レビュー

Edifierの平面磁界型ドライバー搭載ワイヤレスヘッドホン・完全ワイヤレスイヤホンを試す

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あの平面磁界型ドライバーヘッドホンに後継機が

近年、中国オーディオブランドが元気なことはあえて指摘するまでもないが、なかでも目立つのが「Edifier(エディファイア)」。コスパ重視のPCスピーカーがあるかと思えば、70Wのサブウーハーもあり、完全ワイヤレスイヤホンも豊富にラインアップ。中国屈指の音響機器メーカーであるだけに、その製品開発力には目を見張るものがある。

個人的に注目しているのが、平面磁界型ドライバー搭載モデルだ。2022年春発売の「STAX SPIRIT S3」は、独自開発の平面型振動板「EqualMass」をプッシュプルのダイナミック型で駆動するという基本コンセプトのもと、Snapdragon Soundに対応したワイヤレスのフィーチャーを加える、という新発想が目を引いた。平面磁界型ヘッドホンといえば音質重視のオーディオファン向け、当然のようにワイヤードが前提だったところ、基本はワイヤレス(ただし有線利用可)。しかも完成度は高く、平面磁界型ドライバーの新たな可能性すら感じさせた。

そのEdifierが、2024年6月にオーバーヘッド型の「STAX SPIRIT S5」(以下、「S5」)、2024年9月に完全ワイヤレスイヤホンの「STAX SPIRIT S10」(以下、「S10」)と、立て続けに平面磁界型ドライバー搭載モデルを発売した。平面磁界型ドライバー搭載のイヤホンは他社からも発売されているが、高音域のみ担わせる実装形式が多く、全帯域をカバーすることは少ない。見方を変えれば、Edifierには平面磁界型ドライバーに関する技術と経験がそこまで蓄積されていると言えるだろう。

中高域の解像感に低音の迫力が加わった「S5」

「S5」は、「S3」で初搭載された平面磁界型ドライバー「EqualMass」を改良、対称サスペンション設計など新技術を投入した上位モデル。コーデックのサポートも向上、「S3」では対応していなかったaptX LosslessとLDAC、LHDCが追加された。aptX Adaptiveは96kHz/24bit対応だから、コーデックに関しては現時点において満額回答と言っていい。

Edifier「STAX SPIRIT S5」。直販価格は69,880円(税込)

Edifier「STAX SPIRIT S5」。直販価格は69,880円(税込)

Bluetoothのほか2系統の有線接続(USB/AUX)に対応

Bluetoothのほか2系統の有線接続(USB/AUX)に対応

最大の特徴である平面磁界型ドライバー「EqualMass」は、「S3」のときには磁気構造や位相管理などに傘下企業(当時)Audezeの技術を使用していたが、Audezeがソニー・インタラクティブエンタテインメントに買収されたことを受けてか、自社技術のみで構成されることに。いわば"独り立ち"が試される部分だが、面積は「S3」と同じ89×70mmということからすると、基礎設計に大きな変更はなさそうだ。コイルパターンも「S3」同様、棒が並んだような構造のシンプルなものとなっている。

独自開発の平面磁界型ドライバー「EqualMass」を搭載

独自開発の平面磁界型ドライバー「EqualMass」を搭載

いっぽうのハウジングは、新しく設計し直されている。「S3」と比べひと回り大きくなり、表面部材はカーボンプレートから樹脂に変更された。ドライバーの振動特性の変化かチューニングの結果かはわからないが、上部のベントは4×15mmから6×45mmと約4.5倍の面積に拡大されている。肌触りがよく軽いラムスキン、通気性にすぐれ蒸れにくいクールメッシュという2種類のイヤーパッドは継続だ。

「S5」(写真左)のベントは前モデル「S3」(写真右)より拡大された

「S5」(写真左)のベントは前モデル「S3」(写真右)より拡大された

イヤーパッドはラムスキン(左)とクールメッシュ(右)の2種類が付属

イヤーパッドはラムスキン(左)とクールメッシュ(右)の2種類が付属

肝心の音は、明らかに進化している。歪み感が少なく一音一音がきめ細かいという平面磁界型ドライバーならではの傾向はさておき、「S3」と比較すると低域の情報量と描写力が増している。

特別なバリトンギター1本をオーバーダビングなしに聴かせるPat Methenyのアルバム「MoonDial」は、「S5」の描写力を試す好材料だ。低音域の深い響きが魅力の楽器であるだけに、再生機器側には低域再生能力が問われるところだが、ナイロン弦を指弾きすることによるやわらかで繊細な音を保ちつつ、低域には適度な量感があり、しっとりとした余韻を伝えてくれる。

前モデル「S3」と聴き比べてわかるのは、やはり低域の印象だ。MoonDialには、低音弦の音を通奏低音のように使う曲がいくつも収録されているのだが、その量感と余韻のリアルさは「S5」に軍配があがる。Vulfpeckの「Disco Ulysses」でエレキベースの音を確認したが、量感が増してもモタつかない低音という傾向は同じ、曲のジャンルは選ばない。

