特別企画
観客が証人!ライブを聴きながら録って出しの“本物”のハイレゾ音源をつくる!

大物アーティストも協力!何も足さない何も引かないDSDレコーディングライブレポート後編

「ニセレゾ」などと呼ばれる、まやかしのハイレゾ音源も蔓延する今、観客に証人として立ち会ってもらいながら本物のハイレゾ音源を作ろうというユニークな試みが行われた。アーティストが生演奏を披露するのは普通のライブと同じだが、開催された場所は何とレコーディングスタジオの中。生演奏をそのままハイレゾサウンドとして記録してしまおうというレコーディングライブである。

「その時、その瞬間をありのままに…。何も足さない、何も引かないピュアミュージックRecording Live!『PREMIUM SPEC』」と題して開催されたこのライブの、現場潜入レポートを今回はお届けしよう。税込80,000円という参加費用で募集が始まったリッチなライブだったが、当日は定員20名分が無事満席になっていた。

ミキシングコンソールの近くに、観客用の座席が設けられた。80,000円も出すのに指定席制ではないし、備え付けのソファーで見る人と、パイプいすで見る人もいるという、すごい不思議なライブだった

都内にある業務用レコーディングスタジオ「MITスタジオ」で行われたこのライブは、同スタジオで一番広い「Studio1」が会場となった。

ご存じない方のために簡単に解説しておくと、業務用のレコーディングスタジオには大きく2つの部屋が存在している。ひとつはミュージシャンが演奏を行う「ブース」で、もうひとつはレコーディング機材が置かれている「コントロールルーム」。「Studio1」はあわせて100u(30.25坪)以上もある、比較的大きなレコーディングスタジオとなっている。

観客は、そのうちのコントロールルームに入り、備え付きの業務用のモニタースピーカーを通じて、アーティストの演奏を楽しんだ。普段行われているレコーディングの模様を間近で見て聴くことができる機会とあって、訪れた観客は興奮気味のようすだ。

そんなスタジオの中でも一番気になるのが、アーティストが演奏する時に使うブース。実際にそこにも潜入できた。中は44.1u/最大高さ5mのメインフロアと、3つの小さなブースで構成されている。ボーカルの大澤さんとギターの後藤さんはメインフロアに、いっぽう、ピアノの大山さんは3つの小さなブースのうちのひとつ、ピアノが常設されているほうにいる。2つの空間は防音性の高い引き戸によって仕切られているため、それぞれの音が混ざることはない。

ギターの後藤さん(左)、ピアノの大山さん(左奥)、メインボーカルの大澤さん(右)。脇を固めるメンバーも超一流。バンド「キンモクセイ」で活躍し紅白出場も果たしている後藤さん。沢田研二・松山千春・SMAP・ケツメイシ・EXILEなど、数多くのアーティストのレコーディング、ツアーに参加するかたわら、「相棒シリーズ」や「ドクターズ2」「家政婦のミタ」などのテレビドラマや映画のサウンドトラックにも参加している大山さんと、2人とも相当な実力派だ

ほぼすべてアコースティックのマイク録音。パラで録ってミキシングコンソールでステレオ信号に

次にマイク関連のセッティングを見ていくと、大澤さんと後藤さんのギターの出力の一部にエフェクターが使われていたが、基本的にはすべてアコースティックのマイク録音だった。

2人のギターはコンデンサーマイクで録られているうえ、グランドピアノにも4つのマイクが向けられている。またボーカルの大澤さんと、ギター&コーラスの後藤さんにはコンデンサーマイクが、大山さんにもコーラス用のダイナミックマイクが向けられていた。このほかに、ブース内の音の響きも録れるようエアマイク(音源から放たれた反射音を収録するためのマイク。オフマイクやアンビエンスマイクとも呼ばれる)が複数設置され、ブースでの演奏がくまなく録れるようにセッティングされている。

ピアノに向けられた4つのマイク。響板のフレームと弦に2本ずつ使用している

ピアノに向けられた4つのマイク。響板のフレームと弦に2本ずつ使用している

これらのマイクから入ってきた音が、コントロールルームのミキシングコンソールを経て、レコーディング機材へと送られるのだ。そしてモニタースピーカーで再生される。そのサウンドコントロールを仕切っていたのは、レコーディングエンジニアの唐澤千文さん。

