ソニー純正・望遠ズームレンズの新モデル「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」
ソニー「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」は、2023年7月28日に発売された、フルサイズ対応の望遠ズームレンズ(Eマウント用)。開放F4通しのいわゆる“小三元レンズ”(ズーム全域で開放絞り値がF4の広角/標準/望遠ズームレンズのこと)の二代目です。
I型の「FE 70-200mm F4 G OSS」の発売(2014年3月)から少々時が経っているので「そろそろII型が出るのかな?」と思っていたところでの登場です。しかもまさかのハーフマクロ対応で驚かされました。
人気の高い「70-200mm F4」というスペックのレンズですので、どのくらい性能が向上したのかが気になるところ。I型とサイズ感や画質を比較してみました。
まずは、「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」のサイズ感や操作性を見ていきましょう。
II型のサイズは82.2(最大径)×149(全長)mmで、重量は794g(三脚座を含まず)。I型のサイズは80(最大径)×175(全長)mmで、重量は840g(三脚座を含まず)ですので、比べると、II型は明確に小型・軽量化されていることがわかります。
新モデル「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」と「α7 IV」の組み合わせ
I型にあたる「FE 70-200mm F4 G OSS」と「α7 IV」の組み合わせ
左がII型で、右がI型。全長が約26mm短くなったうえ、レンズ単体(三脚座を外した状態)の重量も約46g軽量化されています
ただし、II型はズーム操作によって鏡筒が繰り出されるタイプですので、望遠端まで伸ばすとインナーズーム方式のI型よりも長くなります。
繰り出し方式のズームレンズとインナーフォーカスのズームレンズには、それぞれにメリットとデメリットがあり、一概にどちらがすぐれているというわけではないですが、少なくとも繰り出し方式を採用したII型が、後述する高い描写性能と近接撮影性能を実現しているのは確かなことです。また、カメラバッグなどへの収納性もII型のほうがすぐれています。
左がII型で、右がI型。望遠端までズームするとII型のほうが長くなります
II型を望遠端までズームした状態
操作性では、鏡筒側面に「フォーカスモードスイッチ」「フルタイムDMFスイッチ」「フォーカスレンジリミッター」「手ブレ補正スイッチ」「手ブレ補正モードスイッチ」の計5種類の豊富なスイッチが備わっています。
側面に備えられた豊富なスイッチ群
これらのスイッチのうち「フルタイムDMFスイッチ」は、I型では非搭載でした。DMF(ダイレクト・マニュアル・フォーカス)は、AF-Cを含めたAF撮影中に、フォーカスリングを回すことで狙った位置に手動でピントを合わせることができる機能。意図していない被写体にAFが作動してしまったときなどに、素早くピント位置を変えられるので便利です。
「フォーカスホールドボタン」は上部、下部、左側面に3つ搭載されており、こちらはI型と同じ仕様。このほか、フィルター径は72mmでI型と同じですが、レンズフードは花型の「ALC-SH176」に変更されています。
3か所に「フォーカスホールドボタン」を装備。新しいレンズフードが「ALC-SH176」が付属します
ここからは、ほとんどお約束になりつつありますが、「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」の絞り開放での描写性能を、I型の「FE 70-200mm F4 G OSS」と比べながらチェックしていきます。約9年ぶりのフルモデルチェンジですので性能向上に期待が高まりますね。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、70mm、F4、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、32.4MB)
α7 IV、FE 70-200mm F4 G OSS、70mm、F4、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、31.2MB)
左が「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」で、右が「FE 70-200mm F4 G OSS」
左が「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」で、右が「FE 70-200mm F4 G OSS」
II型とI型のそれぞれを使って、広角端(焦点距離70mm)、絞り開放F4で撮影したのが上の写真です。
中央部は見た感じほとんど違いがなく、どちらも高性能な「Gレンズ」らしい高い解像感が得られています。しかし、周辺部を注意して見るとI型ではいくらか像が乱れて解像感が低下しているのに対し、II型はまったくといってよいほど解像感の低下が見られません。絞り開放とは思えないくらい、画面全体で安定した解像性能を発揮しています。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、200mm、F4、1/1500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、35.5MB)
