パナソニックの有機ELテレビ「Z95A」シリーズから、55V型の「TV-55Z95A」をレビュー
パナソニックのテレビVIERA(ビエラ)のフラッグシップモデルである有機ELテレビ「Z95A」シリーズをレビューする。特に映画のようなコンテンツにおいては、最もすぐれた画質だと言えるモデルだ。
大きなトピックはOSとしてFire TVを採用したこと。これは2024年発売のパナソニックの有機ELテレビ、液晶テレビに共通する特徴だ。また、映像処理エンジンが進化し、独自のデュアル超解像技術を搭載した。これらの新機能について詳しく紹介していこう。
「Z95A」シリーズのラインアップ
●65V型「TV-65Z95A」 解像度:4K(3,840×2,160)
●55V型「TV-55Z95A」 解像度:4K(3,840×2,160)
●パナソニックが最高画質を目指した有機ELテレビ
●Fire TV OSでネット動画を自在に再生可能
●サウンドバーのような「ラインアレイスピーカー」搭載
冒頭のとおり、今回レビューする「Z95A」シリーズは、パナソニックのテレビVIERA最上位モデル。LGディスプレイによる最新高輝度有機ELパネル(MLAパネル)を搭載し、独自構造で組み上げることで最高画質を狙う。最上位モデルらしく音質にも力を入れ、多数のスピーカーユニットを並べた「ラインアレイスピーカー」を搭載している。
さらに、2024年のVIERAは、OSをFire TVとしたことも大きな特徴だ。パナソニックによれば、Fire TVの導入でできなくなったことはないとのことだが、使い勝手はどうなのだろう? このあたりも含めて検証していく。
まず確認しておきたいのは、「Z95A」シリーズのOSがFire TVであること。本シリーズだけでなく、2024年のVIERAに共通した特徴なので、はじめにこの概要を見ておこう。
2024年5月に発表されたFire TV搭載新製品6シリーズ。有機ELテレビも液晶テレビも共通プラットフォームだ。その後、「Z90A」シリーズには77V型が追加されている
昨今のテレビはテレビ放送を受信・表示するだけでなく、多彩な動画配信サービスに対応することがスタンダードになっている。そのためにテレビメーカーがとる方法は、簡単に「スマートテレビ」化できるOSを採用すること。Google TVなどがその最たる例だろう。
パナソニックはこれまでは独自OSを使っていたが、2024年モデルではFire TVを採用。動画サービスなどを手軽に楽しめるAmazon 「Fire TV」シリーズに搭載されているOSと同じと言えばわかりやすいだろう。スティック型端末やボックス型端末が発売済みで、テレビのHDMI入力に接続すると多彩な動画サービスなどが楽しめるようになるものだ。
Fire TV OSを搭載したことで、まず大きく変わったのが初期設定。画面のガイドにしたがって、テレビ放送のアンテナ接続や機能設定をしていくものだが、「Z95A」シリーズでは、まずネットワーク接続設定およびAmazonへのサインイン設定からスタートする。つまり、インターネットへの接続、Amazonへのサインインが前提となっていると言ってよい。
初期設定でAmazonへのサインインを求められる。Amazonを使ったことがない、という人はアカウントを作っておこう
現代ではテレビの多くは家庭内ネットワークに接続していることがかなり増えてきているので、この点について違和感を覚える人はほとんどいないだろう。ただし、ネットワークやスマホといった機器が苦手な高齢者の一部では、サポートが必要になることもあるかもしれない。特に自分の親などが新しくテレビを買いたいと言ってきた場合は考慮に入れる必要がある。
このあたりは、スマホやパソコンなどの初回設定に近い印象を受けた。家庭内ネットワークもあるし、Amazonのアカウントもあるが、そういった設備の導入や設定は家族任せという人、そもそもこういったIT機器の準備や設定に慣れていない人にとっては使いにくい場合もあるので注意しよう。
ネットワーク全般の設定が完了すると、設置した室内の環境を測定して内蔵スピーカーの音質などを最適化する「Space Tune」、テレビ放送受信などの設定になる。少しだけ手間はかかるがこのあたりの設定は最初に済ませておきたい。
