フリマ出品などで、とかく「キレイな写真」が求められる昨今、なかなかキレイに撮れず悩んでいる方も多いことだと思います。が、撮影失敗の原因の多くは「光」です。ブツ撮り(商品撮影)には「安定したキレイな光」が必要なことは、なんとなく理解されていると思いますが……。
そんな光を整えるグッズがあることをご存じの方もいらっしゃることでしょう。さまざまなタイプ、価格帯のものが販売されており、どれがいいかまったくわからなくて、結局、何も買えず。そして、写真のクオリティも変わらずってこともさもありなん。おおかた、こういう悪循環でしょう。
というわけで、そんな迷える人の参考にしていただくために、「撮影ボックス/商品撮影用ライト」3種を試してみることにしました。
今回用意したのは、ご予算別に
「アンダー1,000円クラス(U-1,000yen)」
「アンダー5,000円クラス(U-5,000yen)」
「アンダー30,000円クラス(U-30,000yen)」の3種の「撮影ボックス/商品撮影用ライト」です。
この価格差は実力の違いなのか!? 検証してみたいと思います。
U-1,500&U-3,000クラスは箱型スタジオタイプです
今回用意した被写体は以下の3つ。
1:アクセサリー(5cm未満)
2:腕時計(20cm程度)
3:ピンヒール(30cm程度)
当然、被写体が大きくなるほど照明の範囲も広くなるので、難易度が上がります。
それぞれの「商品撮影用ライト」でどこまで撮れるのかがポイントになりそうです
今回の撮影はすべて「iPhone X」。デュアルカメラのうち「2×レンズ(56mm相当)」を使います。
広角ではない「2×レンズ」は歪みが少ないので「商品撮影」に向いています
それでは「箱型スタジオタイプ(撮影ボックスの名で多く流通)」の「U-1,000yen」「U-5,000yen」を試していきましょう。仕組みや作りはよく似ており、大きさ違いという印象。
全体を構成する「透けるほど薄いプラ板」は「軽い」というメリットもありますが、逆をいうと、かなりチープ。強度は期待できず、少しの風で飛んでいきそうです。
素材とLED照明をみると、「U-1,000yen」は“値段なりに納得”ですが、「U-5,000yen」は「ん?これでこの値段、ちと、お高いのでは……
いずれも、内部に引っかけて使う「白背景(プラ製)」「黒背景(プラ製)」が付属しています
たたむと「U-1,000yen=おおよそ25cm角」「U-5,000yen=おおよそ40cm角」の薄い板状になり、携帯に便利です(とても軽い)。
★今回、箱型スタジオタイプは「白背景」をセットして使います
光源はいずれも、天井入り口付近に「LED素子」が複数並んでいる基盤が固定されています(点光源の集積)。基盤には「microUSBジャック」があり、付属のmicroUSBケーブルで、スマホの充電などで使われるUSB充電器やモバイルバッテリーなどにつないで使います。
写真のUSB充電器は付属しないので、各自用意してください
これは商品撮影照明を使うときの、共通の基本中の基本です。商品撮影用のライトを使っても「室内灯」や「自然光」が影響して、本来のライティングができないことがあります。
撮影用照明を使う場合は必ず、カーテンを閉じて自然光を遮光し、すべての室内灯を消すようにしてください。
部屋が真っ暗になって作業がしにくい場合は、撮影前に必ず消灯する(これができていなくて失敗の原因になること多し)
極小ブツ(アクセサリー)を、一番安くて小さい「U-1,000yen(箱型スタジオ タイプ)」を使って撮ってみることにしましょう。
これを使ってアクセサリーを撮ってみると……
ややっ!! かなり暗いですねぇ〜
そうです、これに限らず、iPhoneで設定をいじらず「白背景」を撮ると、たいてい暗くなってしまいます。対策としてはiPhoneカメラの「露出補正」を使うことです。
画面の被写体をロングタップ(長押し)
↓
タップした場所が黄枠表示(画面上部にAE/AFロック表示)
↓
黄枠の右側に太陽マーク表示
↓
太陽マークを上下にフリック
↓
写真の明るさを調整
「暗い問題」はとして、再度上の写真をご覧ください。画面左下に謎の“シマシマ模様”が発生しています。これは一体なんなのか?
