4Kテレビ市場のなかでも、最も注目すべきキーワードが「mini LEDバックライトを採用した4K液晶テレビ」だろう。従来のLEDバックライトより小型のLEDをバックライトとして使い、細かく制御することで高コントラスト・高画質化を目指す技術だ。
液晶テレビの高画質化技術として定番化され、現在では20万円以下のミドルクラスモデルにも普及。価格.comではTVS REGZA「Z870N」シリーズやハイセンス「U8N」シリーズなどが人気だ。
そして2024年夏には、10万円以下で購入できるmini LEDバックライト採用液晶テレビとしてTCL「QM8B」 シリーズ、チューナーレステレビとしてXiaomi「TV S Mini LED 2025」シリーズ が登場してしまったのだ。
「もしかしてコスパ最強なのでは!?」と期待を抱きながら、自宅にTCL「QM8B」シリーズの55V型モデル「55QM8B」と、Xiaomi「TV S Mini LED 2025」シリーズの55V型モデル「TV S Mini LED 55 2025」をお借りして画質、音質、ネット動画、ゲーミング対応などトータルの買い度をチェックしていこう。
自宅にTCL「55QM8B」(左)と「TV S Mini LED 55 2025」(右)をセット
価格.comを見てもわかるとおり、TCL「QM8B」シリーズはインターネット(Amazon)専売として展開している製品。位置づけとしては同社のミドルレンジで、「C755」シリーズとほぼスペック同等の流通経路違い。Xiaomi「TV S Mini LED 2025」シリーズもインターネット専売モデルで、こちらも公式サイトとAmazon専売だ。
ネット専売とはいえ「mini LEDの4K液晶テレビが約10万円!?」とあまりの低価格化に驚く人も多いだろうが、テレビ製品を取材し続ける専門家としてカラクリはよくわかる。一口にmini LEDバックライトと言っても、LEDの素子数や輝度、グレードはさまざまなので、より高級な上位機種と同じ中身ではないのだ。
だが、それでも一般的なLEDバックライトの4K液晶テレビと比べると画質的には有利であることに間違いはない。それが10万円程度で売られているとなれば、格安と言えるだろう。
それでは実機をチェックしていこう。
まずはTCLの「55QM8B」とXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」をセット。6畳ほどの広さの書斎スペースに設置したのだが、6畳間の短辺に対して55V型テレビを2台横に並べるとギリギリだ。
6畳間の短辺ほぼいっぱいのテレビ台に2台並べて設置
2機種はどちらもシンプルなデザインでモダン。TCL「55QM8B」は中央の頑丈なスタンドで支える構造、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は左右の小さな足で支える構造という違いがある。安定感はどちらも問題ないが、狭いテレビ台に置くのなら、中央だけで支えるTCLのスタンドのほうがありがたい。
TCL「55QM8B」のスタンドは中心のみで支えるタイプ
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は左右両端に足があるタイプ。テレビ台のサイズに注意
背面の接続端子は以下のとおりだ。
TCL「55QM8B」の背面端子
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」の背面端子
TCL「55QM8B」は地デジも4K放送にも対応するチューナー搭載のテレビ、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は放送チューナーを搭載しないチューナーレステレビという点は必ず覚えておこう。
TCL「55QM8B」(左)とXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」(右)の付属リモコン。チューナー有無の違いがここにも現れる
コスパ重視のmini LED液晶テレビで、多くの人が気になるのは画質性能の違いだろう。
TCLもXiaomiも、画質に関わるスペック開示に積極的なメーカーだ。TCL「55QM8B」の4K液晶パネルはVA方式で、最大144Hzのハイフレームレート対応。解像度を落として240Hz駆動を実現するDLG(Dual Line Gate)機能も搭載する。mini LEDバックライトは350以上のゾーンで区切られていて、最大輝度は1,300nitとしている。もちろんHDR対応で、Dolby Vision、IMAX Enhancedにも対応。映像処理エンジンはTCLの上位モデルと同じAIエンジン「AiPQ Processor 3.0」だ。
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」もVAパネルで、144Hzのフレームレートに対応と「高フレームレート」モードによる240Hz駆動も対応。mini LEDバックライトは308個のゾーンに区切られ、ピーク輝度は1,200nit。
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」はチューナーレステレビなので、価格.comマガジンのYouTubeを共通ソースとして画質チェックをしてみた。なお、映像モードはTCL、Xiaomiともすべてのモードを確認したうえで「標準」の画質設定で輝度(バックライト)最大で視聴した。
左がTCL「55QM8B」で右がXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」。どちらも画質モード「標準」でYouTubeを再生したところ
