「Z 7II」「Z 6II」は、2020年11〜12月に発売になった、ニコンのフルサイズミラーレスカメラ。高性能な画像処理エンジン「デュアルEXPEED 6」を搭載するなど、従来モデルから性能や機能が進化した魅力的なカメラに仕上がっています。ただ、ニコンのカメラは、スペックではわからない部分でいいところがふんだんにあるのが特徴。そこで本記事では、Z 7IIなどニコンのミラーレス「Zシリーズ」を複数台所有するカメラマンの筆者が、普段使って実感しているZ 7II/Z 6IIの5つの魅力を紹介します。
左がZ 7II、右がZ 6II。外観デザインや操作性は共通で、Z 7IIは有効4575万画素の高画素モデル、Z 6IIは有効2450万画素でよりオールマイティーに使えるモデルになっています
Zシリーズの魅力を紹介するうえで外せないのは、何といっても「高画質」です。その肝になっているのが、Zシリーズ用の交換レンズ「Zマウントレンズ」。内径55mmの大口径マウントと16mmのショートフランジバックという、これまでにはなかった設計を採用した「Zマウントシステム」によって光学設計の自由度が飛躍的に向上したことで、Zマウントレンズでは、一眼レフ用の「Fマウントレンズ」を超える光学性能が得られるようになりました。2021年5月11日現在、計16本(テレコンバーター2本を除く)のレンズをラインアップしていますが、「Zマウントレンズに外れなし」と言われているくらい、どのレンズも本当によく写ります。
使ってみたくなる魅力的なレンズが続々と追加されているZマウントレンズ。左は開放F1.2の明るさを実現した大口径・標準レンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」で、右は開放F2.8通しの広角ズームレンズ「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」(カメラボディはZ 7II)。いずれも、Zマウントレンズを代表する高画質なレンズです
「絞り開放から周辺まで高解像」というのは、もはやミラーレス用の最新レンズでは当たり前になっていて、それだけでは写真としての面白みに欠けるところがあります。Z シリーズで撮影した写真を見ていると、周辺まで緩みのない画質に驚かされることがありますが、単にシャープなだけではないのがいいところで、画面全体での画質の均一性を上げつつ、ボケ味など写真として美しさを感じる部分の質も向上している印象。レンズの光学性能の高さによるところが大きく、画像処理では実現できないものだと感じます。
Zシリーズの中でも、Z 7IIは有効4575万画素、Z 6IIは有効2450万画素のフルサイズCMOSセンサーを採用するうえ、画像処理エンジン「EXPEED 6」を2基搭載する「デュアルEXPEED 6」を搭載しており、特に高画質が得られる2モデルです。いずれもZマウントレンズの性能を存分に引き出せるカメラとなっています。
Z 7II/Z 6II に限らず、Zシリーズはどのモデルも撮影のしやすさを追求した操作性を採用しています。右手で操作しやすいように工夫されたボタン・ダイヤル類のレイアウトや、シャッターを切った際のニコンらしいフィーリングのよさなど、「使う側のことをよく考えている」と感じる点はいくつもありますが、その中でも特にそのよさを伝えたいのが電子ビューファインダー(EVF)です。
Z 7II/Z 6IIのEVFの解像度は約369万ドット(0.5型有機ELデバイス)で、最新のフルサイズミラーレスとしてはけっして高解像というわけではありません。しかし、光学系の品質が非常に高く、周辺まで歪みを抑えた、とてもクリアな見えを実現しています。EVFにありがちな青っぽい表示でも、それを画像処理で無理に補正した感じでもなく、自然な色合いなのもポイント。「光学ファインダーに近い」というと少し大げさですが、EVF特有の「画像を見ている感じ」がよく抑えられています。しかも倍率は約0.8倍という広さ。ファインダーを覗いた際の没入感が高く、「ファインダーで撮る喜び」を強く感じられるEVFです。
約369万ドット/倍率約0.8倍のEVFを採用。光学系にこだわり、歪みがなくクリアな見えを実現しています
Zシリーズの操作性では、握りやすい形状のグリップも押さえておきたいポイントです。単にカメラをホールドしやすいというだけでなく、レンズとグリップの間のスペースが十分に確保されているので、レンズを持つ左手と、グリップを握る右手が干渉しにくいのが、よく考えられているところ。フォーカスリングの操作がしやすく、MFでのピント合わせもスムーズに行えます。
握りやすい形状を追求したグリップ。クリアランスに余裕があり、撮影時に左手を右手が干渉しにくくなっています
