ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7シリーズ」に“Compact”をコンセプトに開発された新モデル「α7C」が2020年10月23日に発売となった。高性能なスタンダードモデル「α7 III」の基本スペックをベースにAPS-Cミラーレス並みの小型・軽量ボディを実現した話題作で、静止画撮影だけでなく動画撮影でも活躍するカメラとなっている。そこで今回は静止画撮影と動画撮影の両面で、α7 IIIとの違いを交えながらこのカメラをレビューしよう。
小型・軽量な新しいキットレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」を装着したα7C。α7シリーズとしては初めてシルバーとブラックの2種類のカラーバリエーションが用意される。今回はシルバーを使用した
α7Cの最大の魅力は、ボディ内手ブレ補正を搭載したフルサイズ一眼カメラとして世界最小・最軽量となるコンパクトボディを実現したことだ。そのサイズは約124.0(幅)×71.1(高さ)×59.7(奥行)mmで、重量は約509g。ボディ内手ブレ補正だけでなく、電子ビューファインダー(EVF)、可動式モニター(バリアングル液晶)といった使い勝手を左右する基本的な機能を省略することなく、α7 IIIと比べてひと回りコンパクトで約22%の軽量化を達成している。
α7C 約124.0(幅)×71.1(高さ)×59.7(奥行)mm/約509g
α7 III 約126.9(幅)×95.6(高さ)×73.7(奥行)mm/約650g
α6600 約120.0(幅)×66.9(高さ)×69.3(奥行)mm/約503g
※重量はバッテリー、メモリーカードを含む
α7 IIIと比べるとフロントダイヤルやマルチセレクターなどの操作系が省略されているものの、ボディ内手ブレ補正搭載のAPS-Cミラーレス「α6600」に匹敵するサイズ感で、これだけでもα7Cに魅力を感じるというものだろう。
加えて、小型・軽量ながらα7 IIIなどと同じ大容量の「Zバッテリー」(NP-FZ100)を採用しており、バッテリーの持続性が犠牲になっていないのも押さえておきたい。1回の充電での撮影可能枚数は約680枚(ファインダー使用時)/約740枚(液晶モニター使用時)で、α7 IIIの約610枚/約710枚を超えるスペックになっている。
α7Cはボディ内手ブレ補正搭載のフルサイズ一眼カメラとして世界最小・最軽量を実現。α7シリーズとしてはEVFが光軸上にないのは初で、APS-Cミラーレス「α6000シリーズ」に似たデザインとなっている
モノコック構造のマグネシウム合金ボディを採用しており、小型・軽量なカメラとしては剛性感のある筐体だ。防塵・防滴に配慮した設計も採用している
上面に撮影モードダイヤルと露出補正ダイヤルを装備。α7 IIIと比べるとフロントダイヤルと2種類のカスタムボタン(C1/C2)が省略されており、代わりに動画ボタンが配置されている
EVF(約235万ドット、倍率約0.59倍)とバリアングル液晶モニター(3.0型、約92万ドット、タッチパネル対応)を採用。EVFの倍率が低いのが気になるところではあるが、十分な操作性を確保している。背面の操作系では、α7 IIIからマルチセレクターやAEロックボタン、カスタムボタン(C3)が省略されている
左側面にインターフェイス類(HDMIマイクロ端子、USB Type-C、ヘッドホン出力、マイク入力)とSDメモリーカードスロット(UHS-II対応)を配置。コンパクトボディにZバッテリー採用ということで、シングルスロットなのは致し方ないところ。マルチ/マイクロUSB端子がなく、赤外線リモコンセンサーも非搭載で、スマートデバイス以外でのワイヤレスのリモート撮影はBluetoothリモコン「RMT-P1BT」を利用する仕様だ
底面の三脚穴は光軸上に配置されている
α7 IIIとのサイズ比較。α7Cは光軸上のファインダー部がなくなり、高さはα7 IIIから約24.5mm低くなっている。体積も約19%少なくなった
α7Cは厚みがそれなりにあるが、グリップが小ぶりになっていたり、EVFの出っ張りが少なく、上面から比較してもα7 IIIよりもコンパクトなことがわかるはずだ
α7 IIIなどほかのα7シリーズと互換性があるZバッテリー(NP-FZ100)を採用するのもうれしい。バッテリーの持続性はα7 IIIを上回っている
α7Cとの組み合わせで注目なのは、「ズームレンズキット」に付属する新しいキットレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」だ。沈胴式で全長45mm/重量約167gの小型・軽量な標準ズームで、こちらもフルサイズ一眼カメラ用のズームレンズとして世界・最小最軽量を実現。α7Cと組み合わせた際の撮影時の総重量は700gを切る約676gで、デザイン的にもα7Cのコンパクトボディにマッチするズームレンズとなっている。