YouTubeの画質を見るとXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」のほうが明るい。ただ比較抜きに考えるとTCL「55QM8B」でも十分に明るく、安価なテレビのように輝度の不足を感じることはまずないだろう。輝度以外について気になったことは、TCLは若干緑が強く、全体に鮮やかなこと。
左がTCL「55QM8B」で右がXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」(肉眼での見た目に近くなるように加工済み)
いっぽう、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は若干赤が強いが、色純度が高く、ストレートにmini LEDバックライトの素性のよさを感じさせる。ノイズ処理はTCL「55QM8B」のほうがていねいなのだが、若干ディテールを消してしまうため、解像感はむしろXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」が上だ。
テロップの色などの出方を見てみると、適応的な処理があるため映像/シーンによって鮮やかさがバラつくようだった。
2機種ともにVAパネルであり、映像を見る角度による色変化はどちらも多少はある。Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は角度が大きいと全体が白く変化するため、TCL「55QM8B」のほうがやや見やすさを維持している。映り込みは2機種ともハーフグレア系で、同タイプとして一般的なレベルだ。
TCL「55QM8B」の視野角がついた状態の見え方
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」の視野角がついた状態の見え方
次に、完全暗室状態でHDRデモ映像も視聴してみた。
左がTCL「55QM8B」、右がXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」。HDR10の映像ではTCLのほうが明るくなった
実際に映像を見ると2機種ともハイレベルな画質表現だが、TCL「55QM8B」のほうが画面全体のピーク感、そして黒の沈みを含むコントラスト感の再現も若干優勢。Ultra HDブルーレイの「トップガン マーヴェリック」を視聴してみても、両機種ともmini LEDバックライト採用機らしい画質で、暗部の階調安定性を含めてどちらも優秀だった。
左がTCL「55QM8B」、右がXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」。mini LEDによる黒浮き(ハロー)はほぼ気にならなかった
左がTCL「55QM8B」、右がXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」。夜景での黒色の沈みも十分なレベル
映像モードの選択について、TCL「55QM8B」では「IMAX」モードがポテンシャルを引き出しやすく、色温度の低さを求めるなら(映画系のモードと思われる)「動画」モードがよいだろう。
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」で映画らしい色温度の低さを求めるなら「映画」や「FILMMAKER MODE」モード。現代的な映画なら「モニター」モードを選んでもよさそうだ。
最後に輝度ポテンシャルを確認するべく、テストパターンを表示してトプコンの分光放射計で輝度測定を試みた(SDRのテストパターンを採用)。
TCL「55QM8B」の輝度を分光放射計で測定
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」の輝度を分光放射計で測定
TCL「55QM8B」は「ダイナミック」モードにしたときに最も明るく、白面積100%で701cd/m2、輝度最大値は白面積25%で1,339cd/m2を記録した。Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は「標準」モード時が最も明るく、白面積100%で717cd/m2、輝度最大値は白面積50%で1,040cd/m2を記録した。いずれも格安の4Kテレビとは思えない高輝度だ。
コスパ重視でテレビを選ぶ際に忘れられがちなポイントが内蔵スピーカーの音質だ。
TCL「55QM8B」ではONKYOとのコラボによる総合アンプ出力50Wの2.1chサウンドシステムを採用(※)。Dolby Atmosに対応するほか、バーチャルサラウンド機能であるDTS Virtual:Xも搭載する。
※50V型「50QM8B」のみ2.0chスピーカー(総合アンプ出力30W)を搭載
TCL「55QM8B」の内蔵スピーカー位置は本体下の左右と背後のサブウーハー
実際のTCL「55QM8B」のサウンドは、ONKYOとのコラボスピーカーらしい高い完成度。YouTubeなど、人の声をメインとしたコンテンツでは明瞭度と厚みをしっかりと出している。映画「トップガン マーヴェリック」のジェット音や爆発音は、低音の深みやパワーも十分。特にバーチャルサラウンドが有効で、音の移動感も出る。
いっぽう、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」はサブウーハーのないシンプルな2.0ch(ステレオ)スピーカーで、アンプ合計出力は25W。Dolby Atmosにも対応している。
YouTube音声の明瞭度は十分だし、「トップガン マーヴェリック」では低音のパワーもしっかりと出る。ただ、比較すると音の厚みや移動感の再現性ではやや譲るようだ。
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」の内蔵スピーカーは本体下のみ
ネット動画機能も紹介していこう。
