“弾丸”試乗レポート
初代の精神を、現代の技術で表現しなおした

軽自動車の王道を歩む、スズキ「ワゴンR」試乗&開発者インタビュー

軽ワゴンのパイオニアであり、スズキの看板モデルである「ワゴンR」がフルモデルチェンジし、第6世代が2017年2月1日より発売されている。新型モデルはどのような内容なのか? 試乗と開発者へのインタビューを通して、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

6世代目のワゴンRは、初代モデルの魅力を現在のニーズを踏まえて、最新技術で再構成したという。なぜ今、原点回帰なのか? 新たな魅力は何なのか?

3つに分けられたフロントのデザインに、スズキの最新技術を詰め込んだ

新型「ワゴンR」の特徴は、スズキの持つ最新技術が惜しみなく投入されていることと、3つのデザインを用意したことだ。スズキの最新技術とは、軽く剛性の高い新世代プラットフォームの「HEARTECT(ハーテクト)」と、EV走行モードを追加した「マイルドハイブリッド」、そして時速100kmまで作動する衝突被害軽減自動ブレーキの「デュアルセンサーブレーキサポート」などの運転支援機能の採用だ。また、軽自動車初となるヘッドアップディスプレイの採用もトピックのひとつ。そしてプレーンな「FX」、スポーティーな「FZ」、ストロングな「スティングレー」という3種類のフロントフェイスを用意することで、若い女性から男性、高齢層までの幅広いニーズに応える。

初代の面影を残す「FX」(写真左)、伸びやかな水平基調の「FZ」(写真中央)、アメ車のようなインパクトを与える「スティングレー」(写真右)という3種類の異なるフロントデザインが採用された各モデル

軽い車体に最新のマイルドハイブリッドを組み合わせることで、JC08モード燃費は最高で33.4km/lまでに達する。ターボモデルでも28.4km/l、マイルドハイブリッドなしのNAモデルでも26.8km/lというから恐れ入る。

ちなみにスズキのマイルドハイブリッドは、エンジンとベルトでつながったオルタネーター(ISG:モーター機能付き発電機)を発電だけでなく、駆動アシストモーターとしても利用する方式だ。二次電池を加えるだけで、複雑な専用の構造が必要ないため低コストなのが魅力だ。新型ワゴンRでは、ISGの出力を高め、二次電池の容量も増やすことで、作動領域が拡大されており、走行時のアシストだけでなく、発進時のクリープ走行もモーターのみで行えるようになった。

バッテリーを加えるだけで、既存のコンポーネンツを流用できるスズキの「マイルドハイブリッド」は、低コストなうえに、燃費向上効果も高い

運転支援機能も旧モデルより大幅に進化した。新型「スイフト」にも使われるデュアルセンサーブレーキサポートをスズキの軽自動車として初採用。これは単眼カメラと赤外線レーザーレーダーを組み合わせることで、クルマだけでなく歩行者をも認識できるシステムだ。自動ブレーキの作動範囲は時速5km〜100kmまでと広い。アクセルとブレーキの踏み間違いを防ぐ誤発進抑制機能や車線逸脱警報機能、自動でハイとローを切り替えるハイビームアシスト機能も備える。最新モデルならではの運転支援機能の充実度だ。

単眼カメラと赤外線レーザーレーダーを組み合わせた、運転支援システムを採用。こうした運転支援機能の充実ぶりは、2017年の最新モデルらしいポイントと言える

すぐれた燃費性能と不満のない走り、そしてスムーズな再始動に好印象

最初に試乗したのはスティングレーのターボモデル、「ハイブリッドT」だ。ドライバーズシートに収まって最初に思ったのは「なんでもあるなあ」と。ヘッドアップディスプレイにカラフルなメーター、パドルシフトに、クルマを上空から見たように映す全方位モニター、シートヒーターまである。ステアリングはレザーだし、ピアノブラックのパネルやシートなどインテリアの質感も高い。確かに165万8880円はワゴンRシリーズの最高価格(4WDは177万9840円)だが、それでも軽自動車とは思えないほどのクオリティだ。「安いから軽自動車で我慢」ではなく、「小さくてもよいモノ」というのがスティングレーの狙いだろう。

まず試乗したスティングレーは、シリーズで最高の価格設定とはいえ、軽自動車離れした、装備の充実ぶりと仕上げのよさが印象的

シートの質感やインパネの化粧板など、目に付く部分、手で触れる部分の質感が高い。“小さくてもよいもの”というワゴンRの狙いが容易に感じ取れる

軽自動車として初搭載されるヘッドアップディスプレイは、車速やシフト位置、デュアルセンサーブレーキサポートの警告などを表示する

スタート時のクリープはモーター駆動が行う。確かにエンジンは止まったまま。しかし、少しでもアクセルを踏むと、すぐにエンジンが始動する。アクセルに触らなくてもモーター駆動できるのは最長10秒で、ずっとEV走行ができるわけではない。また、モーターの回る音が聞こえる。まったくの無音というわけでもないのだ。とはいえ、震動のないスタートは快適だ。さらにエンジンが始動するときのスムーズさも特筆すべきものがある。軽自動車というレベルではなく、下手な欧州乗用車よりもスムーズだ。これはすごい! また、ターボモデルでありながらも、しっかりとアイドリングストップ機能が備わっているのも優秀だ。