実際に使ってみても、レンズ込みでの奥行が短いのでカバンなどに収納しやすく、この組み合わせだからこその持ち運びやすさを実感した。すでに標準ズームレンズを持っているEマウントユーザーでも、α7Cを手に入れるなら、このズームレンズキットをファーストチョイスにしたいところだ。
キットレンズを装着した状態でα7Cとα7 IIIを比べると、レンズを含めた奥行が大幅に短くなっていることがわかる
FE 28-60mm F4-5.6のレンズを繰り出し、α7Cのバリアングル液晶を開いた状態で撮影しているイメージ
Eマウントは広角から標準域においてコンパクトな単焦点レンズが豊富に用意されている。小型・軽量なα7Cにはそうした単焦点レンズを組み合わせるのもいいだろう。この画像では、動画撮影でも活躍する高性能な「Gマスター」ブランドの広角レンズ「FE 24mm F1.4 GM」を装着している
カールツァイスの広角MFレンズ「Loxia 2.8/21」を装着したイメージ。付属のレンズフードを取り付けている
α7Cは基幹となるデバイスをα7 IIIから継承している。α7 IIIと同じく、撮像素子は有効約2420万画素の裏面照射型CMOSセンサーで、映像エンジンは「BIONZ X」だ。とだけ伝えると、α7Cに対して「α7 IIIの性能をコンパクトにまとめたカメラ」という印象を持つ人もいるかもしれないが、α7Cは最新機能をひと通り搭載しており、静止画撮影の性能ではα7 IIIを上回るところがいくつかある。特にAFと連写については、動体撮影に十二分に対応できるスペックとなっている。
動体撮影で威力を発揮する「リアルタイムトラッキング」に対応
α7C のAFは、α7 III と同等となる693点 (位相差AF)/425点 (コントラストAF)の測距点を持つファストハイブリッドAFを継承しつつ、「リアルタイムトラッキング」に対応したのが大きなトピックだ。
リアルタイムトラッキングはロックオンAFが進化した機能で、指定した被写体に対して、色、模様(輝度)、被写体距離(奥行)といった空間情報をリアルタイムに処理しながら追尾するというもの。人物と動物に対応する「リアルタイム瞳AF」の顔・瞳検出(※動物の場合は瞳検出のみ)を交えながら動作するのがポイントで、従来のロックオンAFよりも被写体を高精度に追尾することができる。100%とらえて離さないというわけではないが、被写体が横や後ろを向いた状態でも検出し続けるので、不規則な動きをするスポーツの撮影などで威力を発揮する機能となっている。
静止画撮影でのリアルタイムトラッキングを利用するには、前提として、「AF時の顔/瞳優先」をオンにして、検出対象を人物もしくは動物に設定しておく必要がある。そのうえで操作方法は2種類あり、フォーカスエリアを「トラッキング:拡張フレキシブルスポット」に設定して追尾対象の被写体をフォーカス枠で指定する通常の方法と、モニター上をタッチして指定する方法の「タッチトラッキング」に分けられる。トラッキング:拡張フレキシブルスポットはAFモードがAF-C時のみ利用が可能。タッチトラッキングはどのAFモード(AF-A/AF-S/AF-C/DMF)、かつどのフォーカスエリアを選択していても利用できる。このあたりの細かい操作方法は少々ややこしいところがあるので使い始めは混乱するかもしれないが、便利なのはAFモードやフォーカスエリアによらず直感的に被写体を選択できるタッチトラッキングだ。
※2020年10月28日 AFに関する記述を変更:ソニーに問い合わせていたAFの仕様について「静止画撮影時に顔/瞳AF設定の検出対象を動物に設定してもリアルタイムトラッキングが可能」との回答があり、該当箇所の記述を変更しました。
AF-C時にフォーカスエリアの設定をトラッキング:拡張フレキシブルスポットにして、追尾対象をフォーカス枠で指定するとリアルタイムトラッキングがオンになる
タッチトラッキングは「タッチ操作時の機能」を「タッチトラッキング」に設定することで利用が可能になる。狙いたい被写体をモニター上でタッチするだけでリアルタイムトラッキングが開始される
リアルタイムトラッキングを使用しているときのモニター映像を記録した動画。トラッキング:拡張フレキシブルスポットで被写体を指定して、歩いている人物を追いかけながら撮影している。ピントが後ろに抜けるようなことはなく、顔検出や瞳検出を駆使しながら指定した被写体をとらえて離さないことが伝わるはずだ。後ろを向いた状態でも被写体をトラッキングしているのもポイント
