ホンダ 新型「シビック ハッチバック」(左)/ホンダ 新型「シビック セダン」(右)
新型シビックは、5ドアの「ハッチバック」、4ドアの「セダン」、そして5ドアハッチバックのボディを使った高性能な「タイプR」の3種類がラインアップされている。今回はそのうち、ハッチバックとセダンの2車種を試乗した。
搭載されているエンジンは、2車種ともに1.5リッター直列4気筒ターボエンジンで、エンジン本体にはバルブタイミングを連続的に変化させる「VTEC」を吸排気の両方に採用している。エンジンの細かなチューニングはハッチバックとセダンで異なるが、性能はいずれも2.2〜2.4リッターNA(自然吸気)エンジンと同等の性能を発揮する。
使用燃料は、新型シビック ハッチバックがプレミアムガソリン、新型シビック セダンはレギュラーガソリンが指定されている。トランスミッションは、どちらのボディタイプもCVTが基本だが、新型シビック ハッチバックでは6速MTも選べるのが特徴のひとつだ。
ホンダ 新型「シビック ハッチバック」試乗イメージ
まずは新型シビック ハッチバックのエンジン性能からだが、発進直後の1,400回転付近から十分な駆動力を発揮する。小排気量ターボの場合、低回転域で駆動力が急落するタイプもあるが、シビックは落ち込みが抑えられて6速MTでも発進しやすい。試しに2速発進も行ったが、低回転域の駆動力に余裕があって扱いにくさはない。
ターボ車には、エンジン回転の上昇にともなって加速力が過剰に強まるタイプもあるが、シビックではパワーがドライバーの操作どおりに忠実に増減する。そのために、速度調節などもしやすい。加速は直線的に伸びるが、4,700回転付近を超えると、加速力がさらに鋭くなる。基本的には実用回転域の駆動力が高く、扱いやすいターボだが、高回転域まで回す楽しさも併せ持つ。
ホンダ 新型「シビック セダン」外観イメージ
吹け上がりのよさは、プレミアムガソリンを使う新型シビック ハッチバックが勝るが、レギュラーガソリンの新型シビック セダンでも不満はない。ハッチバックの6速MTは、相応のクルマ好きが選ぶ仕様で高回転域まで回す機会も多いから、プレミアムガソリン仕様のメリットが際立つ。だが、ガソリン価格は急激に上昇することがあるので、ハッチバックのCVT装着車はレギュラーガソリン仕様でもよいのではと感じた。
走行安定性と乗り心地は、ハッチバックとセダンで異なる。この2車種はボディ形状のみならず、足まわりの設定とタイヤサイズまで異なるのだ。
ホンダ 新型「シビック ハッチバック」には、日本では大径サイズの18インチタイヤ&ホイールが装着されている
新型シビック ハッチバックが装着するタイヤは18インチ(235/40R18)で、試乗車の銘柄は「グッドイヤー・イーグルF1」であった。指定空気圧は前輪が225kPa、後輪が220kPaだからさほど高くはない。走行安定性や乗り心地にも考慮した適正値だ。
ホンダ 新型「シビック ハッチバック」試乗イメージ
新型シビック ハッチバックの走行安定性は、国産ミドルサイズハッチバックの中でも高い部類に属する。操舵に対する反応が正確で、小さな舵角から車両の向きが正確に変わる。カーブに進入した後、その先がさらに回り込んでいて操舵角を増した時でも、旋回軌跡が拡大しにくい。
このようによく曲がる性能を備えながら、後輪の接地性はさらに高い。危険回避を想定して、下りカーブでハンドルを内側に切り込みながらアクセルペダルを戻す操作をしても、後輪が安定している。乗り心地は少し硬めで、柔軟性に欠ける印象もあるが、引き締まり感がともなって粗さはない。18インチというタイヤサイズの割に快適で、クルマ好きには歓迎される乗り心地だろう。
ハッチバックが優れた走行安定性を発揮するのに比べると、新型シビック セダンはタイヤの選択で印象が変わる。
ホンダ 新型「シビック セダン」には215/55R16タイヤが標準装着されているが、スポーティーな特性のタイヤではないので注意が必要だ
注意したいのは、セダンに標準装着される16インチ(215/55R16)タイヤだ。車両の向きは比較的変えやすいが、前述の下りカーブでアクセルペダルを戻したり、ブレーキペダルを踏む操作をすると、後輪の横滑りを誘発しやすい。横滑り防止装置が装着されているので危険な挙動には陥らないが、前後輪のグリップバランスが前寄りで、正直あまり好ましくない。