α7 IV、FE 70-200mm F4 G OSS、200mm、F4、1/1500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、31.3MB)
左が「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」で、右が「FE 70-200mm F4 G OSS」
左が「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」で、右が「FE 70-200mm F4 G OSS」
同じようにII型とI型を使い、望遠端(焦点距離200mm)、絞り開放F4で撮影したのが上の写真です。
望遠端では、画面の中央部からII型のほうが解像感にすぐれるように感じます。さらに周辺部分、特に四隅に注意してみると、わかりやすいほど明確にI型よりもII型のほうが高解像です。
発売時期に9年の隔たりがあるので当然の結果かもしれませんが、それにしてもII型の解像性能は非常にすぐれていると言って間違いないでしょう。この結果は、画面の均質性の高さを求められる風景写真などで、強い味方になってくれるはずです。
「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」は、レンズの名称に「Macro」が入っていることからもわかるように、マクロ撮影に強いのが特徴。その性能は、決してオマケ的なものではなく、広角端70mmから望遠端200mmのズーム全域でハーフマクロ(撮影倍率0.5倍)に対応するという驚くほど本格的なものです。
望遠ズームレンズながらズーム全域でハーフマクロ撮影に対応しています
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、71mm、F4、1/400秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.2MB)
II型の広角端70mmでの最短撮影距離は0.26m。広角端での近接撮影性能が特異的に高くなるズームレンズは比較的よくありますので、このくらいならそれほど驚くことはないかもしれません。上の作例は焦点距離71mmで撮影したものです。ズームがわずかに1mm動いてしまい、厳密には広角端ではありませんが、背景がほどよく広く写っています。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、100mm、F4、1/500秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、16.6MB)
II型は、中望遠域の焦点距離100mmでも、被写体にグッと接近して大きく写せます。ズーム全域でハーフマクロ撮影対応のため、主要な被写体を大きく写しながら、焦点距離と撮影距離を調整することで背景の写り込み具合を変えられるのがポイント。この焦点距離になると圧縮効果が働いて背景が狭くなります。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、200mm、F4、1/800秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.2MB)
もちろん望遠端200mmでもハーフマクロ撮影が可能。このときの最短撮影距離は0.42mで、望遠マクロの領域に入ります。ワーキングディスタンスが長く取れるので、ネイチャー撮影ではとても便利ですね。この焦点距離になると圧縮効果が効いて背景の写り込みが減り、ボケも相当に大きくなります。
さらに、II型は、テレコンバーターに対応するのも見逃せません。I型では残念ながら非対応でしたのでこれはうれしい進化です。
ソニーの2倍テレコンバーター「SEL20TC」
テレコンバーターを装着すると、焦点距離が伸びるのはもちろん、撮影倍率も同時にアップします。本レンズの場合、最大撮影倍率は単体で0.5倍ですが、1.4倍テレコンバーターを装着すると0.7倍、2倍テレコンバーターを装着すると1倍といった具合。1倍と言えば等倍マクロです。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、400mm、F8、1/400秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST、2倍テレコンバーター「SEL20TC」を使用
撮影写真(7008×4672、17.1MB)
2倍テレコンバーターを装着して、先の作例と同じ花(タマスダレ)を撮影してみました。さすがに等倍マクロなので、ハーフマクロ以上に被写体を大きく写せていることがわかると思います。マスターレンズの光学性能が非常に高いので、テレコンバーターを使っても描写性能の劣化を感じることはほとんどありません。
テレコンバーターを使うと開放絞り値が暗くなるのが難点ですが、昨今のデジタルカメラの高感度性能と、手ブレ補正性能の高さを考えればそれほど問題でもないと思います。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、400mm、F8、1/320秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST、2倍テレコンバーター「SEL20TC」を使用
撮影写真(7008×4672、16.6MB)