タッチトラッキングとあわせて、リアルタイムトラッキング関連の機能で便利だと感じたのが、「押す間トラッキング+AFオン」だ。この機能を割り当てたボタンを押し続けている間、一時的にリアルタイムトラッキングとAFが有効になるというもの。上位モデルではAF-C時のみ使用できる機能だが、α7CではAFモード(AF-A/AF-S/AF-C/DMF)によらずに割り込めるのが便利。たとえば、AFモードをAF-S、フォーカスエリアをフレキシブルスポットにしてワンショットの1点AFで撮っていても、押す間トラッキング+AFオンを割り当てたボタンを押せば、瞬時にAF-C/トラッキングに切り替わり、1点AFの位置でトラッキングがスタートする。
AFモードもフォーカスエリアも変更する必要がなく、被写体の動きを見てとっさに反応したい場合に便利だ。特に、フレキシブルスポットでの1点AFをメインに使う場合に活用しやすい機能ではないだろうか。なお、押す間トラッキング+AFオンは初期設定ではAF-ONボタンに割り当てられているが、カスタムキーの設定で割り当ての変更が可能。トラッキングのオン・オフとAFの動作を分けたい場合は、「押す間トラッキング+AFオン」ではなく「押す間トラッキング」を設定するといいだろう。
通常はAFモードをAF-C、フォーカスエリアをトラッキングに設定しないとトラッキングを使用できないが、押す間トラッキング+AFオンを活用すれば、追尾を開始したいと思ったらすぐにトランキングを有効にできる
「α7 III」と同等の連写速度で持続性がアップ。フレームレート120fps表示の選択が可能
小型・軽量モデル=下位モデルという立ち位置もあるのだろうが、一眼カメラは一般的にボディがコンパクトになると、メカ部分が弱くなったり、バッファーメモリーの容量が少なくなることなどが原因で、どうしても連写性能が落ちる傾向がある。だが、α7Cは小型・軽量化によって連写性能が犠牲になっておらず、むしろα7 IIIを上回る性能となっている。
ポイントとなるのは連写の持続性。α7Cはα7 IIIと同じく最高約10コマ/秒、ライブビュー方式での最高約8コマ/秒(いずれもAF・AE追従)の連写が可能なうえ、バッファーメモリーの大容量化やシステムの高速化などによって、α7 III以上の連写持続性を達成している。撮影可能枚数はJPEG(Lサイズ エクストラファイン)で215枚、RAW(圧縮)で115枚、RAW(圧縮)+JPEGで86枚。十分な連写持続性を持つα7 IIIと比較してもJPEG(Lサイズ エクストラファイン)で60枚、RAW(圧縮)で26枚、RAW(圧縮)+JPEGで7枚上回るスペックになっている。
データ書き込み中の操作性についてもα7 IIIとそん色なく、一部機能の制限はあるものの、メニュー画面やファンクションメニューを使って撮影設定を変更することが可能。ファインダーの表示フレームレートを高速(120fps)に変更できるようになったのもα7 IIIにはない点だ。素早く動く被写体を撮影する場合の視認性を上げるのに高速(120fps)は有効な設定である。
ファインダーの表示フレームレートは標準(60fps)と高速(120fps)から選べる
ほかの最新モデルと同様の機能や設定を追加
α7Cには、フォーカスエリアの設定画面に表示されるエリアの種類を限定する機能や、感度の設定画面で選択できる範囲を限定する機能など、α7シリーズの最新モデルと同様の機能が追加されている。AF関連では、フォーカス枠(スポット、拡張スポット時)の移動量を「標準」と「大」から選べるほか、フォーカス枠の色の設定(ホワイトとレッドの2色)や、フォーカス枠の上下左右端での循環設定も用意されている。オートホワイトバランス時にシャッターボタンを押している間、ホワイトバランスを固定する「シャッターAWBロック」も利用できる。
フォーカスエリアの表示を限定する機能を追加
オート感度の上限・下限値とは別に、選択できる感度の範囲を限定する機能も追加されている
電子先幕シャッターでシャッタースピードは最高1/4000秒
α7Cで静止画撮影では、シャッター周りの仕様に注意が必要だ。メカシャッターと電子シャッター(サイレント撮影)に対応しているが、α7 IIIなどとは異なり、メカシャッターは電子先幕のみとなっている。電子先幕は大口径レンズの開放付近で高速シャッターを切る場合にボケ像が欠けることがある。また、シャッタースピードは最高1/4000秒で、シンクロ速度は最高1/160秒となっており、1/8000秒(シンクロ1/250秒)対応のα7 IIIと比べると見劣りする。このあたりのシャッター周りの仕様は小型・軽量化によるところが大きく、致し方ないところではある。
ボケ欠けについては、実機で試してみたところ、絞り値F1.4、シャッタースピード1/4000秒の設定だと点光源の玉ボケで欠けが発生した。実用的にどこまで気にするのかにもよるが、明るい屋外で大口径レンズの絞り開放で撮りたい、かつ点光源のキレイな玉ボケを生かしたいのであれば、NDフィルターを使用してシャッタースピードを遅くする必要がある。
