耳に挟んで使うイヤーカフ型のイヤホン「AM-TW02」をレビュー
「近年、イヤホンを装着したまま周囲の音を確認できる“ながら聴きイヤホン”が続々と登場している」として5機種の比較レビューを掲載したのが2024年2月のこと。その後、さらにこの手の製品は増え続けている。ここではそのうちの1つambie(アンビー)「AM-TW02」をレビューする。
「AM-TW02」の最大の特徴は、耳をふさいでいるように見えないこと。同じような形の製品は増えているが、実はこれと同じ特徴を持った製品は少ない。この特徴がもたらす、ならではの効果を紹介したい。
「AM-TW02」の着用イメージ。付け方や見る角度にもよるが、 “イヤホン的なものをして”耳がふさがっているようには見えない
“ながら聴きイヤホン”が増加する背景には、テレワークやリモート会議のスタイルがある程度根付いて、作業の最中に外の音もコンテンツ(会議)の音も同時に聴ける製品が受け入れられている、という事情があるのだろう。いっぽうで、イヤホンに新たな付加価値を求めるメーカーの思惑も大いにあるはずだ。
そういった状況を反映してか、一口に“ながら聴きイヤホン”と言っても、実はさまざまな態様の製品が存在している。このことは上記関連記事をご覧いただいてもよくわかるが、一例を以下にあげておこう。
同分野の製品として大きな話題になったのがソニーの「LinkBuds」シリーズ。写真は「LinkBuds Open(WF-L910)」。耳の穴をふさがない設計ではあるものの、外からは“イヤホン的なものをしている”ように見える
耳の穴には入れず、音を発するドライバーを耳の穴の前に“置く”ように装着する製品もある。写真はNothingの「Ear(open)」。これも“イヤホン的なものをしている”ように見えるだろう
耳に挟むタイプのイヤーカフ型としてはBoseの「Bose Ultra Open Earbuds」が人気。音漏れを軽減するハイテク技術などが詰まっていることもあり、本体はゴツめ。そのため、“イヤホン的なものをしている”感も強めだ
ここで注目したいのがambieの「AM-TW02」だ。耳に挟むタイプの言わばイヤーカフ型。同じようにイヤーカフ型を称する製品は複数あるが、「AM-TW02」が特徴的なのは、“見た目”のことをかなり重視していること。むしろ最優先しているのではないかと感じたが、それがこの製品のよいところだ。
実際に装着してみると、音が発せられる部分(ドライバー)が耳の穴から結構離れた場所になる 。これがなかなか重要なポイントではないか、というのが本稿の趣旨。ドライバー部分が耳の穴に近づけば近づくほど音質的には有利に働くので、イヤーカフ型だとしても耳の穴にかぶせていくように(上に紹介したNothing「Ear(Open)」に近い形で)装着するタイプの製品もあるのだ。
こちらも「AM-TW02」の着用イメージ。耳の穴が見えているので、話しかけてもよさそうに感じられないだろうか
「音がいいならばそのほうがいいじゃないか」と思われるかもしれないが、外側から耳の穴が覆われて見えると、いかにも“イヤホン的なものをしている”ように見えるのに対して、ambie「AM-TW02」はそうでもない。ここは主観によるところもあるが、「AM-TW02」は耳の穴を覆わないので、“イヤホン的なものをしている”印象が和らぐことは確かだろう。
これによってどんなメリットがあるか。より社会的受容性がありそうだと思うのである。簡単に言えば、常時つけっぱなしにしていても「人が話しているときなのに、あいつイヤホンしているぞ」と思われないということ。ここが多くの“ながら聴きイヤホン”ではあまり感じられなかった、「AM-TW02」ならではの魅力だ。
耳をふさがないし覆わないという意味では、骨伝導タイプのイヤホンも同じ特徴を持っている。写真はShokzの「OpenRun Pro 2」。しかし、常時つけっぱなしで日常生活になじむかどうかは別問題だろう
