ここでレビューするのは、LGエレクトロニクスの55V型有機ELテレビ「OLED55C4PJA」と「OLED55B4PJA」。 「C4」シリーズは有機ELテレビのスタンダードモデル、「B4」シリーズはエントリーモデルという位置づけだ。
左が「OLED55B4PJA」で、右が「OLED55C4PJA」。脚の形状が異なる。また、「B4」シリーズは77V/65V/55V/48Vの展開であるいっぽう、「C4」シリーズは83V/77V/65V/55V/48V/42Vと幅広いラインアップを揃えている
先立ってレビューした「G4」シリーズとの大きな違いは、搭載する有機ELパネルや映像処理エンジンだが、それがどの程度画質に表れるのか。同じ有機ELテレビなのだから、大きな違いはないのではないか。そう思っている人も少なくないだろう。そこで、有機ELパネルや映像処理エンジンによる画質の違いをじっくりと紹介していこうと思う
「C4」シリーズのラインアップ
●83V型「OLED83C4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●77V型「OLED77C4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●65V型「OLED65C4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●55V型「OLED55C4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●48V型「OLED48C4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●42V型「OLED42C4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
「B4」シリーズのラインアップ
●77V型「OLED77B4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●65V型「OLED65B4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●55V型「OLED55B4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●48V型「OLED48B4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●有機ELテレビのスタンダードとエントリーモデル
●映像・音声の最適化を行うAIサービス対応
●「C4」シリーズは144Hz駆動対応
今回レビューする「OLED55C4PJA」(以下「C4」)と「OLED55B4PJA」は(以下「B4」)どちらもLGエレクトロニクスの有機ELテレビで、同社フラッグシップモデル「G4」シリーズの下位モデルにあたる。「C4」シリーズがスタンダードモデルで、「B4」シリーズはさらに安価なエントリーモデルと言ったところ。
「C4」シリーズの映像処理エンジンは「α9 AI Processor 4K Gen7」、「B4」シリーズは「α8 AI Processor 4K」。これらの処理性能に違いがあり、映像最適化処理は同じようでいて、実は少しずつ内容が異なる。
「C4」と「B4」シリーズの主な違いは表のとおり
写真は「G4」シリーズの「AIスーパーアップスケーリング」。「C4」「B4」シリーズも同名の機能を持っているが、処理は少しずつ簡略化されている
たとえば、「AIスーパーアップスケーリング」などがそうだ。これはAIがコンテンツを判別し、最適と思われるノイズ処理を施したうえ解像度をアップスケーリングするもの。上位モデルである「G4」シリーズではピクセル単位で映像を判別して超解像処理を行うのに対して、「C4」と「B4」シリーズではフレーム単位で判別をしたうえで超解像処理を行う 。さらに、「C4」シリーズでは人の顔検出と調整を行うのに対して、「B4」シリーズではこれを行わないといった具合に、同じ名称であっても徐々に機能が省略されているのだ。
部屋の明るさに合わせて映像の明るさを調整する「AI輝度」、好みの画質をAIが診断し最適な画質設定をおすすめする「パーソナルピクチャーウィザード」といった機能は共通。