「Space Tune」とは、リモコンのマイクを使った音質最適化のこと。ぜひ調整しておきたい
設定が完了すると、Fire TV特有のホーム画面が表示される。これは、見たいコンテンツをユーザーの嗜好に合わせて表示するもので、好きなコンテンツを選ぶだけで再生がスタートする。テレビ放送/ネット動画の各サービスの切り替えなどを気にすることなく、直感的に使える。
ホーム画面の様子。左上の各種タブでプロフィール(ユーザー)/検索/入力切り替えなどを操作する。プロフィールは最大6個まで登録できるので、家族と一緒に使う場合でも個人に最適化したリストアップが可能
「Fire TV」端末と同じOSといっても、テレビ向けにきちんとカスタマイズされており、機能の切り替えなどもうまくタブにまとめられている。うまく使いこなせば、自分の視聴履歴や嗜好に合わせたコンテンツが表示されるようになり、より使いやすくなっていくはずだ。
こうして説明していくと、今までのテレビ(VIERA)とは何から何まで変わってしまっていて、自分には操作ができないのではないかと心配になるかもしれないが、初回設定さえすればこれまでのテレビと同じように操作することもできる。
付属のリモコンは12キーのついた一般的なテレビ用リモコンで、地デジや衛星放送のほかネット動画サービスもダイレクトに選択できるボタンが用意されている。上記ホーム画面からの操作ではなく、今までのテレビの使い方に近い操作もスムーズだった。
リモコンはこれまでどおりのコンベンショナルなタイプ。従来の使い勝手が損なわれることはないのでご安心を
ホーム画面からの操作時、コンテンツの表示やスクロールの速度ももたつくようなことはなく、ネットワーク回線が安定していればとてもスムーズに使える。手動操作が面倒ならばAlexaの音声操作もできる。柔軟な使い方ができるというだけで、Fire TV搭載という点であまり身構える必要はないだろう。
画質調整などを含めて、いろいろな機能や設定を確認してみたが、従来のパナソニックのテレビでできることは確かにほぼできるようになっていて、機能が後退したというようなことはない。
ただし、いくつかの機能については、アップデート対応になっていて、現在のところは使用できないので注意しよう。後日のアップデート対応になっている機能は「お部屋ジャンプリンク(サーバー機能)」、「Panasonic Media Access」、「LANダビング」。これらも2024年内にはアップデートされる見込み。
主にレコーダーとの録画連携やリモート録画/予約などに関連する機能なので、現在ひんぱんにこうした機能を活用している人は急いで買い替えを検討せず、こうした機能アップデートが完了するのを待つとよいだろう。
そのほか、ゲーム向けのUI(ゲームコントロールボード)が用意され、144Hz駆動にも対応。さらに、60fps素材入力時、パネルを60Hz駆動する等速モードも搭載。実はゲーム向け機能も充実している
ここからは画質を見ていこう。有機ELパネルは「マイクロレンズ有機EL」パネルの2024年仕様。これがどのように画質に影響しているだろうか。
まずチェックしたのは、環境や再生コンテンツに合わせて画質を自動最適化する「オートAI」モードの挙動。リビングルームを想定した明るい環境下で、地デジ放送などを再生してみる。
パネル背面の放熱構造はパナソニック独自のもの。効率のよい放熱で高輝度表示を支える
映像モードを、環境や再生映像に合わせて最適化する「オートAI」に設定。まずはこの画質をチェックする。メニューが半透過表示なので操作中も画質の変化がわかりやすい
実際に地デジ放送を「オートAI」モードで再生すると、見やすく鮮明な画質だと感じた。2023年までのパナソニックの有機ELテレビでは、地デジ画質(1440×1080i)のアップコンバート映像はやや“甘い”という印象だったのだが、ずいぶんとシャキっとした、鮮明な画質になっていると感じた。
ニュース番組ではスタジオのセットやアナウンサーの服が鮮明で、細部までていねいに再現されている。精細感を強調しすぎてノイズが目立つようなこともない。ノイズをきちんと抑えつつ、精細度も向上しているのだ。