まず大前提として2機種ともOSに最新のGoogle TVを搭載していて、UIデザインやアプリ対応は根本的に同じ。また、Googleアシスタントの音声操作も利用可能だ。
ネット動画機能はほぼ同じ。各種アプリはGoogle Playからインストール可能だ
ただし、操作性はリモコン由来で多少の差がついている。
TCL「55QM8B」はテレビらしい操作性が特徴。リモコンの物理ボタンから、ABEMAやTVerを含む計8社の動画配信アプリのショートカットを利用可能。いっぽうのXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」はあくまでGoogle TVスタンダードの領域。ショートカットボタンはNetflixとAmazonプライム・ビデオ、YouTubeのみで、シンプルではあるがダイレクト操作での利便性という意味ではTCL「55QM8B」が上だ。
TCL「55QM8B」のリモコン。アプリ専用ボタンも豊富
シンプルなXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」の付属リモコン
また、TCL「55QM8B」は「AirPlayとHomeKitの設定」が可能。Xiaomiも製品情報によるとAirPlayに対応しているはずで、入力切り替えからAirPlayを選択可能だが……残念ながら動作を確認できなかった。
アプリ起動速度も比較してみた。測定にあたっては電源コンセントを一度抜いて接続後、ホーム画面までの起動を確認し、その後アプリを一度も起動していない状態で表記順に測定している。
まずYouTubeの起動はTCL「55QM8B」が約5秒、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は5.5秒とほぼ同じ。Amazonプライム・ビデオの起動はTCLが約8秒、Xiaomiが約5秒。NetflixではTCL「55QM8B」が約3.7秒、Xiaomiは約21秒だった(なお、XiaomiのNetflix測定は、初回起動時5分待っても操作ボタンが現れなかったので2回目の測定値) 。正常起動後は両機種とも全アプリが3秒以内で起動したので、さほどストレスを感じることもなさそうだ。
ゲーミング用途での性能もチェックしてみた。スペックとしては2機種ともVRR、ALLM対応で、4K映像の144Hz駆動も可能。 PC接続向けには、TCL「55QM8B」はAMD FreeSync Premium Proというより上位仕様の認証を得ている。Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」はAMD FreeSync Premium認証だ。
ここでは、「4K Lag Tester」を用いてゲームモードによる4K/60Hzの入力遅延を測定してみた。結果は、TCL「55QM8B」は9.5ms、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は9.4msでほぼ同等。
TCL「55QM8B」の測定値。ゲーム機の接続を認識すると、「ゲームマスター」の機能が自動で有効になった
Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」の測定値。こちらもゲームモードでは独自の設定画面を利用可能
ところでTCL「55QM8B」は地デジ、4K放送とも2系統のチューナーを搭載するテレビだ。テレビ関連の画質や機能もチェックしておこう。
TCL「55QM8B」の地デジ番組表。必要十分だが多機能ではない
地デジ画質は、mini LEDバックライト採用の液晶テレビとしては若干クセがある。傾向はYouTubeの視聴パートと同じで、画面は明るいがノイズリダクションが強いため、地デジ映像を見るとディテールは失われがち。これはすべての映像モードで同じ結果だった。それでも画面の明るさや鮮やかさは、より格安で販売されている4Kテレビとは比べものにならない高水準だ。
もちろん番組表の操作や、ベーシックな録画予約機能にも対応している。ただ、使っていて気づいたのだが、録画予約はシングル録画仕様になっているため、同一時間帯の同時録画は非対応。やはり地デジ関連の機能を重視するなら国内メーカーに一日の長がある。
TCL「55QM8B」とXiaomi「TV S Mini LED 55 2025」はどちらもGoogle TVを搭載し、ネット動画やゲームへの対応力が高い点で共通している。この2製品はどう選び分けるべきだろうか。
さまざまな映像ソースを見比べてみたが……
TCL「55QM8B」は、mini LEDバックライトは350以上の分割制御ゾーン、ピーク輝度1,300nitとポテンシャルは十分。ONKYOとのコラボによる2.1chサウンドシステムのサウンドも優秀だ。チューナー搭載で地デジや4K放送も楽しめる、操作性にもテレビ的なケアの行き届いたオールラウンダーと言える。
いっぽう、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」はチューナーレステレビで、mini LEDバックライトの分割数は308ゾーン、ピーク輝度は1,200nit。数字上は不利に見えるが、実際の見え方としての画質に強みがある。ただ、音質や操作性などは若干TCLに譲る部分もあるように感じた。製品の発想がモニター的というところもあるが、チューナーレステレビであることを重視している人はあまり気にならないかもしれない。
2024年12月12日時点での価格.com最安価格を見ると、TCL「55QM8B」が109,800円 (税込)に対して、Xiaomi「TV S Mini LED 55 2025」は84,800円(税込)。価格面ではXiaomiが有利だが、この差額ならばTCLとXiaomiの総合的コスパは同程度。やはり、地デジ/4K放送のチューナーを搭載しているか、チューナーレスか、この点で判断するのがよいだろう。