以下に掲載するα7Cの実写作例は、いずれもJPEG形式の最高画質(エクストラファイン)で撮影したもの(JPEG撮って出し)になる。レンズには、小型・軽量なα7Cの組み合わせを考慮して、キットレンズFE 28-60mm F4-5.6のほか、コンパクトかつ高画質で定評のある広角・単焦点レンズ「FE 20mm F1.8 G」「FE 24mm F1.4 GM」を使用した。
注目度の高いキットレンズFE 28-60mm F4-5.6については、そのサイズ感からするとよく写ると感じた。広角端の開放付近ではさすがに周辺光量落ちが発生するが、ズーム全域で十分なコントラストとクリアな描写が得られる。また、思った以上に逆光に強く、強い光源を画面に入れてもフレア・ゴーストが出にくい印象を受けた。
※サムネイル画像をクリックすると、撮影写真を長辺900ピクセルに縮小した画像が開きます。リサイズを行っていない撮影写真は、サムネイル画像下のテキストリンクをクリックすると開きます。なお、撮影写真は開くのに時間がかかる場合があります。
α7C、FE 20mm F1.8 G、F6.3、1/2500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:クリア、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、11.9MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、28mm、F4、1/800秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、13.1MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、28mm、F13、1/1000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、12.9MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、45mm、F5.6、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、11.8MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、28mm、F8、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:ビビッド、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、16.7MB)
α7C、FE 24mm F1.4 GM、F8、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、20.5MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、28mm、F8、1/800秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、16.5MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、38mm、F8、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、15.5MB)
α7C、FE 28-60mm F4-5.6、60mm、F5.6、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、13.5MB)
α7C、FE 24mm F1.4 GM、F8、1/40秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、クリエイティブスタイル:スタンダード、Dレンジオプティマイザー:オート、歪曲収差補正:オート、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オート、JPEG
撮影写真(6000×4000、13.2MB)
動画撮影の基本的な性能はα7 IIIを継承している。フルサイズ画角での全画素読み出しによる高画質な4K/24p記録(※4K/30p記録は1.6倍クロップ)や、フルHD/120p記録、S-Log/HLG対応、スロー&クイックモーション対応など、ひと通りの機能が揃っている。4K/60p記録対応の最新モデルと比べると見劣りするが、フルHD/24pベースの映像制作であれば過不足なく、動画撮影の入門機としては十分な性能を持っている。