あまり語られていない部分になりますが、Z 7II/Z 6IIを使ってみて実感するのが、AF-S(シングルAFサーボ)の性能の高さです。特に暗所での撮影で違いがわかりやすく、夜景や夜の街並みなどAFが苦手とする薄暗いシーンでも狙ったところに高速かつ確実にピントが合います。他メーカーのフルサイズミラーレスと使い比べてみても、Z 7II/Z 6IIの暗所に対するAFの強さは頭ひとつ抜け出ていると感じるくらいです。夜のスナップ撮影などがとてもやりやすいカメラだと思います。
しかも、2021年4月26日に公開されたZ 7II/Z 6II用の最新ファームウェアVer.1.20では、低輝度撮影時の位相差AFとコントラストAFの切り替え制御を見直すことで、暗所でのAF性能がさらに向上。薄暗い屋内や夜景などのシーンにおいて合焦時間の短縮を実現しています。さらにファームウェアVer.1.20では、瞳AF/顔検出AFおよびターゲット追尾AFの枠がより滑らかな表示になったほか、スピードライト使用時の瞳AF/顔検出AFの性能と被写体の視認性も向上しています。
ちなみに、暗所AFの性能をチェックする際にAFの低輝度限界値を指標にすることがありますが、低輝度限界は特定の明るいレンズを使用した場合にAFが被写体を検出できる最低輝度を表す値で、必ずしも暗所全般でのAF速度・精度の高さを示すものではありません。星空の撮影など極端に暗いところでは参考になりますが、夜景や夜の街並みくらいの明るさがあるシーンでのAF速度・精度は、実際に試してみないとわからないところがあります。
なお、AF-Sについては申し分ないのですが、Z 7II/Z 6II のAF-C(コンティニュアスAFサーボ)の性能については、もうひとつというのが正直なところです。被写体への食いつきは十分で、従来モデルZ 7/ Z 6と比べるとエリアを限定しての追従はかなりいいところまで来ていますが、ミラーレスならではの画面を広く使っての追従性には改善の余地があります。今後のファームウェアアップデートでの性能向上に期待したいところです。
Zマウントレンズによる高画質や、暗所に強いS-AF、視認性にすぐれるEVF、握りやすいグリップなど、ここまでに紹介したZ 7II/Z 6IIの4つの魅力は、暗所でのAF性能を除けば、従来モデルZ 7/Z 6でもほぼ同様の内容になっています。そのため、基本的なところだけを見れば、Z 7/Z 6でも十分に満足できる撮影が可能と言えます。
ただし、Z 7II/Z 6IIは、画像処理エンジンに「デュアルEXPEED 6」を採用したことで、連写後の待ち時間の短さなど全体的にレスポンスが向上しています。また、Z 7II/Z 6IIは、メモリーカードスロットがCFexpressカード/SDメモリーカードのダブルスロット仕様に進化したのも大きなポイントです。
加えて、Z 7II/Z 6IIではZ 7/Z 6の不満点を徹底的に改善し、細かい機能性が向上しているのも押さえておきたい点です。モニター上のアイコン/情報表示をオフにできるので厳密なフレーミングがしやすかったり、モニターをチルトした際にアイセンサーが自動的にオフになるのでウエストレベルでの撮影をスムーズに行えたりと、使い比べてみると、やはりZ 7II/Z 6IIのほうが使いやすいと感じます。
Z 7II/Z 6IIの従来モデルからの主な進化点・改善点
・「デュアルEXPEED 6」の採用
・CFexpressカード/SDメモリーカードのダブルスロット仕様
・縦位置バッテリーグリップに対応
・連写速度の向上/連続撮影可能コマ数の増加
・動画撮影時の瞳認識に対応
・ワイドエリアAFでの人物・動物認識が可能
・AF低輝度性能の向上
・USB給電に対応
・4K UHD/60p記録、HDR(HLG)出力、Blackmagic RAW対応(有償)など動画撮影機能の強化
・タッチシャッターの機能に「フォーカスポイント移動」を追加
・アイコン/情報表示の非表示機能
・モニターチルト時のアイセンサー自動オフ機能
・水準器表示の変更(より画面になじむ色合いに変更)
Z 7II/Z 6IIは、CFexpress(Type B)カードとSD(UHS-II対応)メモリーカードを使用できるダブルスロットを採用
別売オプションとして、縦位置撮影対応の専用パワーバッテリーパック「MB-N11」が用意されています
さらに、Z 7II/Z 6IIは高性能な画像処理エンジン「デュアルEXPEED 6」を搭載しており、まだそのポテンシャルがすべて発揮されていない可能性があるのも見逃せないポイント。先にも紹介したように、2021年4月26日に公開された最新ファームウェアVer.1.20ではAF関連の機能が強化されました。今後のメジャーアップデートでの大幅な機能強化にも期待が持てるというものです。