バラエティー番組ではかなり明るい印象で、ハイライトの輝きは眩しいくらい。そのいっぽうで映画を放送する番組に切り替えると、明るさを適度に抑え色温度も低めにするなど映画らしい質感を出しつつ、見通しのよい映像になる。
AIによるシーン検出の精度も高まっているようで、次々にチャンネルを切り替えるような見方をしていると、切り替えた瞬間から徐々に映像が最適化されていく様子もよくわかるし、映像の変化に対する反応も速くなっているとわかる。
ネット動画はYouTubeの「THE FIRST TAKE」などを見たが、こちらも以前のモデルよりも鮮明な映像で楽しめた。バンディングノイズの低減なども行っているようで、低ビットレートの動画コンテンツもなかなか良好。
「新世代 AI高画質エンジン」を搭載。AIによる画質の最適化を図る
新映像処理エンジンのポイントは、超解像のかけ方にあるという
低ビットレートの映像に対してはバンディングノイズを低減する処理が施される
飛び抜けて優秀だった2023年モデル「MZ2500」シリーズからハードウェア自体は大きく進化はしてないようだが、ずいぶんと映像の密度感が向上したと感じられる。映像処理エンジンの「4Kファインリマスターエンジン」に「デュアル超解像」が新採用されたことが奏功したのだろう。
これはAI超解像による高精細アップコンバートと、数理モデル3次元超解像の2つを組み合わせ、元素材の情報量に適した映像を生成するという機能だ。このほか、「ネット動画ノイズリダクション」も新しくなり、バンディングノイズを低減し、圧縮による映像ノイズを除去している。元々のハードウェア性能の高さもあって、より緻密な映像が再現できるようになったのだろう。地デジ放送やネット動画再生能力の進歩で、トータルでの画質性能は大きく進化したと言える。
こちらが2023年モデル「MZ2500」シリーズとの比較表。数字に表れている違いは144Hz駆動に対応したことくらい。しかし、パネル制御技術「Bright Booster」の内容は進化しているという
照明を消して、全暗状態で映画系のモードをチェック
今度はUltra HDブルーレイのHDRコンテンツを視聴する。照明を落としてパナソニックの「DMR-ZR1」をディスクプレーヤーとして使用し、「デューン 砂の惑星PART2」を再生。映像モードは「Dolby Visionダーク」。Dolby Vision収録のコンテンツを入力すると、専用の映像モードに切り替えるのは他メーカーの製品と同様。ただしデフォルトの「Dolby Vision iQ」では動画補間が入ってしまうので、手動で変更している。ユーザーは注意したいポイントだ。
砂漠の砂のきめ細やかさ、立ち上る砂煙のようなデリケートな描写まで鮮やか。画質傾向としては昨年モデル「MZ2500」シリーズに近い印象で、比較的明るいシーンでは画面全体の明るさを高めた力強い映像となる。昼の太陽の光など、眩しい光はかなりパワフルだ。
そのいっぽうで、室内や夜間の暗いシーンでは、暗部の再現性を高め薄暗さを感じさせつつ、見通しのよい映像を見せてくれる。暗部階調のスムーズさを含めて、映画らしい質感がしっかりと出ている。特に眩しい光の階調のスムーズさなど、より高輝度パネルの実力を生かした使いこなしが進んでいるようで、映画として見応えのある映像だと感じた。
内蔵アプリの挙動をチェックするために、Netflixを再生。すると、映画など元素材が24fpsである場合はしっかり24Hz駆動(24p表示)されていることが確認できた
またNetflixで「レッドノーティス」を見たところ、きちんと24コマ表示ができているなど、映画好きの人にとっては気になるポイントも従来どおりきちんと対応している。
Netflixの4Kコンテンツ再生は画質的にも十分で、パッケージソフトに迫る高精細な映像になる。環境の都合もあって映像モードを「FILMMAKER MODE」としたが、アクションやカーチェイスを明るく力強く描く映像はなかなか見応えがある。
こうしたパネルの実力をうまく引き出した明るい表現と、階調表現を重視した映画的な質感のバランスはよくできているのだ。映画らしい絵だが暗いと感じさせるでもなく、映画としては明るすぎる/眩しいと感じさせるでもない、その中間のよいバランスに仕上げていることに感心する。