また、HDR再生に関連した機能として「C4」シリーズは「OLEDダイナミックトーンマッピングプロ」機能を「B4」シリーズは「ダイナミックトーンマッピングプロ」機能を持っている。どちらも1フレームの映像を解析して、リアルタイムでHDR映像を最適化する機能だが、1フレームをいくつに分割して分析するか、その精度が異なるようだ。
内蔵スピーカーは、「C4」シリーズが2.2ch(総合アンプ出力40W)、「B4」シリーズが2.0ch(総合アンプ出力20W)。どちらもスリムなデザインを重視したインビジブルタイプのスピーカーとなっている。薄型テレビの音質を期待する人には少し物足りないかもしれないが、Dolby Atmos再生にはきちんと対応(9.1.2chのバーチャル再生)する。HDMI端子はeARC/ARCにも対応するので、サウンドバーやAVアンプを接続した音質グレードアップは難しくない。
独自のOSである「webOS」を搭載。テレビ単体でYouTubeやAmazonプライム・ビデオ、Netflixなどを再生できる。「G4」シリーズ同様、5年間はOSアップデートが保証されるという
このほか、独自のOSであるwebOSによる操作性や録画機能、動画配信サービスへの対応などは共通。ゲーム機との接続では、どちらもVRR(可変リフレッシュレート)対応だが、最大144Hzのリフレッシュレートに対応するのは「C4」シリーズのみ。この点には注意したい。どちらもゲーム用の画質機能などに素早くアクセスできる「ゲームダッシュボード」のほか、「AMD FreeSync Premium」、「NVIDIA G-SYNC Compatible」、「HGiGゲームモード」といった充実した機能を備える。
左から「G4」「C4」「B4」シリーズ。実はこれらに搭載されている有機ELパネルは少しずつ異なる
さて、日本国内で発売されている有機ELテレビならば、どれも同じような特性と性能を持っていると思われていないだろうか。しかし、厳密に言えば有機ELテレビのベースと言える「有機ELパネル」にはいくつかの種類があり、輝度(明るさ)などの性能にも違いがある。
それらがLGエレクトロニクス製有機ELテレビのグレード分けにも直結しているので、ここで改めて整理してみよう。
LGエレクトロニクスが採用している日本国内向けの有機ELパネルは大きく分けて3種類。まずは特に名称のない標準的な有機ELパネル。「B4」シリーズに使われている白色有機EL(WOLED)のスタンダードなパネルだ。
次に、「C4」シリーズで使われている「OLED evo」パネル。材料の中の水素原子を重水素に置きかえた新技術(EXテクノロジー)を採用したパネルで、供給元のLGディスプレイが「OLED.EX」と呼ぶものだ。このパネルでは従来よりも30%の高輝度化が可能になったとされている。
LGディスプレイが「OLED.EX」を発表したのは2022年
最後が、「G4」シリーズで採用された「マイクロレンズアレイパネル」。発光層の前に小さなレンズを並べ、効率的に光を取り出す仕組みを採った高輝度パネルだ。これはLGディスプレイが言うところの「MLA+」。
白色発光層の前にマイクロレンズを並べる「MLA」。レンズの角度を改め、光を取り出す効率を上げた最新版が「MLA+」だ
なお、サムスンディスプレイが開発し、ソニーやシャープで採用されている有機ELパネル「QD-OLED」はまた別の種類の有機ELパネルだ。 LGエレクトロニクスの場合、無印の標準的な有機ELパネルを「B4」シリーズで、「OLED evo」パネルを「C4」シリーズで、「マイクロレンズアレイパネル」を「G4」シリーズで使い、すみ分けをしているというわけだ。
実際に、「C4」シリーズが輝度向上アルゴリズム「Brightness Booster」を搭載(55〜83V型モデルのみ)していることもあり、「B4」シリーズよりも30%ピーク輝度が高い(APL3%時)としている。これはパネルの性能差にも由来しているのだろう。
TVS REGZAやパナソニックなど国内メーカーのモデルでも、上位モデルが「MLA+」を採用し、下位モデルは「OLED evo」相当のパネルを使うなど、実は搭載されているパネル自体が製品グレードによって異なるのだ。 有機ELパネルは画素単位の有機EL自体が光る自発光方式のため、原理的に真っ黒を再現しやすいことが大きな特徴で、これは以前から実現していたことだ。そのため、その後の有機ELパネルの進化は主に高輝度化が中心だった。
