Bluetoothスピーカー機能を搭載したLEDライト、LSPX-S1
見た目はおしゃれなLEDライトだけど、空間いっぱいに広がる独特のサウンドを楽しめる。今回は、そんなユニークなLEDライトかつBluetoothスピーカー、ソニー「LSPX-S1」をレビューしよう。自宅のリビングに設置して使ってみた。
LSPX-S1の紹介の前に、この製品が属する「Life Space UX」シリーズという、ソニーの新しい製品群について紹介しておきたい。
Life Space UXシリーズは、「空間そのものを生かして新しい体験を創出する」という、これまでのソニー製品にはなかったコンセプトのもと、新しい家電の開発を目指してスタートしたプロジェクトだ。現在、LSPX-S1を含めてタイプの異なる4つの製品がラインアップされているが、いずれも、一般的なAV機器でイメージされるものとは趣の異なるデザインなうえ、「空間を生かす」というコンセプトも機能にうまく落とし込めており、いい意味で「家電らしくなく、かつソニーらしい独創的な製品」に仕上がっている。人気も高く、価格.comの売れ筋ランキング(2016年3月10日時点)を見ると、LSPX-S1は「Bletoothスピーカー」カテゴリーで7位、超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」は「プロジェクタ」カテゴリーで1位となっている。
AV機器は、音質と画質を追求するのも重要だが、Life Space UXシリーズでは、そうした基本的なところを押さえつつ、「空間を生かす」というコンセプトが面白い。最近の家電製品はコンパクトさをウリにするものが増えているが、Life Space UXシリーズは、単にコンパクト化を実現したものとは違う。たとえば、シリーズ第2弾製品として登場したLED電球スピーカー「LSPX-100E26J」は、既存のソケットに差し込めるため、電球を交換するだけで照明がBluetoothスピーカー機能を持つようになる。人気の超短焦点プロジェクターLSPX-P1は、プロジェクター本体と接続ユニットを別筐体とし、ワイヤレスで接続。設置場所を選ばずに使えるうえ、超単焦点設計なので設置スペースが狭くなるテーブルや床などにも投写できる。利用するうえでの無駄な機能を省き、あると便利な機能を加えているようなイメージだ。
そうした特徴から、Life Space UXシリーズは「既存の住空間をできる限り壊さずに、生活になじむように音楽と映像を楽しめる製品」と言い換えられるだろう。時代が変わり、生活やモノに対する価値観が変わっていく中で、時代にマッチしたソニーらしい新しいカタチを模索する製品群ともいえる。
LED電球スピーカーLSPX-100E26Jの使用例。電気スタンドに装着している。既存のE26型のソケットに挿して使える
超短焦点プロジェクターLSPX-P1は、持ち運べて、いろんなところに投写できるのがウリ。壁だけでなく、テーブルや床なども利用できる
今回紹介するLSPX-S1は、Bluetooth接続によるワイヤレススピーカー機能を持つLEDライトだ。LEDライト機能を持つBluetoothスピーカーともいえるが、ランタンのようなフォルムが特徴的で、見た目は完全にLEDライトだ。外観からは、ここから音が出るとは思えないだろう。スマートフォンなどとワイヤレスで接続して音楽を楽しめる。
ソニーはLSPX-S1に「グラスサウンドスピーカー」という名称を付けているが、ポイントは、ランプとスピーカーを別々に組み合わせたのではなく、円筒状の有機ガラス管(合成樹脂を材料に使った透明な管)の中で一体化し、普通のスピーカーとはまったく違う音質を実現していること。2008年に発売された「Sountina(サウンティーナ)」という細長いサウンドスピーカーをご存知の方も多いことだろう。LSPX-S1は、このSountinaの仕組みをダウンサイジングし、さらなる高音質化と、LEDライト化(管の中にフィラメント型LEDを搭載)を実現した製品だ。
