今年本格的に普及モードに入ったものと言えば、やはり完全セパレート型のイヤホンだろう。第一次とも言えるベンチャー製品群が登場したのは2015年後半からだが、2016年には日本でも入手できるようになっていった。そして同年末にアップルがAirPodsを発売、セパレート型は一気に認知されていった。
そして今年は、ソニー、BOSE、B&O、JBLなど有名オーディオメーカーも参入した。低価格ということでは、今年初めにサンコーが4,980円というモデルを発売したが、加えて11月にドン・キホーテがオリジナル商品を5,980円で発売、価格破壊が一気に進む。
価格.comを見ても、左右分離型だけで39モデルもあり、しかも大半はベンチャー企業だ。それだけ、技術があればチャンスがあるジャンルということなのだろう。
かく言う筆者もセパレート型はAirPodsを愛用してきたが、もっぱら利用は家庭内に限られる。なぜならば外音をかなり拾うため、外では使いづらいからだ。外での利用は、何かのレビューでもない限り、個人使用ではノイズキャンセリング搭載機以外使っていないのだが、セパレート型でノイズキャンセリング搭載は難しいと思われてきた。
だがその難題に果敢に挑戦したのが、ソニーWF-1000Xである。ネックバンド型、オーバーヘッド型も含め、1000Xシリーズのひとつとしてリリースされた同機は、ソニーの中でも売れ筋トップ、セパレート型でもAirPodsに続く2位に位置する人気モデルとなった。価格的にもベンチャー製品を下回り、ちょうど買いやすい値付けもプラスになった。
今ソニーのイヤホンで一番売れてる? WF-1000X
そんなわけでこれまでセパレート型に積極参加してなかった筆者も、早速購入した次第である。
セパレート型の技術的ハードルは、左右のユニットをどうやってワイヤレスでつなぐかという点に尽きる。Bluetoothオーディオは、一般的に再生機側からはひとつの機器に対してしか音を出すことができないため、右か左かどちらかでステレオ受信して、それをもう片方へ伝送してやる必要がある。
ケースが大きめで、カバンの中でも存在感がある
この伝送で注目を集めるのが、「NFMI(近距離磁界誘導)」という技術だ。元々は補聴器で使われてきた技術で、低消費電力ながら音が途切れにくいという特徴がある。一方で音質的に音楽向きではないと言われていたが、近年開発元がオーディオ用チップを開発したことで、徐々に採用がひろがっている。
一方WF-1000Xは、あえて「NFMI」を採用せず、2.4GHz帯の電波で左右を接続する方法を選んだ。NFMIでは音質的な基準がクリアできなかった、ということが理由のようだ。
そのため、音切れに関しては他機種よりも問題を多く抱えている。ケースから取り出し時に改めて左右のペアリングが行なわれる仕組みだが、いったん両方をケースから取り出し、しばらく待ってから装着するといいようだ。
11月30日には、音切れの問題を改善したファームウェア1.0.7がリリースされた。ただ、このファームでもまだ音切れが解決したわけではない。左側、すなわち再生機との接続は問題ないが、右側との接続が途切れることがある。
実生活の中では、特に駅のホームでは音切れが起こりやすい。多くの人がWi-FiやBluetoothを使うだけでなく、監視カメラなど駅の設備で強力な2.4GHz帯の電波を出すものがあるのだろう。むしろ電車内に入ってしまった方が、音切れが少ないようだ。
音のディレイに対しても、接続相手によっては大きい時がある。特にPCと接続して動画再生している際には、完全にリップと合わない。一方スマートフォンとの接続では、多少のディレイはあるものの、字幕の映画などでは許容範囲だと思う。
期待のノイズキャンセリング機能は、同社他モデルに比べると、それほど強力ではない。だがBOSEが搭載してこなかった以上、当分は唯一無二の選択肢となるだろう。
ソフトウェアでNCの挙動を自動的に変更
音質的には奇をてらわず、素直に音楽が楽しめる作りとなっており、アプリと連動して動作が変わるなど、今後の機能アップの楽しみもある。個人的にはもう少し自由にイコライザーをいじらせてくれてもよかったと思うが、作りや塗装の高級感もあり、長く愛用できそうな製品に仕上がっている。
AV機器評論家/コラムニスト。デジタル機器、放送、ITなどのメディアを独自の視点で分析するコラムで人気。メルマガ「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」も配信中。