一般的な“ながら聴きイヤホン”と「AM-TW02」の差は、「Apple Vision Pro」のようなすっぽり被るタイプのディスプレイと、XREAL「Air 2 Ultra」のようないわゆるARグラス的なものとの違いに似ていると感じている。
「AM-TW02」ではファッション性を重視することで、本当に一日中(充電は切れるけれど)場所を問わず着用できそうな“ながら聴きイヤホン”が登場したのではないだろうか。オフィシャルホームページの1つ目の特徴として、「アクセサリー感覚で」身に着けることを想定していると紹介されているだけあって、すっきりとした外観はほかにない魅力だと思うし、日常的に装着していてもそう違和感のない仕上がりだとも思う。
あくまでサングラスっぽさを失わないXREAL「Air 2 Ultra」と顔の上半分をすっぽり覆う「Apple Vision Pro」 。これらはコンセプトが異なる製品だ。“ながら聴きイヤホン”も、こうしたすみ分けと同じように用途によって二分されていくかもしれない
また、「AM-TW02」の表面は「Socks(ソックス)」と呼ばれるシリコンカバーで覆われていて、これは20以上(2025年1月20日時点)のバリエーションから別売オプションとして選択できる。つまり、本体色の交換が自由自在というわけで、「アクセサリー感覚で」色の変更も可能という非常に珍しい特性を持っているのだ。ファンシーにも見えるが、チープになりすぎないほどよい質感だと感じた。
「Socks」のバリエーションは20以上。ここまで多くの本体色を選べるイヤホンはほかにないだろう
上記のとおり、「Socks」の付け替えで本体色はいつでも変更可能。ではあるものの、デフォルトとしては写真の4種が用意され、それぞれにケースの色が異なる
では、実際にその期待に応えてくれたのかどうか、「AM-TW02」をしばらく使ってみたインプレッションを記しておこう。
まず、音質について。真っ向から「イヤホン」として評価をするのは野暮だということは承知のうえで言及すれば、低域が出ていない(耳に届かない)ので、音楽リスニング用として向かい合うのはかなり厳しい。
高域主体の音は割と聴けるという印象もあるが、そもそもかなり音量を上げる必要があるので、それでは“ながら聴きイヤホン”としての意味が薄れてしまう。音量を上げたとしてもガヤガヤとした環境では音楽を楽しむことはできないと言ってよいだろう。しっかり音が聴こえるレベルまで音量を上げると、かなり音漏れも激しい。
これは予想していたとおりであって、「AM-TW02」の価値が失われるようなことではない。人の声の帯域はしっかり耳に届くので、ラジオやポッドキャスト、セリフ主体のYouTubeなどを再生するのに適しているのだ。非常に音質がよい“ながら聴きイヤホン”があったとして、それは外の音を聴き漏らさないという元々の趣旨を達成できるのだろうか、という疑問もある。大は小を兼ねるかもしれないが。
「AM-TW02」は耳をまったくふさがないため、外の音はそのまま耳に入ってくる。このため、常に床屋でかかっているラジオを聴いているときに近いように感じた。
ケースはIPX4相当の防水仕様。本体はIPX5相当なので、ランニングなどで汗をかいても問題なさそう
「AM-TW02」には「AM-TW01」という従来機が存在しており、違いはマルチポイント接続、ケースの防水(IPX4相当)に対応したこと。そしてイヤーカフとして曲がりやすくなり、装着しやすくなったことなど。このことが実は非常に重要だろう。「AM-TW02」の本体は確かにやわらかく、装着時に困るようなことはなかった。
音を発するドライバーが耳の穴に近づくようにすればするほど音質的には有利だが、“イヤホン的なものをしている”感の薄さや装着感とはトレードオフの関係。無理にドライバーを耳の穴に向けると、耳が痛くなってくることもあった。耳の形にもよると思うので、ベストなポジションはしばらく使いながら探ることになるだろう。
矢印の部分がドライバー。骨伝導ではないため、ここから出た音を聴く