Sountinaは、長さ1メートルほどの円筒状の有機ガラス管を使ったユニークなスピーカーで、ソニー独自のスピーカー駆動技術「バーティカルドライブテクノロジー」による、360度均一に広がるサウンドで話題を集めた。バーティカルドライブテクノロジーは、端的に言うと、丸い有機ガラス管そのものが振動板となって音を鳴らす技術。管の下端に設置された複数の加振器がガラス面全体を精密に振動させることで、360度の指向性を持つ円筒状の音源を作り出すようになっている。音の減衰が少なく、全方向に均一に音が広がるのが特徴だ。
2008年発売のSountina。長さ約1メートルの円筒状のスピーカーだ
LSPX-S1では、「アドバンストバーティカルドライブテクノロジー」として、この独自技術が進化した形で採用されている。ソニーはSountina発売以降もこの技術について継続的に研究を重ねており、LSPX-S1では、基本的な仕組みはそのままに、有機ガラス管の下に3つの加振器を120度間隔で配置し、それぞれを独立したアンプで駆動することで、クリアで広がりのある音を実現。加えて、Sountinaに採用されたものよりも高調波歪が減少した加振器や、新しい音響サスペンションを採用することで、Sountinaを超える高音質化と筐体の小型化を両立できたという。
有機ガラス管はツイーターとして働くようになっているため、低音再生は、管の底に設置された、50mm径のウーハーが担っている。下向きに設置して、リフレクターで拡散する仕組みを採用し、普通に使っている分にはウーハーが見えないように工夫されている。さらに、こちらも見た目にはそう感じないが、管の上面は、半透明エッジ採用のパッシブラジエーターだ。スピーカーとしての構成はツイーター(加振器)×3ch、ウーハー×1chで、マルチアンプ構成のデジタルアンプ「S-Master」でそれぞれを独立駆動する。
LSPX-S1は、有機ガラス管の下に配置された3つの加振器が管を振動させて、360度に広がる独特の音を作り出す。管内にはフィラメント型LEDが配置されている
管の底に50mm径のウーハーを搭載。リフレクターで拡散する
管の上面に、半透明エッジ採用のパッシブラジエーターを搭載
LSPX-S1はワインボトルの高さ(約30cm)をイメージして設計されている
続いて、LSPX-S1のデザインや機能、操作性について掘り下げよう。
デザインの特徴は、住空間に溶け込むことを重視し、無駄のないシンプルな造形になっていることだろう。ボディは無垢のアルミ材を切削したもので、ペールゴールドのアルマイト処理で質感を出している。底面には、テーブルに置いた時の一体感や、手に持ったときのやさしい感触を重視して、ブラウンの特殊な人工レザーを採用。デザインのアクセントにもなっている。
サイズは82(外径)×303(高さ)mmで、重量は約920g。ちょうどワインボトルに近い大きさだ。ソニーによると、音質を重視して作られているため、このサイズ感を最初から狙ったわけではないが、最終的にワインボトルの高さ(約30cm)をイメージして設計したとのこと。
底面にブラウンの特殊な人工レザーを採用
利用シーンが広がるという点でポイントなるのが、リチウムイオンバッテリーを内蔵していることだ。付属のACアダプターでの駆動のほか、バッテリー駆動にも対応し、Bluetooth接続時のバッテリー持続時間は約4時間。けっして長時間利用できるわけではないが、「メインはリビングで使って、寝る前に寝室に持ち運んで使う」といったように、自宅内のちょっとした移動での利用であれば十分な持続時間ではないだろうか。
ACアダプター使用時の消費電力は、内蔵バッテリー充電中およびLED輝度最大時で20W、内蔵バッテリー充電完了後およびLED輝度最大時で約6W、BluetoothスタンバイおよびLED消灯時で約1.1W、通常スタンバイ時で約0.4Wとなっている。
操作性もシンプルだ。設置したときのたたずまいを重視し、前面にボタン類はいっさいない。背面にACアダプター接続端子、オーディオ入力端子(ステレオミニジャック)、電源/LEDボタンがあるものの、音量やLEDの明るさなどの操作ボタンはすべて底面にレイアウト。NFC機能も底面にある。接続状態などを知らせるLEDも前面にはなく、リフレクターの頂点に設置された小さなLEDでさりげなく伝えるようになっている。Bluetoothスピーカーとして見ると、ここまで思い切ったシンプルな操作性を採用しているのは珍しい。