「ブースで録っている複数の音声信号をここでステレオにして、それをそのまま録音するとってもシンプルな体制です。この部屋での聴こえ方を調整するために、時々いじることはありますが、ほぼそのまま出していますね。なお、念のために2ミックスのほかにも、パラ(パラレル)の信号も録音し、計16チャンネルとなっています。ただ、このパラのほうは基本的には使わないと思いますよ」と唐澤さん。

大型のミキシングコンソールを操作し、サウンドコントロールを仕切っていたのは、レコーディングエンジニアの唐澤千文さん

「パラ」とはパラレルのことで、ボーカル、ギター1、ギター2、ピアノ……など、ブース側から届いた信号をバラバラに録音していくということ。ただ、今回のスタジオライブ「PREMIUM SPEC」のコンセプトは「何も足さない、何も引かない」だから、パラを録るのは、あくまでも事故があったときの保険であり、基本的には使わないようだ。

スタジオでしか聴けないサウンド。ライブならではのトラブルも

このスタジオライブ、普通のライブとはまったく違うこともいっぱいあった。

まず演奏曲目はヒット曲や著名曲を中心とした11曲だったが、前半の曲はピアノなしでの演奏となった。その間ピアノの大山さんはというと、観客といっしょにコントロールルームで聴いているという、ちょっと不思議な光景となった。

また1曲目が終わるころちょっとした動揺が起こった。普通のライブだと、歓声や拍手が上がるタイミングだが、今回のはレコーディングライブ。拍手していいのやら、静かにしなくてはならないのやら、観客もわからず周りのようすを気にしていたのだ。それを感じ取った主催者の鈴木さんから「拍手を!」という声がかかり、一拍置いてはじめて、盛大な拍手が響いたのだ。そこにさらに、とまどいがあったのが、大澤さん。最初リアクションがなくて、「どうしたものやら……」と感じていたようだが、しばらくしてヘッドホンのモニターに拍手が聴こえてきたからだ。

コントロールルームとブースは完全に遮音されており、ブース内の模様はカメラを使ってモニターに映し出されている

このことからもわかる通り、スタジオでライブを行うとなると、ブース側とコントロールルーム側は完全に遮音されているので、そこに双方向でのやりとりが必要となる。最初はトークバック(スイッチを押している間コントロールルーム内の声が届く)という方式を利用していたが、2曲目以降はコントロールルーム側の拍手を拾うマイクが設置され、アーティスト側へ送るようにしたのだ。こうした工夫を間近で見れるのは、スタジオライブならではの面白さだ。

DAWを用いてレコーディング。WAV はPro Tools、DSDはPyramix

さて、ここで気になるのが、レコーディングシステムだろう。DSD 11.2MHzがそのままレコーディング可能な機材は、現時点において、ほとんど選択肢がない。そう、利用されたのはMerging Technologies社の「Pyramix」というDAWで、DSDのアナログ/デジタルコンバーターにも同社の「HAPI」が使われている。

いっぽう、PCMでのレコーディングには、業界標準のAvid Technologyの「Pro Tools」を使い、その性能を最大限発揮できるよう192kHz/32bitFLOATというフォーマットでのレコーディングに挑んでいた。

DSD 11.2MHzのデータを記録していたMerging Technologies社の「Pyramix」とA/Dコンバーター「HAPI」。いずれもこのスタジオの常設の設備ではなく、このイベントのために特別に持ち込まれたものだ。もちろん非常に高価なものだ

「今回のレコーディングはハイレゾで録音するとのことで、どんな音になるのか楽しみです。普段は48kHz/24bitで録音しているので、私自身も初体験なんです」と大澤さんもライブのMCの中で語っていたが、業界標準の「Pro Tools」も48kHzで録るというのが今でも一般的であり、192kHz/32bitFLOATというのは、やはり異例ともいえるレコーディングなのだ。もっとも、この「Pro Tools」も「Pyramix」も録音する信号自体はまったく同じ。DSDとPCMでどう音が違ってくるのか、というのも今回のイベントの注目ポイントのひとつだったのだ。

この「Pyramix」と「Pro Tools」で録り分けることは事前告知されていたのだが、当日もうひとつユニークな試みも行われていた。それは、2ミックスされたステレオ信号を、「Pyramix」とは別に、ハードウェア単体で録れるDSDレコーダーでも録っていたのだ。製品はTASCAMの「DA-3000」および、ソニーの「PCM-D100」。プロからハイエンドアマチュアまで、いろいろな人に使われている機材だ。なお、「DA-3000」ではDSDの5.6MHz、「PCM-D100」はDSD 2.8MHzで録音していた。つまり、このライブの音は、「Pyramix」「Pro Tools」「DS-3000」「PCM-D100」と計4つの機材でレコーディングされていたことになる。

