左から「RUBIKORE8」「RUBIKORE6」「RUBIKORE2」「RUBIKORE CINEMA」、その下が「RUBIKORE ON-WALL」。すべてバスレフ型スピーカーだ
デンマークのスピーカーメーカーDALI(ダリ)から、ミドルクラスに位置する「RUBIKORE(ルビコア)」シリーズ5機種が発表された。ラインアップと価格は以下のとおりで、すべて2024年10月発売だ。
●「RUBIKORE8」 希望小売価格704,000円(1本/税込)
●「RUBIKORE6」 希望小売価格528,000円(1本/税込)
●「RUBIKORE2」 希望小売価格264,000円(1本/税込)
●「RUBIKORE ON-WALL」 希望小売価格308,000円(1本/税込)
●「RUBIKORE CINEMA」 希望小売価格418,000円(1本/税込)
価格表記はすべて1本あたりのもの。ステレオで使うなら価格は倍だ。価格.comマガジンで紹介するにはちょっと高価なシリーズではあるものの、現実的な価格帯できれいに揃った高音質サラウンドシステム/ホームシアターシステムを作ろうとするならば、この「RUBIKORE」シリーズはとても魅力的だと思う。2チャンネルでも、Dolby Atmosを含むサラウンドでも幅広い対応力のあるスピーカーとして、ここで紹介しておきたい。
主なスペックは表のとおり。使用ユニットのサイズは共通している
壁掛け用の「RUBIKORE ON-WALL」やセンタースピーカーとしても縦置きのブックシェルフ型スピーカーとしても使える「RUBIKORE CINEMA」もラインアップ
「RUBIKORE8」「RUBOKORE6」「RUBIKORE2」は4色、「RUBIKORE ON-WALL」「RUBIKORE CIMEMA」は3色から選択可能。ただし、ハイグロス・ホワイトは受注生産品だ
特別なハイエンドモデルとして「KORE(コア)」があり、それを小型にまとめた「EPIKORE(エピコア)11」が発表されたばかり。さらにその下に位置するのが「RUBIKORE」。10年ぶりのリニューアルとなる
冒頭のとおり、「RUBIKORE」シリーズはDALIのスピーカーラインアップ中ミドルクラスに当たる。高域再生を担当するツイーターがソフトドームとリボンのハイブリッド方式であること(「RUBIKORE2」を除く)や、低域再生を担当するウーハーの振動板素材がウッドファイバーであることなどは従来どおり。
新たなフィーチャーは大きく4つとのことだが、さらに大きく言えば2022年に発表されたハイエンドモデル「KORE(コア)」で得られた知見を普及価格帯にまで投入した新世代モデルと言ったところ。
DALIが創業以来40年の集大成として発表した「KORE」。希望小売価格はペアで1650万円(税込)
「KORE」の記事でも触れたように、元々DALIのスピーカーは日本でも人気で、それを支えているのは主に比較的小型で手に取りやすい価格の「OBERON(オベロン)」などのシリーズだ。エントリークラスの「OBERON」シリーズ(「OBERON1」など)は小型で扱いやすく、安価でありながら音にも仕上げにも安っぽさのない非常によくできたスピーカー。本シリーズに限らず、DALIのスピーカーはどれを買っても間違いがない、という安心感に満ちている。
実際にGfKの調査(※)によれば、DALIの日本市場でのシェアはBowers & Wilkinsに次ぐ人気(20%)だそうだ。
(※2023年1月〜12月 アンプ非内蔵スピーカー店頭シェア)
いっぽうで趣味のスピーカーとして選ぶにはやや地味に感じられることもあると思っていたのだが、そのイメージが変わりつつある。もちろん、それは「KORE」の登場に由来している。「いいスピーカーメーカーだよね」というぼんやりとしたイメージが刷新されるような特性のよさ、音のよさで新世代のDALIとして一皮むけたことが明示されたのだった。
その後に「EPIKORE(エピコア)11」が発売されたのだが、その希望小売価格は440万円(1本/税込)であり、こちらも“手が届く”とは言いがたい特別な製品だ。そしてこの「RUBIKORE」である。ようやく頑張れば“手が届く”と言える新世代製品が登場したのだ。
従来機からの大きな改善ポイントだという4点を追っていこう。上の図のとおり、大きく言えば、ツイーター、ウーハーのユニットに加えて、それらをつなぐ帯域分割のためのクロスオーバーネットワーク、背面のバスレフポートの4点だ。
近年のDALIはソフトドームツイーターをメインの高域再生ユニットとして使っていて、そのことは従来どおり。「KORE」では磁気回路のすきまに冷却用素材として使っていた磁性流体(磁性のある流体)を廃止していたが、この技術を「RUBIKORE」にも採用した。
粘性のある磁性流体を使わないことで余計なダンプ効果を生まず、よりスムーズな(ロスの少ない)動作をすることがこの趣旨。ただし、粘性のある磁性流体は磁気回路のギャップにおいて潤滑油的な役割も果たしているため、これを排除すると品質管理は難しくなるという。
「RUBIKORE2」を除いたモデルはソフトドームツイーターの上にリボンツイーターも搭載する。これはさらに高域を担当するスーパーツイーターというわけではなく、14kHzを超える高域の水平指向性をサポートする役割を果たす