箱型スタジオタイプは、開口している天井手前にLED素子が並んで発光部となっています。その下にカメラがあると、当然、影になってしまうというわけです。この影が謎の“シマシマ模様”の原因です。
影にならない位置に、カメラ・被写体を配置するようにしてください
下記を解決して修正し、もう一度撮ってみました。
(1)「暗い問題」→「露出補正」
(2)「謎のシマシマ問題」→「被写体・カメラ位置調整で回避」
今度は、それなりにキレイに撮れました! 照明効果はそれなりで、無難な光と言えます
「極小ブツ(5cm未満)」なら、1,000円以下の格安機材でもキレイな照明ができるってことです。
格安でもあなどれない!
さてさて、極小ブツをクリアした「U-1,000yen(箱型スタジオ タイプ)」。ステップアップしたブツに挑みましょう。「小モノ(20cm程度)」の腕時計にチャレンジしてみます。
あらら……全然足りてない!!! この大きさの被写体には、格安機材じゃさすがに無理なようです……
U-5,000yenは、U-1,000とほぼ同じ仕組みの箱型スタジオタイプで、そのまま大きくしたようなもの。約40cm角のサイコロ状で、約20cm角のサイコロ状のU-1,000と比べると、容積は約8倍となっています。
U-1,000yenでは、サイズが全然足りなかった「腕時計」を撮ってみることにしましょう
こうなりました!
今度は背景も切れず白背景にきちんと納まっており、20cm程度の腕時計は、楽々カバーしていますね。照明効果はU-1,000yen同様、無難な光といったところでしょうか。
今回の被写体で一番の大物「やや大モノ(30cm程度)」のピンヒールです。履物は2個1対で1足なので、思っているよりはるかに大きい被写体です。幅30cmオーバーは当たり前と考えてもいいでしょう。
それに、今回のは10cm以上のピンヒールなので、幅だけではなく高さ(17cm)もあり、なかなかの強敵! 果たして、U-5,000yenでカバーできるのか!?
背景が足りているかどうかといえば、足りてはいません。
ですが、少し足りないだけなので、画処理スキルがある人なら「画像処理ソフト」などで「背景伸ばし」をすれば、簡単に無背景化することが可能です
「箱型スタジオタイプ」は、背景が足りなくても拡張することができない構造なので、撮りたい「被写体の最大の大きさ」から逆算して「箱型」のサイズを選ぶことが重要です。
ただ、このU-5,000yenでは、背景が足りない問題よりも気になることがあります。それは照明の色……。何か、いまひとつという印象を受けました。また、LEDが一文字に配置されているだけですから、大きな被写体を美しく撮るのは難しいと考えます。
お次は「アンダー30,000円クラス(U-30,000yen)」のご紹介。今までのものとは、比較にならないほど高価なキットです。なので、軽い気持ちでこれを選ぶ人は少ないと考えます。
しかし、業務として商品写真を撮る人(主にプロカメラマンではない人)には、最低でもこれくらいの出費は必要でしょう(プロカメラマンは、照明機材にもっとお金をかけるのが一般的です)。
逆をいえば、これさえあれば「レベルの高い商品撮影」を可能とします(被写体の大きさは、最大30cm程度まで)
この照明機材の特徴を言えば「50×50cmの大きなフラットな面光源」であることです。前掲の「箱型スタジオタイプ」は、むき出しのLED素子の突き刺すような光が一列に並んでいるだけですので、“面光源”ではありませんでした。つまり、この「本格照明キットタイプ」は値段なりのキレイな光を生み出すということです。
ただ、このキットに「背景」は付属しません。無背景で撮りたい場合は、別途「白ケント紙(四六判)」などを準備する必要があります。逆を言えば、箱の壁や背景がないので、どこにでもキレイな光を照射することができるというメリットもあります。
基本キットをバラすと「撮影用 高演色LED電球」「折りたたみ式ソフトボックス」「ライトスタンド」の3点に分かれます
別売で「オプションの棒」が用意されており、これを使うことで被写体の真上から照射することが可能になります。商品撮影では、上からの照明が主流で、多くの被写体に適しています。なので、この棒は同時購入したほうがいいと思います。
