ホンダは、プラグインハイブリッドカー「クラリティPHEV」を、2018年7月20日から販売開始している。
ホンダ「クラリティPHEV」のフロントイメージ
ホンダ「クラリティPHEV」のリアイメージ
国産メーカーが手がけるPHEV車は数少ない。2018年11月現在、日本国内で販売されている国産PHEVは、トヨタ「プリウスPHV」、三菱「アウトランダーPHEV」に、このクラリティPHEVを加えた3車種のみだ。今回、そのうちのクラリティPHEVに試乗することができたので、レポートしよう。
■ホンダ「クラリティPHEV」の価格
5,880,600円(税込)
クラリティPHEVには、アコードやオデッセイと同様のハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」が搭載されている。そのハイブリッドシステムをベースに、プラグイン(充電)機能が備えられているのが、クラリティPHEVだ。
クラリティPHEVに搭載されている、リチウムイオン電池の容量は17kWh。プリウスPHVの8.8kWh、アウトランダーPHEVの12kWhなど、他社のPHEVに比べて、搭載するリチウムイオン電池の容量が大きいことが特徴のひとつだ。
ホンダ「クラリティPHEV」の充電口
クラリティPHEVが1回の充電で走行できる距離は、WLTCモードで「101km」、JC08モードで「114.6km」。ちなみに、プリウスPHVはJC08モードで「68.2km」、アウトランダーPHEVはWLTCモードが「57.6km」、JC08モードは「65km」なので、EV走行のみで100kmを超えるクラリティPHEVの航続可能距離は、かなり長いと言える。
また、ガソリンとモーターを併用するハイブリッド車として走行するときの燃費は、WLTCモードで「24.2km/L」、JC08モードで「28km/L」となる。プリウスPHVのJC08モード燃費は、ハイブリッドカーのプリウスなどと同じ「37.2km/L」だ。アウトランダーPHEVは、WLTCモード燃費が「16.4km/L」、JC08モード燃費が「18.6km/L」なので、クラリティPHEVはプリウスPHEVとアウトランダーPHEVの中間に位置する。
ホンダ「クラリティPHEV」では、センターコンソールのHVスイッチをONにすると「HVモード」に切り替わって、バッテリーの残量をキープするハイブリッド車として走行することができる。また、スイッチを長押しすると「HV CHARGEモード」に切り替わり、バッテリーを充電してくれる
搭載エンジンは1.5L直列4気筒で、基本的にはフィットなどと同じタイプだ。エンジンは主に発電機の作動に使われるが、高速巡航時には効率を高めるためにエンジンがホイールを直接駆動することもある。さらに、クラリティPHEVでは状況に応じてモーター駆動とエンジン駆動を同時に併用する制御も行われる。駆動用モーターの動力性能は、最高出力が184馬力、最大トルクは32.1kg-mだ。
ホンダ「クラリティPHEV」のフロントイメージ
さっそく、クラリティPHEVに試乗してみよう。まず、発進時はモーターのみで駆動する。アクセルを踏み込むと、エンジンは停止したまま電気自動車と同じくアクセルにリニアな感覚で速度が高まっていく。さらに、巡航中にアクセルペダルを踏み足せば、即座に駆動力がタイヤへと伝わっていく。
ホンダ「クラリティPHEV」のリアイメージ
クラリティPHEVはLサイズのボディを持ち、さらにプラグイン機構が搭載されている影響から車量は1,850kgと重いものの、加速性能には余裕がある。動力性能をノーマルタイプのガソリンエンジンに当てはめると、3.5Lに匹敵するだろう。
ホンダ「クラリティPHEV」の走行イメージ
モーターの回転が高まると、特性として速度上昇は次第に鈍っていくが、そうなるのは急加速を長時間にわたって続けたときだけだ。公道を常識的に加速する程度では、速度の鈍化はほとんど気づかない。
また、アクセルペダルを深く踏めば、加速を補助するためにエンジンが始動する。搭載エンジンが1.5L直列4気筒とあって、エンジンが始動するとそれなりのノイズが響くものの、加速中であれば気にならないだろう。