ハンディタイプのレコーダーがソニー「PCM-D100」(左手前)、ディスプレイの下に置かれているのがTASCAMの「DS-3000」(右奥)

コンプレッサーで潰れた音とは違う現場の音が感じられたハイレゾ音源

驚いたのは、12曲のレコーディングを終えた直後の懇親会会場において、すぐに「PCM-D100」による録れたてDSD音源が披露されたこと。まさに興奮冷めやらぬ、先ほどのライブサウンドとまったく同じ音がこの小さな機材から飛び出してきたのだ。あくまでも実験的に録ったサウンドとのことだったが、4つの機材の中では一歩譲る「PCM-D100」でも、これだけの音を実現しているのだから、その先はますます期待できる。

そして懇親会の間にブルーレイディスクにコピーされた、「Pro Tools」によるPCMのステレオサウンドは、懇親会後に1人ひとりに手渡された。時間的に考えても当然編集する余裕などはないわけで、本当に何も引かない、何も足さない音。自宅のPCで再生してみたところ、まさにさっきと同じ音で鳴ってくれる、その時の情景が本当に目の前に浮かんでくる感じがした。

さらに、その後に届いたのが、今回の目玉であるDSD 11.2MHzのデータ。聴いてみても、確かに非常に高音質であり、コンプレッサーで潰されまくりの昨今のニセレゾ音源とはまったく違う生きたサウンドであることが実感できる。では、先ほどの192kHz/32bitFLOATのサウンドとの大きな違いはというと、手持ちの機材がそこまでの高性能でないからか、よくわからなかった…というのが正直なところ。DSDのほうが、より生っぽい感じがしないわけでもないが、気のせいかもしれないレベルであり、これは人によっても受け止め方は違いそうだ。

ここで多くの人が気になるのは「スタジオライブで聴いた音と違いはあるか?」という点。ここは答えにくいところではあるが、基本的には同じであると言える。というのも、コントロールルームで聴いた音自体、生の声、生の楽器を直接聴いたのではなく、マイクを通し、アンプ・スピーカーから出てきた音を聴いていたわけで、それがそのまま記録されているから、原理的にもまったく同じ音だからだ。ただし、実際に出てくる音は、DACやアンプ、スピーカーの特性によって変わってくるので、あの時聴いた音とまったく同じではないのも事実。ただ、ものすごく細かなニュアンスまでクリアに再現できるので、聴いた感想としては、まったく同じ音であったように思えたということ。

自分自身が証人となって、レコーディングされたハイレゾサウンドを改めて聴いてみるのは、やはりほかでは味わえない感激が得られる。80,000円という金額に納得できるか、高いと感じるかは人それぞれだとは思うが、その価値は十分あるように感じられた。

なお、このDSD 11.2MHzの原版は、80,000円を支払ってスタジオライブと原版制作の場に参加した20名および40,000円を支払って原版制作に参加した30名限定だが、オリオスペックの通販サイトでも50枚限定で販売中だ(在庫わずか、原版の再販はしないとのこと)。また、7月からDSD2.8MHzとPCM 96kHz/24bit を収録した音源の販売も予定しているほか、6月6日よりIIJが提供するハイレゾストリーミングサービス「PrimeSeat」にて期間限定でDSD5.6MHzと96kHz/24bit PCMの音源が無料配信中。思わず息をのむ、大澤さんとサポートメンバーのパフォーマンスを、ぜひチェックしてみてほしい。
http://primeseat.net/ja/

まず、この第1回目の「PREMIUM SPEC」、大澤誉志幸さんのライブは大成功のうちに終わったが、今後どんな人のライブレコーディングが行われるのか、楽しみにしたいところだ。

【演奏曲目】
01. ビリーの災難
02. その気xxx(ミステイク)
03. 京都慕情
04. 私の好きなもの
05. ガラス越しに消えた夏
06. そして僕は途方に暮れる
07. 丘の上の恋
08. ラ・ヴィアンローズ
09. ゴーゴーヘブン
10. 1/2の神話
11. 晴れのちブルー・ボーイ

藤本 健

藤本 健

DTM、デジタルオーディオ関連をネット、雑誌、書籍などで執筆しているライター。最近はニコニコ生放送やネットラジオでも発信している。

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