S-LogガンマやHLGガンマなどの推奨設定を選べる10種類のピクチャープロファイルに対応。推奨設定からカラーモードなどを変更して使うこともできる
動画撮影時の「タッチトラッキング」に対応
α7Cの動画撮影機能では、タッチトラッキングでのリアルタイムトラッキングが可能になったのが大きな進化だ。動画撮影は静止画撮影以上に、よりワイドなフォーカスエリアを選択することが多くなるが、タッチトラッキングを使えば、手前に被写体が入ってもAFが引っ張られることなく、瞳検出を交えながら狙った被写体に対してより確実にピントを合わせ続けることができる。カメラまかせのAFでもフォーカスが不意に移動する心配が少なく、トラックやドリーの移動撮影でも活躍する機能だ。
なお、2021年12月7日に公開になったファームウェアVer.2.00において、動物のリアルタイム瞳AFが動画撮影にも対応するようになった。
AFのトランジション速度と乗り移り感度の設定が可能
動画撮影時のAF機能として、「α7S III」にも搭載された「AFトランジション速度」と「AF乗り移り感度」に対応しているのもポイント。どちらもより細やかなAF制御を行いたい場合に便利な機能だ。
AFトランジション速度は、被写体にピントを合わせる速度を7段階で設定できる機能。手前の被写体から奥の被写体(もしくはその逆)に意図的にフォーカスを送りたい場合の速度調整に便利で、低速側ではより滑らかに、高速側ではよりスピーディーにフォーカスが移動するようになる。AF乗り移り感度は、ピントを合わせ続ける感度を5段階で設定できる機能。感度を低くするとほかの被写体の影響を受けにくくなり、狙った被写体にピントを合わせ続けやすくなる。感度を高くするとピントがほかの被写体に乗り移るタイミングが早くなり、テンポよく被写体を切り替えながら撮影できるようになる。
AFトランジション速度とAF乗り移り感度の調整が可能。AFトランジション速度は、フォーカス送りなどで細かいニュアンスを表現したい場合に便利な機能だ
小型・軽量&バリアングル液晶なのでジンバルと組み合わせやすい
α7Cはボディの小型・軽量化とバリアングル液晶モニターの採用によって、α7 III以上に動画撮影で扱いやすいカメラに進化している。手持ちで撮りやすいというだけでなく、ジンバルと組み合わせた際によりスマートに使えるのがいい。最近はミラーレス用の軽量なジンバルが登場しているものの、一眼カメラをジンバルに搭載しての長時間の撮影は、どうしても撮影者の負担が大きくなる。ボディやレンズは少しでも軽いほうがよく、その点でフルサイズながら小型・軽量なα7Cはジンバル運用に向いたカメラと言えよう。
Zhiyun(ジウン)の中型サイズのジンバル「WEEBILL S」にα7Cを搭載したイメージ。マルチ/マイクロUSB端子が非搭載ということもあり、試した時点ではジンバル本体からの操作はできなかった
正式には発表されていないがα7Cで撮影した動画データにはジャイロメタデータが含まれており、クリップ管理ツール「Catalyst Browse」での強力な手ブレ補正処理が可能。電子処理のため画角は狭くなるが、元動画から手ブレを大幅に補正することができる
α7CとWEEBILL Sを使い、α7 IIIのプロモ―ジョンビデオをイメージして制作したフルHD/24p映像。レンズはFE 24mm F1.4 GMを使用した。素材はガンマHLG2、カラーモードBT.709の設定で撮影し、動画編集ソフト「DaVinci Resolve」で編集。ハイフレームレートで記録した素材を活用したり、ティール系のLUTを当てるなどしてシネマティックな雰囲気に仕上げてみた。オーディオはFLASH☆BEATさん制作のフリー素材『Feather of the Angel』を使用している
最後に、α7Cを使ってみて気になった点をレポートしよう。すべて操作性に関することになるが、小型・軽量化のトレードオフになっている部分が多く、致し方ないところもある。
グリップのホールド感
α7Cのボディデザインはα6000シリーズに近く、削れるところは削りながら操作性を確保している印象。グリップはAPS-Cミラーレスのエントリーモデル「α6400」よりもしっかりとした形状ではあるものの、上位モデルのα6600ほどではなく、ホールド感も相応といったところ。小型レンズを装着する場合はいいのだが、大きな望遠ズームレンズを装着した場合はグリップ感の低さがやや気になった。
小型・軽量ボディとしては大きなグリップだが、α6400の延長線上にあるような箱型の形状で、大きなレンズを装着した場合はグリップ感に欠けるきらいがある
シャッターのフィーリング
シャッター音の大きさはα7 IIIの電子先幕シャッターとそれほど変わらないが、シャッターを切った際のフィーリングはもうひとつ。シャッター動作の振動が手に伝わってくる感じがα7 IIIよりも強い。
