バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
長期レビューでわかったNIKENの魅力

ヤマハの3輪バイク「NIKEN」でしか味わえない圧倒的な安心感がもたらす操る楽しさ


ヤマハ初となるスポーツモデルの3輪バイク「NIKEN(ナイケン)」が発表されたのは、2018年9月のこと。新モデルの発表を兼ねた試乗会でNIKENに乗る機会はあったものの、大雨だったため満足できるほど走行できなかったのが心残りだったのだが、今回、ついに公道で試乗することができた。じっくり堪能したNIKENの魅力をお伝えしよう。

スムーズなバンクを実現した3輪バイク

さっそく走行性能をチェックしたいところだが、まずは「NIKEN」の特徴的な車体を見ておこう。ヤマハはこれまで、125ccの「TRICITY 125」(2014年発売)と155ccの「TRICITY 155」(2017年発売)というスクータータイプの3輪バイクを発売している。一般的に3輪バイクは安定性が高いことが大きな特性であるため、配達や通学などの足として使用されることが多く、バイクとしての楽しさについてはあまり意識されていない。その認識を大きく変えたのが、「TRICITY」だ。TRICITYは、2つのフロントタイヤが車体と一緒に傾く機構となっており、コーナーリングの際には2輪バイク同様の楽しさを味わうことができる。このようにリーン(傾斜)して旋回する3輪バイクをヤマハでは「Leaning Multi Wheel(LMW)」と呼んでおり、TRICITY 125に試乗した際には、「安定感」と「バイクらしいおもしろさ」を両立した乗り味に感動したほどだ。そんなLMWの特性はそのままに、排気量を845ccに増し、自分でギアチェンジをして操れるスポーツバイクとなったのがNIKEN。なお、日本国内でNIKEN同等の排気量を持ち、かつ、車体をバンクさせて曲がれる3輪バイクは存在しない。

サイズは2,150(全長)×885(全幅)×1,250(全高)mm。受注生産で価格は178万2000円(税込)

サイズは2,150(全長)×885(全幅)×1,250(全高)mm。受注生産で価格は178万2000円(税込)

そして、よりスポーツライディングを楽しめるようにバンク角もTRICITY の38°から45°にアップ。同時に、深くバンクしてもフォーク同士が干渉しないように、内側に装備されていたフロントフォークは外側配置に変更された。バンクの角度としてはわずか7°の違いではあるが、カーブを曲がる際に車体をより寝かせられる体感の差は大きい。さらに、バンクした状態でもフロントタイヤがそれぞれ同心円を描いて曲がれる「LMWアッカーマン・ジオメトリー」という機構を採用しているのもNIKENならでは。この機構自体は4輪車でも使われているが(アッカーマン・ジオメトリーまたはアッカーマン・アングルと呼ばれる)、タイヤが傾かない4輪車の仕組みをそのまま移行するだけではタイヤが適切な方向に向かないなどの不具合が起こるという。そこで、左右のタイヤをつなぐタイロッドから、車輪を支えるナックルエンドを少し外側にズラす構造にするといった工夫を施すことで、2輪バイクのような車体を傾けた際の自然なハンドリングを実現した。

片側2本ずつのフロントフォークでタイヤを外側から支持する構造。太いフォークが露出し、外観の迫力もアップした。なお、タイヤサイズは120/70R15

「LMWアッカーマン・ジオメトリー」のポイントとなるのが、やや外側にオフセットされたタイロッド。これも深いバンク角と自然なハンドリングを実現するためには不可欠な機構だという