ウーハーユニットも「KORE」の技術を使った最新仕様へ進化。マグネットをダブル(2つ)として回路を強化しつつ、振動板は「クラリティ・コーン」を採用。パルプにウッドファイバー(木の繊維)を混ぜたウッドファイバー素材であることは従来と同じだが、スムーズな周波数特性を得られる形状効果のある模様を入れている。
ウーハーをよく見ると、「U」のような形状の模様が入っている。振幅時に避けられないたわみを分散し、特定周波数での乱れを均す効果があるという
オレンジが新ウーハーの特性。1kHzを超えたところでの周波数特性の暴れがかなり抑えられている。ソフトドームツイーター+パルプベースのウーハーという素材の都合もあり、「RUBIKORE」シリーズではモデルによって2.4〜2.9kHzというかなり上の周波数帯域までウーハー(ミッドレンジ)が担当している。そのため、この改善がきいてくるのだ
入力信号の帯域分割を行うクロスオーバーネットワークには、「SMC KORE」クロスオーバー・インダクターやムンドルフ製のフィルムキャパシターなどを採用。「SMC KORE」とは、コアに「SMC」(表面を絶縁被膜で覆った鉄粉)を使ったコイルのこと。通常の鉄粉の場合と比較すると12dBもの電流歪みの低減を実現したという。
こちらが「SMC」(Soft Magnetic Compound)。「KORE」ではとにかく効果のありそうなところには使う、という方法を採っていたそうだが、効果のあるところに限定的に使うのがミドルクラスでのやり方のようだ
バスレフポートには「コンティニュアス・フレア・バスレフポート」と呼ばれる技術を採用(「RUBIKORE ON-WALL」と「RUBIKORE CINEMA」を除く)。中央がすぼんだ形のダクトを使うことで、乱気流が起こることを防ぎ、風切り音を低減するという。実測するとしっかり差が出るほどの数値上の違いがあるそうで、最新の技術でも特許技術でもないが、よく知られた技術が“ハマった”好例とのこと。
ポートの実物がこちら
製品発売に先立ち、輸入元であるディーアンドエムホールディングス試聴室で「RUBIKORE」シリーズを試聴できたのでそのインプレッションをお伝えしよう。
従来機である「RUBIKON」シリーズとの比較を通じて、「RUBIKORE2」「RUBIKORE6」「RUBIKORE8」でまったく同一の楽曲を再生してもらったところ、共通しているのはよりストレートな響きだ。ボーカルのリップノイズがより細やかに、生々しくなり、表現力が増した印象だった。ツイーターで磁性流体を廃止したことの効果なのだろう。
また、「RUBIKON」シリーズでもウッドベースの弦を弾く音がよく鳴ってとても心地よいのだが、「RUBIKORE」で同じ部分を確認すると、実はそこに余計なノイズっぽさがあったのだと気づくのだ。より現代的な打ち込み楽曲などもタイトに再現してくれそうな俊敏さがあるのだが、あくまで自然な響きであり、心地よさを残している。
短い間の限られた楽曲再生だったが、「RUBIKORE」シリーズは、「KORE」発表時に感じた「超弩級モデルの登場は、次の飛躍のための布石になるはずだ」という期待をそのまま体現してくれたと感じる見事なクオリティだった。
「RUBIKORE CINEMA」と「RUBIKORE ON-WALL」。どちらも165mmウーハーを搭載しており、かなりゴツい
今回は3モデルに少し触れたのだが、実はより気になったのは「RUBIKORE ON-WALL」と「RUBIKORE CINEMA」の存在だ。要はサラウンド(マルチチャンネル)システム向けのスピーカーなのだが、どちらもかなり真剣に作り込まれているようなのだ。
担当者に聞いたところ、「RUBIKORE ON-WALL」はバスレフポートがうまく作られていて、ハイファイスピーカーとして十分に通用する、と太鼓判を押していた。強度のない壁に設置するのは向かないという注意もあったが、これはサラウンドやハイトスピーカーによさそうだ。
「RUBIKORE CINEMA」のバスレフポートは本体下部に設けられている。この設計が巧みで、しっかりフルレンジ再生してくれるという。壁掛け設置で使う前提の製品だが、公称再生周波数帯域は59Hz〜34kHz
さらに「RUBIKORE CINEMA」のツイーター部分は方向転換できるようになっており、縦にしてブックシェルフ型スピーカーとしても利用できる。一部業務用スタジオスピーカーで見られる機能だが、家庭用スピーカーとしてはなかなか珍しい。「RUBIKORE CINEMA」を天井に設置するのは難しそうだが、Dolby Atmos再生を視野に入れたサラウンドシステムとして非常にハイレベルを狙えそう。サラウンドシステムは全スピーカー同一がベストだが、すべてのユニット口径が同一の「RUBIKORE」シリーズは混成でも理想に近いと言える。
というわけで、シンプルに音質に感激したこともあるのだが、さらにサラウンドシステムとして高い完成度を目指せそうな製品が登場したことにとてもうれしくなった次第だ。(あくまで現実的な価格の範囲で)最高クオリティのサラウンドシステムを構築したい! と思ったならば、この「RUBIKORE」シリーズを候補のひとつとして思い出していただきたい。
「RUBIKORE CINEMA」をフロントL/C/Rチャンネルで揃えた構成例。ツイーター部分を90度回転させている。完全同一スピーカーでセンターチャンネルまで揃うだけでなく、放射特性も揃うわけで、サラウンドシステムとして好ましい。センタースピーカーを使いたいユーザーにはうってつけの製品だ