※なお「基本キット」+「オプションの棒」で税込30,000円以下となります
「折りたたみ式ソフトボックス」は傘のように開くだけで組み上がり、「付属ディフューザー布」をかぶせて完成。このキットの心臓部は「撮影用 高演色LED電球」です
実は、これまでのLED電球は光の色が悪く、写真を撮っても発色が悪いというのが一般的でした。しかも、思ったより「暗い」ので、撮影には向かない代物でした(なので、この手のキットは「電球タイプの蛍光灯」が採用されることが多かった)。
このキットに付属するのは、撮影用に開発された特別なLED電球。「高演色(光の色が良い=Ra95以上)」と「大光量(3,750ルーメン)」と、今までの常識では考えられないイノベーションです(電球タイプの蛍光灯よりはるかに明るく、かつ光色もはるかによい)。
※Raとは……演色性を示す数値のひとつ。「Ra100=太陽光」とされ、Raの数値が高いほど太陽光に近くなる
「ソフトボックス」の内部には「E26ソケット」があります。ここに「高演色LED電球」を装着することにより、本格的な撮影用照明となります
※LED電球は、E26口金規格なので、ご家庭の一般的なソケット(大きいほう)でも装着可能
本格照明キットのソフトボックスを「30cm程度(ピンヒール)」の真上に配置して照射してみます(「オプションの棒」で、向こう側からテーブル上に突き出しています)。
今回はテーブルの天板を背景にしました。白背景(無背景)にしたい場合は、先述の「白ケント紙(四六判)」などを使います。
先ほどまでの「箱」とはレベルの違うお値段がしちゃう、この本格キット。本格照明により、写真のクオリティは向上するのか……!?
いかがでしょうか!!!
「これ、ホントにiPhoneで撮ったの!?」との声が聞こえてくるような、レベルの違う、美しい写真になりました!
プロも用いるライトを使った大きな面光源は、”高級感がある質感” ”レベルの違う発色表現”を生み出しています。それなりのお値段するのも、ご理解いただけるのではないでしょうか!?
ここからは余談です。日を改めて、追加撮影をおこないました。撮影カメラを「iPhone」→「フルサイズカメラ」に変えてのトライです。
「白ケント紙(四六判)」を背景に設置し「レフ板(B4スチレンボード2枚つなぎ)」で「TRY-05」と同じく「ピンヒール(30cm程度)」を撮影(ちょっと、本気を出してみました)※ケント紙とレフ板は別途用意
できた写真がこちらです。
iPhoneとは違う気品が漂う写真になりました!
続けて、小さいのにもトライしてみます。
大は小を兼ねるので、極小商品は、なんてことなくキレイにライティングされていますな
「箱型スタジオタイプのU-1,000yenクラス」は、なかなか健闘したと思います。なにしろ1,000円以下の出費で、極小ブツがそれなりに撮れるのですから(アクセサリーのメルカリ出品だったら、なんとか使えそうです)。
しかしながら、ビジネスでキレイな商品撮影(ブツ撮り)を目指すのであれば、最低限「U-30,000yen」は必要ではないかと考えます。やはり、プロでも使うものは、レベルが違うということでしょう。
ちなみに、今回使った「U-5,000yen」は、40cmほどの大きな箱型ですので期待はしたのですが、個人的には作り的にも、照明効果的にも「5,000円も出して、これ?」と、感じました。本記事冒頭の「U-5,000yen」と「U-1,000yen」を並べた写真を見ても、なぜか「U-1,000yen」の方が明るいし、色もいい気がします……。
そもそも、箱型のLED配置は、もっと天井の全面にあるべきだし、突き刺す点光源ではなく、ディフューザーがあってもよいのでは……と考えます。
皆さんも、ブツ撮りが必要になったら、本記事を参考に、被写体と予算を考慮して照明キットを選んでください。
有限会社パンプロダクト代表
中居中也(なかい・なかや)のショップとブログ
「使える機材のセレクトショップ」
「使える機材Blog!」
銀塩カメラマンとして広告や雑誌でキャリア開始。2010年より「唯一無二の撮影機材通販」にも参入し、現在は「映像作家」としても活動中。写真が上手になると定評があるブログを参考にするカメラマン続出中!