有線接続も試したが、USBとAUXの2種類あるうち後者のほうが好印象。情報量と音像のシャープさはBluetooth接続時を上回り、「S5」というヘッドホンのもう1つの顔を見ることができる。ただし、内蔵DACチップを利用する前者は最大96kHz/24bitとスペック的に微妙なこともあり、別途DAC内蔵ヘッドホンアンプを用意したほうがよさそうだ。

平面磁界型の音世界を完全ワイヤレスで実現する「S10」

2024年9月に発売された「S10」は、「S3」の派生版に当たる完全ワイヤレスイヤホン。Bluetooth SoCには「QCC5181」を採用、aptX AdaptiveやaptX Losslessなどコーデック周りとノイズキャンセリング技術(Qualcomm Hybrid Adaptive ANC)は安定のクアルコム製。そのうえLDACとLHDCにも対応と、デジタル方面の仕様は申し分ない。

Edifier「STAX SPIRIT S10」。直販価格は39,880円(税込)

Edifier「STAX SPIRIT S10」。直販価格は39,880円(税込)

そしてなんといっても、目玉は平面磁界型ドライバー「EqualMass」。当然、完全ワイヤレスイヤホン向けに再設計されており、ポリマーフィルムに銀メッキとレーザー加工を施した12×12mm、薄さ2μm(最厚部分は10μm)の基板にまとめられている。

外観は、まずまずという印象。12×12mmの平面磁界型ドライバーを格納する都合だろう、ハウジングはやや大ぶりで、SoCや通信部があるはずの軸部分は太めにデザインされている。どちらかといえば男性的、正直なところ女性ウケは期待できそうにないが、装着感やタッチの反応など操作性は上々、聴き疲れしにくいところはいい。

ハウジングにはやや厚みがある

ハウジングにはやや厚みがある

試聴用の音源は「S5」のときと同じPat Methenyの「MoonDial」、再生開始後そのまま聴き入ってしまった。歪みがほとんど感じられず、低音弦をフィンガー・ピッキングした余韻が素直に伸びる。低域の量感はしっかり、けれど過剰ではなくボワついたところがない。このアルバム、再生環境によってはギターのほかにベースが存在するかのような違和感を覚えてしまうのだが、「S10」ではあくまで1本のバリトンギターとして聴こえる。

音場の広さ、見通しのよさも特筆ものだ。Corrinne Mayの「Love Song for #1」は、女性ボーカルとピアノだけのシンプルな構成だが、それぞれの位置関係が手に取るよう。イヤホンでの再生なだけに脳内定位とはなるものの、そのトランジェント特性ゆえか声にもピアノにも付帯音が感じられず、ごく自然な空気が眼前に広がる。

ノイズキャンセリングの効きもなかなかのものだ。クアルコム製SoCにビルトインされている機能(Qualcomm Hybrid Adaptive ANC)とのことだが、電車やクルマの走行音は意識の外に追いやれるレベルにまで低減。食器が重なるときのような高周波成分を多く含む雑音は取り残されがちだが、通勤通学のお供として使う分には不足はない。同梱のイヤーチップはXS/S/M/L/XLの5サイズ・7セット、パッシブNC性能を意識していることがうかがえる。

アプリ「Edifier Connex」にはANCモード変更のほか、EQ機能も用意されている

アプリ「Edifier Connex」にはANCモード変更のほか、EQ機能も用意されている

XS/S/M/L/XLという5サイズ・7セットのイヤーチップが同梱

XS/S/M/L/XLという5サイズ・7セットのイヤーチップが同梱

【まとめ】平面磁界型ならではの音を好みのスタイルで

かつて平面磁界型ドライバーといえば、音はよくてもその価格ゆえに手を出しにくい存在だったが、中国系メーカーの参入により環境は大きく変わった。特にEdifierはその先頭を行く存在で、「STAX SPIRIT S3」以降存在感を高めた。Edifierは静電型ヘッドホンの元祖ともいえるSTAXを傘下に擁すが、開発は完全に別体勢で行われており、今回紹介した「S5」と「S10」もあくまで独自の製品だ。

「S5」は、いわば「ワイヤレスでの最高水準音質」を追求したヘッドホン。平面磁界型ドライバー「EqualMass」には大きく手を加えず、ベントの見直しなどチューニングに重きを置いた設計により、低域の量感アップという前モデル「S3」の課題をクリアしている。コーデックにLDACとaptX Losslessが追加されたこともあり、音質指向のワイヤレスヘッドホンとしての充実度は高い。

「S10」は数少ない「単独で全帯域を担う平面磁界型ドライバー搭載の完全ワイヤレスイヤホン」であり、音質に重きを置きつつも適応型ANCをサポートするという柔軟性をあわせ持つ。平面磁界型ならではの正確な音を好みのスタイルで、周囲の雑音を気にせず楽しめるという点で画期的な存在と言えるだろう。

海上 忍
Writer
海上 忍
IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。
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遠山俊介(編集部)
Editor
遠山俊介(編集部)
2008年カカクコムに入社、AV家電とガジェット系の記事を主に担当。ポータブルオーディオ沼にはまり、家にあるイヤホン・ヘッドホンコレクションは100オーバーに。最近はゲーム好きが高じて、ゲーミングヘッドセットにも手を出している。家電製品総合アドバイザー資格所有。
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