3cmほどのサイズの花を撮影しましたが、フルサイズセンサーのサイズ(約36×24mm)にほぼピッタリ収まるので、「ああ等倍マクロなんだなあ」と、当たり前のことなのに何だか不思議な気分になりました。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、142mm、F8、1/125秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST、2倍テレコンバーター「SEL20TC」を使用
撮影写真(7008×4672、18.9MB)
こちらはエノコログサ(通称:ネコジャラシ)に思いっきり寄って撮影しました。さすがに等倍マクロだけあって、細かいところまで鮮明に描けています。
なお、念のためにお伝えしておくと、II型にテレコンバーターを装着して0.7倍もしくは等倍でのマクロ撮影を行うのに、ズームを望遠端にする必要はありません。ズーム全域の最短撮影距離で0.7倍もしくは等倍で撮影が楽しめます。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、143mm、F5.6、1/250秒、ISO400、+2.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、12.1MB)
背景に玉ボケができる逆光条件を探して撮影してみました。画面の隅のほうでも口径食がほとんど見られないのがすばらしい。これは、カメラ側のデジタル補正の効果もありますが、素の光学性能がすぐれているのが大きいと思います。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、200mm、F4、1/200秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.6MB)
盛期を終えたハスの葉柄に止まるシオカラトンボ。ピント面の解像性能の高さについてはすでに述べておりますが、ボケ味のよさも本レンズの特徴のひとつなのではないかと思います。溶けるようにやわらかくて美しい。今回はネイチャー撮影的な使い方をしてみましたが、ポートレート撮影などでも大いに活躍してくれそうです。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、400mm、F8、1/250秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST、2倍テレコンバーター「SEL20TC」を使用
撮影写真(7008×4672、16.2MB)
せわしなく花の上を歩き回るクマバチを、AF-Cで撮影。本レンズは、高速で静粛な「XDリニアモーター」を4基搭載しているだけあって、AF速度と精度はとても良好でした。遠距離や中距離だけでなく、近接の撮影距離でもスムーズに作動して素早くピントを合わせてくれます。2倍テレコンバーターを使用していますが、AF性能は変わらずスムーズでした。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、200mm、F11、1/100秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、25.1MB)
絞り開放から高い解像性能を発揮する本レンズですが、風景撮影などではやはり絞り込んで撮影をする機会が多くなると思います。絞り開放でも絞り込んでも画面全体で安定した解像感が得られますので、多くの意味で使いやすいレンズだと感じました。
α7 IV、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II、94mm、F4、1/40秒、ISO800、+1.3EV、ホワイトバランス:日陰、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、15.9MB)
黄昏の池のほとりにアオサギがたたずんでいました。焦点距離94mmで1/40秒と手ブレが心配なシャッター速度となったものの、本レンズに内蔵された光学式手ブレ補正機構のおかげで少しもブレることなく撮れました。手ブレ補正モードは通常のMODE1を使用しましたが、ほかにも流し撮りに適したMODE2や、動体撮影時のフレーミングの安定を重視したMODE3が用意されています。
「FE 70-200mm F4 Macro G OSS II」は、繰り出し方式への変更によって小型・軽量化と高い描写性能を両立するという、大幅な路線変更を行った新モデルです。大胆なフルモデルチェンジを断行したわけですが、それはこの9年間で、母体となるミラーレスカメラの性能が著しく進化し、可能性を大きく広げていることを実感させます。
描写性能は隙がないと言ってよいほどすばらしく、真に絞り開放から実用できる高い解像性能を実現しながら、ほれぼれするような一級品のボケ味もあわせ持っています。本レンズは「Gレンズ」に属してはいますが、写りのよさだけを見ていると、さらに高性能な「Gマスター」レンズと「Gレンズ」の垣根がどこにあるのかわからなくなってくるほどです。
価格.com最安価格(2023年10月5日時点)は209,081円。なかなかに高価なところが玉にキズではありますが、ズーム全域で本格的なマクロ撮影ができる、高性能な望遠ズームレンズなのですから、価格に見合う価値は十二分にあるのではないでしょうか。レンズとともにテレコンバーターも手に入れると、望遠撮影やマクロ撮影での使い道がさらに広がることでしょう。