CDを超える高音質音源「ハイレゾ」が話題になっている今、同時進行でブームが再燃しているといわれるのが「アナログ(=レコード)」。そこで、これからレコード再生を始めたい人必見の企画をご用意しました! レコードに音楽が記録される仕組みの解説から、価格.comで買える入門向けレコードプレーヤー製品まで、“アナログの魅力”をオーディオ・ビジュアル評論家の小原由夫氏が紹介します。
目次
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・なぜ今アナログレコードなのか?
・レコード盤に音楽が記録される仕組みとは?
・レコードを聴くために必要な基本アイテム
・入門向けレコードプレーヤーの3大トレンド!
価格.comで買える入門向けレコードプレーヤーカタログ
・1万円台から買えるレコードプレーヤー5選
・5万円台から買えるレコードプレーヤー6選
近年のオーディオのキーワードは、「ハイレゾ」、そして「アナログ」だ。CDが売れず、“音楽家が困窮”とか言われる昨今だが、アナログレコードの生産枚数は、世界的に見ると対前年比で2倍以上の著しい伸びを示しているのだ。
“ハイレゾ時代”に同時進行でブームが再燃している、アナログレコード
では、なぜ今アナログがブームなのか? そこにはさまざまな要因が考えられるが、ひとつの大きなポイントは、音楽が「消費」される時代から、「愛でる」時代に変化してきたのではないだろうか。今や大多数の人が音楽と接する入り口となっているのは、YouTube を筆頭とする、PCやスマホを介したインターネットだ。そこから特定のアーティストの情報を得ている。それは非常に便利だし、いつでもどこでもチェックできる。
アナログのニーズは、そうした動向に対するひとつのアンチテーゼと言えるかもしれない。アナログは屋外では楽しめないし、曲を飛ばしたり戻したりと自由に曲間を行き来することが難しい。レコードは傷つきやすいし、湿気や温度にも気をつかう(反ったりカビが発生したりしてしまう)。全編を聴くには、裏返してまた針を落とさなければならず、なにかほかのことをしながら聴くのも難しい。つまり、そこに「人の手が介在する」のが、アナログで音楽を聴くという行為なのである。ジャケットからレコードを取り出し、プレーヤーに乗せ、針を下ろす。スピーカーと対峙し、解説書(ライナーノーツ)を読みながら音楽に没入する。つまり、「さあ、聴くぞー!」という気構えがリスナーには必要だ。だから、音楽を「愛でる」なのである。
これからアナログを聴こうという人には、昔聴いていたレコードを引っ張り出して、あの頃を懐かしみながら聴いてみようというシニア層もいることだろう。あるいは、好きなアーティストの新譜がレコードで出たことをきっかけに、初めてレコードプレーヤーを買ってみようという人もいるかもしれない。ここでは、そんなリエントリー派や初心者に向け、アナログに取り組む際の気構えと、どんなレコードプレーヤーから始めたらいいかを解説していきたい。
レコードをマジマジと眺めると、細い線がウネウネと同心円状に掘られているのがわかる。専門的には、この溝を「マイクログルーブ」といい、ここに音楽信号が刻まれている。この溝にカートリッジの針先が当たることで音楽として再生される仕組みだ。
レコードの盤面を近くで見てみると、細い溝が掘られている。この溝は、音声の波形そのものの形に刻まれている。この溝を刻む工程を「カッティング」と呼び、その精度によっても音質は大きく異なる。レコードにおけるカッティングの精度の高さは、そのレコードが“高音質録音”と呼ばれる場合の要素のひとつでもある
この溝はレコードの外側から内側に向かって、1本の溝としてつながっている。その断面は、ちょうど45°/45°で切り立ったV字型の谷のようになっており、内側の45°の壁にL(左側)チャンネル、外側の45°の壁にR(右側)チャンネルの信号を記録している。この原理は1957年に規格化され、世界的に統一されたものだ。レコードは、針先がこの溝に当たることでそこに刻まれた信号を拾って音楽信号に変換する「接触式」のメディアである。(なお、CDはレーザー光線で信号を読み取る「非接触式」だ)
レコードに刻まれた溝を針がなぞることで、針の拾った振動が磁石やコイルに伝わり、電気信号に変換される
カートリッジの針先が拾った信号の振動が、コイルや磁石などに伝わることで電気信号になり、トーンアームへと伝わってフォノイコライザーアンプで増幅される。それがパワーアンプに伝わり、スピーカーをドライブする大電力を伴った音楽として空気中に放射されるのである。
ソニー「PS-HX500」(ベルトドライブ方式)
オーディオテクニカ「AT-LP5」(ダイレクトドライブ方式)
主にレコードの回転速度は、1分間あたり33と3分の1回転(LP)、または45回転(EP)。それぞれの規定回転数を一定に維持し、カートリッジがピックアップした信号を、トーンアームを通じてフォノイコライザーアンプにしっかりと届けるのが、「レコードプレーヤー」の役割だ。設置時は水平を保つことが大事で、振動しにくい堅牢な構造が望まれる。また、レコードを乗せて回転する部位を「ターンテーブル」と呼ぶ。