マイルドハイブリッドに使われるバッテリーは、シート下に備わる。スタート時のEV走行は最長で10秒ほど

マイルドハイブリッドに使われるバッテリーは、シート下に備わる。スタート時のEV走行は最長で10秒ほど

動力性能は十分以上でキビキビと走る。すぐれた燃費性能のために、何かを我慢させられている感じはしない。アクセル操作に対する動きもダイレクト。まったく不満はない。荒れた路面をいなす足のできもなかなかのものだ。

ターボエンジンなのに、アイドリングストップが動作する。挙動はキビキビしているし、サスペンションもハンドリングもまったく不満がない

ターボで感じた走りの好印象は、NAモデルの「ハイブリッドFX」でも変わらなかった。もちろんパンチ力は、ターボモデルほどではないが、不足感はない。高速道路に持ち込んでも、ストレスなく流れに乗って走る。ただし、ちょっとダンパーの押さえが弱いのか、高速域のフラットライド感はもう少し欲しいところ。とはいえ、街中を走っていれば、そんな不満も出ない。インテリアの加飾が少ないため、スティングレーのハイブリッドTと比べれば寂しいが、どちらかといえばハイブリッドTがゴージャスすぎるということだ。NAのハイブリッドは33.4km/lもの抜群の燃費性能を誇る。便利な道具と考えれば、ハイブリッドFXのコスパのよさが際立っている。

次に試乗した、NAエンジン搭載の「FX」。街中を流すには十分なパワーと乗り心地で、価格性能比ならこちらのほうがすぐれている

試乗を終えてみれば、走りが低燃費のためにスポイルされていないこと、そしてアイドリングストップからのエンジンの再始動のスムーズさが強く印象に残った。もちろん、ワゴンRの伝統である、広くて利便性にすぐれた室内空間は、さらに磨き込まれている。便利で走りがよく、燃費性能も抜群。それでいてデザインも3種から選べる。スズキの看板商品ならではの、完成度の高いクルマといえるだろう。

室内の広さは、初代ワゴンRから引き継がれる美点のひとつ

室内の広さは、初代ワゴンRから引き継がれる美点のひとつ

ラゲッジスペースの床板を取り外すことで、深さのあるアンダーボックスが現れる。折りたたんだベビーカーを縦に収納することも可能だ

変化するユーザーの価値観に対応しながら、ワゴンRの基本に立ち返る

スズキ 四輪商品第一部 チーフエンジニア 課長竹中英昭氏

スズキ 四輪商品第一部 チーフエンジニア 課長竹中英昭氏

続いて、ワゴンRの開発のリーダーとなったスズキのチーフエンジニアである竹中英昭氏に話を聞くことができた。以下、インタビュー形式で紹介したい。

竹中:「ワゴンRは、スズキの軽自動車のど真ん中」という話をうちの社長からもされましたように、ワゴンRが最初に出た24年近く前に立ち返ろうと。そこで「ワゴンRって、こうだよね!」と自分も、お客様も思っている形があり、機能性がある。実際に、軽自動車のユーザーさんの環境やライフスタイルや嗜好が変わってくる中で、そこを突き詰めるのが、今回のワゴンRの狙いでした。最初のワゴンRは、大人4人がゆったり乗れるのがポイントでしたが、最近は1人とか2人で軽自動車に乗る人が増えています。そこで、前席は広々と快適に、後は機能的なものを表現して、快適で使い勝手がいいというデザインとしています。

初代の頃と比べて、軽自動車も、1人または2人で使われることが増えている。それにともなって、前席の快適性向上が図られている

鈴木:もともとワゴンRの魅力は、スタイルと使いやすさ。それを新しいデザインに入れていくということですね。

竹中:コンセプトはワゴンR自体にあります。モノとして使うという部分もありますし、クルマとして楽しく乗っていただきたいという側面もある。その楽しさっていうのをどう表現するのか? もちろん色もありますけれど、そこがポイントとなりました。

ハッチゲートの下に配置されたリアのコンビネーションランプ。これも初代ワゴンRから引き継がれてきた特徴だ

鈴木:実際に楽しそうなデザインですけれど、顔が3つもありますよね?

竹中:同じクルマで3つの顔を持つのは、なかなかほかではできません。「ワゴンRで、やらなきゃいけない」と最初から3つ作ろうよと言ってました。

鈴木:ワゴンRじゃなきゃいけない理由とは?