ハンドルを切った際に2つの前輪が完全に同じ方向ではなく、同心円を描くように内側のタイヤがやや多く切れるようになっている

搭載されているエンジンは、ヤマハが得意とする3気筒の845cc。同社の人気モデル「MT09」や「XSR900」にも採用されているエンジンだが、クランクマスの重量を18%増して低回転での扱いやすさを高め、ゆったりライディングしても疲れにくいように細部を最適化している。ほかにも、アクセルを開けたままにしておかなくても一定速度で走行してくれる「クルーズコントロール」や、クラッチを切らずにシフトアップができるシステムを装備するなど、先進機能を数多く備えることで、長距離走行での快適性を向上。アクセルを大きく開けた際に後輪のスリップを防ぐトラクションコントロールシステムの効き具合を2段階から選ぶことができるので、安心感も高い。

エンジンの最高出力は116PS。「MT09」や「XSR900」に搭載されているものと数値上の差はないが、NIKENに合わせた特性にアレンジされている

リアタイヤは1輪でサイズは190/55R17。トラクションコントロール機構によってスライドを抑えられる

リアタイヤは1輪でサイズは190/55R17。トラクションコントロール機構によってスライドを抑えられる

クラッチを切らずにシフトアップができるクイック・シフト・システム(QSS)も装備されているので、長距離ツーリングなどで左手の疲れを低減できる

リアサスペンションのプリロード(初期の硬さ)も調整可能。やり方は、ダイヤルを回すだけだ

リアサスペンションのプリロード(初期の硬さ)も調整可能。やり方は、ダイヤルを回すだけだ

走行モードは3つ用意されている。スピードを出したい時にはレスポンスの鋭い「1モード」、ゆっくり街中を走る際は穏やかな「3モード」を選べばいい

ロードモデルとしてはかなり幅広く、オフロードバイクに近いハンドルを装備。コックピットは、中央に液晶メーターがセットされたシンプルなもの

【試乗レポ1】高速道路での乗り心地はまるで自動車!

大雨となった試乗会では、3輪バイクの絶大な安定感を味わうことができたが、NIKENの魅力を存分に体感することはできなかった。そこで、今回は街中での取り回しはもちろん、高速道路での快適性もたっぷり検証してみる。

身長175cmの筆者で両足のつま先が接地するくらいなので、足付き性はよいとは言えない。車重が263kgあるのに加え、通常の2輪バイクとは重心のポイントが少し異なるため、押して歩く際には少々気を遣う

幅広でクッションも厚いシートは、長距離ツーリングでも疲れが少なそう。タンクはかなり幅があり、またがっただけで自然にニーグリップができる

エンジンをかけて走り出すと、それまで感じていた重さがウソのように軽快に動く。車体を左右に傾ける操作も軽く、それにともなってハンドルもスムーズに切れるので、狭い路地でも取り回しに苦労するようなことはない。フロントまわりが大きく、フロントタイヤが見えないため、狭い街中での小回りは得意ではないと思っていたのだが、見た目のサイズ感とは裏腹にコンパクトに曲がれるのにも驚いた。そして、直線での安定感は想像通りバツグン! 速度が出れば出るほど安定感が増す印象で、高速道路ではハンドルに軽く手を添えているだけで十分だと感じるほど。クルーズコントロール機能も付いているので、右手でアクセルをひねる続ける必要もない。バイクというよりは自動車に近いと思えるほどの高速安定性だ。ただ、フロントのスクリーンが小さいのと上半身が起きている姿勢のため、体にはかなり風圧を受ける。

直線での安定感は今まで乗ったバイクの中で1番高い印象。3つあるタイヤが回転することで、2輪バイク以上の安定感を生み出しているようだ

左手側にあるスイッチでクルーズコントロールをオン/オフできる

左手側にあるスイッチでクルーズコントロールをオン/オフできる

フロントのスクリーンは小ぶり。海外のモーターショーでは大型のスクリーンを装備したバリエーションモデルが発表されているので、日本国内への導入を期待したい

前輪が段差などを越えた時の挙動が非常に穏やかな点も好印象。たとえば、高速道路では路面の継ぎ目を通過した際のショックが多少なりともハンドルに伝わってくるものだが、NIKENではその感触がほとんどない。かろうじて、リアタイヤが通過する際のショックで継ぎ目があったことを知るくらいだ。このように、リアとフロントとのフィーリング差が目立ったのは、フロントにはフロントタイヤが2本あり、フロントフォークが4本あるため、ショックが効果的に吸収できるからだけではない。タイヤのステアリング軸とハンドルの軸が別となった2軸構造の設計により、ハンドルに衝撃が伝わりにくいことも影響しているはずだ。このあたりの乗り心地も、ちょっと自動車に近いと感じる。

【試乗レポ2】コーナーでスポーツできる感覚は完全にバイク!