背面にACアダプター接続端子、オーディオ入力端子、電源/LEDボタンを配置
音量ボタンやLEDの明るさ調整ボタン、NFCなどは底面にレイアウトされている
デザイン性を重視して、電源ボタン以外のボタンは使用頻度が低いと判断し、見えないところ(底面)に配置しているわけだが、そのシンプルな操作性を補うのが、スマートフォン用のアプリだ。ソニー製オーディオ機器用の操作アプリ「SongPal」に対応しており、このアプリで、LSPX-S1の音量やLEDの明るさの調整、スリープタイマーの設定などが可能。「音質優先」「接続優先」でBluetoothの音質を選択することもできる(接続状況にあわせて自動的にBluetoothコーデックが選択される仕組み)。
操作アプリSongPalの画面。明るさの調整やスリープタイマーの設定が可能
Bluetoothの音質は「音質優先」「接続優先」で切り替えられる。コーデックそのものを選択することはできない
LSPX-S1には、マルチアンプ構成のS-Masterを採用する以外にも、ソニー独自の音質技術・機能がふんだんに盛り込まれている。
マスタークロックには、位相ノイズが低い水晶発振器を採用し、クリアな音場表現を実現。サンプリングレートコンバーターからDSP、デジタルアンプ出力まで96kHz/24bit処理を確保しているうえ、DSPは2基搭載しており、並列処理によって高音質化を実現している。また、96kHz/24bit出力のA/Dコンバータを搭載し、アナログ入力でも高品質な再生が可能。さらに、バッテリー4個の直列接続により、12V以上の電圧を確保。昇圧回路を使わずにバッテリーからアンプにダイレクトに電源を供給することで、ノイズの影響を抑えている。
Bluetoothのコーデックは、SBC、AAC、aptXのほか、ソニー独自の「LDAC」に対応。LDAC対応のスマートフォンやポータブルプレーヤー(現状ではソニー製品のみ)を使えば、SBCの最大約3倍となるビットレートでの高音質再生が可能だ。
このほか、圧縮音源で失われがちな高音域を効果的に補完する「DSEE」や、LSPX-S1に最適なサウンド設定を実現する「ClearAudio+」、ボリュームを下げても豊かな音場効果を再現する「サウンドオプティマイザー」といった機能も搭載している。
また、LSPX-S1を2台使って、ワイヤレスでのステレオ再生や、2台から同じ音を出すことも可能。2台はBluetoothで接続する仕組みで、対応コーデックはSBC/AACに限定される。
自宅のいろんなところに置いてLSPX-S1の音をチェックした
自宅のリビングやキッチンにLSPX-S1を設置して、スマートフォンからのBluetooth接続でそのサウンドをチェックしてみた。
LSPX-S1は、一般的なステレオスピーカーのように単一の指向性で音が出るのではなく、360度に広がっていく。そのため、基本的には、同じ空間内であればどこで聴いても同じような音を楽しめるのが特徴だ。ステレオスピーカーの音とはまったく異なっており、このスピーカーならではの独特の音場感が面白い。似たような特徴を持つものとしてはタイムドメインスピーカーが挙げられるが、LSPX-S1のほうが同じ音が届く範囲が広く、それとは異なる音に感じた。
サウンドチューニングは中高域を重視した設計で、とてもクリアに聴こえてくる。特に、アナログの音がうまく再現される感じで、弦楽器の響きが心地よく感じた。ボーカルの抜けのよさや、浮き出るような立体感もこのスピーカーのいいところだと思う。低音については、設置場所によって左右されるところがあるものの、必要以上に強くは出ない。このあたりは、Life Space UXシリーズの製品として、空間に調和するようなチューニングになっているとのことだ。ロック調の楽曲やビートの強い楽曲はどちらかというと苦手で、女性ボーカルやジャズなどのほうがよさが出る。そうした特徴から、リビングや寝室などで、BGMとしてリラックスしながら音楽を楽しむのに最適な製品ではないだろうか。