ターンテーブルを駆動させる方式には、大別すると2種類がある。「ベルトドライブ」と「ダイレクトドライブ」だ。ベルトドライブは、回転するモーターの動力を、輪になった“ベルト”を介してターンテーブル(またはプラッター)に伝達するもの。汎用的なモーターを使うことができ、ベルトの材質や形状の工夫によって音質向上が図れる。ダイレクトドライブは、モーターが直接ターンテーブルを回転させる仕組みで、双方は結合されている。強いトルクで規定回転に達するまでの時間が早く、回転数の精度を高められるのが特徴だが、モーターは専用設計のものが必要になる。
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レコードの溝に刻まれた音声信号を読み取るカートリッジ(写真はSHURE「M44G」)
レコードの溝を正確になぞり、その溝の形状に応じて自由に動ける性能が要求されるのが「カートリッジ」だ。溝に接触する部分はスタイラス(針先)と呼ばれ、主にダイヤモンドが使われている。また、このスタイラスを支える部分はカンチレバーと呼ばれ、金属製の針金のように飛び出ている。スタイラスがレコードの溝に触れることで生まれる振動は、このカンチレバーを通してカートリッジ内にあるコイルと磁石に伝わる。
細い針金のように飛び出ているのがカンチレバーで、その先に付いているのが針先(スタイラス)
このコイルと磁石の関係によって、カートリッジの発電方式は2種類に大別される。ひとつは「MM型」といい、ムービング・マグネット方式、つまり磁石が動いて発電する方式だ。構造がシンプルであり、入門者向けのレコードプレーヤーはこのMM型カートリッジに対応する製品が多い。もうひとつは「MC型」、ムービング・コイル方式で、コイルが動いて発電する。こちらに対応するのは、主に上級者向けのレコードプレーヤー。MM型と比べて構造が複雑であり、使いこなしのハードルも上がるが、その“音のよさ”には定評がある。
フォノイコライザーアンプは、フォノイコ、フォノアンプなどとも呼ばれる(写真は、オーディオテクニカ「AT-PEQ20」(左)と、iFI-Audio「iPhono2」(右))
レコードの溝に記録された音楽信号は、そのまま再生しても蚊の泣くような微少な音にしかならない。直径30cmのLPに効率よく音楽信号を記録するために、全体のレベルを小さくしつつ、高音域を大きく、低音域を小さくして記録しているからなのだ。これが「RIAAカーブ」というフィルターをかけた記録方式で、レコード片面に20分以上の音楽信号を記録するために考えられた手段なのである。これはレコーディング・インダストリー・アソシエーション・オブ・アメリカ(アメリカレコード協会)によって制定された方法で、「RIAA」とは同団体の頭文字を略したものだ。
「フォノイコライザーアンプ」の役割は、このRIAAカーブで記録された信号を元の状態、すなわちフラットな周波数特性に戻すこと。具体的には、1kHzの周波数を中心として、小さく記録された低音域を大きく、反対に大きく記録された高音域を小さくする。そして、それにあわせて全体のレベルを引き上げる。つまり、フォノイコライザーアンプには、RIAAカーブとまったく逆の特性になる増幅回路が内蔵されているのである。
青いラインがRIAAカーブの特性、赤いラインがフォノイコライザーの特性イメージ。RIAAカーブに対して真逆の特性をかけることで、周波数特性をフラットにするのがフォノイコライザーの役目
一般には、このフォノイコライザーアンプの回路はプリメインアンプ等に内蔵されているのだが、よりマニアックな志向のオーディオファン向けに単体化した製品が、現在は多数のメーカーから発売されている。
プリメインアンプ(左・写真はオンキヨー「TX-8150」)と、スピーカー(右・写真はオンキヨー「D-509E」)
最後に音を出すのはもちろん「スピーカー」だ。しかし、フォノイコライザーアンプの出力だけでは、スピーカーを十分に鳴らせるだけのエネルギーにはまだ足りない。ここで出番となるのが、「プリアンプ」と「パワーアンプ」。または、プリアンプとパワーアンプを一体型にした「プリメインアンプ」(インテグレーテッドアンプとも呼ぶ)だ。これらの機器は、レコードプレーヤーだけでなく、CDプレーヤーやハイレゾ対応機器も含めたさまざまな再生機器から入力された信号を整理する役割と、それを好みの音色に可変すること(高域を強めたり、低域を弱めたりなど)、そしてスピーカーを駆動できる何十Wという電力まで信号を大きくするという役割がある。
一体型のプリメインアンプは、省スペースでオーディオを実践するには好都合。よりマニアックな再生をめざすオーディオファンは、プリアンプとパワーアンプを個別に用意して音質向上を図るケースが多い。