一度使い方に慣れてしまえばあとはスムーズそのもの。耳が痛くなることもなく、数時間着用していても苦になることはなかった。装着感は良好で、特にPCに向かって作業をしているときなど、イヤホンをしていることを忘れる瞬間があったほど。遠くのスピーカーから音が出ているような意識になっていたところ、ハッと「AM-TW02」をしていることに気づいたのだ。こういう体験ができることが本製品の意義にほかならない。
写真は「Socks」を外したところ。耳の後ろにあたる部分にハードウェアキーがあるが、正直なところ非常に押しにくかった。ボタンの押し方のパターンで、音源の再生・停止以外のコマンドに対応してはいる
冒頭のとおり、「AM-TW02」は非常にすっきりした外観だ。そのためかハードウェアキー(ボタン)は付いているものの、かなり操作しにくい。せっかくソフトに耳を挟むように収まっている本体を「押し込む」操作が必要になるため、しばらく使っていてもそもそもの装着方法とマッチしない感を拭えなかった。
いくら“ながら聴きイヤホン”とはいえ、急な着信対応をしたいこともあるし、さっと音を止めたり音量を下げたりしたいことはありうる。ずっと付けっぱなしにしてもよい装着感があるからこそ、この操作性は改善してほしいと思った。
仮にハードウェアの形が変わって新製品が登場したとすると、これまでの「Socks」と互換がとれなくなる可能性があることはわかっているが……。
なお、接続や通話の品質は可もなく不可もないレベル。急な動きで音が途切れてしまうことはあるが、大きな音で音楽を聴いているわけでもないので許容範囲だと感じた。通話についても、この形態で普通に電話やリモート会議に使えるのだから、御の字と言ったところ。
左右の色違いで使うのもよいだろう。筆者はグレーの「Socks」を購入し、片側だけ付け替えた
というわけで、ambie「AM-TW02」は“ながら聴きイヤホン”の一種ではあるが、ほかにはない特徴と魅力を備えた1台だ。見た目を最優先したことで、本当に一日中装着していても違和感のない、いまのところ類を見ない製品ではないだろうか。この一点が秀でているため、イヤホンとしての機能は凡庸であることが相殺されている。
イヤホンの進化の方向は、音質の向上のほか、関連記事で紹介している日本電気(NEC)とフォスター電機のように生体認証のハードになっていくということも考えられる。それも興味深いが、「AM-TW02」のように社会的要素も加味して装着しやすさを追求することで、また違った進化も見えてきそうだ。
これまで、個人的には“ながら聴きイヤホン”にあまり興味がなかったのだが、イヤホンを装着していることを忘れるほど日常生活に溶け込んでくれる「AM-TW02」、これは確かに有用だなと思わされた。「AM-TW02」はイヤホンの未来の形を提示しているのでは……という気さえしている。
最近はアップルがイヤホンを「ヒアリング補助」に役立てる提案をしているが、それも「AM-TW02」のように“イヤホン的なものをしている”感が薄い本体形状で実現すると、より社会に受け入れられやすいのではないかと思う。
そうは言っても、さらに指向性の強い(音が耳に届きやすい)ドライバーを採用できないのかとか、本当に一日中付けていたいならばバッテリー容量が足りないとか、ボタンの操作がしにくいとか、「AM-TW02」には改善できそうなことが多いのも事実。今後のambieの展開にも期待したい。
色違いで使うと左右がわかりやすいのもよい。着せ替えについては数秒でできるというわけでもなかったため、その日の気分次第で色を変える……というのは少し面倒だろう
文句が多いように思われたかもしれないが、筆者は最終的にはグレーの「Socks」を購入し、左右で異なる色の本体として活用している。基本的にイヤホンをする必要がない(スピーカーで音を出せる)ので、常用しているわけではないが、特に作業中などスマホからの音をちょっと確認したいときに実にちょうどよいのだ。