竹中:ワゴンRは、幅広い方に選んでいただいてきました。ただ、環境とか心理とか嗜好とかライフスタイルが変わっていく中で、お客様の求めているところも変化しているだろうと。もともと先代も、標準の中に「FZ」など顔の違うモデルがありました。ライトは変えていませんでしたが。それと「スティングレー」もあったんですね。それに対して、今回は、ライトも含めて造形を変えています。でも、実際はフードとフェンダーが一緒なんですよ。

鈴木:そうは見えないですね。相当に違って見えますよ。

竹中:これだけ大きく変えられたのがデザインの力だったかなあと。最初に、今までワゴンRに乗っておられた方や、広瀬すずさんに代表されるようなイメージで、これから免許を取るような方。それと男性ですね。自分くらいの男性だったり、おしゃれやスタイルにこだわる女性とかを狙うデザイン。そこで今までワゴンRとして、受け入れられてきた部分をカバーしながら、そこからさらに個性的に行こう。その飛んだところを作るために3つの、大きく違うものを目指していったというのが3つのデザインを用意した理由です。

鈴木:幅広いユーザーもあるし、ワゴンRくらい売れるクルマじゃないと、なかなかできないということもあるんですね。

竹中:そうですね。いろいろやると、それぞれお金もかかりますから。でも、それができるのがワゴンRだと。

鈴木:もうひとつの特徴は、スズキの最新技術を満載していることですね?

竹中:おっしゃる通りに、てんこ盛りなところもありますよね。ヘッドアップディスプレイもそうですし、衝突被害軽減自動ブレーキもそうです。機能的なところでいうと、アンブレラホルダーやオートハイビームもそうです。今回は、機能でも装備でも「これから先の軽自動車の中心で、あるべきだ」というものを狙ってつけました。また「スイフト」で初めて採用したものも、軽自動車で最初に使うのはワゴンRにしようと考えていました。

アンブレラホルダーは、雨水の排水まで考慮されて設計されている

アンブレラホルダーは、雨水の排水まで考慮されて設計されている

鈴木:スイフトは、軽量高剛性の新プラットフォームの「HEARTECT」がものすごく効いたという感じでしたが、ワゴンRの走りは、どのように貢献しているのでしょうか?

竹中:走りに振ったクルマの開発というよりは、クルマを軽くしておいて、取り回しをよくしています。もちろん燃費も、「軽ワゴンナンバー1」をうたいたいという部分もありました。

新プラットフォームの「HEARTECT」を採用することで、先代モデルと比較して約20kgの軽量化を実現している

新プラットフォームの「HEARTECT」を採用することで、先代モデルと比較して約20kgの軽量化を実現している

鈴木:昨年は燃費の計測方法が大問題となりました。その騒動の中でナンバー1の燃費を出すというのは、どういうものなのでしょうか?

竹中:言葉で表しにくいところはありますが……。それでもワゴンRには、快適性もあるし、走りも悪くないし、燃費性能もある。それはゆずれないところです。数字も実燃費も含めて、やはりトップをとっていくべきクルマだと。そこはゆずれないところでした。社内的には取り組みの姿勢も変わっていました。問題は真摯に受け止めてやっていこうと。実直に対応していきます、というのがスズキらしさというか。やり方に問題がありました。そこは本当に申し訳ないと。

鈴木:実際に今日乗ったら、走りが燃費のためにスポイルされていたように感じませんでした。

竹中:もちろん燃費ナンバー1を取りたかったのはありますが、こだわって最後まで乗り込んでやったところですね。チーフエンジニアになるまでは震動制音の実験を担当していたので、テストコースの走り込みや工場の組み立てを人一倍、見に行きました。

鈴木:話を聞いていると、やはりスズキの看板商品というポジションであることが、言葉の端々に感じますね。

竹中:「ワゴンR愛」はありますね(笑)。実際に、個人的にも初代と、3代目に乗っていました。入社が94年なんですよ。ちょうど、入社が決まるか決まらないかくらいのときに出てきたのがワゴンRで。最初は正直、外観しか見ていなかったので、「なんか変なクルマだなあ」という印象もあったんですよ。でも、会社に入って、クルマを触るようになったら、機能的にもすごくいいなあと。その後、自分で買ったんですね。入社したときは、アルトワークスの5MTに乗っていたんですけれど(笑)。その後にもう一度ワゴンRの3代目を買いました。

鈴木:今回は、HEARTECTやマイルドハイブリッドが前面になるのかなあと思ったら、意外とデザインや使い勝手を推してますね。やはりアイテムうんぬんというよりも、完成度なんですね。

竹中:やはり積み重ねが大事です。もちろん、売り文句として見出しになるような飛び道具が欲しいところはあります。でも、やはり乗ったときの感動ってあると思うんですよ。自分も初代のときにそうだったんですけれど。実際に触って使って、近くで感じるのが大事で。そんな作り手の気持ちみたいなものが伝わるクルマにできているんじゃないかと。そう作りたかったし、そういうふうになっていると思います。

充実の装備や機能性といったわかりやすさにとどまらず、乗ってわかるよさも新しいワゴンRの大きな魅力だ

充実の装備や機能性といったわかりやすさにとどまらず、乗ってわかるよさも新しいワゴンRの大きな魅力だ

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
価格.comマガジン「動画」まとめページ
ページトップへ戻る