また、これは普通のスピーカーでも同じことが言えるが、設置場所によって音は変化する。硬い木の上に置くと響きがよくなり、やわらかい素材を挟むと音が少しソフトになる。背面が囲まれるようなところにおくと、低音にブーストがかかったようになる。基本的には、壁からある程度離して、木製のテーブルの上に設置したほうが、このスピーカーならではのクリアな音が楽しめると思う。
設置する高さによって音が変わるのも報告しておきたい。試しに、床の上や、頭よりも高い位置に置いてみたが、どちらも抜けが悪くなり、クリアさが失われる印象。ガラス管の高さが腰から目線くらいになるように、テーブルやデスクの上などに置いて使うのがいいだろう。
後ろに壁がくるように設置すると低音が強調され、わりと迫力のある音になる。ただ、好みにもよるが、壁から少し離して置いたほうが、このスピーカーのクリアな音を楽しめると思う
床に置いて聴いてみたが、音の抜けが悪くなる印象
高いところに置いても同様で、音が引っ込むような感じになる
使ってみていいと感じたのが、電球よりも低く設定されているという、フィラメント型LEDの色温度設定だ。白色蛍光灯などと組み合わせると少し違和感が出るかもしれないが、電球色のLEDといっしょに使ったり、単独で使う分には温かみのあるやわらかい光がとても心地よかった。消灯時にLEDがスーッとゆるやかに消えるようになっているなど細かい心配りもうれしい。明るさも32段階で細かく調整できるので、間接照明として使う分には扱いやすいと思う。
操作ボタンが底面に集中している点については、スマホからひととおりの操作ができるので不便だとは感じなかった。Bluetoothのペアリングを新たに行ったり、やり直す必要が生じた際は、ライトを持ち上げて底面のタイマー/ペアリングボタンを押さないといけないので、その点はわずらわしさを感じるかもしれない。また、何らかの理由があってスマホから操作できないという状況も考えられるため、底面ボタンは操作しにくいという意見もわかる。ただ、ボタンを見えなくすることで得られる、家電製品っぽさをなくしたデザインはこれまでにはない感じで、素直にいいと思う。「空間を生かす」というLife Space UXシリーズらしさを強く感じるところで、この思い切りのよさは日本のメーカーがなかなか踏み切れないところでもある。
デザイン面で少し気になったのは、細かいことだとは思うが、有機ガラス管に「SONY」の白いロゴが小さく入っていること。シンプルなデザインを追及したこの製品に限っては、ロゴは見える位置に必要ないように感じた。思い切ってロゴをなくすか、それこそ底面に付けてもよかったのではないだろうか。また、管を触ると指紋がつきやすいのも、致しかたない部分ではあるが気になった。構造上、取っ手を付けるのは難しいのかもしれないが、ランタンのように持って運べるとさらによかった。
管に「SONY」のロゴが入っているのが少し気になった。また、管に触ると指紋がつきやすいので注意
LEDライトにBluetoothスピーカーを搭載した、似たような製品は前例があるものの、LSPX-S1のユニークなところは、ソニー独自の音響技術によって空間いっぱいに広がるサウンドを楽しめることだ。このライトを設置した場所では、照明として使えるだけでなく、普通のステレオスピーカーとは違う、その空間全体に広がる独特の音を鳴らすことができる。バッテリー駆動にも対応しており、設置の自由度も高い。シンプルさを追求したデザインもいい感じの仕上がりで、「空間を生かす」というLife Space UXシリーズらしさが詰まった製品だ。
LSPX-S1の2016年3月9日時点の価格.com最安価格は約7万円。音質面でほかにはない特徴を持つ製品なので販売価格からの評価は難しいところがあるが、発売開始から約1か月が経過した記事執筆時点では在庫のないショップがほとんどで、人気を集めていることがわかる。安い買い物ではないが、温かい光とクリアな音で空間を彩るハイクオリティなアイテムとして、価格分の価値はあると思う。