LGエレクトロニクスの有機ELパネルは「OLED evo」「MLA+」と進化していき、日本で有機ELテレビが発売されて10年ほど経った現在では、かなりの高輝度が実現できるようになっている。なお、標準的な無印の有機ELパネルも決して10年前から進化していないわけではない、生産性の効率化やパネル駆動技術の改善などによって実力は間違いなく上がっている。
LGエレクトロニクス2024年テレビ発表会の様子。左から55V型の「G4」「C4」「B4」シリーズ。正面から見た明るさも異なっていたが、「マイクロレンズアレイパネル」の「G4」シリーズは視野角性能にもすぐれていた
まずは両機の映像モードを「標準」として、明るい環境下での地デジ放送画質などをチェックする
では、実際に「C4」と「B4」の画質を見ていこう。まずは両モデルともリビングを模した明るい環境下に置いて、映像モードを「標準」とした。自動で画質を最適化するAI機能はすべてオンとすると、「G4」シリーズのレビューでも感じたように、テレビ放送などでは強調感が強くなりがちだった。このあたりは好みに応じてAI機能をオフとするとよいだろう。
AIが再生映像を自動判別して画質・音質の最適化を図る「AIサービス」。補正による強調感が気になる場合は、機器設定から「AI映像プロ」などをオフしてみるとよい
テレビ放送のニュースなどを見ると「C4」は十分に明るいと感じる。画質傾向としては暗部より明部を際立たせるような映像だ。スタジオ内のセットや出演者は明るく鮮やかで、肌の色は健康的。これに対して「B4」はその明るさがやや落ちる。基本的には明るく鮮明志向の再現性で「C4」と似た傾向なのだが、比べてしまうと画面全体の明るさ感にやや差があることがわかる。
ドキュメンタリー番組などの映像を見ると、ノイズ感がよく抑えられて見やすいのはどちらも同じ。細かく見比べると「C4」のほうが細かなノイズが少ないと感じるが、わずかな差だ。
色の鮮やかさや忠実度はどちらも共通で、正確な再現性だとわかる。少し気になったのは、「B4」は日陰部分など暗い場所の再現がやや苦手なこと。真っ黒な映像では黒が締まるのだが、薄暗い部分だと黒浮きに似た印象になってしまうことがあった。 ドラマなどを見ると「C4」はハイライト部分の輝きなど、きちんと照明を当てている部分がよくわかる。このあたりはパネルの輝度に余裕があるためだろう。
「B4」は明るさとしては十分だが、ハイライト部分の輝きはやや弱い。基本的には明るく見やすい映像なので、不満を感じるほどではないが、絶対的な画面の明るさにはしっかり差がある。
また、「G4」シリーズとの比較で言えば、どちらもノイズ感や質感でやや差を感じられた。細かな部分でのノイズによるチラツキや、広々とした景色を映したような引きの画面で細部の甘さを感じることがあったのだ。このあたりに映像処理エンジンの処理能力の違いが現れているのだろう。
部屋を暗くした状態で、画質モードを「FILMMAKER MODE」に変更。暗い部屋で映画を見るのに向いたモードだ。この設定でUltra HDブルーレイを再生する
続いてはUltra HDブルーレイを再生してみる。プレーヤー(パナソニック「DMP-UB900」)の都合で、Dolby Vision収録ソフトもHDR10で再生している。画質モードは「FILMMAKER MODE」。室内は照明を落とした全暗環境だ。 「デューン 砂の惑星PART2」では、「C4」でも「B4」でも砂漠の星で輝く太陽の強い光が「G4」シリーズと比べるとちょっと弱々しい。
「C4」と「B4」の差が大きいと思ったのは、暗部の再現性だ。画面全体の明るさという意味では、この環境で決して大きな差は感じなかったのだが、暗部再現の仕方はパネル性能とコンセプトの違いが顕著に表れた。
「C4」は暗部の階調性はスムーズなのだが、画面全体を明るく見せる絵作りのせいか、やや暗部が明るくなりすぎる。見通しはよいのだが、暗部の薄暗さや映像の雰囲気がもう少し正確に出てほしいと感じる。ここは多少明るい部屋でも映画的な画質を楽しんでほしいというLGエレクトロニクスの絵作りのコンセプトなのだろう。好みの分かれる部分だと思うし、調整で対応できる範囲のことではある。
いっぽうの「B4」は暗部を明るめに描くのは同じなのだが、階調表現自体がやや苦しい。ある程度以下の暗さになると急に真っ黒になってしまい、見通しがよくない。日陰や夜の洞窟内など、さまざまな場所の暗いシーンを見ていくと、その場所に適したそれぞれの暗さを再現するのが難しいのだ。
その点、「C4」は全体的に明るい表現にはなるものの、真の闇に近い暗さ、日陰のちょっと暗い感じまで、それぞれの差をそれなりに再現できていた。全体の明るい感じは画質調整でやや暗めにすることもできるので、大きな不利とは感じない。