だが、この挙動がセットオプションの17インチ(215/50R17)タイヤ装着車になると改善される。カーブを曲がる時のタイヤの歪みが16インチに比べて抑えられ、特に後輪の接地性が高まり、グリップバランスが適正となる。
その割に乗り心地の硬さは抑えられ、18インチを履いた5ドアハッチバックに比べると、柔軟に感じる。17インチタイヤのバランスは、16インチよりも明らかに優れているといえる。
この点を開発者に尋ねると、「16インチタイヤは燃費を考慮して、転がり抵抗を抑えることに重点を置いた」という。
CVT仕様のJC08モード燃費は、新型シビック ハッチバックの18インチタイヤ装着車が「18km/L」、新型シビック セダンに標準装着される16インチタイヤ装着車が「19.4km/L」、セダンにオプション設定される17インチタイヤ装着車が「18.6km/L」だ。動力性能を考えれば、5ドアハッチバックの「18km/L」でも十分に優れているが、「19.4km/L」となれば、例えばプレミオ&アリオンの1.5リッターエンジン搭載車などと勝負できるほどだ。
それでも、シビックのスポーティーな性格を考えれば、前述のように17インチタイヤの方が、相性がよい。開発者は、「開発段階ではセダンを17インチにすることを検討したが、最終的に標準装着は16インチにした。それでも17インチのセットオプションを積極的に選んでほしい」という。
購入の際に注意したいのは、視界と取りまわし性だ。全長は新型シビック ハッチバックが4,520mm、セダンが4,650mmだからミドルサイズの範囲に収まるが、全幅は1,800mmでワイドに感じる。ボンネットもほとんど見えず、車幅やボディの先端位置が分かりにくい。
またサイドウィンドウの下端が高く、ボディ後端のピラーも太いから、斜め後方と真後ろの視界もよくない。最小回転半径は、新型シビック ハッチバックが「5.5m」、セダンは「5.3m」だから、前者は小回り性能も不満だ。いずれのボディも、購入時には縦列駐車などを行って後方視界や取りまわし性を確認しておくと安心だろう。
新型「シビック セダン」のインパネ
内装の質感は平均的。インパネの上部にはソフトパッドが採用されるが、柔らかさがいまひとつだ。
新型「シビック ハッチバック」のフロントシートとリアシート
新型「シビック セダン」のフロントシートとリアシート
フロントシートの座り心地は快適で、リアシートは少し腰が落ち込むが、窮屈ではない。身長170cmの大人4名が乗車して、リアシートに座る同乗者の膝先空間は、新型シビック ハッチバックが握りコブシ2つ程度で、セダンは握りコブシ2つ半とハッチバックに比べて広い。
新型シビック ハッチバックは、ラゲッジルームの容量を重視して、リアシートの取り付け位置がセダンよりも35mm前寄りになる。そのために足元空間が狭まった。
新型「シビック ハッチバック」のラゲッジルーム
新型「シビック セダン」のトランクルーム
価格は、新型シビック ハッチバックが280万440円(CVT)、セダンが265万320円(CVT)。セダンに設定されるレザーインテリア+運転席&助手席の電動調節機能+17インチアルミホイールのセットオプションが23万2,200円になる。
ライバル車と価格を比較すると、スバル「インプレッサG4・2.0i-Sアイサイト」(194万4,000円)に比べてもかなり高く、1.5Lのクリーンディーゼルターボを搭載したマツダ「アクセラスポーツ」「アクセラセダン」の「15XD・Lパッケージ」(268万9,200円)に近い価格だ。トヨタ「マークX 250G」(291万6,000円)などとも同じ価格帯に属する。
新型「シビック ハッチバック」のテールランプ
従来のシビックに比べると、新型シビックは価格が高めで、前述の走行性能や乗り心地の判断で買い得感が変わるだろう。その意味では、昔と同様に「走りのシビック」といえるが、若いクルマ好きが手軽に購入できるクルマではなくなった。
今後は、「フィットRS」をさらに魅力的に仕上げたり、フィットに「タイプR」を設定するなど、シビックにステップアップできる前段階の割安なスポーティカーが求められている。そのバリエーションを整えられれば、シビックの価値はさらに高まるだろう。