画面の上下左右を囲むようにスピーカーを配置した「360立体音響サウンドシステム+」(写真は65V型「TV-65Z95A」のサンプル)
内蔵スピーカーは、小口径のスピーカーを複数並列に配置したラインアレイスピーカーを画面の下部に配置し、左右にワイドスピーカー、上部にイネーブルドスピーカー、背面にサブウーハーを搭載した「360立体音響サウンドシステム+」。
「サウンドフォーカス」機能と呼ばれるラインアレイスピーカーの波面を制御する技術で、特定の方向だけに音がよく聞こえるよう調整することも可能。これは2023年モデルから継承している。天井からの音の反射を利用して高さ方向の音を再現するイネーブルドスピーカーも備えるので、室内の音響特性を最適化する「Space Tune」を使用すると、立体的な空間をしっかりと再現できる。
「サウンドフォーカス」機能は、特定の場所だけに「ピンポイント」で音を届けるモードのほか、複数人数のうち、“きこえ”に不安がある人の場所だけ音を大きくする「スポット」、左右どちらかの方向だけに音を届ける「エリア」、部屋中に音を広げる「アンビエント」がある
地デジ放送では、アナウンサーの声が明瞭でしっかりと画面に定位し、聴きやすく力強い。番組にもよるが、ステレオ音声をうまく処理して広がり感を出していることがわかる。バーチャルサラウンドなので、音量を上げるとやや不自然さもあるが好みの差だろう。音楽番組や映画番組などでは楽しめると思う。
サラウンド処理で広がり感を出すいっぽう、セリフなどの定位が甘くなったり、ひ弱な感じになったりしないのが好ましい。このあたりにもラインアレイスピーカーの実力の高さが表れている。中低域が充実した厚みのある声の再現性はこのモデルの大きな魅力だ。
音質調整モードにも、コンテンツに合わせて音質を最適化する「オートAI」がある。基本的にはこれを選んでおけばよいだろう
Ultra HDブルーレイの「デューン 砂の惑星PART2」となると、元々がサラウンド音声ということもあって、砂の惑星の広さを表す響き、ヘリコプターのような兵器の高さ感・移動感もよく再現される。
セリフが力強く、砂上を走って息が上がる様子やセリフの微妙なニュアンスの変化もしっかりと描かれる。爆発などでの重低音はさすがに少々物足りないが、中低音が充実しているので、ひ弱に感じるようなことはない。
音質のグレードアップを考える場合、安価なサウンドバーでは逆にグレードダウンになりかねない実力がある。基本的な音質のよさを考えると、これ以上のグレードアップならば、AVアンプと複数のスピーカーを組み合わせた本格的なサラウンドシステムの導入を検討したくなる。
●画質・音質ともに非常にハイレベル
●Fire TV OSをどう考えるかも選択のポイント
●パッケージソフト視聴が主体ならば2023年「MZ2500」も“アリ”
パナソニックの最上位有機ELテレビは、従来モデルもすぐれた性能を持っていたが、画質・音質はさらに熟成が進み、完成度を高めてきたと感じる。高画質・高音質テレビとして、長く愛用できるモデルだ。
肝心なポイントはFire TV OSの搭載だろう。以前のモデルと比べても機能的な後退はなく、最新の操作性や機能を備えており、こうした点でも長く愛用できそうだと思う。
ただし、ネットワーク環境の準備やAmazonのアカウントを取得する必要があるなど、テレビの購入とは異なる手間がかかるのは事実。逆に言えばいえば、「Fire TV Stick」などをすでに使っていて、それがテレビ内蔵になることがメリットだと感じる人は、有機ELテレビに限らず予算に合わせてパナソニックの2024年テレビを選ぶと便利だろう。
なお、画質だけで言えばいえば、地デジ画質の精細さやネット動画のノイズ低減など、多少の差はあるものの2023年モデル「MZ2500」シリーズ(「TH-55MZ2500」と「TH-65MZ2500」)も十分に優秀で、しかも価格的にも値ごろ感がある。特に、高画質コンテンツはブルーレイなどのパッケージソフトが主体で、映画を見ることが多いという人ならば、画質・音質の差もそれほど大きくはないので、検討の余地はある。
画質や音質は最高レベルだが、実売価格は少し高めになっているモデルなので、この画質・音質を気に入るかどうかがいちばん重要だと思う。できることならば、実際に視聴したうえで決断したいところだ。