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最も基本的なレコード再生のスタイルはこれらのかたち。よりマニアックなアナログファンは、フォノイコライザーを単体で使ったり、プリアンプとパワーアンプをそれぞれ単体で用意することも多い
プリメインアンプではなく、フォノイコライザーが内蔵されているAVアンプに接続しても、シンプルなスタイルでレコード再生が可能。なお現在は、レコードプレーヤー側にフォノイコライザーが内蔵されている製品もあって、より簡単な組み合わせでレコード再生が楽しめる。以下より、入門者向けレコードプレーヤーのトレンドを3つのポイントで紹介していこう
好みの音質や音楽ジャンルによってカートリッジを交換することが、レコードプレーヤーの醍醐味のひとつ。高級機では最初からカートリッジが付属していないケースが当たり前だが、入門機が多い1万〜10万円前後の価格帯のモデルでは、すぐにレコード再生が実行できる即効性が重要だ。また、カートリッジを自分で取り付け、トーンアーム等の各種設定を行う作業は、初心者には少々ハードルが高い。それゆえ、メーカー出荷段階で必要なセットアップをすべて完了させておき、すぐにレコード再生できるようにしたほうがベターという考え方だ。
最近の入門者向けレコードプレーヤーは、ほとんどがカートリッジ付き。写真左はソニー「PS-HX500」で、専用設計のためユーザーがカートリッジを交換することはできない。写真右はオーディオテクニカ「AT-LP5」で、同社独自のMM型をベースとしたVM型カートリッジが付属。こちらは、対応するVM型であればユーザーによるカートリッジ交換ができる
メーカーにとっても、ユーザーがどんなカートリッジを取り付けるかわからず、ある程度の余裕を見越してトーンアームを設計するよりも、特定の機種に固定して専用設計とした方がはるかに作りやすいし、コストも抑えられる。逆に言うと、カートリッジが付属したレコードプレーヤーでは、他社のカートリッジは使えないと考えておいたほうがいいだろう。
この点についても、レコード再生がすぐに楽しめるという合理的な観点からの仕様といえる。本来はアンプに内蔵、または単体で用意しなければならないフォノイコライザーアンプがレコードプレーヤー側に入っていれば、極端な話、レコードプレーヤーをテレビの外部音声入力と直接つないでもレコードの音が楽しめるのだ! あるいは対応ケーブルさえ用意できれば、ステレオミニプラグが装備されたテレビ用のサウンドバースピーカーやパソコンの音声入力端子につなぐことさえできてしまう。
レコードプレーヤー側にフォノイコライザーを搭載したモデルを使えば、そのままアクティブスピーカーやコンポ、サウンドバーなど、自宅にある機器に接続して、シンプルなスタイルでレコード再生を楽しむことができる。なお、最近は“超入門機”として、レコードプレーヤーにスピーカーまで搭載した一体型も登場している
また、カートリッジ同様にフォノイコライザーアンプを専用設計することで、回路を簡素化でき、コストダウンにもなる。いっぽうで、ある程度欲が出てきたときには、アンプ側に内蔵されたフォノイコライザーアンプを使いたいケースも出てくると思うので、内蔵回路のオン/オフができる機種を選ぶのが無難な選択だ。
フォノイコライザー内蔵レコードプレーヤーでも、フォノ回路のオン/オフスイッチを備えるモデルを選べば、用途にあわせて外部フォノイコライザーを接続して使うことができる(写真のインターフェイス部では、Rchライン出力端子の左横にあるのがフォノ/ライン出力切り替えスイッチ)
ハイレゾのトレンドに合わせて、レコードの音を音楽データ信号に変換し、屋外でポータブルオーディオプレーヤーを使ってリスニングしたい、あるいはレコードプレーヤーのない部屋、出先や友人の家などで聴きたいというニーズが出てきた。従来、マニアックな人は、専用の機材を用意し、みずからパソコンを操作しながら信号処理を行っていたのだが、レコードプレーヤー本体にアナログ/デジタル変換回路を内蔵させ、後はパソコンとソフトウェア(対応レコードプレーヤーのほとんどがソフトウェアを同梱)を用意すれば、簡単にレコードのデジタルアーカイビングができるモデルが増えている。ソフトウェアによっては、曲間を検知して自動的にLP片面の曲を分割、さらには楽曲名やアーティスト名などを自動的にひも付けてくれるものもある。
また、USBメモリーにそのまま信号を取り込める機種もあり、友人との楽曲のやり取りにも便利だ。なお、次ページより紹介するUSB端子付きのレコードプレーヤーには、すべてソフトウェアが同梱されている。
パソコンと直接USB接続して、レコード音源をデジタルアーカイブできる製品も最近は増えている(画像はソニー「PS-HX500」)
アナログレコードの音源をパソコンに取り込んでデジタル化し、スマホやポータブルDAPに保存して外で楽しむこともできる