放送業界では知らない人はいないが、コンシューマでは全く知られていない日本のメーカーの二大巨頭は、サンケン(三研マイクロホン)とアツデン(AZDEN)なんじゃないかと思う。
このうちアツデンは、オーディオと無線を軸に製品を長く展開しており、同社のワイヤレスマイクや超指向性マイクは、業界でも数多く製品が使われている。そんなアツデンが、業務用機以外にもコンシューマ向けカメラマイクを作っているとは、つい最近まで知らなかった。
ミラーレス一眼で4Kが気軽に撮影できるようになったのはいいが、カメラマイクは本当にオマケみたいなもので、映像の美しさと比べるとバランスが悪い。ミラーレスのミニジャックに挿せる本格的な指向性マイクを探していたのだが、アツデンなら信頼できる。
今回ご紹介するSMX-30は、まさにミラーレスに搭載するカメラマイクとしては、機能的にも満足できる逸品だろう。かなり大きなマイクでよく目立つのに加え、ウインドスクリーンに大きくプリントされたAZDENロゴは、業界人ならオッと思うところだ。
大きなロゴがポイント、AZDEN SMX-30
また別売にはなるが、このウインドスクリーンの上から装着できるウィンドジャマーも販売されている。屋外撮影では必須のアクセサリーなのだが、案外コンシューマ用製品では用意されていないものも多い。それだけ業務用機に近い、ということでもある。
本格的なウィンドジャマーも併売
本機の特徴は、背面のスイッチでモノとステレオに切り換えられることである。こう聞くと普通なら、元々ただのステレオマイクで、モノのときはLRの音を混ぜるだけなのね、と考えるところだが、SMX-30は全然違う。
マイク背面にモノとステレオの切り替えスイッチ
モノとステレオ、まったく別特性のマイクを2つ搭載しているのだ。だからこのサイズなわけである。
内部は2マイク仕様
まずモノマイクだが、放送用の超指向性マイクSGM-250と同じマイクカプセルを使用した、超指向性となっている。SGM-250は全長25cmもあるかなり長いマイクだが、それを半分以下の長さでほぼ同じ特性を実現した。モノラルマイクとして使っても、お買い得だ。
加えてステレオマイクは、単一指向性マイクを120度の角度で配置しており、立体的な音像定位が得られるようになっている。ようするにこの2つのマイクシステムを切り換えで使える、というわけである。
加えてマイクアンプを搭載し、+20dBまでゲインアップできる。カメラの中には、割と大きな音を食わせないとS/Nが悪いものも存在するが、自然音収録でも十分なゲインが稼げるよう工夫されている。
今回は地元の夏祭りの神輿(みこし)とお囃子(はやし)の様子を、4Kカメラとこのマイクで収録した。生の太鼓はかなり低音で音が大きいので、ローカットフィルターなし、ゲインは-10dBに設定した。
家に帰ってオーディオシステムで聞いてみると、大音量の中でも歪むことなく、定位感も明瞭に収録できていた。電源設定をAUTOにしておくと、カメラ電源と勝手に連動する。カメラは切ったがマイク電源を切り忘れて電池切れを起こし、大事な瞬間が音声なし、という悲惨なことにもならない。このあたり細かいところだが、プロのノウハウが生きている。
カメラマイクをそうそう何本も買う人は少ないかもしれないが、初めてマイクを買うという方には、超指向性モノとステレオマイクが2in1になっている本機はお買い得だ。普通の家電製品は1年保証だが、サイトで製品登録すると、なんと10年も保証してくれるという。それだけ壊れないという自信の表われだろう。業務メーカーが作った渾身のカメラマイクを、検討してみてはいかがだろうか。
AV機器評論家/コラムニスト。デジタル機器、放送、ITなどのメディアを独自の視点で分析するコラムで人気。メルマガ「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」も配信中。