外光の影響を受けやすいEVF
倍率約0.59倍のEVFということで期待値は低かったが、ファインダーの見え自体はそれほど悪くない。糸巻き型の歪みがわずかにあるものの、比較的クリアな表示だ。ただ、外光を遮断するアイカップがないこともあって、晴天下の屋外や光源の近くだと外光の影響を受けやすいのが難点。ファインダー内で乱反射が起きやすく、視認性が落ちることがあるのが気になった。なお、α7Cにはオプションでアイピースカップは用意されていない。α6000シリーズ用のアイピースカップ「FDA-EP17」の装着も不可となっている。
比較的クリアな表示で見えは悪くないが、外光によってファインダー内で乱反射が発生したのが気になった
クリック感が弱いコントロールホイール
操作性ではマルチセレクターやファンクションボタンなどがないことを気にする人がいるかもしれない。確かに、マルチセレクターでのフォーカス枠のダイレクト移動はできないし、カスタムキーで割り当てられるボタンの数もα7 IIIより少ないが、ボディのサイズ感からは納得できる仕様だと思う。割り切って使うことが前提になるので操作系が少ないことはそれほど気にならなかった。
使ってみて気になったのは、十字キーを兼ねる背面のコントロールホイールの操作感だ。α6000シリーズと同じようにコントロールホイール付近は平らなデザインになっているため、ホイール部が盛り上がっているα7 IIIと比べると、十字キーのクリック感がどうしても弱く感じてしまった。マルチセレクターがない分、フォーカス枠の選択などで十字キーを使うことが増えるので、この部分の操作感はもう少しこだわってほしかった。また、AF-ONボタンは、ほかのボタンよりも大きな形状になっていることもあるのだろうが、押し込み量が大きいのが気になった。誤操作を防ぐ点ではいいと思うが、もう少し軽いタッチでもよかったと思う。
背面のコントロールホイールとAF-ONボタンの操作感はもうひとつ
動画撮影を意識したタッチ操作のUIが欲しい
メニュー画面をタッチで操作できないのは、特に動画撮影時に不便だと感じた。せっかくのバリアングル液晶がもったいなく、α7S IIIのようにタッチでメニューを操作できるようにしてほしかったのが正直なところだ。また、これは要望になるが、今後の新モデルではさらに一歩進んで、撮影画面上でのタッチ操作を前提にしたメニューやファンクションボタンを追加してほしい。タッチトラッキングとタッチフォーカスをワンタッチで切り替えたり、記録フレームレートをタッチ操作でスムーズに選択できたりすると、動画撮影がさらにやりやすくなるはずだ。
α7Cの基本スペックを見て“ミニα7 III”という印象を持つ人も少なくないだろうが、実際は、α7 IIIをベースにしながら、リアルタイムトラッキングへの対応や、持続性が増した連写性能などを実現しており、使い勝手が向上した部分も多い。その代わりというわけではないが、EVFやシャッター周りなどボディサイズに影響する部分のスペックではα7 IIIよりも見劣りするところがあり、操作性についてはある程度割り切って使う必要がある。
とはいえ、高性能なフルサイズ機ながらAPS-Cミラーレスα6600並みの小型・軽量ボディを実現しているのはほかにはない魅力だ。これまでにはなかった新しいカテゴリーのミラーレスと言ってもよく、静止画撮影では小型レンズと組み合わせてのスナップや、リアルタイムトラッキングを活用してのポートレートに向いたカメラと言えるだろう。動画撮影については4K/60p記録など最先端の性能を搭載しているわけではないが、フルHD/24p記録であればハイフレームレート記録を含めてひと通りの機能が揃っており、シネマティックな雰囲気の映像制作を始めるのに使いやすいカメラとなっている。Vlog用としてはソニーには「VLOGCAM ZV-1/ZV-1G」というコンパクトデジカメがあり、サイズ的にはそちらに分があるが、より高画質で撮りたい、よりワイドなレンズを使って撮りたいといった場合にはα7Cを選択するのもいいだろう。
α7Cの市場想定価格はボディ単体が21万円前後、標準ズームレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」が付属するレンズキットが24万円前後(いずれも税別)。価格.comの実勢価格を見ると、2020年10月時点ではα7 IIIよりもやや高い価格帯になっている。α7 IIIとどちらを選ぶか悩ましいところだが、携帯性重視でスナップやポートレートを中心に撮影し、動画撮影にもフル活用したいならα7C、操作性重視で望遠ズームレンズを使った撮影も行うならα7 IIIといったように、自分の撮影スタイルにあわせて適したほうを選んでほしい。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。