原子爆弾の産みの親による開発の物語を描いた「オッペンハイマー」は、核実験の場面を見た。「C4」は、真っ暗な闇夜の中、ライトアップされた爆弾やさまざまな実験設備など、夜間のシーンをそれらしく描く。強い照明を当てられた爆弾などの光量も十分だ。
映画にしても、明るい部屋で見るテレビ放送にしても、「C4」ならば十分な明るさと暗部再現の優秀さが感じられるだろう。「B4」でも真っ黒な闇はきちんと描けるのだが、ライトアップされた様子の階調表現が苦しく、全体に暗くて見にくい印象になってしまうのが残念。実験の様子を観測するための小屋内は薄暗いのだが、「C4」が比較的明るく見やすいのに対し、「B4」はちょっと暗すぎる。
もちろん、「C4」が明るいと言っても「G4」シリーズで感じたようなインパクトはない。核爆発が放つ強烈な光を再生してみると、「G4」シリーズを見た後ではやや物足りなさもある。それでも、映画鑑賞のための画質としては十分。燃え上がる炎は白飛びせず力強く描かれており、不足はない。
「B4」は明るさが不足気味であるとともに明部の階調性もやや苦しく、白飛びしている部分が少しあった。つまり絶対的な輝度が足りず、黒方向の階調性も苦しいので、有機ELテレビの持ち味である明暗のダイナミックレンジの広さ、コントラストの高さが少し物足りなくなってしまうのだ。もし「B4」を単独で視聴していればここまでの印象にはならないかもしれないが、比較してしまうとどうしてもパネルの実力差がはっきりと出てしまった。
音質モードも多数あるが、基本的には自動調整機能である「AIサウンドプロ」を使うとよさそうだ
スピーカーは「C4」「B4」どちらも画面下向きにスピーカーが内蔵されるタイプ。他メーカーも含めたハイエンドモデルと比べるとやや簡素だが、本体の薄さにこだわった「G4」シリーズよりも本体がやや厚い形状になっていて、その分内蔵スピーカーの設計にも余裕があるのか、音質的には聴きやすいものに仕上がっていた。
「C4」も「B4」も同様にニュースでのアナウンサーの声は聴きやすいし、ドラマや映画などのセリフもはっきりとしている。低音の力強さは決して十分ではないが、「C4」にはサブウーハーもあるので絶対的に非力というほどではない。「B4」でも、大音量で鳴らそうとしなければ物足りなさを感じるほどではなかった。
この対策をするならば、サウンドバーなどの追加が必要になるだろう。薄型のデザインを生かして、スリムなサウンドバーなどを組み合わせれば、リビングなどにもすっきりと置けるだろう。あるいは、最近増えているHDMI(eARC/ARC対応)端子を持つプリメインアンプやスピーカーと組み合わせるのもよさそうだ。
もちろん、「G4」シリーズのレビューで紹介したように、同じLGエレクトロニクス製ワイヤレススピーカー「XO2T」や「XO3」を足す方法も考えられるだろう。
「C4」「B4」シリーズも、Bluetoothスピーカーをサラウンドスピーカーとして使う機能を持っている。LGエレクトロニクス製ワイヤレススピーカー「XO2T」や「XO3」を2本足せば、それだけでサラウンドシステムが完成する
さまざまなコンテンツを明るい環境、暗い環境で見てみた結果、「C4」「B4」どちらも、リビングで映画もテレビ放送も楽しむという使い方が向いていると感じた。
別記事でレビューしたように、フラッグシップモデルである「G4」シリーズの高輝度は圧倒されるほどだし、画質としても充実していた。しかし、映画は照明を落とした暗めの環境で、テレビ放送は明るい部屋で楽しむという定番の使い方ならば、「C4」シリーズの画質と価格のバランスのよさは特筆に値する。
価格は抑えつつも有機ELらしい精密さと色の鮮やかさをしっかりと楽しめるという意味で、「C4」シリーズのコスパは高いのだ。
「B4」シリーズは明るい部屋では大きな不満を感じることはなかったものの、映画をじっくりと見るような使い方では物足りなさを感じることが少なくなかった。価格.comの最安価格を見ると、「B4」は比較的安価なので気になる人も多いと思う。しかし、価格の分だけ画質の差もついてしまう印象だった。画質の差をどこまで妥協できるかは実際に店頭で確かめるとよいだろう。今後は1年以上かけて販売価格もこなれていくはずなので、価格.comの最安価格もチェックしたいところ。
価格と画質のバランスの高さでは「C4」はかなり優秀なだけに、少しばかりの価格を優先して「B4」を即決してしまうのは禁物だ。