走行安定性は高い。カーブを曲がったり車線を変更するときには、車両の反応が少し鈍めでボディの重さは意識させるが、4輪の接地感は損なわずに不安定な状態に陥りにくい。
ホンダ「クラリティPHEV」の走行イメージ
乗り心地は快適だ。段差を乗り越えた時の突き上げ感が抑えられている。タイヤサイズは18インチ(235/45R18)で、銘柄はブリヂストン「エコピア EP150」を装着している。扁平率が低めで、指定空気圧は前後輪ともに250kPaと少し高いが、硬さをほとんど感じさせない。モーター駆動が基本でエンジンノイズも小さく、加速感の滑らかさと相まって走りの質は上質だ。
ホンダ「クラリティPHEV」のサイドビュー。全長の長さに対してホイールベースが短い
やや無理があると思えるのは、ボディスタイルだ。全長は4,915mmと長いのに、ホイールベースは2,750mmと短い。そのために、前後のオーバーハングが長く慣性の影響を受けやすい。昨今の乗用車は、エクステリアの見栄えに引き締まり感を持たせて、さらに走行安定性を高めるために、全長の割にホイールベースが長いことが多い。だが、クラリティPHEVはこれに逆行しているために、外観はやや古典的な印象を受ける。
また、取りまわし性にも注意したい。全長が長く、全幅も1,875mmとワイドだ。さらに、最小回転半径も5.7mと、小回りがきかない。運転席からボンネットは視野に入らず、車幅やボディ先端の位置がややわかりにくい。サイドウィンドウの下端が高めで、後ろに向けて持ち上げられているから、斜め後方の視界もあまりよくない。唯一、真後ろはLサイズセダンとしては見やすい。後席の後ろとボディの後端に、トランクスペースを挟む形で横長のウィンドウが装着されているからだ。
ホンダ「クラリティPHEV」のエクステリア
クラリティPHEVを購入しようと考えた時にネックになるのは、価格だろう。588万600円という金額は、プリウスPHVの最上級グレードである「Aプレミアム」よりも約170万円高く、アウトランダーPHEVの最上級グレード「Gプレミアムパッケージ」と比較しても100万円以上高い。
クラリティPHEV開発者に、割高な理由をたずねると、「日本仕様は販売台数が少ないため、コストの低減がしにくい」という返答が聞かれた。商品の価格には、機能だけでなく生産量も影響を与えるわけだ。クラリティPHEVはこの点で不利ではあるが、量産効果が得られるか否かは、あくまでもメーカー都合だ。
なお、2018年度におけるクラリティPHEVのCEV補助金額は20万円だから、これを588万600円の価格から差し引いた金額は568万600円になる。
「クラリティPHEV」の充電口
クラリティPHEVでは、急速充電器の料金プランにも不満がともなう。日産「リーフ」のような定額料金の使い放題プランが、今のところ用意されていないのだ。「ホンダチャージングサービス」に加入すると急速充電器を利用できるが、1分当たり16円を徴収される。そうなると、リチウムイオン電池を急速充電器でフル充電(容量の80%が限界)した場合、30分を要するから480円かかる。
これで走れる距離は、WLTCモード走行であれば、80%の充電量だから80kmだ。1km当たりの走行単価は6円で、給油された燃料を使ってハイブリッド走行を行った時とほぼ同額になる(レギュラーガソリンは1L当たり145円で計算)。
つまり、ホンダチャージングサービスによる急速充電を行っても、給油に比べて経済的なメリットは乏しい。自宅や勤務先の200V充電と、給油を併用するのが経済的だ。充実した装備内容を考慮しても、価格は少なくとも100万円高い。480万円以下に抑えてほしいと思う。
プラグインハイブリッドは、日本車では今のところプリウスPHVとアウトランダーPHEVが先行しているが、メーカー間の優劣がハッキリとは決着していない。トヨタはハイブリッド、日産は電気自動車が得意だから、ホンダとしてはプラグインハイブリッドで実力を見せたいところだろう。
そのためには、実用的な車種に、割安な価格でプラグインハイブリッドシステムを搭載する必要がある。エコは本来、損得勘定だけでは語れないが、現実に普及させるには出費を抑えられることが不可欠になるからだ。