そして、もっとも確かめてみたかったのが、バイクとしてスポーツしている感が得られるのかということ。普通に走る分には、荷重移動などのきっかけを与えなくても、目線をコーナーの奥に向けていただけで、あとは車体が勝手に曲がって行ってくれる。ただ、やはり積極的にバンクさせて曲がって、バイクを操っている楽しさも味わいたい。

試乗したのは、コーナーが連続するワインディング。通常のバイクの場合、カーブの手前でブレーキをかけてフロントフォークを沈ませ、曲がりやすい姿勢(不安定な姿勢でもある)を作るのが普通だが、NIKENはブレーキをかけても姿勢の変化が少ないので、意識的にフォークを沈ませる必要はない。ブレーキで車速を調整したら、そのまま車体を傾ければフロントタイヤに舵角が付き、スムーズに曲がれる。その際の安定感もバツグンで、カーブの途中に落ち葉や砂利などがあってもまったく心配がいらないほどだ。

ワインディングに持ち込んでも、走りはいたってスムーズ。それでいてバンクさせて走る楽しさもある。転ぶ気がほとんどしないので、コーナリングでの怖さはない

スムーズで安定感が高く、積極的な操作が必要ないと書くと、“操っている感”は希薄なように思われるかもしれないが、実際に乗ってみると楽しさやスポーツ性は想像以上。たしかに、カーブの手前で曲がるための姿勢を作ったり、車体を傾けるためのきっかけを作ったりといった動きはあまりしないが、その分、ライン取りや車速の調整などの操作に集中できる。バンクさせる操作もきっかけ作りを意識しないで済むため、バイクと一緒に傾いていくような感覚で走ることができるのだ。これが楽しくないはずはなく、ペースも2輪のバイクより上がり気味。結果、真冬なのにちょっと汗をかくくらい“スポーツ”してしまっていた。

試乗を終えて

絶大なる安心感があるNIKENは、コーナリングの安定感もずば抜けているため、2輪バイクよりも“バイクまかせ”に走っているような感覚がある。バイクに乗る人たちは、バイクに乗ることを楽しみたいのと同時に、バイクを上手に操りたいという気持ちも強いもの。正直なところ、試乗会で乗った時、NIKENはバイクまかせでも走れてしまうため、操るのが下手になりそうな気がしていたのだ。しかし、今回、長期間にわたってさまざまなシーンで乗ってみると、その心配は杞憂だったと確信した。ライディング中に意識しなければならない操作が少ないのは確かだが、その分ライン取りなどに集中できるので、試乗を終えた頃には乗るのが少しうまくなったのではないかとさえ感じたほどだ。

性能が上がった最近のバイクは、いかに余計なことをせずに、うまくバイクにまかせるかがスムーズに乗るための重要なポイントだったりする。その点、NIKENはライダー側が余計なことをする可能性が低いので、自然とスムーズに走れてしまう。さらに、安定感が高いため、今までできなかったようなことにチャレンジしたい気持ちも出てくるはず。このようなことから、実は、ライダーを育ててくれるマシンであるとも言えるのではないだろうか。初心者ライダーや、あまりバイクに乗る機会はないがツーリングは楽しみたいというライダーはもちろん、もっとバイクをうまく操りたいと考えているベテランライダーも、NIKENに乗ってみると新しい世界が見られるはずだ。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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