次は、新Xシリーズの最上位モデル。クリプシュ初の2WayのBA型を採用し、フルレンジ+スーパーツイーターのドライバーを搭載する。フルレンジ側にはX10でも採用されたお馴染みのKG-926だ。スーパーツイーターにはX20iのみという「KG-125」を搭載している。
2Way構成を実現できた理由は、クロスオーバーに、Sonion社のAcuPassフィルターを搭載したこと。いわゆるローパスフィルターだが、電気的な仕組みを使わずに細い管で帯域をわけている。周波数特性は5kHzから40kHzでハイレゾに対応。出力音圧レベルは111dB、インピーダンスは50オーム。ハウジングはサージカルスチール製。耐蝕性に強く、強度の高いもので、外科医療に用いられるものとしている。安全性の高い素材だ。
X20i(新モデル)
ハウジングはサージカルスチール。形状は楕円。
ケーブルは着脱可能。MMCX規格をさらに小型化したSSMCX規格のネジ式コネクタが採用されている。
新Xシリーズのフラッグシップの音は、ハイレゾ音源が映えそうなトーンバランスだ。特に高域の見晴らしがよく、透明感や空間的な広がりがあるほか、密度もしっかり持っている。後述する下位モデルでは高域の表現はやや甘めになるが、X20iはそこが情緒豊かに描写されているのが特徴だ。また、キレのある引き締まった低音のほか、シャープに描きだされているボーカルなど、全体的に最近のハイレゾ音源にあいそうな音に調整されている。
さらに、派手な帯域もないため、帯域バランスはフラットだ。フラットとはいえ、X10とはサウンドキャラクターが異なっており、まるっきり別物という印象を受ける。ただそれは悪い意味ではなくどちらもアリということで、できるなら2台持っていたいモデルだ。それぞれに別の魅力がある。X20iは、X10の延長線上にある製品ではなく、ハイレゾ時代を見据えた製品に仕上がっている。
こちらも新製品で、Xシリーズのシングルドライバー仕様の上位モデル。搭載するドライバーはX10と同じBA型のKG-926だが、全音域で真空管アンプのような本物の音を再現するという、チューンナップが行われている。周波数特性は5Hzから19kHz、出力音圧レベルは110dB、インピーダンスは50オーム。ハウジングの形状はX10とほぼ同じ。材質はヘアライン加工されたアルミニウムで、直径は6mmで重量15gの小型軽量サイズだ。
X12i(新モデル)
X10と同じ細身のハウジング。
X12iの特徴は、低域の押し出し感と高域の軽快さからくる、疾走感のよさだ。X12iの製品説明の中にはX10/X11を継承しつつとあるが、そのキャラクターを想像しているとだいぶ異なる。同シリーズの他モデルに比べて、クリアさが低いため、パッと聴きではこもっている感じが目立つのだ。ただ、これが独特な張り出し感を生んでおり、低音の量感をしっかり確保してくれている。いっぽう、高音は、響きやゆらぎがない代わりに、音の立ち上がりが早い。リッチな音ではないがタイトに仕上げられているため、張り出し感のある低音とレスポンスのよい高音が絶妙だ。割り切った感じのあるトーンバランスだが、独特なリズミカルのよさがなんともいえない。特に、音数の多い疾走感のある元気なアニメソングなどとは相性がいい。ボーカルはフォーカスが多少甘いが、音像は悪くない。全体的にみれば好みがはっきり分かれる音かもしれないが、十分楽しめる。
重低音が効いたクリプシュ初のハイブリッドモデル。ドライバー数は2基で、高域側にBA型の「KG-723」を、低域側にダイナミック型の「KG-065」を搭載する。周波数特性は10Hzから20kHz。出力音圧レベルは100dB、インピーダンスは50オーム。
フォルムもユニーク。Xシリーズといえば基本細めのボディだが、このXR8iではほかのモデルに比べて太めに作られている。その理由はフィット感への追及。実際に装着してみると、耳の形に沿った作りで、おさまりのよい形状になっている。筺体は硬い素材(亜鉛ダイカスト)で、丈夫そうなボディとなっている。
XR8i HYBRID(新モデル)
逆たまご型というユニークな立体形状。微妙な形とあなどることなかれ。耳の形に沿ったデザインで、たいへんおさまりがいい。
Xシリーズの中で圧倒的な量感を持つ低音。ベースやバスドラムのほか、エレクトロニック系の低い音なども、力強い躍動感がある。精細ではないが、重低音らしい迫力のあるサウンドだ。また、中域から高域にかけての明瞭さにも驚かされる。ウーハーの音がかぶらず、にごりのないクリアな音で楽しめる。さすがに上位モデルに比べれば、高音の伸びや見晴らしのよさ、ボーカルの艶っぽさなど、細かいニュアンスは拾いきれてないところもあるが、他の低音イヤホンと比べてみても、そのクオリティーは十分だ。
エレクトロニック系だけでなく、コントラバスなどの量感も増えるため、クラシックを聴く人にもハマるかもしれない。ほどよい繊細さと迫力を重視する人や、これまで低音の量感不足でクリプシュサウンドを外していた人は、いまいちど聴いてみて欲しい機種だ。
新Xシリーズのエントリーモデル。ドライバーユニットはBA型。明瞭なサウンドを奏でる独自の「KG-723」ドライバーを1基搭載する。周波数特性は10Hzから19kHz、出力音圧レベルは110dB、インピーダンスは50オーム。
ハウジングは、耳の輪郭にそって自然に挿入できる細長い楕円形状。本体はハイブリッド構造になっており、表面に柔軟性のある素材(エラストマー複合材)を、内部に亜鉛ダイカストを用いている。
X6i(新モデル)
表面に柔軟性のあるエラストマー複合材を、内部に亜鉛ダイカストを採用した、ハイブリッド構造の筺体となっている。
ポートフォリオではX10より少し下に位置づけられているX6i。その位置付けに反して価格は、X10よりやや高めになっているが、実力もX10に勝るとも劣らない。実際にその音を聴いてみると、たいへん耳馴染みのよい音に仕上がっていることが、よくわかる。上位モデルが老成した深みのある音とするなら、X6iは逆でフレッシュな若さあふれる快活さが印象的なモデルだ。エントリーモデルというよりもキャラクターがまったく異なっているという感じさえ受ける。
その大きな要因は音のクリアさ。解像度やS/N比などの絶対値は上位モデルに比べれば差があるのは確かだが、それでもなおしっかりした情報量を備えている。明瞭であるため解像感が高く聴こえてくるのだ。初対面ではかなり好感度の高いモデルと言えるだろう。ハイレゾ音源にもあいそうな1台だ。
以上、クリプシュのXシリーズイヤホンの新製品4機種を一気にレビューしてみた。どのモデルもサウンドキャラクターが異なっており、甲乙つけがたい製品となっている。
言いかえれば、さまざまな人がクリプシュサウンドを楽しめるように、ラインアップを強化したのが新Xシリーズだ。なかでも代表的なのが、新しい最上位に位置づけられたX20i。音のつながりの面でこれまであえて避けていたマルチウェイのBA型構成を採用し、ハイレゾ対応モデルへと進化させた。
また、XR8iではBA型とダイナミック型を採用したハイブリッド構成としており、重低音を強化したモデルになっている。最近のイヤホン業界のトレンドをしっかりキャッチアップしているのだ。さらに、シングルBA上位のX12iはX10/X11iを継承した音作りとしており、Xシリーズのユーザーへのアプローチも忘れていない。