで、「VA 40 rebirth」をメインシステムがある2階の研究室に移動し、鳴らしにくいスピーカーの代表格である英国ATCの「SCM10 SE」(出力音圧レベルは82dB/W/m)に接続。そのドライバビリティの高さに驚嘆した!
低能率のATC「SCM10 SE」もしっかり鳴らしてくれた「VA 40 rebirth」
普段は「VA 40 rebirth」よりも遥かに高価な(と言っても90年代のミドルクラスだが)セパレートアンプでモニターライクに鳴らしているのだが、録音に問題があるソースを再生すると、途端に厳しい表情となって、音楽鑑賞どころではなくなってしまうきらいがある。それを私は、生粋のモニタースピーカーであるATCの宿命だと自分に言い聞かせていたのだが、どうやら完全なる思い違いだったようだ。正直、愛機「SCM10 SE」がこんなに嬉々として歌っているのを見たのは初めてである。
実は冒頭で紹介したMusical Fidelity「A1」も同時期に借用していた。こちらのレビューも後日公開予定だ
試聴機の返却日までに、さまざまな音源を聴いたが、特に印象に残ったのが、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の結束バンドのアルバムだ。いつもは録音の粗が耳に刺さって、大音量で再生することができないのに、不思議なことに「VA 40 rebirth」との組み合わせでは、どれだけボリュームを上げてもピーキーな音にならない。ロックなサウンドが混濁することなく天井知らずに吹け上がっていくこの感覚は、まさに生音! 脱帽である。
もし本機が英国生産だったならば、昨今の円安の影響もあって、倍の値段では済まなかったのではないか。製造原価の値上がりを受けて、2024年7月22日の受注分からは希望小売価格が330,000円(税込)に価格改定されるとのことだが、それでもなお、お買い得感はハンパない。もし自分のオーディオ人生をrebirthできるなら、迷うことなく本機を選ぶ。
MADE IN JAPANの傑作プリメインアンプが誕生したことを、諸手をあげて歓迎するのと同時に、これまでの長きにわたるオーラデザイン・ジャパンの活動に、ひとりのAuraファンとして心より感謝を申し上げたい。
Auraからは、写真のパワーアンプ新モデルも登場予定。2024年7月26日からの東京インターナショナルオーディオショウで展示される予定だ。こちらもぜひチェックを